かたいなか

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最近最近の都内某所、某私立図書館に勤める雪国出身者は、名前を藤森というのだが、
このたび勤務先の図書館は、とある同人出身のゲームとのコラボキャンペーンを開催することに。
というのもこの図書館、コラボ元と強い縁のある聖地であり、なによりコラボ元が生まれた生誕地。
日常的に巡礼者は多いのだ。

「コラボグッズは十分な量をご用意しています。
絶対に売り切れませんのでご安心ください。
落ち着いて、お買いまわりください」

多目的スペースひとつを使って設置されたコラボショップは大盛況で、転売目的の客も多いものの、
地下諸蔵庫を臨時倉庫として持ち込まれたグッズの量は凄まじく、減っては補充、減っては補充。

常識はずれの女性がクレジットでもって、未開封の段ボールふたつをごっそり持っていったが、
コラボゲームのメインキャラによく似たゲストが涼しい顔して、スマホをポンポン。
ものの数分で、別のキャラのそっくりさんが、未開封3箱を軽々持って青空のような笑顔。

キャー!イケボふんどしキリンさん!
さすが俺達のお仕置キリンさんだ!
良識あるファンたちは嬉々として、率先して、転売ヤーの敗北と在庫の潤沢っぷりを拡散した。

ところで今回のお題は
「既読がつかないメッセージ」
である。

「ツー副部長が連絡したんだから、イケボさんじゃなくてルー部長が持って来ると思った」
「ルー部長見ないね。ルー部長どうしたんだろう」
「どうしたんだろうね」

女性ファンの会話が聞こえておったのが、先程スマホをポンポンしていたコラボゲストである。
「部長がどうしたかって?」
女性に聞こえない程度の呟きで彼は言った。
「私が知りたいよ。
返信も来なければ既読もつかない」

ここでお題回収。
涼しい顔のコラボゲストは自分のスマホをタップ、自分が数十分前に送信した文章を、
つまり既読がつかないメッセージを、じっと見る。

…——ところでこちらは同じく都内。
深めの森の中の、不思議な稲荷神社の宿坊。

「何故既読がつかないって?あのな??」

ふすまに画用紙が貼り付けられて、ギリギリ判読できるか無理かの「びょうしつ」のクレヨン文字が、ぐりぐり、書かれている。
中では敷かれた布団に男性がひとり寝かされておって、ピロン、ぴろん。
メッセージの受信音がよくよく響いているものの、寝かされている男はスマホを手に取れない。

手を伸ばそうとしたり、布団から体を起こそうとしたりすると、「監視役」が吠えるのだ。
「ダメ!ダメ!ちゃんと、ねんね!
オッサン、ちゃんとねんね、しなさい」
すなわち不思議な稲荷神社に住む稲荷子狐である。
「オッサン、スマホいじっちゃ、ダメ!
オッサン、キツネといっしょに、ねんねしなさい」

「この状態でどうやって既読をつけろと?」

図書館に居る方はビジネスネームをツバメといい、
宿坊で寝かされている方をルリビタキといった。
図書館でのコラボイベントのために、馴染みの稲荷神社に宿泊してそこから図書館へ出発、
という手筈ではあったのだが、
当日になって、まさかのルリビタキが諸事情。

風邪ではない。先日の負傷が完治していないことを、稲荷の不思議な不思議な狐にバレたのだ。
『ダメ!治るまで、ねんね!』
子狐は傷の完治していないルリビタキを狐の秘術で捕縛して、布団を敷いて、その中にぽいちょ。
『スマホ、いじっちゃダメ!ねんね!』
狐の薬を傷に塗り、狐の薬を煎じて飲ませて、
彼が寝るまで、監視しているのだ。

『あのな子狐、俺にも仕事が』
『だめー!! ねんね! ねんね!!』
そりゃ既読もつかないハズである。

「すまん。ツバメ。俺にはどうにもならん」
大きなため息ひとつ吐いて、観念したルリビタキはそのままぐぅすぴ。
狐の薬で傷が治るまで数時間、寝ておったそうな。
しゃーない、しゃーない。

9/21/2025, 9:55:54 AM