月凪あゆむ

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4/10/2023, 10:34:24 AM

春爛漫

 いつも思うの。
 あなたたちはどうしてこんなにも、わたしたちに心惹かれてるのかしらって。

「開花宣言」

 どうして「花が開く」の、そのままの意味の宣言を、いつかいつかと、待ちわびているのかしら。

 イヤね、昔はカメラのシャッターだったのが、今はただの眩しい光をかざす長四角の……そう。「スマホ」の穴ばかりが、わたしたちに向けられているじゃない。

 昔の方がまだ、わたしたちを眺める人の顔が見えていたわ。
 その、うっとりと綻んだ顔を見つめるのが、わたしたち草花の楽しみなのに。
 今はよく見えないわ。

 ねえ。もっと間近で、わたしを見て。
 キラキラしてる人間の眼、わたしは嫌いじゃないのよ。
 
 ほら、今わたし、あなたの前で少し花びらの開きを大きくしてみたの。
 

 ──どう? 綺麗に見えているかしら?
 その、ただの人の眼で、よぉく見てごらんなさいな。
 春だけの、わたしたちの一瞬を。

4/8/2023, 10:54:12 PM

これからも、ずっと

 出来ることなら、ずっとそばにいたかったな。
 どうしてこんなに、ボクとキミは、生きる長さが違うんだろう。
 キミは泣きながら、でも一生懸命笑って、ボクに言ってくれる。

「ポチ、ありがとうね」

 ごめんね。ずっとそばで、一緒に生きれなくて。
 でもね。あのね。
 キミのこと、ボクはずぅっと、これからも見守っていくよ。
 もし、新しい家族を迎えても、何も文句はないよ。
 それでキミが笑ってくれるなら。
 でもね、お願い。
 たまには、ボクを思い出して、みんなで笑って?
 キミたちが笑ってくれるから、ボクは此処に来れて、家族になれて。

 なによりも、幸せだったよ。
 これからも、幸せだよ。

4/8/2023, 3:37:04 AM

沈む夕日

 一人、海に向かう。
 夕日が、そろそろ沈む頃だ。
 カモメか? なにかが鳴いている。

 妻は、海が好きだった。
 私も妻の元へいこう。


 それしか考えず、歩いて、歩いて。
 ちょうど半分海に飲まれたあたり。

「──パパ!!」

 溺れそうになりながら、小さな体が張り付いてきた。
 ふと、我にかえる。
 それは娘だった。
 カモメではなく、娘の叫び声だった。
 泣いているのは、私と妻の、たったひとりの娘だった。
 小さな手で、一生懸命私にしがみついている。

 ぶるぶると震えながら、私を死の海から取り戻さんと叫び、泣いていた。


 ──ああ、私は馬鹿だ。大馬鹿だ。

 妻の遺した。いや。
 私は、この子を遺して、妻のもとへ逝こうなんて。
 なんてことをしようとしていたんだろう。
「──悪かった。家に帰って、風呂に入って。それからご飯にしよう」
 娘の手を、握った。

 ずぶ濡れの娘と、同じくずぶ濡れの自分の手を繋ぎ、家路へと道を歩いた。
 ──もう、大丈夫だ。

4/5/2023, 10:42:03 PM

星空の下で

「……約束、したもんね」
 どこか悲しげな笑みとともに、少女は呟く。
「ごめんね。でも、ありがとう」
 少年は、生気のない顔色で、しかし満足げに言葉を紡ぐ。


 ──この世界からサヨナラのときは、星空の下がいい。

 それは、二人が出逢ったときに交した約束。
 その時すぐ、死への道を進もうとした少年に、少女は言ったのだ。

 ──いつか満点の星空の下、貴方にとっての最高のサヨナラをしよう。
 

 本当は、もっと生きてほしかった。
 しかし、世界は無情だ。

 少年が、ゆっくりと眼を閉じる。
 そのまま彼は、世界で一番満足な「死」を迎えた。
 
 少女の涙は。
 星空だけが、見ていたのだった。
 

4/4/2023, 12:16:47 PM

それでいい


 なあ、どうしてなんだろう。

「なんで、あんたが泣くんだよ」
そう言いながら、俺は彼女の涙を拭う。
「だって! ……あんなに馬鹿にされてんのよ! あなたこそ、なんでそんなに平然としていられるの!?」
 まあ、こちらの落ち度でなくて、逆恨みみたいなもんだ。自分はなにもしていない。
 つまり、ただの濡れ衣だ。それ以外の何ものでもない。
 しかし俺はいかんせん、感情が出にくい。
「あんたが、そこまで泣くことか?」
「悪い!?」

 どうしてなんだろう。
 彼女の泣く姿を見ていると、それだけでもう、充分に思える。
 俺とは正反対の、とても、涙脆い小娘。

 だから、なぜだか。
「……あんたは、それでいいよ」
 ふと、怒られると思うのに、笑みがこぼれる。
 俺の分まで、あんたは泣いてくれる。
 そしてきっと、それを見て、その涙に触れて、俺は救われる。

 今は、それで充分だ。

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