前回投稿分から続くおはなし。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこに整備されておるキャンプ場の、美しい湧き水にこんこんと満たされた泉の近くで、
1匹のドラゴンが完全ジト目、豪雨の余韻たる霧雨の雫に当てられておりました。
というのもこのドラゴン、前回投稿分で鼻先にゼロ距離でワサビクリームを食らいまして、
どんがらがっしゃん、がんがらどっしゃん、
キャンプ用の個室の中で悶絶して暴れ倒しまして、
それから外に出て、ごうごうごう、絶叫の火を吹いてボヤ騒ぎなど起こしまして。
…––『わるい竜神さまが、あばれてる!』
同じ同じキャンプ場をちょうど利用しておった子供たちが、ドラゴンのごうごうごうを発見しました。
『龍神さま、龍神さま!わるい竜神さまを、やっつけて、こらしめてください!』
わーわー!悪い竜神さまだ!
わりゅーじんさまが、わるいことしてるぞ!
子供たちは大騒ぎでした。
あらあら、いったい、なにごとかしら。
ほぼほぼお祭り騒ぎのキャンプ場の、子どもたちの祈りを聞いて駆けつけたのが、
子どもたちの故郷から一緒にやってきた、雨と海と雫の龍神様。
龍神様が到着してみると、炎と雷と光のドラゴンが悶絶して、火など吹いて、
あっちこっち、ぷすぷす焦がしておりました。
『こら。若きドラゴンよ、おやめなさい』
龍神様は大きなため息を、ひとつ吐きました。
『我が降雨で、頭と心を冷やすのです』
龍神様が美しい、水晶の角と水宝玉の珠を晴天の空に向けますと、
途端にもくもく、暗く大きな雲が空に湧いて、
どじゃあ!ごうごうごう!
激しい土砂降りを降らせて、ドラゴンをずぶ濡れにしてしまったのでした––…
「悪い竜神さま、反省した?」
さて。
豪雨の余韻、霧雨の雫に当てられたドラゴンです。
龍神様の隣で子供たちが、まるで自分たちに母親・父親がそうするように腕を組んで、楽しそう。
「ダメだよ、わりゅーじんさま。キャンプ場では、火は、しんちょーに使わなきゃ」
『不可抗力だ』
部下からワサビアタックを食らった結果として暴れたドラゴンは、不服です。
『あと、俺はもう、千年も2千年も生きている。
龍神よ、前言撤回しろ』
しきりにお目々をパチパチしておるのは、霧雨の雫が断続的に、ドラゴンの瞳を襲うから。
断じてワサビに泣いてるワケではないのです。
『千年・2千年しか生きていないドラゴンよ、それを若いと言うのです』
ぴゃっ。
まだまだ反省してないと思しきドラゴンに、龍神様が水鉄砲で、お仕置きです。
『管理局のドラゴン。あなたは本能をもう少し抑えて、理性的に、知性的になるべきです。
我慢を学習なさい。若きドラゴン』
ぴゃっぴゃ。 ほら、ごめんなさいは。
龍神様はドラゴンが、わるかった、と言うまで、
霧雨の雫をサラサラサラ、ぶつけ続けましたとさ。
前回投稿分からの続き物。
世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織の空間管理課職員、ゴーレムつかいのボクっこトルネが、
焚き火の世話の途中で寝落ちして、焚き火を大きくし過ぎまして、
お気に入りのステンレス調理器具、メスティンを真っ黒クロスケのススまみれにしてしまいました。
「うぅ、ボクの、初めて買ったキャンプグッズ、初めて買ったメスティン……」
トルネは完全に意気消沈。
それでも、お気に入りのキャンプアイテムをススけたまんまにしておきたくなかったので、
キャンプを終えて下山した後、すぐ近くのキャンプ場の洗い場に寄り道しました。
「落ちるかな」
ちゃっ、ちゃっ。
試しに少量の水を付けてみますが、
かけた水が真っ黒になるだけで、なかなか全部が落ちる気配は、ありません。
「キレイにしてあげなくちゃ」
トルネは洗い場に、金属製の古典的かつ、アナログなタワシを見つけました。
これでゴシゴシ、ごしごし、一生懸命にこすれば、
きっと頑固なスス汚れだって……
「……」
はて、そんなにゴシゴシして大丈夫かしら。
そもそも何を使って洗うのが最適解なのかしら。
「よし!ツバメさんに聞きに行こう!」
…––「うーん、材質によりますね」
相棒ゴーレム、テキサスロングホーンに乗って、ボクっこトルネはキャンプ師匠、ツバメの部屋を5分くらいで見つけました。
というのもツバメ、トルネがキャンプグッズを洗おうとしていたキャンプ場で、上司のルリビタキと昼食をとっておったのです。
「まず、自分の持ち物の材質がステンレスか、アルミか、覚えておくことです」
全部俺の火で加熱殺菌じゃダメなのか?
ドラゴンのルリビタキがツッコミますと、ツバメはツバメで人差し指をふりふり。
加熱したって、ススは落ちないのです。
「ステンレス製にもアルミ製にも言えることは、
強くこすらないこと、可能なら煮沸すること、それからしっかり乾かすこと。
そして無理に全部の汚れを落とそうとしないこと」
「それだけですか?研磨剤とかは?洗うときの、テクニックとか、技術とか?」
「何もいらない。それだけです」
「何もいらないんですか?」
「何も。『強くこすらない』それひとつだけでも守れば、メスティンの寿命は伸びます」
「つよく、こすらない」
「そうです」
そう言うわりに、ツバメおまえ、灰を布につけるとか、米のとぎ汁でとか、アレコレするよな。
ドラゴンのルリビタキがまたツッコミます。
ツバメはツバメで人差し指をルリビタキに、ベッ。
それ以上言わせませんの精神です。
指になにか、薄若葉色のクリームが付いてて、
それをルリビタキがクンカクンカした瞬間、
ぎゃおん!ぎゃおお!
どったんばったん悶え始めましたが、
ツバメが何を指に付けてたのか、トルネには分かりませんでした。
「そうですね」
ツバメは言いました。
「あとで、一緒に道具の手入れをしましょう」
さあ、きみも温かい、デカフェコーヒーをどうぞ。
ツバメから受け取ったマグカップに、トルネがくちを付けますと、
キリッとした、しかしフルーティーな、
優しいコーヒーがトルネの喉を、潤しましたとさ。
ガチャのすり抜け、馬券の想定外、等々等々。
もしも未来が見れるなら、こうした、ああしたは、多々あろうかと思います。
某□Φ貴金属工業さん配布のパンフレットによれば、平成1年の金のグラム最低価格が1568円だったり、令和1年でも4521円だったり。
もしも未来が見えたなら、●●年前の初任給は、ゴールドに全ブッパしてたな云々。
と、いうハナシは置いといて、今回のおはなしのはじまりはじまり。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ファンタジー組織がありまして、
ここの環境整備部の空間管理課に、テキサストルネードなるゴーレム使いが勤務しております。
なぜテキサストルネードなんて名前なのでしょう?
管理局が動物の名前をモチーフにしたビジネスネーム制を敷いているからです。
なぜテキサストルネードなのでしょう?
環境整備部(偶蹄目)空間管理課(ウシ科)の局員だからです。
なんかプロレスの技名っぽいですが、本人はとっても優しくて温厚なボクっこなのです。
ビジネスネームが長いので複数の局員からはトルネと呼ばれてるとかそうでもないとか。
で、そんなトルネです。
その日は管理局に整備された難民シェルターの山奥で、夜間キャンプの基礎訓練。
経理部のボクっこマンチカンが、ヘタレっこな自分を鍛え直したくて、強い自分になりたくて、
法務部執行課・実動班特殊即応部門の副部門長、ツバメと一緒に経験を積んでおるのです。
同じボクっこ(男女不問)のトルネとマンチは、演習の中でボクっこ同士の絆が生まれた模様。
自然の中で突発的な発想力と、ひとつの道具に対する応用力、それから危機管理能力等々を、
少しずつ、身につけてゆきました。
「トルネ、今日はきみに、焚き火の番を頼みます」
持ち込んだ食材と調味料と、それから山のスパイスを少々使って、美味しい晩ごはんを食べて、
軽くテントの周囲を確認してから、ツバメがトルネに言いました。
「焚き火の世話は、簡単なようにみえて、それに慣れてる私でもよく気をつける作業です。
何かあれば必ず、私に知らせてください」
はい。頑張ります。
トルネが自信たっぷりに言いますと、
ツバメは小さく頷いて、ひとり、テント周辺の見回りに向かいます。
マンチは疲れてヘトヘトで、イチバン先にテントで就寝。薪を一生懸命割ったのです。
そんな状況からどうお題回収するかといいますと。
「うぅ、 うー、 ねむい」
パチ、ぱちん、 パキ、ばちん。
ひとりっきりで焚き火の世話をしているトルネは、
段々、だんだん、眠くなってきたのでした。
「ちょっとくらい、寝ても、良いかなぁ」
パチ、ぱちん、 パキ、ばちん。
焚き火の静かにはぜる音は、トルネの心の緊張を解いて、リラックスさせてくれます。
薪はあります。
着火剤もあります。
焚き火は、静かに燃えています。
「ごふん、5分、だけ……」
こっくり、こっくり、カクン。
トルネは静かな薪の音を聞きながら、目を閉じて頭を下げて、深くゆっくり呼吸して––
ジャーーッ!!じゅうううう!!
「わ!わぁ!?」
何分経過したでしょう、とてつもなく大きな音と、暗闇の中で目がさめました。
文字どおり、飛び起きたのです。
心臓がドッドッドと高鳴って、舌から血が引き、
トルネは一気に全部が怖くなりました。
「間に合って良かった」
優しい照明のランタンをつけて、ツバメがトルネの近くに立っていました。
「どうやら風の影響で、トルネ、きみが寝ている間に焚き火が大きくなり過ぎたようです」
完全に手がつけられなくなっていたので、焚き火は私が消火しましたよ。
ツバメがそう言って、厚手の手袋で焚き火の近くの、火に当てられて完全にススけた箱を掴みます。
それは間違いなく、トルネのお気に入りのステンレス調理器具、メスティンでした。
「ごめんなさい」
「良いのです」
「ホントに、本当に、ごめんなさい、
もし未来を見れるなら、ボク、居眠りなんてゼッタイにしなかったのに」
「良いのですトルネ。まず、落ち着きましょう。
ハナシはそれからです」
ドッドッド、どっどっど。
トルネの緊張はそれから数十分続きまして、
ツバメと話をして、反省をして、少し空が明るくなった頃、ようやく寝付きましたとさ。
【世界線管理局 収蔵品
『一定時間無色界体験ビーム』】
「むしょく」ではなく、「むしき」と読む。
無色界は仏語で三界のひとつ。
人間の三大欲求など、本能的な欲求に強く囚われている「欲界」の、
その上に食欲や淫欲から離脱した「色界」があり、
「無色界」は、色界でも残っていた色欲、美しさへの執着からも離脱して、
物質的な欲望から完全に開放された、すなわち三大欲求も精神的執着も無い、精神だけの世界。
本収蔵品はこの「無色」状態を、被弾対象に一時的に発生させる。
すなわち食らった者は虚無る。
<<食らった者は虚無る>>
――――――
「ここ」ではないどこか、別の世界にある世界線管理局の、原っぱでドラゴンが虚無っています。
瞳に輝きは無く、うつ伏せに溶けて、ぐでん。
背中の上下でギリギリ呼吸が確認できる程度です。
「部長、大丈夫ですか、ルリビタキ部長?」
ドラゴンの名前を、部下の男が呼んでいます。
とっても心配そうです。 そりゃそうです。
自分の上司のドラゴンが、目を曇らせて、無気力もとい無色状態で、
本当に文字どおりに真っ白けっけになりそうな雰囲気で、ぐでーん、しておるのです。
『仕事か』
曇った目で、ドラゴン、聞きました。
一応、コミュニケーション能力は、まだ最低限として残っている様子でした。
『俺は今、何の欲も無い。俺は今、すべてに満ち足りている。放っといてくれ』
いやいや「満ち足りてる」って。
「満ち足りてる」ひとは、そんなカラーレスな無表情しませんよ部長。
部下はポンポン、ゆさゆさ、ドラゴンの首をぺちぺちピタピタ。いろいろ為してみます。
それでもドラゴンは動きません。
ただただ虚無って、呼吸だけしている様子です。
どうしてこうなったのでしょう?
「部長、本当に、一体全体何がどうして」
『どうもこうもない。俺は今、完全に欲が存在しない。食うことも、寝ることも、必要ない』
「まぁそりゃ部長は水と光さえあればだいたい生きていけるドラゴンですから
じゃなくて、 部長、ヘンな物でも食べました?」
失礼します。
虚無っている上司の口内に、何か毒物の痕跡でも残ってやしないかと、おくちをグギギ。
手動で持ち上げて、ライトで照らします。
ぎゃお、ああおう。
虚無っている上司は相変わらず、ぐでーん、カラーレスな世界を漂っておる様子。
ちっとも、そっとも、嫌がりません。
ところで
カラーレス虚無ぐでんドラゴン上司の
つるつるプニプニドラゴンおなかの近くで
誰か、見覚えのある、管理局の外の野郎が、
もうちょっとで下敷きになるかならないかの絶妙セーフラインのあたりで苦しそうにしています。
「ん?」
部下は野郎を知っていました。
「あーあー、無事か、出てこれるか」
野郎は、世界線管理局をドチャクソ敵視している組織、世界多様性機構から来た工作員でした。
きっと、この工作員は、ドラゴンに何かチートアイテムか魔法道具あたりでちょっかい出して、
因果応報、自分の行動の結果として、ドラゴンの虚無に巻き込まれたのでしょう。
「ぐ……ぐるじい」
「ほら。出てこれるか。手を出せ引っ張ってやる」
「か、管理局の、情けなんざ、 うぐぐぐ」
「はいはい、言い訳なら聴取室で聞いてやるから」
物質的な欲も、精神的な苦しみも無く、ただ虚無って無色な世界を漂流中のドラゴン上司の下で、
精神的にも、物理的にもバチクソ苦しんでおる機構職員が、脱出しようと一生懸命抵抗しています。
諸行無常、色即是空。
ドラゴンの部下はちょっとだけ、ドラゴンのおなかの下敷きにされた野郎をあわれみましたが、
仕事は仕事なので、野郎を事務的に拘束しました。
カラーレス無欲虚無ドラゴンはそれから数分後、
やっと、無色の世界から帰還したそうな。
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
ここで1匹、都内在住の稲荷子狐が、偉大な御狐、立派な稲荷狐となるべく、絶賛修行中。
法務部に預けられて、そこから出向するカタチで、収蔵部のお手伝いをしているハズなのですが、
そこはさすが五穀豊穣・商売繁盛のお稲荷様、
何故か経理部の部長さんに気に入られております。
「子狐。プロアイルルス経理部長は、お前の仕事ぶりを、たいそう気に入っておられます」
その日もコンコン子狐は、経理部長から直々に呼び出しを食らいまして、とってって、ちってって。
本来なら自分の担当じゃない部署、経理部の、部長室に入ってゆきました。
「子狐。経理部長は特別に、お前にご褒美を授けます。喜んで受け取りなさい」
その日も管理局の経理部長、招き猫もビックリのビッグおデブネコ部長は、にゃごにゃご。
子狐相手に満足そうに、ふんぞり返っています。
よほど機嫌が良いのでしょう。
ゴロゴロ、ごろごろ、喉を鳴らしています。
経理部長の秘書が子狐に、封筒をひとつ渡します。
「それを持って、アンゴラの期間限定、星空花見カフェへ行きなさい」
封筒の中には、美しいミスリル金糸の刺繍が為された、レースハンカチが3枚。
「さすれば子狐、お前はカフェの最上級特等席で、最高級の待遇を受けるでしょう」
それはすなわち、期間限定カフェのフィナーレイベントに参加するための、招待券でした。
「子狐。桜散る星見カフェを、お前の大事な局員でも2人連れて、存分に堪能してきなさい」
桜散るカフェ!大事な局員!
コンコン子狐は、ばびゅん!急いで自分の本来の修行場所、管理局の収蔵部に行きました。
子狐にとって、大事な局員といえば、約4人。
法務部のコーヒーのおじちゃん(お兄さん)とタバコのオッサン(ドラゴン)と、
それから収蔵部の優しいお嬢さんと、そのお嬢さんの親友さんでした。
「おねーちゃん!おねーちゃん!」
コンコン子狐はお嬢さんを選びました。
「おねーちゃん、カフェ、いこう!」
子狐は優しいお嬢さんが大好き!
お嬢さんになら、爪を切られたって、お風呂に入れられたって、ドライヤーをガーガーされたって、へっちゃらです。それだけ大好きなのです。
「これ……コンちゃん、どーやってゲットしたのぉ」
尻尾ぶんぶんで飛び込んできて、花見カフェの招待券を見せてくる子狐に、
収蔵課のお嬢さん、ドワーフホトは驚きました。
「桜とプラネタリウムを一緒に楽しめる」をコンセプトに作られた星空花見カフェは、
桜の開花とともに開店して、
桜散る頃に、フィナーレを迎えるのです。
そして
桜散る間際に立ち会うフィナーレイベントは
数量限定、少数販売、大変貴重、
予約販売が出回る前に、世界線管理局の重役配布分で、完全完売しておりまして。
そんな高額転売のダークマーケットにも登ってこない幻チケットを子狐が持ってきたのです。
そりゃドワーフホトのお嬢さんも腰抜かすのです。
「おねーちゃん、カフェ、いこう!」
尻尾ぶんぶんビタンビタンの子狐が、お目々を輝かせて言いました。
「うん!行こう!」
ぴょんぴょん感激のお嬢さんも、お目々を輝かせて一緒に喜びました。
それからお嬢さんと子狐は、お嬢さんの親友を経理部に一緒に迎えに行って、
そして、桜散るテーマカフェのフィナーレイベントに、一緒に向かいましたとさ。