そらいろ

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 冷たい頬に手を添える。何度も触ってきた肌触りなのに、残酷のように冷たいそれにまた絶望する。
 どれほど想ったって、もうこの人には何にも届かないのに僕は相変わらずまた考える。君を思い出す。

「死んだ人ってギリ耳は聞こえるらしいよ。人は一番最初に死んだ人の声を忘れるのに、声を拾う器官は最後まで生きるなんてどうなってるんだろね?」

 脳内になるこの声は、明らかに目の前の人の声で、僕の脳内にまだこの声が残っていることに安心してしまった。思い出したのは、平日の昼の何気ない一言だった。高らかな笑い声と共に飛び出した言葉は、ちょっとしたうんちくのようなものだ。

「すきだったよ、すきだよ、なぁ、すきなんだよ、」
 その言葉を信じて、僕は耳元で囁いた。派手な事故で鼓膜は破れているかも知れないけれど、今の僕にはそんな事どうだってよかった。
 僕は、この人が堪らなく好きだった。


/届かないのに

6/17/2025, 9:04:54 PM