かたいなか

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9/25/2025, 9:58:56 AM

どこかの誰かが書いて、印刷して、そして、頒布した二次創作の中の1ページ。

「世界線管理局」なる架空の組織の、法務部執行課・特殊即応部門なる厨二部署のオフィスで、
左手の腕時計を、ルリビタキなるビジネスネームの部門長が、じっと見ている。
窓の外は斜陽。壁掛け時計の時刻表示は5時半。
ルリビタキの腕時計の針に関しては、
もうすぐ、11時58分0秒を示す。

「開始まで2分、59、8、7。
状況はどうだ。ツバメ」

『問題ありません……怖いくらいに』
ルリビタキの右耳には小さなイヤホンマイク。
部下で副部門長のツバメの声が聞こえてくる。
『先行のムクドリも、潜入のカナリアも、何のトラブルも動きも確認していません』

一応、「カラス」にもスタンバイを頼んでいます。
ツバメはそう付け足して、小さなため息を吐き、
ここまでで約30秒が経過。
ルリビタキの腕時計の針が、チッチッ、チッチ。
順調に「0時0分0秒」に向けて、進む、進む……

「……一応、話しておく」
『はい』
「何かあったら俺の指示よりお前の勘を優先しろ。
現場を見て、相手を見て、場合によっては、」
『そうならないことを、祈りたいですね』

チッチッ、チッチ。
斜陽のオフィスはただただ静寂。
ルリビタキがまた、残り時間を読み上げる。
「開始まで、1分、59、8、7」

カウントがゼロになって、
すなわち、「時計の針が重なって」、
その後は、ルリビタキも少しばかりは忙しくなり、
通信先のツバメも、あちこち動き回ることになる。

はぁ。
トントンと聞こえてくる脈動は少しテンポが早い。
あらためてルリビタキが腕時計に注目すると、
時計の針が、6の文字盤に重なって、離れて、
すなわち、0時0分0秒まで、残り30秒を切る。

少しばかり、窓の外に視線を向ける。
斜陽である。もうじき、太陽が落ちる。

――――――

「ってゆぅ二次創作、見つけたのぉ」
「へいへい」
「カウント!10から!9!8!
カッコイイよぉ、カッコイイよぉぉ」
「へいへい」

「スフィちゃん一緒にやろ」
「ごっこアプリ作ってやるからそれで我慢しろ」
「アプリじゃ、臨場感ってモンが無いよぉぉ!
スフィちゃん、ツルごっこ、ツルごっこー」
「本人に頼めよ同じ職場に居るんだから」

「いーもん。二次創作、提供してくれた提供者さんと一緒に、再現ごっこしてくるもーん」
「はぁ???」

9/24/2025, 5:21:05 AM

僕と一緒に、ちょっとオタクで厨二ちっくで、不思議な物語など、楽しみませんか。
ということでこんなおはなしをご用意しました。

「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなし。
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、別世界間の航路を開設したり整備したり、
滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが他の世界で悪さをせぬよう、回収して、保管したり。
滅亡世界を生き延びた生存者のために、ドチャクソ規格外に大きい難民シェルターの運営なども、いろいろ、やっておる組織なのでした。

今回のお題回収役は、チートアイテムを管理する、収蔵部収蔵課の局員。
ビジネスネームを、ドワーフホトといいます。
「うぅー!うわぁ〜ん!
忙しくて、目が回っちゃうよぉぉー!」

ドワーフホトには全部で5体、ドワーフホトにそっくりで、ドワーフホトの仕事をサポートしてくれる、魂人形が居るのですが、
その日は5体の魂人形全員をフル稼働させてもなお、すごく忙しくて、すごく大変なのでした。

というのもドワーフホト、収蔵課局員1名の定年退職につき、担当する収蔵庫がひとつ増えまして。
収蔵品リストの照合とデータベースの統合が、
特にデータの統合と整理が!
すごく!非常に!あり得ないほどに!
それはそれはもう、大変なのでした。

「ドワーフホトさん!負けちゃダメにゃあ!」
経理部から借りてきた、書類・伝票・引き継ぎ物配膳……もとい、配達ロボットネコの「クロネコ」が、複数台、ドワーフホトを励まします。
「僕たちも、頑張るにゃあ!
僕と一緒に、このお仕事、終わらせるにゃー!」

この収蔵品はあっちの倉庫、
そのデータ結晶はこっちの倉庫、
データの同期は済んだっけ?
ああ、ああ。大忙しです。
実物の収蔵品の移動と一緒に、データベースもきちんと整理する必要があるのに、
ドワーフホトと5体の魂人形と、それから配送ロボットネコ数台では、限度があるのです!

「ドワーフホトさん、負けちゃダメにゃ!」
「僕と一緒に、この仕事をやり遂げるにゃあ!」
「ネバギブアップにゃぁぁ!」
「おまえら音声飛ばしてるヒマあったら収蔵品運べにゃあ!どけにゃああ!」
「じゅー でん、 して にゃ」

「このままじゃ、引き継ぎのデータだけ、完全に後回しになっちゃうよぉ!」
ドワーフホトは、叫びました。
「助けてぇ、スフィちゃーん!」
たすけて大親友、たすけて救世主!
ドワーフホトは、チカラいっぱい叫びました。

すると、バタン!!
「完成したぜホト!俺様と広報部企画課の合作!」
白く美しく輝くデータの結晶板を持って、
経理部の天才エンジニアにしてドワーフホトの大親友、スフィンクスが助けに来たのです!
「お前の魂人形の6号機!デジタル作業特化の、デジタル生命体エディションだぜぇー!」

『こんにちわぁ!』
スフィンクスがデータ結晶を、ドワーフホトの収蔵庫のメインコンピューターに装着すると、
ピピッ!たちまち電源が入り、モニターにドワーフホトそっくりで、かわいらしいドレスを着たアバターが、ものの数秒で出現しました。
『収蔵庫内のデータ同期とぉ、整理だね、
ボクがパパァっと片付けちゃうよ、まかせてぇ!』

作業中だよ!作業中だよぉ!
僕と一緒に、バックグラウンドで33個のタスクが実行中、1111個のデータが移動中だよー!
収蔵庫のモニターに、シークバーが表示されて、
デジタル生命体たる魂人形6号が、デジタル生命体ならではの高効率と高スピードでもって、データ作業を次々に、終わらせてゆきます。
『作業一旦停止まで、あと5分〜。
5分たったら、ボク、お茶するよ〜』

「わぁ……!」
停滞していたデジタル作業がすごいスピードで終わってゆくので、ドワーフホト、感激です。
「ありがとー、ありがとースフィちゃぁん!」

ところでドワーフホト、女性局員なのです。
いつも、「あたし」と自分を呼びます。
ドワーフホトの魂人形たち5体も、自分を、「あたし」と言います。……おやおや?
「あのねスフィちゃん、」
ドワーフホト、自分の魂人形の6号機の一人称が「ボク」なもので、不思議に思って聞きました。
「なんで『ボク』ぅ?」

まぁぶっちゃけ、お題が「僕」だからなのですが、まぁまぁ、そこは気にしない。
「あぁ、それな、」
スフィンクスが理由を言いました。
「共同開発で手ぇ組んだ企画課のやつの趣味」

9/23/2025, 9:58:46 AM

曇り空以外にも、あいまいとか、混濁しているとか、不機嫌なんてのも「cloudy」というそうです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社には、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、一家で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐が、今回のお題回収役。
雲が多い曇天の影響か、参拝者がちっとも来てくれませんので、不機嫌にしておりました。

そうです。心が、cloudyなのです。

「さびしい。さびしい」
くぅぅ。くわうぅ。
コンコン子狐、気晴らしに前足もといお手々など、あむあむ、甘噛みしておりましたが、
「だれか、来ないかなぁ」
その日は祝日でしたので、皆みんなどこかのイベントでも、見に行ってしまったのかもしれません、
やっぱり、だぁれも、参拝に来ません。

そうです。やはり、心がcloudyなのです。

あむあむ、あむあむ。
お手々を噛み噛みする子狐は、本当にヒマになってしまったので、とうとう外出を決意です。

「だれか、だれか」
お父さん狐の部屋のあたりの、隠し部屋にある黒穴を通って、とってって、ちってって。
憂うつで不機嫌な東京から、別世界へワープ!
「だれか、キツネとあそべっ!」
遊んでくれる人の多い、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織の職場へ、お散歩に行きました。

世界線管理局の中に作られた難民シェルターも、
今日はどうやらcloudy、曇天の天候プログラムが実行中のようでしたが、
それでも、色々な世界からの生存者がひとつの区画に集まって、お祭りをしているようでした。

ところであそこの屋台に売っているのは虹色団子ではありませんか?

「曇天を吹き飛ばす虹色焼団子よぉ!」
虹色生地で茶色いあんこを包んで焼いて、串に3個、ぷすっ、ぷすっ!
「どう、子狐ちゃん。安くしとくわよ」
大きめの団子に白い硝子砂糖をふりかけて、屋台のオネェ、ヨダレをたらす子狐に言いました。

コンコン子狐、しまった、と思いました。
というのも、隠し部屋の黒穴の先でお祭りを今日やってるなんて、子狐、知らなかったのでした。
「うー」
食べたいけどお金が無いけど食べたい。
子狐の心はお題どおり、段々混濁してきまして、
そして、徐々に理性より食欲が勝ってきた頃……

「子狐。おまえ、この祭りに来ていたのか」
cloudyな子狐の心を晴らすオッサンもとい法務部職員と、グッドタイミングで鉢合わせました。
「さてはドワーフホトに誘われたな?1匹で居るということは、はぐれたのか?」
そのオッサンは、時折子狐と遊んでくれる、喫煙家の優しいオッサンでした。

「オッサン!タバコのオッサン!おだんご!」
「団子?」
「キツネ、おだんご食べたい、買って、食べたい、おだんご、おねがいオッサン」
「虹色焼団子か?」
「買って買って、にじいろだんご、たべたい」

「1個か?ドワーフホトの分……いや、ドワーフホトとスフィンクスの分で、3個か?」
「いっぱい食べたい、いっぱい買って、オッサン」
「待て。まず好きな味か、味見をだな……」

パッ! と先程まで曇っておった子狐が、
一気に晴れやかになりまして、心のcloudyが消え去ってゆきます。心に光が差し込みます。
「おだんご!おだんご!」
オッサンの言う「ドワーフホト」とも「スフィンクス」とも会っていませんが、気にしません。
とりあえず大量にお団子を、買ってもらってもぐもぐ、ちゃむちゃむ!
幸福を堪能しながら、先のことは考えるのです。

「迷子になったなら、一緒に探してやろうか?」
「さがす。たべる」
「どこで迷子になった?」
「まいごなってない。さがす」
「ん???」

もぐもぐ、ちゃむちゃむ!曇天を払う虹色焼団子を両手に抱えて、子狐は大満足の超ご機嫌。
それから十数分、オッサンと一緒に祭り会場を巡回して、子狐の美味堪能仲間な同志と合流して、
そして、一緒に虹色焼団子を、分け合いっこして楽しんだとさ。 おしまい、おしまい。

9/22/2025, 4:14:11 AM

虹の橋というと、だいたいメルヘンだとか、誰かが亡くなった悲劇とか、そういうハナシが多いような気がする物書きです。
数ヶ月前、連れ添っておった1杯分の便利な急須が虹の橋を渡ってしまったネタを前置きに、こんなおはなしをご用意しました。

「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
さらにその管理局の中には、不思議な不思議なハムスターが室長を兼務する、図書室がありました。
その図書室には滅んだ世界の技術、滅んだ世界の魔法、滅んだ世界の歴史や文化が、
本の形をとった情報の結晶体として、大量に、ドチャクソ大量に収蔵されておりました。

それらは、かつて在った世界の証拠。
たしかに存在して、今は消えた世界の遺言。
「自分たちはどこかで、一瞬だろうと間違いなく、生きていたのだ」と断言するに足る記録。

そこは「図書室」と言われており、
正式名称を、「全世界図書館 管理局分館 技術・魔法等資料室」といいました。

「あった〜、これだ、この本だぁ!」
「『星の終わりにかかる虹の架け橋』?」
「ある世界の、ある星の人がねぇ、
自分の星が滅ぶときに、虹の架け橋を見たらしぃ」
「ほーん」

そんな管理局の図書室には、
滅んだ世界が何故滅んだのか、滅んだときに何を見たのか、記録している絵本もありました。
その中のひとつ、『星の終わりにかかる虹の架け橋』という絵本の中に、
今回のお題、「虹の架け橋🌈」に丁度良い、美しくも悲しいおはなしが、描かれておったのでした。

「『むかしむかし』、」
絵本を見つけた管理局員が、表紙をひらり。
「『今はもう滅んで無くなってしまいましたが、
あるところの、ある世界に、偉い人や強い人、大金持ちの人の子孫だけが住む星がありました。』」
椅子に座って、本を読み始めました。

…——昔々、
今はもう滅んで無くなってしまいましたが、
あるところの、ある世界に、偉い人や強い人、大金持ちの人の子孫だけが住む星がありました。
というのもその星、石油も金も、鉄もガスも、魔法鉱石も全部ぜんぶ、掘り尽くしてしまいまして、
星にはせいぜい、1万人くらいをやしなうチカラしか、残っていなかったのでした。

星に残った1万人は、皆みんな、自分の生活水準を維持するのに、精一杯。
だけど星には、もう資源が少ししかありません。
近くの星にも、もう資源が少ししかありません。
なので星に残った1万人の中の、偉い人と大金持ちの人は、それぞれがそれぞれで強い人を雇って、
日々、資源の取り合いで、戦い続けておりました。

戦えば土地は傷つき、
戦えば土地は汚れて、
戦って虹の架け橋を渡った人は、
皆みんな、その魂を加工されて、武器や別世界渡航船の燃料になったのでした——…

「はー、つまり星も、星に詰まってるハズの魂も、最終的にスッカスカと。そういうハナシ?」
「星の人口が2000人を割った頃に、星に大きな虹の架け橋が現れて、その架け橋が星全体を、飲み込んじゃったんだってさー」
「ふーん」

なんかどっかで聞いたっつーか、見たっつーかなハナシだな、その絵本。
管理局員のひとりがポリポリ、頭をかきました。
きっとその虹の架け橋は、大きな大きな虹キャンディーで、最終的に星もろとも、
そう、星もろとも、終焉の獣に食われるのでした。

「続き、読むよぉ」
ぱらり。
もうひとりの局員が、ページをめくりました。

…——戦って戦って、たくさんの偉い人も強い人も、大金持ちの人も虹の架け橋を渡って、
星の人口が、2000人に届かなくなった頃。
あと数年、数カ月も経てば、星自体が滅んでしまうだろうという頃。

パッ!と空が明るくなり、
大きな大きな虹の架け橋が、星の空に現れました。
『なんだ、アレは!』
『今まで虹の架け橋を渡っていった皆が、この星に大きな大きな虹をかけたに違いない』
『そうだ。皆がきっと、迎えに来たんだ』

『ああ、終わる、この星が、終わる』

大きな大きな、虹の架け橋🌈。
それはとても美しく、とても恐ろしく、
日に日に大きくなり、日に日に長くなり、
そして最後に、その星すべてを覆い尽くしました。

ずっとずっと戦ってばかり、
ずっとずっと奪い合ってばかり。
傷ついてボロボロになった星は、
美しい虹に包まれて、最後はとても、綺麗でした。
とっても、とっても、綺麗だったのでした。

滅んだ星から脱出できた人は虹の架け橋の美しさと、自分たちの失敗とを後世に伝えるために、
その虹を、「星の終わりにかかる虹の架け橋」と、名付けたとさ。 おしまい、おしまい——…

9/21/2025, 9:55:54 AM

最近最近の都内某所、某私立図書館に勤める雪国出身者は、名前を藤森というのだが、
このたび勤務先の図書館は、とある同人出身のゲームとのコラボキャンペーンを開催することに。
というのもこの図書館、コラボ元と強い縁のある聖地であり、なによりコラボ元が生まれた生誕地。
日常的に巡礼者は多いのだ。

「コラボグッズは十分な量をご用意しています。
絶対に売り切れませんのでご安心ください。
落ち着いて、お買いまわりください」

多目的スペースひとつを使って設置されたコラボショップは大盛況で、転売目的の客も多いものの、
地下諸蔵庫を臨時倉庫として持ち込まれたグッズの量は凄まじく、減っては補充、減っては補充。

常識はずれの女性がクレジットでもって、未開封の段ボールふたつをごっそり持っていったが、
コラボゲームのメインキャラによく似たゲストが涼しい顔して、スマホをポンポン。
ものの数分で、別のキャラのそっくりさんが、未開封3箱を軽々持って青空のような笑顔。

キャー!イケボふんどしキリンさん!
さすが俺達のお仕置キリンさんだ!
良識あるファンたちは嬉々として、率先して、転売ヤーの敗北と在庫の潤沢っぷりを拡散した。

ところで今回のお題は
「既読がつかないメッセージ」
である。

「ツー副部長が連絡したんだから、イケボさんじゃなくてルー部長が持って来ると思った」
「ルー部長見ないね。ルー部長どうしたんだろう」
「どうしたんだろうね」

女性ファンの会話が聞こえておったのが、先程スマホをポンポンしていたコラボゲストである。
「部長がどうしたかって?」
女性に聞こえない程度の呟きで彼は言った。
「私が知りたいよ。
返信も来なければ既読もつかない」

ここでお題回収。
涼しい顔のコラボゲストは自分のスマホをタップ、自分が数十分前に送信した文章を、
つまり既読がつかないメッセージを、じっと見る。

…——ところでこちらは同じく都内。
深めの森の中の、不思議な稲荷神社の宿坊。

「何故既読がつかないって?あのな??」

ふすまに画用紙が貼り付けられて、ギリギリ判読できるか無理かの「びょうしつ」のクレヨン文字が、ぐりぐり、書かれている。
中では敷かれた布団に男性がひとり寝かされておって、ピロン、ぴろん。
メッセージの受信音がよくよく響いているものの、寝かされている男はスマホを手に取れない。

手を伸ばそうとしたり、布団から体を起こそうとしたりすると、「監視役」が吠えるのだ。
「ダメ!ダメ!ちゃんと、ねんね!
オッサン、ちゃんとねんね、しなさい」
すなわち不思議な稲荷神社に住む稲荷子狐である。
「オッサン、スマホいじっちゃ、ダメ!
オッサン、キツネといっしょに、ねんねしなさい」

「この状態でどうやって既読をつけろと?」

図書館に居る方はビジネスネームをツバメといい、
宿坊で寝かされている方をルリビタキといった。
図書館でのコラボイベントのために、馴染みの稲荷神社に宿泊してそこから図書館へ出発、
という手筈ではあったのだが、
当日になって、まさかのルリビタキが諸事情。

風邪ではない。先日の負傷が完治していないことを、稲荷の不思議な不思議な狐にバレたのだ。
『ダメ!治るまで、ねんね!』
子狐は傷の完治していないルリビタキを狐の秘術で捕縛して、布団を敷いて、その中にぽいちょ。
『スマホ、いじっちゃダメ!ねんね!』
狐の薬を傷に塗り、狐の薬を煎じて飲ませて、
彼が寝るまで、監視しているのだ。

『あのな子狐、俺にも仕事が』
『だめー!! ねんね! ねんね!!』
そりゃ既読もつかないハズである。

「すまん。ツバメ。俺にはどうにもならん」
大きなため息ひとつ吐いて、観念したルリビタキはそのままぐぅすぴ。
狐の薬で傷が治るまで数時間、寝ておったそうな。
しゃーない、しゃーない。

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