ほら、またカーテンを撫でたでしょう。君は都合が悪くなるといつもカーテンを優しく触る。
いつも私の範疇の外にいるのに毎日ココに帰ってくるのが虚しくて切なくて、けれど、私はあなたが大好きだからあなたがカーテンを触るたび嬉しくて堪らなくなってしまうよ。
/カーテン
目が見えない自分には、全てが関係ないことだった。空の青さも、夕方のオレンジも、朝方の紫も。
「青色が何かは分からないかも知れないけど、青さの形容はきっとあなたにも分かるよ。」
「関係ないよ。僕は何も分からないんだから」
「私はあなたのこころが青く深くいる事は分かる」
僕は青さを知らない。深さを知らない。けれど、彼女の懐のデカさも優しさも愛も僕は容易に理解ができた。
「それを青さというのなら、僕も分かるかもしれない」
「でしょ?」
「君の青さと深さなら、理解できるよ」
ハッとした音が鳴って、彼女は何も言わなくなった。次に聞こえた音は鼻を啜った音だった。
思わず僕は手を伸ばす。彼女の頬を優しく捕まえた。
彼女の涙は温かかった。
/青く深く
川のにおいがする。もわっとしたにおいがする。風の音がする。蝉の音がする。
夏の匂いがして、僕は振り向く。夏の記憶は全部陽炎でゆらゆらして見えるから不思議だ。
夏休みの海、林間学校の森、オールした友達の家。
夏は僕をいつだって色々なところに連れていってくれるのだ。
夏の気配に気が付いて僕はクーラーのリモコンをオンにした。夏との追いかけっこにきちんと勝てるように。
/夏の気配
夢の国に行くたびに、愛されていたことを実感してしまう。
どの道やどのエリアに行っても幼少期の思い出が根強く残っているのだ。小さな頃は気付くことが出来なかったが、私はとても愛されていて大切にされてきたのだろうなと容易に想像がついた。
ダイレクトな大きい愛というよりかは、一つ一つ破片のような小さい愛が集まって私を作ってゆく。
不意に愛されていたことを知る。その不意を何度経験しても、その破片を全て集め切るのはきっと自分は不可能なのだろう。
その愛に触れて私はまた大人になろうとするのだ。
/小さい愛
長い箸は掴むのが難しい。僕は、初めて人の骨を持ち上げた。少し前まで身長を競って、足の速さを競って、スマブラを競っていた相手の骨を持ち上げた。僕より少しだけ背の高かった隣の家の一個差のお兄ちゃんは今はもう誰かの両手に収まるくらいの大きさになってしまっている。
泣き崩れたおばちゃんの顔はぐしゃぐしゃで僕は胸が痛くなった。
母さんが僕の肩を掴む。日本は人間を燃やして骨にするらしい。
空はこんなにも青い。兄ちゃんは煙なって空になる。やがて雲になって、雨になって僕たちの皮膚に染み込むんだって、母さんが教えてくれた。
「それで、兄ちゃんは明日帰ってくるの?」
僕の何気ない問いかけに、今度は母が崩れ落ちた。僕が言った言葉はそんなに悪い言葉だったのかなぁ。
僕はなんにも、わからなかった。
/空はこんなにも