かたいなか

Open App
6/12/2025, 7:09:06 AM

「雨音に包まれて、『拾ってください』の段ボールの中に、子猫や子犬が数匹」。
昔々存在した、一種のお約束ミームです。
今はそれほど、見かけないような気がします。
きっと、絶滅危惧種なのでしょう……
と、いう早々のお題回収は置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近、雨ざーざーの都内某所に、
本物の稲荷狐が住まう稲荷神社がありまして、
そこの末っ子子狐は絵本が大好き!
狐の名作「どん狐」に、心温まる「てばさきを買いに」、ちょっぴり悲しいハッピーエンド「チロチロキャンディーのきつね」をはじめ、
もちろん、人間が生み出した美しい狐の絵本も、子狐はたくさん、お母さん狐に読んでもらいます。

ところでそんな、子狐の絵本ライブラリには、
雨音に包まれて「拾ってください」の段ボールの中にうずくまる、子犬と間違われた子狐のおはなし、
「みにくいワンコの子」というのがありまして。
茶色くて声もおかしい「ワンコの子」が、最終的に稲荷神社の神様に拾われて、
それはそれは美しく、とてもとても偉大な御狐様に成長しますので、
雨の日におうちで段ボールを見つけると、コンコン子狐、さっそく「拾ってくださいごっこ」です。

「さむいよー、さむいよー」
その日も梅雨シーズンの東京は、雨が降っておりまして、サラサラ、たぱたぱ、雨音がします。
「かかさん、ととさん、どこー」
コンコン子狐は稲荷神社の、敷地内にある宿坊兼自宅な純和風建築の、縁側に段ボールを持ってきて、
ちっとも寒くないし、ちっとも寂しくありませんが、「拾ってください」のマネごとです。

一応、段ボールにもクレヨンで、「ひろってください」のつもりの文字を、グリグリ、ぐりぐり。
全然判読できませんが、それでも楽しく、明るく、書いておいたのでした。
「かかさーん、かかさーん、さびしいよー」

あらあら、あの子ったら。 最近は「雨の中の段ボール」がマイトレンドなのね。
お仕事のお茶っ葉屋さんから帰ってきたお母さん狐は、子狐のことを理解しておるので、
敢えて、子狐を見に行ってはやりません。
あの状態でお母さんが見に行ってしまっては、「拾ってくださいごっこ」になりません。

代わりに、すごく丁度良いところに、清い心魂の人間が参拝に来ておったので、
ニヤリ、お母さん狐はイタズラに、その清い魂の人間を子狐のところに向かわせたのでした。

あの人間なら、子狐の遊びに付き合ってくれます。
お母さん狐、全部知っておるのです。

「さむいよ、さむいよ、さびしいよー」
サラサラ、たぱたぱ。縁側では子狐が、スッポリ居心地良く段ボールの中に収納されておりまして、
雨音にこそ包まれているものの、雨そのものには濡れない絶好のポジショニングで、
絶賛、拾ってくださいごっこを継続中。
雨音に合わせて段ボールをタントン叩いたり、
段ボールの底をちょっとガリガリ掘ってみたり。
それはそれは、もう、それは。寂しいとか言っておきながら、非常に楽しそうにしております。

だって子狐、家におじいちゃん狐もおばあちゃん狐も、それからお母さん狐もお父さん狐も、ちゃんと居ると、理解しておるのです。
でもこれは、拾ってくださいごっこなのです。
一応、寂しくて、寒くて、おなかが空いているという、とういうシチュエーションなのです。

寒いよ、寒いよ、寂しいよ。
雨音に包まれて、コンコン子狐楽しそうに、段ボールの中でごっこ遊びです。
子狐の段ボール籠城はその後だいたい5分くらい続きまして、その頃にはお母さん狐にけしかけられた参拝者が到着しましたので、
コンコン子狐は参拝者と一緒に、絵本を読んでもらったり、おなかを撫でてもらったりして、
楽しく、たのしく、過ごしましたとさ。

6/11/2025, 5:23:02 AM

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某私立図書館には、何気におでんが絶品な、飲食スペース併設の食堂がありました。
食堂の店主はお酒が大好き。
アルコール類の提供はありませんが、
店主が作る料理のことごとくは、肉も魚も果物を使った料理も、お酒によくよく、合うのでした。

ところで、そんな図書館居酒屋食堂ですが、
図書館というだけあって、試験勉強やら自習やらの児童生徒、学生さんも、チラホラ。
5人6人集まって、大皿囲んで勉強できるように、
食堂の店主はギリギリ利益が出る程度の価格で、
どっさり、たくさんの種類の具材で、サンドイッチの盛り合わせをメニューに突っ込んだのでした。

ハムにタマゴ、ツナマヨにイチゴ、主食からデザートまで入って、コーヒーと牛乳がおかわり自由。
学生さんが集まって、それをつまみながら勉強できるよう、店主は考えておったのでした……
が、お客様には「完食も失敗も結局実費の大食いチャレンジメニュー」と勘違いされまして。

「コレだ、コレだよぉ!結局実費の大食いチャレンジサンド〜! あー、良い匂いがするぅ」

その日、食堂の奥の奥あたりでは、美味しいものを愛する某管理局員の収蔵部さんが、丁度その図書館で仕事がありましたので、
一緒に仕事に来ておった法務部さんと一緒に、絶品サンドイッチの大皿を、まず、愛でておりました。
収蔵部さんはビジネスネームを「ドワーフホト」、
法務部さんは「ツバメ」と、それぞれ言いました。

「んん〜、悩むよ、悩むよぉ、
どれから食べよう、どれから食べるのが、イチバン、い〜ちばん、美味しく終われるかなぁ〜」
マーマレードとオレンジソースチキンと、オレンジココアとレモンチーズは、お土産しなきゃぁ。
ドワーフホトは美味しいものが大好き!
この図書館のサンドイッチの盛り合わせも、値段以上の美味と、良いウワサを聞いたのです。

「盛り付け方も、断面も、なかなか美しい」
ツバメはぶっちゃけ、
サンドイッチをメインにコーヒーを飲むより、
コーヒーをメインにサンドイッチをつまむので、
重視しているのはコーヒーとの相性くらい。
「ピリ辛ポークもある。面白い」
あんバターサンドをつまみ、コーヒーを含むと、
あんバタの甘さがコーヒーの酸味と溶け合って、
ふわり、優しさがツバメの口の中で咲きました。

「うん」
ツバメはサンドイッチを、すぐに気に入りました。
「美しい」
コーヒーのおかわりが自由らしいので、さっそく2杯目を貰いに行って、次はどれを食べようと、
思っておったところ、
テーブルに戻ってきた頃には、
おやおや、おかしいですね、
ツバメが1個食べたハズのあんバタサンドが、盛り合わせの大皿の上に、復活しています。

「ん?」
ツバメは目をパチクリ。
「……うん」
あんバタは、2個盛られていたのかもしれません。
きっと、そうに違いありません。

「どーしたのツバメさぁん。早くしないと、ツバメさんが好きそうなの、食〜べちゃ〜うよ〜」
「構いませんよ。私はコーヒーさえ、飲めればそれで良いので。余り物でも結構です」
れにしても本当に美しい」
コーヒー2杯目。ツバメは今度は、お皿に何個残っているかを数えてかられにしても本当に美しい」
コーヒー2杯目。ツバメは今度は、お皿に何個残っているかを数えてから、
その時点で2個残っている、シンプルなハムマヨレタスをつまみまして、ぱくり。

「これも美味い」
「ベーコンレタスも、なかなか美味ぃ」

おやおや、食堂の店主さんが、淹れたてにしてキンキンのアイスコーヒーを、補充に来ています。
「ドワーフホトさんも、どうですか」
「ミルクとお砂糖よろしくぅ〜」

ツバメとしては、コーヒー3杯目。コーヒーを凍らせた氷を適量入れてもらって、片方にはミルクとシロップも追加してもらって、
さっそくテーブルに戻ったところ、
おやおや、やはり、おかしいですね、
ツバメが1個食べて、2個になったハズのハムマヨレタスサンドが、盛り合わせの大皿の上で、
なんということでしょう、3個になっています。

「……ん?!」
ツバメはやはり、目をパチクリ。
「え? んん??」

ツバメはドワーフホトを、じっと、見ました。
「どーしたのぉ、ツバメさぁん」
ドワーフホトは、こっくり。首を右に傾けます。
「あの、」
ドワーフホトさん、盛り合わせに何かしました?
ツバメがそう続けようと、口をあけたところで、
「……あー、 いえ、 なんでも」
すべて、美しく理解してしまったので、とりあえず、ドワーフホトにアイスコーヒーを渡しました。

「ふーん。ヘンなツバメさぁん」

ドワーフホトとツバメが食っているサンドイッチの盛り合わせの皿の下には、2皿、同じものが重なって、隠されておったとさ。
「……急いで食べなくて良いですよ」
「はぁーい」

6/10/2025, 9:54:02 AM

私、永遠の後輩こと高葉井が勤めてる私立図書館では、複数の閲覧室があるけど、
ひとつだけ、静かにBGMが流れてる部屋がある。
理由は、詳しく聞いたことはない。多分子供連れの親子に配慮して、だと思う。
防音にでもなってるのか、ドアを開けるまで中で音楽が流れてるなんて分からなくて、
入ってみれば、たまに小さな子供に親御さんが、あるいはそこの閲覧室の担当職員さんが、
絵本の読み聞かせなんかを、たまにやってる。

今日は私が、そのBGMが流れてる部屋の担当。
朝礼が終わってから閲覧室に向かって、本の整理整頓をして、開館アナウンスが入って。
さぁ今日も、お仕事、お仕事。
私も大好きな推しゲーの聖地にして生誕地ってだけあって、この私立図書館は、人が多く来る。

ところで今日は何故かいつもと違うBGMが閲覧室に流れてるけど、何だろう。

「さあ、子供たち。
不思議なワサビの絵本の、はじまり、はじまり」

気が付いたら私担当の閲覧室には、長い黒髪が怪しいっちゃ怪しい、キレイっちゃキレイな、
つまり、要するに、怪しくて若い女の人が、
小さい子供たち5人くらいに、見たことない絵本の読み聞かせを始めてた。

ワサビの絵本だってさ。
不思議なワサビの絵本だってさ。
それを5人も、ガキんちょが食い入るように見て聞き入ってるんだってさ。

絵本界隈というか、絵本世界というか、
最近はいろんな絵本が出てきてるのは、この図書館でよーく理解したけど、ワサビ、だってさ。

どうしてこの世界は子供にもニッチを提供できるんだろう(絵本作家の多様性)

どうしてこの世界は、猫でも狐でも犬でもなく、
ワサビなんかのおはなしも許容できるんだろう
(絵本作家の物語構築スキル)

「昔々、あるところに、」
なんだか本当にワサビの香りがしてくるような錯覚と一緒に、読み聞かせは始まった。
「深淵にして、偉大なる、不思議な不思議なワサビが、美しい霊場の霊力を吸いながら、
美しい水とともに、育っておったのじゃ」

絵本が「のじゃ」なのか、この黒髪さんが「のじゃ」なのか、分からないけど、
ともかく、その若い女性が読んでる絵本は、どこか絵本らしくない言葉ばっかり。

「不思議なワサビは偉大なワサビ。
ひとくちそれを食べれば、香りをかげば、
この世の苦悩も根塊も未練も、すべて、忘れ去ることが、できるのじゃ」

ワサビの香りがしてきそうな、
いや、実際に香ってるような気がしないでもない、
ともかく、絵本の読み聞かせは続いてる。

(聞いてて面白いのかな)
子供たちは、子供たちなのに、ちっとも動かない。
(なんでだろ、ワサビなのに、気になる)

ふわふわ、ふわふわ。
ワサビの香りが漂う絵本の読み聞かせ会は、
すごく異様で、すごく異質で、すごく不思議。
なのに目を離せない。耳を閉じられない。
読み聞かせの声のせいかな。

読み聞かせ界隈は意外と広い。
どうしてこの世界は、声だけで人間を引き付けられるんだろう……

なんて考えてたら、
副館長が大急ぎで、私の担当の閲覧室に、すっ飛んできて、黒髪のじゃさんを追い出しちゃった。
「アタシの図書館でまた妙なことして!
子供をワサビの世界に誘拐しないでちょうだい」
「おやおや、多古副館長かえ。
誘拐とはまた、無粋な。ワタクシはワラベたちを、ワサビの世界へ、招待しておるのじゃ」
「招待も誘拐も一緒よ!ほら出てった出てった!」

ふんふん、ぷんぷん。
副館長が黒髪のじゃさんを図書館からつまみ出すと、私の担当の閲覧室は、いつものBGMに戻った。
「なんだったんだろ。あれ」
副館長は、何も言わない。
ただ黒髪のじゃさんが座ってたあたりに、お清めの塩っぽいものを盛るだけだった。

6/9/2025, 4:49:57 AM

前回投稿分に、続くような、別にそうでもないような、昔々のおはなしです。

昔々、わりとガチで昔な昔、あるところに、
不思議なワサビを使って人の心身をあやつる、
クシ ワサビ マガツ ヒメというのがおって、
クシワサビ マガツヒメが育てた不思議なワサビを1口でも食べてしまうと、
そのワサビの味が、香りが、効き目が体から全部抜けるまで、心も体も魂も、クシワサビ マガツヒメの思うままに、なってしまうのでした。

「おお、偉大なるワサビ様、深淵なるワサビ様!」
クシワサビ マガツヒメは周囲のシモジモの者どもに、たっぷりワサビを食べさせて、
巨大な、文字通り村単位・集落単位の、新興宗教地域を作り上げたのでした。
「我等をお導きください。めくるめくワサビの世界へ、連れて行ってください!」

なんというか、随分フィクションふぁんたじーな昔話ですが、まぁまぁ細かいことは気にしない。

「ほほほ。シモジモの皆の衆、めくるめくワサビの世界へ、ワタクシとともに、行くのじゃ」
ドンドコドンドコ、びぃんびぃん。
太鼓を叩き琴を弾いてワサビの儀式が始まります。
「皆の衆、ワタクシとともに、偉大なるワサビ様の素晴らしさを、思う存分堪能するのじゃ」
ドンドコドンドコ、びぃんびぃん。
火を焚きワサビの香りをくべて、旗をたてて、
不思議なワサビの不思議な儀式が始まります。

抗菌作用、抗酸化作用、抗炎症作用。血流改善に消臭解毒。ワサビは素晴らしい効果がいっぱい。
なによりクシワサビマガツヒメだけが種を持ち、苗を育てておる特別なワサビは、不思議なまじない、不思議な術、不思議なチカラが宿っておって、
それを食べれば悲しいことも、苦しいことも、全部ぜんぶ、頭から消えていってしまうのでした。

ワサビ様のワサビは不思議なワサビ。
ワサビ様のワサビは素晴らしいワサビ。
さあワサビ様、我等が大君とも言うべきワサビ様。
大君と歩いた道はすべて、ワサビの良い香り。
大君と歩いた道はすべて、美しい湧き水の音。

ああ、ああ。ワサビ様、大君様、
クシワサビヒメ様……
「ほほほ。おほほほほ!ほほほほほ……」

で、ワサビ教とも言うべき新興宗教の新興宗教っぷりは、当時の朝廷の耳にも入りまして。
さっそく討伐隊が組まれました。
「あやしい神に操られた民草が増えている?」
「はい。なんでも、クシワサビヒメなる巫女によって、ワサビを食べさせられると、心も体もクシワサビヒメのものとなってしまうそうです」
「それで?」
「民草はワサビの味や香りが体から抜けるまで、クシワサビヒメの飯の世話をしたり、家の掃除をしたり、湯浴みの準備をしたり」

「それでは、クシワサビ、マガツヒメではないか。
民草が苦しんでおる。早々に討伐してまいれ」
「ははっ。仰せのとおりに」

朝廷から武器をたっぷり与えられて、食べ物と五穀の本当の神様であるウケモチノカミ様とウカノミタマノカミ様も手伝って、
結果、クシワサビマガツヒメは御上の名のもとに、征伐されてしまいました。
「ぐぬぬ、おのれ、無念じゃ、無念じゃ……」

クシワサビマガツヒメが討たれたことで、不思議なワサビの効果も切れて、シモジモの民衆は元通り。
「あれ、おれたち、何してたんだろう?」
「どこかの大君と、どこかの道を、歩いたような」
「気のせいだろ?」
「気のせいかな」

ああ、ああ。ワサビ様、大君様、
大君と歩いた道はすべて、朝廷に消されました。
大君と歩いた道はすべて、無くなりました。
第二・第三のクシワサビマガツヒメが現れないように、クシワサビマガツヒメのお墓は二重にも三重にも、五重にも結界が張られて、
クシワサビマガツヒメの物語も、消え去りました。

「無念じゃ、無念じゃ。ああ、口惜しい……」
昔々、そのまた昔、あるところのおはなしでした。
不思議なワサビでシモジモを惑わせたクシワサビヒメは、朝廷からクシワサビ「マガツ」ヒメと言われながら、結局その名前も忘れ去られて、
つい数年まで、朽ちながらも湧き水のこんこんと流れる天然のワサビ畑で、鎮まっておったとさ。

え?「どこが前回のおはなしに繋がるか不明」?
はい。というのもクシワサビマガツヒメ、
最近封印が解けてしまって、解き放たれてしまいまして、異世界に拠点を置く「世界線管理局」なる組織にチカラを貸しており、
ビジネスネームを、「シジュウカラ」といいまして、以下略、以下略……

6/8/2025, 9:53:13 AM

前回投稿分からの続き物。
異世界に拠点を持つ巨大組織の、「世界多様性機構」がこっそり主催して、企画展を開催しました。

開催地は都内某所。某レンタルイベントスペース。
名前は、「AIで描く空想花展」。

「これはAIで出力されました」とウソをついて、
実はそれらは、既に滅んだ世界の思い出、既に存在しない故郷の存在証明。
多様性機構が東京に、「密航」の形でもって避難させてきた異世界の難民たちが、自分たちの世界の形見として持っておった写真データ。
異世界を知らぬ都民は、その多くが、「最近のAIってスゴイね」と、空想に思いを馳せるでしょう。

それこそ夢見る少女のように。

ところでこの企画展、実は裏の顔がありまして。
というのも世界多様性機構、活動理念が
「すべて発展途上の世界に先進世界の技術を」、
「すべての滅亡世界の難民に新しい故郷を」、
つまり、あっちの世界で活動したり、こっちの世界で救助したりと、アレコレ忙しくしておるので、
要するに、活動資金が常時カッッツカツなのです!

多様性機構は、カネが無い!!
そこで多様性機構、AI画像展の名目でイベントを開いて、各額縁の下のキャプションの、隣にいわゆる2次元コードに似たものを設置。
現地住民たる東京都民、日本人、外国籍の観光客、ともかくあらゆるスマホ持ちに、それを読み取らせようと画策したのでした。

で、 その妙な2次元コードの役割は?
前回投稿分では突然数秒停電が発生して、
その数秒の間に、全部のコードが行方不明に。

「世界多様性機構」の活動を監視・取り締まりしている別組織、「世界線管理局」が接収したのです。

――「どうですか、部長。コードの解析は」
機構が読み取らせようとした2次元コードです。
世界線管理局の法務部執行課、ビジネスネーム「ツバメ」という若者が、
全部ぜんぶ取ってきて、管理局にお持ち帰り。
「まさか連中、現地住民の財産を盗もうなど、」
財産を盗もうなど、していませんよね?
ツバメはコーヒー片手、自分の上司に聞きました。

「直近2年、スマホを使った決済の取り引き履歴を吸って、機構に送信する予定だったらしい」
「もう解析完了していたのですか?連中、我々に解析されるのなんて、見越しているハズでしょう?」

「解析はシジュウカラに回した」
「シジュウカラさん?!彼女は長期休暇でしょう!
法務に帰ってきたのですか!どうして!?」
「『充電完了』だとさ」

「ああ、ああ……帰ってくる、
あのひとが、 あのひとが、 帰って くる」
「しっかりしろツバメ」

あわあわ、ああわあ。 なにやら頭を抱えて天井見上げて、法務のツバメ、完全に動揺しています。
気にしません。おはなしを進めましょう。
要するに「AIで描く空想花展」の主催者は、都民のスマホに潜り込んで、
どこのお店の何がイチバン安いか、コスパが良いか、そんなデータを根こそぎ収集したかった様子。
多様性機構は、カネが無い!
とはいえお金を吸い上げては盗っ人になってしまうので、データだけ貰っていく予定だったのです。

「オカルト系のサイトやスピリチュアル動画なんかの閲覧履歴も、収集しようとしていたらしいな」
「はぁ、 そうですか へえ たいへんですね」

「どうせ異世界の存在を信じそうな金持ち都民を探して、接触して、寄付を頼もうとしたんだろうさ」
「そうなんですね はい たいへんですね」

「いずれにせよ、2次元コードの回収、ご苦労」
「はい、 がんばりました たいへんですね」

「ツバメ。 ツバメ? 無事か?大丈夫か?」
「だいじょうぶです」

「おっ、あそこにシジュウカラ」
「ふゎああああああッッ!!!!!
 ッ部長!! からかわないでください!!」
「いや、あのな、事実として、そこに」
「おわぁああああああああ!!??
 っっッ部長!!!!」

もう!私で!遊ばないでください!!
何やらギャーギャー叫ぶツバメです。
多様性機構が企画展をしていたレンタルスペースの電源を強制的に落として、
数秒の間に異世界の道具でもって怪しい2次元コードを全部ぜんぶ回収してきて、
それらをすぐ、管理局に持ってきたツバメです。

疲れておるのです。ヘトヘトなのです。
なので、自分でイジってほしくないのです。

でもツバメ、気付いていないのです。
上司の部長の言葉は、真実だったのです。
確かにツバメが恐れている「シジュウカラ」は、ツバメの近くでフワリふわり、しておったのです。
夢見る少女のように、まさしく、そのように……

Next