やまんば

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6/22/2025, 11:36:19 AM

 この日々に終わりが来る時、私はこれを思い出すのだろうな、とあの時の自分は漠然と思った。
 校長に認められなかった非公式のボードゲームサークル。あの日々は、間違いなく真っ白な私たちの思い出を彩る絵の具になったのだ。

 オレンジがあっという間に藍色の空を作るとき
 吹奏楽部の練習の音
 一発逆転で勝ち確した友達のカードの出し方
 心理戦で目が合って吹いた時点で犯人がわかる瞬間
 口元を隠し続けたマスク
 全員登校が許されなかった広く見える教室
 部活の大会が全て休止になった私たちが最後にはまった遊び

 どこにも行かないでくれと思った。もうこれ以上奪わないでくれと思った。
 私たちの高校生活はきっと、私たちより歳上のあなた方より、歳下のあの子たちより、短かった。
 あの時しか味わえない遊び方で、あの時しか味わえない生活リズム。もう二度と味わいたくないあの宣言。

 大人から見たら異常と呼ばれた、私の青春の時間。
 一つも失いたくない、私たちだけの大切な記憶。

/どこにも行かないで


6/21/2025, 2:38:07 PM

 夢の中の先輩は、自分に怒ってばっかりで眉間に皺を寄せている。寝起きの冷や汗も動悸も、全部この人のせいで間違いない。

 俺にだけ分かりやすく不機嫌で、俺の誕生日だけ張り切って準備してくれて、俺の私生活まで口出しして、俺をずっと見てくれている分かりづらい不器用な先輩に、いつか言ってやるのだ。

「あなたを追ってあなたを超えます。」

 君の背中を追って、なんてまだ言えた口では当然ない。けれども、あなたが与えてくれた愛と情熱を俺は絶対に無駄にしない。

/君の背中を追って

6/20/2025, 8:33:21 AM

「私の事は雨だったって思って。そうしたら良い思い出も全部流れて消えるでしょ?」

 いつだって災難を呼ぶ彼女は、そう言ってパタリと連絡をしなくなった。そんな別れ方をしたから、むしろ雨が降るたび彼女を思い出してしまう。

 雨の香り、涙の跡、彼女のまつ毛、僕のつま先。その全てがひとつも忘れられずに重なってゆく。ひとつも流れずに消えずに、僕の心をチクチクと刺激する。

 雨が降る。君のことを考える。君は僕を忘れてゆく。

/雨の香り、涙の跡

6/19/2025, 12:32:28 AM

 満員電車に乗っていると、自分が真人間に見えて安心する。
 仕事に向かう自分は、他の誰とも変わらない。誰も私を変な人だと感じてないその環境に胸が安らぐのだ。

 糸が切れた操り人形は、今日も真人間のフリをする。
 そこに、正解も間違いもひとつもない。ひとつだってない。

/糸

6/17/2025, 9:04:54 PM

 冷たい頬に手を添える。何度も触ってきた肌触りなのに、残酷のように冷たいそれにまた絶望する。
 どれほど想ったって、もうこの人には何にも届かないのに僕は相変わらずまた考える。君を思い出す。

「死んだ人ってギリ耳は聞こえるらしいよ。人は一番最初に死んだ人の声を忘れるのに、声を拾う器官は最後まで生きるなんてどうなってるんだろね?」

 脳内になるこの声は、明らかに目の前の人の声で、僕の脳内にまだこの声が残っていることに安心してしまった。思い出したのは、平日の昼の何気ない一言だった。高らかな笑い声と共に飛び出した言葉は、ちょっとしたうんちくのようなものだ。

「すきだったよ、すきだよ、なぁ、すきなんだよ、」
 その言葉を信じて、僕は耳元で囁いた。派手な事故で鼓膜は破れているかも知れないけれど、今の僕にはそんな事どうだってよかった。
 僕は、この人が堪らなく好きだった。


/届かないのに

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