傾月

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フッた。たった今。
「やっぱり1人の方が気楽やから」とか最低の発言をしたオレに「解った」とだけ言うて立ち去るアイツはカッコ良かった。後ろ姿を独り見送る。晩秋の風が小さなつむじ風を描いた。
一目惚れをしたから付き合ってほしいって言われたんは、確か半年くらい前。今付き合ってる人おらへんし別にええかなって軽い気持ちで付き合い始めたけど、それがアカンかった。いつでも一生懸命、何にでも真剣に向き合うアイツを見てたら、何事に対しても中途半端にしか生きてこうへんかったオレは、どんどん惨めったらしい気持ちになっていった。こんなオレの何がええんか解らへん、ずっとそう思てた。腐った根性の自分を目の当たりにするのが嫌で、アイツに別れを告げた。どこまでも最低な男やっちゅう自覚はある。
下を向いたまま当てもなく歩いた。しばらく行くと海沿いの道に出た。そのままさらに歩き続けた。辺りはどんどん暗くなる。
電車の駅の前で、カップルが別れを惜しんでいた。「またね」と言う声で気付いた。そうか、オレにはもう "また" は無いんや。あんなにオレを想ってくれたのに、あんなにオレを大事にしてくれたのに、あんなにオレを…!
気付いたら、駅前で独りで滂沱の涙を流していた。それが何に対する涙かは解らなかったけど、泣き続けた。周りから奇異の目で見られることも厭わず、ただただ泣き続けた。
これで恋は完全に終わった。


―――色恋沙汰 [弱い男]


             #71【大事にしたい】【秋恋】

9/22/2023, 9:59:36 AM