かたいなか

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「雨音に包まれて、『拾ってください』の段ボールの中に、子猫や子犬が数匹」。
昔々存在した、一種のお約束ミームです。
今はそれほど、見かけないような気がします。
きっと、絶滅危惧種なのでしょう……
と、いう早々のお題回収は置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近、雨ざーざーの都内某所に、
本物の稲荷狐が住まう稲荷神社がありまして、
そこの末っ子子狐は絵本が大好き!
狐の名作「どん狐」に、心温まる「てばさきを買いに」、ちょっぴり悲しいハッピーエンド「チロチロキャンディーのきつね」をはじめ、
もちろん、人間が生み出した美しい狐の絵本も、子狐はたくさん、お母さん狐に読んでもらいます。

ところでそんな、子狐の絵本ライブラリには、
雨音に包まれて「拾ってください」の段ボールの中にうずくまる、子犬と間違われた子狐のおはなし、
「みにくいワンコの子」というのがありまして。
茶色くて声もおかしい「ワンコの子」が、最終的に稲荷神社の神様に拾われて、
それはそれは美しく、とてもとても偉大な御狐様に成長しますので、
雨の日におうちで段ボールを見つけると、コンコン子狐、さっそく「拾ってくださいごっこ」です。

「さむいよー、さむいよー」
その日も梅雨シーズンの東京は、雨が降っておりまして、サラサラ、たぱたぱ、雨音がします。
「かかさん、ととさん、どこー」
コンコン子狐は稲荷神社の、敷地内にある宿坊兼自宅な純和風建築の、縁側に段ボールを持ってきて、
ちっとも寒くないし、ちっとも寂しくありませんが、「拾ってください」のマネごとです。

一応、段ボールにもクレヨンで、「ひろってください」のつもりの文字を、グリグリ、ぐりぐり。
全然判読できませんが、それでも楽しく、明るく、書いておいたのでした。
「かかさーん、かかさーん、さびしいよー」

あらあら、あの子ったら。 最近は「雨の中の段ボール」がマイトレンドなのね。
お仕事のお茶っ葉屋さんから帰ってきたお母さん狐は、子狐のことを理解しておるので、
敢えて、子狐を見に行ってはやりません。
あの状態でお母さんが見に行ってしまっては、「拾ってくださいごっこ」になりません。

代わりに、すごく丁度良いところに、清い心魂の人間が参拝に来ておったので、
ニヤリ、お母さん狐はイタズラに、その清い魂の人間を子狐のところに向かわせたのでした。

あの人間なら、子狐の遊びに付き合ってくれます。
お母さん狐、全部知っておるのです。

「さむいよ、さむいよ、さびしいよー」
サラサラ、たぱたぱ。縁側では子狐が、スッポリ居心地良く段ボールの中に収納されておりまして、
雨音にこそ包まれているものの、雨そのものには濡れない絶好のポジショニングで、
絶賛、拾ってくださいごっこを継続中。
雨音に合わせて段ボールをタントン叩いたり、
段ボールの底をちょっとガリガリ掘ってみたり。
それはそれは、もう、それは。寂しいとか言っておきながら、非常に楽しそうにしております。

だって子狐、家におじいちゃん狐もおばあちゃん狐も、それからお母さん狐もお父さん狐も、ちゃんと居ると、理解しておるのです。
でもこれは、拾ってくださいごっこなのです。
一応、寂しくて、寒くて、おなかが空いているという、とういうシチュエーションなのです。

寒いよ、寒いよ、寂しいよ。
雨音に包まれて、コンコン子狐楽しそうに、段ボールの中でごっこ遊びです。
子狐の段ボール籠城はその後だいたい5分くらい続きまして、その頃にはお母さん狐にけしかけられた参拝者が到着しましたので、
コンコン子狐は参拝者と一緒に、絵本を読んでもらったり、おなかを撫でてもらったりして、
楽しく、たのしく、過ごしましたとさ。

6/12/2025, 7:09:06 AM