虹の橋というと、だいたいメルヘンだとか、誰かが亡くなった悲劇とか、そういうハナシが多いような気がする物書きです。
数ヶ月前、連れ添っておった1杯分の便利な急須が虹の橋を渡ってしまったネタを前置きに、こんなおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
さらにその管理局の中には、不思議な不思議なハムスターが室長を兼務する、図書室がありました。
その図書室には滅んだ世界の技術、滅んだ世界の魔法、滅んだ世界の歴史や文化が、
本の形をとった情報の結晶体として、大量に、ドチャクソ大量に収蔵されておりました。
それらは、かつて在った世界の証拠。
たしかに存在して、今は消えた世界の遺言。
「自分たちはどこかで、一瞬だろうと間違いなく、生きていたのだ」と断言するに足る記録。
そこは「図書室」と言われており、
正式名称を、「全世界図書館 管理局分館 技術・魔法等資料室」といいました。
「あった〜、これだ、この本だぁ!」
「『星の終わりにかかる虹の架け橋』?」
「ある世界の、ある星の人がねぇ、
自分の星が滅ぶときに、虹の架け橋を見たらしぃ」
「ほーん」
そんな管理局の図書室には、
滅んだ世界が何故滅んだのか、滅んだときに何を見たのか、記録している絵本もありました。
その中のひとつ、『星の終わりにかかる虹の架け橋』という絵本の中に、
今回のお題、「虹の架け橋🌈」に丁度良い、美しくも悲しいおはなしが、描かれておったのでした。
「『むかしむかし』、」
絵本を見つけた管理局員が、表紙をひらり。
「『今はもう滅んで無くなってしまいましたが、
あるところの、ある世界に、偉い人や強い人、大金持ちの人の子孫だけが住む星がありました。』」
椅子に座って、本を読み始めました。
…——昔々、
今はもう滅んで無くなってしまいましたが、
あるところの、ある世界に、偉い人や強い人、大金持ちの人の子孫だけが住む星がありました。
というのもその星、石油も金も、鉄もガスも、魔法鉱石も全部ぜんぶ、掘り尽くしてしまいまして、
星にはせいぜい、1万人くらいをやしなうチカラしか、残っていなかったのでした。
星に残った1万人は、皆みんな、自分の生活水準を維持するのに、精一杯。
だけど星には、もう資源が少ししかありません。
近くの星にも、もう資源が少ししかありません。
なので星に残った1万人の中の、偉い人と大金持ちの人は、それぞれがそれぞれで強い人を雇って、
日々、資源の取り合いで、戦い続けておりました。
戦えば土地は傷つき、
戦えば土地は汚れて、
戦って虹の架け橋を渡った人は、
皆みんな、その魂を加工されて、武器や別世界渡航船の燃料になったのでした——…
「はー、つまり星も、星に詰まってるハズの魂も、最終的にスッカスカと。そういうハナシ?」
「星の人口が2000人を割った頃に、星に大きな虹の架け橋が現れて、その架け橋が星全体を、飲み込んじゃったんだってさー」
「ふーん」
なんかどっかで聞いたっつーか、見たっつーかなハナシだな、その絵本。
管理局員のひとりがポリポリ、頭をかきました。
きっとその虹の架け橋は、大きな大きな虹キャンディーで、最終的に星もろとも、
そう、星もろとも、終焉の獣に食われるのでした。
「続き、読むよぉ」
ぱらり。
もうひとりの局員が、ページをめくりました。
…——戦って戦って、たくさんの偉い人も強い人も、大金持ちの人も虹の架け橋を渡って、
星の人口が、2000人に届かなくなった頃。
あと数年、数カ月も経てば、星自体が滅んでしまうだろうという頃。
パッ!と空が明るくなり、
大きな大きな虹の架け橋が、星の空に現れました。
『なんだ、アレは!』
『今まで虹の架け橋を渡っていった皆が、この星に大きな大きな虹をかけたに違いない』
『そうだ。皆がきっと、迎えに来たんだ』
『ああ、終わる、この星が、終わる』
大きな大きな、虹の架け橋🌈。
それはとても美しく、とても恐ろしく、
日に日に大きくなり、日に日に長くなり、
そして最後に、その星すべてを覆い尽くしました。
ずっとずっと戦ってばかり、
ずっとずっと奪い合ってばかり。
傷ついてボロボロになった星は、
美しい虹に包まれて、最後はとても、綺麗でした。
とっても、とっても、綺麗だったのでした。
滅んだ星から脱出できた人は虹の架け橋の美しさと、自分たちの失敗とを後世に伝えるために、
その虹を、「星の終わりにかかる虹の架け橋」と、名付けたとさ。 おしまい、おしまい——…
9/22/2025, 4:14:11 AM