かたいなか

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前回投稿分に、続くような、別にそうでもないような、昔々のおはなしです。

昔々、わりとガチで昔な昔、あるところに、
不思議なワサビを使って人の心身をあやつる、
クシ ワサビ マガツ ヒメというのがおって、
クシワサビ マガツヒメが育てた不思議なワサビを1口でも食べてしまうと、
そのワサビの味が、香りが、効き目が体から全部抜けるまで、心も体も魂も、クシワサビ マガツヒメの思うままに、なってしまうのでした。

「おお、偉大なるワサビ様、深淵なるワサビ様!」
クシワサビ マガツヒメは周囲のシモジモの者どもに、たっぷりワサビを食べさせて、
巨大な、文字通り村単位・集落単位の、新興宗教地域を作り上げたのでした。
「我等をお導きください。めくるめくワサビの世界へ、連れて行ってください!」

なんというか、随分フィクションふぁんたじーな昔話ですが、まぁまぁ細かいことは気にしない。

「ほほほ。シモジモの皆の衆、めくるめくワサビの世界へ、ワタクシとともに、行くのじゃ」
ドンドコドンドコ、びぃんびぃん。
太鼓を叩き琴を弾いてワサビの儀式が始まります。
「皆の衆、ワタクシとともに、偉大なるワサビ様の素晴らしさを、思う存分堪能するのじゃ」
ドンドコドンドコ、びぃんびぃん。
火を焚きワサビの香りをくべて、旗をたてて、
不思議なワサビの不思議な儀式が始まります。

抗菌作用、抗酸化作用、抗炎症作用。血流改善に消臭解毒。ワサビは素晴らしい効果がいっぱい。
なによりクシワサビマガツヒメだけが種を持ち、苗を育てておる特別なワサビは、不思議なまじない、不思議な術、不思議なチカラが宿っておって、
それを食べれば悲しいことも、苦しいことも、全部ぜんぶ、頭から消えていってしまうのでした。

ワサビ様のワサビは不思議なワサビ。
ワサビ様のワサビは素晴らしいワサビ。
さあワサビ様、我等が大君とも言うべきワサビ様。
大君と歩いた道はすべて、ワサビの良い香り。
大君と歩いた道はすべて、美しい湧き水の音。

ああ、ああ。ワサビ様、大君様、
クシワサビヒメ様……
「ほほほ。おほほほほ!ほほほほほ……」

で、ワサビ教とも言うべき新興宗教の新興宗教っぷりは、当時の朝廷の耳にも入りまして。
さっそく討伐隊が組まれました。
「あやしい神に操られた民草が増えている?」
「はい。なんでも、クシワサビヒメなる巫女によって、ワサビを食べさせられると、心も体もクシワサビヒメのものとなってしまうそうです」
「それで?」
「民草はワサビの味や香りが体から抜けるまで、クシワサビヒメの飯の世話をしたり、家の掃除をしたり、湯浴みの準備をしたり」

「それでは、クシワサビ、マガツヒメではないか。
民草が苦しんでおる。早々に討伐してまいれ」
「ははっ。仰せのとおりに」

朝廷から武器をたっぷり与えられて、食べ物と五穀の本当の神様であるウケモチノカミ様とウカノミタマノカミ様も手伝って、
結果、クシワサビマガツヒメは御上の名のもとに、征伐されてしまいました。
「ぐぬぬ、おのれ、無念じゃ、無念じゃ……」

クシワサビマガツヒメが討たれたことで、不思議なワサビの効果も切れて、シモジモの民衆は元通り。
「あれ、おれたち、何してたんだろう?」
「どこかの大君と、どこかの道を、歩いたような」
「気のせいだろ?」
「気のせいかな」

ああ、ああ。ワサビ様、大君様、
大君と歩いた道はすべて、朝廷に消されました。
大君と歩いた道はすべて、無くなりました。
第二・第三のクシワサビマガツヒメが現れないように、クシワサビマガツヒメのお墓は二重にも三重にも、五重にも結界が張られて、
クシワサビマガツヒメの物語も、消え去りました。

「無念じゃ、無念じゃ。ああ、口惜しい……」
昔々、そのまた昔、あるところのおはなしでした。
不思議なワサビでシモジモを惑わせたクシワサビヒメは、朝廷からクシワサビ「マガツ」ヒメと言われながら、結局その名前も忘れ去られて、
つい数年まで、朽ちながらも湧き水のこんこんと流れる天然のワサビ畑で、鎮まっておったとさ。

え?「どこが前回のおはなしに繋がるか不明」?
はい。というのもクシワサビマガツヒメ、
最近封印が解けてしまって、解き放たれてしまいまして、異世界に拠点を置く「世界線管理局」なる組織にチカラを貸しており、
ビジネスネームを、「シジュウカラ」といいまして、以下略、以下略……

6/9/2025, 4:49:57 AM