月凪あゆむ

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神さまへ

 なんで、俺はこんな身体なんだ。
 俺は嘆いた。
「あなたの体が、生きたいと言ってたからよ」
 医者はそう言った。
 そんなはずはない。こんな、全身包帯で巻かれた、こんな焼けた身体が。
「……勘違いするんじゃないよ。言ったのはあんたじゃない。あんたの体の、細胞だよ」
 なんだって?
「あんたらはね、産まれるまえから、生きることに貪欲なんだ」
 馬鹿なことを。
「あんたが、どんな悪党かなんて、あたしら医者には、全く関係ないことなんだ。まったくね」
 なら、俺はまだまだ、この痛みと向き合わなくてはならないのか。
「……まあ、この火傷は。あんたが殺した人間からの恨み、或いは神さまからの天罰。とでも思うんだね」
 そう、その医者は言った。
 そうか。それなら納得できる。

 しかし何故、俺は喋っていないのに、会話になっているんだ?

「そんなの」
 ふっと、視界から医者が見えなくなった。
 ……いや。正しくは、視界がなくなったのだ。


「ここが、神さまのいる場所へ魂を送るか、地上へ返すかの、選定の場だからね」


「あんたは、体が生きようとしている。加えて殺人犯は、地上にて人間らしい裁きを受けないと、ね」
 その医者は、最後にそう言って、俺の焼けただれた身体に触れて、わざと痛みを与えた。
 ああ、そうか。
 「神さま」はどうあっても、俺を生かしたいらしい。


 その記憶は。
 地上へと返された俺には、残らなかった。
 何一つ、全く。
 神さまよう、これで満足か?

4/14/2023, 10:47:36 AM