コンビニで買ったいつもの炭酸水は今日も無味で安心する。パチパチと口の中で弾ける感覚が喉を通って気持ちいい。
なにかと嫌味を言うその見失いそうな黒服を、俺はじっと見た。
ぬるい炭酸と無口なあんたは似ても似つかない。俺の手の中にあるこの炭酸と、俺の手の外にあるこの人は、なんも似ていないのに、あっという間に弾けていなくなる炭酸のような儚さだけは、あまりによく似ていた。
/ぬるい炭酸と無口な君
光が当たる。客席はみんな自分に注目している。私が踊れば、光も踊った。
人並みより少しだけ長いこと続けた、それだけのことかもしれない。幼い頃から日課のように続けたダンスは、先日終わりを迎えた。
面倒くさくて休む日も、自主練で汗をかいた日もあった。
ついこの間までの当たり前は、今ではどう過ごしていたのか思い出せないほど眩しくて、羨ましい。
私にはもうあの時ほどの熱がないけれど、私を彩る光は、まだ消えずに私の中にいる。
/眩しくて
みんなが学生時代に感じるはずの、この熱い鼓動を俺は年甲斐もなく今感じている。おかしいと笑われるか。バカだなって引かれるだろうか。
もうそれでも良いと思った。今の俺が、とんでもなく幸せなんだから、そんな外野の意見はどうでもよかった。
/熱い鼓動
日々は無計画に進んでいる。予定通りが起きないから、忘れられない日々になる。すべての歯車が狂ってしまって、タイミングを逃し続けた上に、今の自分がいるのだ。
解けなかった問題が、間違えてしまった言い方が、乗り過ごした電車が、こぼしてしまったお茶が、言えなかった言葉が、私の全てを作ってゆく。
失敗して、間違えて、私が私になる。
後悔で眠れなかった夜だって、いずれ私の一部になる。
/タイミング
抱きしめる彼と抱きしめられた私のサイズ感は、あまりにも自分たちに馴染んでいる。失うと分かっているからか、馴染んでいるなと思った。好きだなと思った。
半袖から覗かせる見慣れた白い肌が、もう私を抱きしめないんだと思うと、途端に悲しくなった。身勝手だと叱られるだろうか、怒られるだろうか。自分本位なのは、痛いほど分かっている。
私が泣くのを堪えれば、心配そうに眉を顰めるその眉間の皺すらも、私は愛おしくてたまらないんだ。
/半袖