かたいなか

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曇り空以外にも、あいまいとか、混濁しているとか、不機嫌なんてのも「cloudy」というそうです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社には、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、一家で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐が、今回のお題回収役。
雲が多い曇天の影響か、参拝者がちっとも来てくれませんので、不機嫌にしておりました。

そうです。心が、cloudyなのです。

「さびしい。さびしい」
くぅぅ。くわうぅ。
コンコン子狐、気晴らしに前足もといお手々など、あむあむ、甘噛みしておりましたが、
「だれか、来ないかなぁ」
その日は祝日でしたので、皆みんなどこかのイベントでも、見に行ってしまったのかもしれません、
やっぱり、だぁれも、参拝に来ません。

そうです。やはり、心がcloudyなのです。

あむあむ、あむあむ。
お手々を噛み噛みする子狐は、本当にヒマになってしまったので、とうとう外出を決意です。

「だれか、だれか」
お父さん狐の部屋のあたりの、隠し部屋にある黒穴を通って、とってって、ちってって。
憂うつで不機嫌な東京から、別世界へワープ!
「だれか、キツネとあそべっ!」
遊んでくれる人の多い、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織の職場へ、お散歩に行きました。

世界線管理局の中に作られた難民シェルターも、
今日はどうやらcloudy、曇天の天候プログラムが実行中のようでしたが、
それでも、色々な世界からの生存者がひとつの区画に集まって、お祭りをしているようでした。

ところであそこの屋台に売っているのは虹色団子ではありませんか?

「曇天を吹き飛ばす虹色焼団子よぉ!」
虹色生地で茶色いあんこを包んで焼いて、串に3個、ぷすっ、ぷすっ!
「どう、子狐ちゃん。安くしとくわよ」
大きめの団子に白い硝子砂糖をふりかけて、屋台のオネェ、ヨダレをたらす子狐に言いました。

コンコン子狐、しまった、と思いました。
というのも、隠し部屋の黒穴の先でお祭りを今日やってるなんて、子狐、知らなかったのでした。
「うー」
食べたいけどお金が無いけど食べたい。
子狐の心はお題どおり、段々混濁してきまして、
そして、徐々に理性より食欲が勝ってきた頃……

「子狐。おまえ、この祭りに来ていたのか」
cloudyな子狐の心を晴らすオッサンもとい法務部職員と、グッドタイミングで鉢合わせました。
「さてはドワーフホトに誘われたな?1匹で居るということは、はぐれたのか?」
そのオッサンは、時折子狐と遊んでくれる、喫煙家の優しいオッサンでした。

「オッサン!タバコのオッサン!おだんご!」
「団子?」
「キツネ、おだんご食べたい、買って、食べたい、おだんご、おねがいオッサン」
「虹色焼団子か?」
「買って買って、にじいろだんご、たべたい」

「1個か?ドワーフホトの分……いや、ドワーフホトとスフィンクスの分で、3個か?」
「いっぱい食べたい、いっぱい買って、オッサン」
「待て。まず好きな味か、味見をだな……」

パッ! と先程まで曇っておった子狐が、
一気に晴れやかになりまして、心のcloudyが消え去ってゆきます。心に光が差し込みます。
「おだんご!おだんご!」
オッサンの言う「ドワーフホト」とも「スフィンクス」とも会っていませんが、気にしません。
とりあえず大量にお団子を、買ってもらってもぐもぐ、ちゃむちゃむ!
幸福を堪能しながら、先のことは考えるのです。

「迷子になったなら、一緒に探してやろうか?」
「さがす。たべる」
「どこで迷子になった?」
「まいごなってない。さがす」
「ん???」

もぐもぐ、ちゃむちゃむ!曇天を払う虹色焼団子を両手に抱えて、子狐は大満足の超ご機嫌。
それから十数分、オッサンと一緒に祭り会場を巡回して、子狐の美味堪能仲間な同志と合流して、
そして、一緒に虹色焼団子を、分け合いっこして楽しんだとさ。 おしまい、おしまい。

9/23/2025, 9:58:46 AM