週明け。
やっぱり秋とは名ばかりの茹だるような暑さの中、休み時間を使って、こないだ閃いたことが本当に正しいかどうか、"声"が聞こえた5人に、あることを確認して回った。そして全員が質問に対して"Yes"と答えたことを受けて、仲間を集め、名探偵よろしく「答えが解った」と言い放った。
驚く仲間たちの顔を眺めながら、今回の出来事が "銀歯" のせいだということ告げた。全員がザワつく中、どうも条件が合うと銀歯がアンテナの役目をはたしてラジオなどを拾ってしまう場合があるらしいこと、裏山の公園は近くに電波塔が建っていて条件が合いやすかった可能性があることを述べた。
仲間の1人が、自分にも銀歯があるのに聞こえなかった、と言うので、あくまで "条件が合えば" だと念押しをした。「ま、俺もテレビの受け売りだけどな」と言い、今回の "声"騒動は終結した。
でも実は、仲間に言ってないことがある。
あの日、みんなでジャングルジムに登ってあーでもないこーでもないと話し合ったあの日。通り雨が降る中、昼からまた1人であの公園へ行ってジャングルジムに登り、件の "声" を聞いてしまったのだ。
何の声か解んないし、何を言っているのかも解んない。でも、その声は確実にこっちに話しかけてくる。
ただ、俺に銀歯は、無い。
―――宇宙(そら)からの便り[急]
#74【秋🍁】【通り雨】
翌日。
休日なのをいいことに、いつもの仲間数人で集まって昨日聞いた話を検証することにした。そう「同じ所をグルグル周っていたら」についてだ。
公園でジャングルジムに登り、試しに上から2段目をみんなでグルグル周ってみたが、何も起こらなかった。ま、行き当たりばったりじゃ無理よな、となり、その後はジャングルジムに腰を下ろし、あーでもないこーでもないと意見を言い合った。そうしているうちに「同じ所をグルグル」というのが「①ジャングルジムの同じ箇所だけを周っていた」のか、「②後ろの子が前の子を真似て、様々なルートをついて周った」のか、どちらの意味で言っていたのか確認が必要だということになった。
昼のチャイムが聴こえた。誰かのお腹が空腹を告げたのを合図に、この日は解散することにした。「同じ所をグルグル」については週明けに学校で本人たちに確認しようということで決着した。
全員でゾロゾロと坂道を下っていると、下から昨日話を聞いた1年男子が走ってきた。目が合うと「家の窓から見えたから、話を聞こうと思って」と言った。昨日の話とさっき出た意見を伝えると、「俺は別にグルグル周ってないけどな」と不思議そうに言った。そして唐突に「歯医者に行くから帰るわ!また学校で!」と言い、坂を走り下りて行った。
あっという間の出来事にみんなで呆気に取られていると、ふいに閃いた。そうだ、歯医者だ。昨日話を聞いた子たちの中で、銀歯が見えている子がいた。
後ろを振り返り山を見上げると、電波塔が見えた。突然、全てが繋がった。「同じ所をグルグル」に囚われていた自分に笑った。何だそんなことだったのか。あとは確認していくだけだ。
―――宇宙(そら)からの便り [破]
#73【形のないもの】【窓からの景色】
嘘だって言う奴もいるけど、この話はマジ。
裏山にある公園のジャングルジム。あのジャングルジムに登ると、声が聞こえてくるんだ。何の声か解んないし、何を言っているのかも解んない。でも、その声は確実にこっちに話しかけてくるんだ。
その話をよく耳にするようになったのは、まだ暑くてしかたがない、秋とは名ばかりの頃。その頃、すでに同じ学校の何人かが "声" を聞いていたらしく、校内ではかなり噂になっていた。"ジャングルジムに登ると声が聞こえる"。噂が広まっていく過程で自然とついた尾鰭により、いつしかそれは "宇宙人の声" ということになっていた。
そうなると、自分も聞いてみたいという子どもたちが件の公園にわんさか押しかけるようになり、放課後のジャングルジムはいつも鈴生り状態だ。斯く言う自分も、放課後に休日に、仲間数人と一緒に公園へ行っては、ジャングルジムに登った。しかし、何度登っても声が聞こえることはなかった。他の子どもたちも同様だったようで、次第に公園へ行く子どもの数も減っていき、日常に戻ろうとしていた。
そこで何故か、妙な探求心が出た。 "声" の噂を辿って、声を聞いた本人たちから話を聞こうと思い付いたのだ。仲間で話し合い、手分けして当ることにした。
噂を辿った結果、3年女子1人、2年男子2人、1年男子1人、1年女子1人が声が聞こえた当人だった。話を聞くと皆一様に「ジャングルジムに登ったら、声が聞こえた。何がキッカケかは解らない」という答えだった。ただ、2年男子2人が「2人で同じ所をグルグル周っていたら急に聞こえた」と言っていたのが引っ掛かった。
―――宇宙(そら)からの便り[序]
#72【声が聞こえる】【ジャングルジム】
フッた。たった今。
「やっぱり1人の方が気楽やから」とか最低の発言をしたオレに「解った」とだけ言うて立ち去るアイツはカッコ良かった。後ろ姿を独り見送る。晩秋の風が小さなつむじ風を描いた。
一目惚れをしたから付き合ってほしいって言われたんは、確か半年くらい前。今付き合ってる人おらへんし別にええかなって軽い気持ちで付き合い始めたけど、それがアカンかった。いつでも一生懸命、何にでも真剣に向き合うアイツを見てたら、何事に対しても中途半端にしか生きてこうへんかったオレは、どんどん惨めったらしい気持ちになっていった。こんなオレの何がええんか解らへん、ずっとそう思てた。腐った根性の自分を目の当たりにするのが嫌で、アイツに別れを告げた。どこまでも最低な男やっちゅう自覚はある。
下を向いたまま当てもなく歩いた。しばらく行くと海沿いの道に出た。そのままさらに歩き続けた。辺りはどんどん暗くなる。
電車の駅の前で、カップルが別れを惜しんでいた。「またね」と言う声で気付いた。そうか、オレにはもう "また" は無いんや。あんなにオレを想ってくれたのに、あんなにオレを大事にしてくれたのに、あんなにオレを…!
気付いたら、駅前で独りで滂沱の涙を流していた。それが何に対する涙かは解らなかったけど、泣き続けた。周りから奇異の目で見られることも厭わず、ただただ泣き続けた。
これで恋は完全に終わった。
―――色恋沙汰 [弱い男]
#71【大事にしたい】【秋恋】
フラレた。たった今。
誕生日を目前に控えた晩秋の夕暮れ、付き合って半年の男に「やっぱり1人の方が気楽やから」っていうしょーもない理由でフラレた。ドッキリであって欲しかった。でもそういうことをせえへんタイプやってことは百も承知。完全に終わった。終了。The End.
「解った」短くそれだけ伝えると、踵を返してその場を後にした。コインパーキングで車に乗り込むと、どっと涙が溢れた。
元々コッチの一目惚れで始まった恋愛やし、アッチに気が無いことは解ってたし。でも好きやったから色々頑張ってみたけど、結局アッチの心を掴むことは出来んかった、ただそれだけのことやん。いやいや、何がそれだけなんや?何でコッチばっかり頑張る必要があったんや?お前も頑張らんかい!時間と気持ち返せ!などと、情緒不安定気味に車内で独り大声で喚き散らしていると、通行人の視線がコッチに向いていることに気付き、慌てて発車させた。
家に帰る気分になれず、そのままドライブすることにした。街を出て、田舎を抜け、山道をどこまでも走って行った。しばらく走ると "山上展望台" の看板が見えた。駐車場に停める。休憩がてら展望台へ行ってみると、右も左もカップルだらけ。しまったと思ったが、このまま帰るのも癪なので、カップルを全無視して展望台から夜景を見てやった。
キレイな夜景が見えた。本当ならアイツと見てたかも、と感傷に浸っていると、隣のカップルの女が「めっちゃキレーイ。このまま時間が止まったらええのに♡」と言っているのが聞こえて我に返った。何が、時間が止まったらええのに♡や!コチトラ惚れた男にフラレて満身創痍やっつーの!心の傷には日にち薬が1番なんや、時間なんか止まったらいつまで経っても回復せえへんやないか!内心で喚き散らして、ふと気付いた。これだけ文句が言えるんやったら、上等や。よっしゃ、帰りにホールでケーキ買って、帰って1人で食い尽くしたるわ!
そして、ふん!と鼻をひと鳴らしして車に戻り、爆音で音楽を鳴らしながら下山した。
―――色恋沙汰 [強い女]
#70【夜景】【時間よ止まれ】