ちょっと昔のおはなしです。
だいたい■■年くらい前のおはなしです。
あるところに、魔法と科学・工学を同時に発展させて、資源という資源を発掘・抽出しまくり、
結果として、破滅に傾いた世界がありました。
なお最終的に、「空に溶ける」します。
それは、文字通り、そのまま、地面も建物も生きとし生けるものの多数も、
重力異常の異常だの、構造崩壊だのを起こして、
結果、バラバラになり、空に溶けていったのです。
その世界は、とても美しい世界でした。
その世界は、まだ自分たちで議論と工夫と改善改良の努力を為せば、傾きを正せる世界でした。
「大変だ、大変だ!」
その世界は、面白い技術を独占しており、
それはすなわち、「特定の病気にかかった人から膨大な魔力エネルギーを継続的に抽出する技術」。
その特殊で珍しい病気の患者が5人も居れば、20年はその町の財政が無条件に潤うのです。
「患者から潤沢に得た魔力で世界を開発していたら、この世界のこの星から、ほとんど資源をとり尽くしてしまったかもしれない!!」
「独占」は強力なアドバンテージです。
それは交渉の材料にもなり、
それは防衛の武器にもなります。
「こうなったら、私達の技術を交渉材料に、
別の世界の技術で私達の世界を助けてもらおう」
そうだ、そうだ。それしかない。
最終的にお題回収役となるその世界は、
自分たちのチカラで自分たちの世界の問題を解決することを諦めて、別の世界に救援を求めました。
それが良くなかったのでした。
それが、別世界からの過干渉の始まりでした。
「ああ、これは、よろしくない」
その世界が頼った組織、「世界多様性機構」は、
破滅に傾いた世界を見て、すぐに状態改善パッケージを策定。実行を「勧告」しました。
「まず、あなた方が独占していた技術の研究をすべて停止しましょう。これが全部の元凶なのです」
さぁ、これをしなさい。それを止めなさい。
多様性機構が為したのは、完璧な手順、完璧なレール、完璧な指示であって、つまり過干渉。
多様性機構の状態改善パッケージは、日を追うごとに確実な成果を出しまして、
1ヶ月後には「特定の病気の患者」に依存しない、省エネルギーな世界へと生まれ変わった、
ハズでした。
ここからがようやくお題回収。
そうです。完璧な過干渉は、その世界の右に傾いた天秤の、左皿に1トンの重りをドンして、ばん!
右側の皿に乗るすべてを、吹っ飛ばしたのです。
一気に急速に、完全にバランスを崩されたその世界は、ゆえに自分のカタチを保てなくなり、
さらさら、サラサラ。ぐちぐち、バリバリ。
崩れて、空に溶けて、昇っていってしまいました。
「なんてことだ、なんてことだ」
他の組織、他の世界に頼るのではなく、自分たちでなんとかすべきだった。
その世界の人々は、世界が「空に溶ける」のを見ながら、深く深く後悔しましたが、
こうなってしまってはもう、どうにもなりません。
「次こそは、次があったら、今度こそは……!」
そんなもの、ありません。世界が滅んだら、それで全部、ぜんぶ、おしまいなのです。
「どうして、 こんなことに」
そりゃお題がお題だからです。しゃーない。
結果としてその世界の住民は、なんとか残っていた資材を使って、異世界に脱出する船をこさえて、
集められるだけの人を片っ端からかき集めて、
そして、空に溶け続ける世界から、脱出しました。
その後のことは敢えて詳しく書きませんが、
脱出できた人々は、皆それぞれ、調和とバランスを大事に、新しい人生を歩んでおるそうです。
おしまい、おしまい。
夏です。真夏日です。
舞台であるところの都内某所に、最高約30℃の初夏、もとい暑夏が来ました。
「よしよし。今年も、キレイにできたわ」
今回のお題回収舞台であるところの、都内某所にある喫茶店では、本物の魔女のおばあちゃんが、
美しい青空色をしたサイダーゼリーを仕込んで仕込んで、丁度、今日販売分を作り終えたところ。
「さぁ、ウルシ、ジンジャー、これを冷蔵庫に、全部持っていってちょうだい」
「はい、主人様。仰せのままに致します」
にゃー、にゃー!使い魔猫のウルシが人間に化けて、まず四半分のサイダーゼリーを運びます。
「任せてよ、ご主人!チョチョイのチョイだよ」
にゃー、にゃー!使い魔猫のジンジャーが人間に化けて、ウルシからゼリーを受け取って、冷蔵庫に次々ゼリーを並べてゆきます。
「急ぎましょう。早く。はやく」
使い魔猫のウルシとジンジャー、まだまだ喫茶店の開店ニャンニャン22分前ですが、
それでも、急いでゼリーを収容します。
「急がなきゃ、早く、はやく」
使い魔猫たちは知っておるのです。
どうしても……どうしても、今日はスイーツたちを、開店5分前には収容しておかねばなりません。
魔女のおばあちゃんの占いによると、今日は、異次元の食いしん坊もといグルメウサギが来店して、
喫茶店の開店早々、スイーツというスイーツを、すべて食べ尽くしてしまうのです!
わぁ、わぁ。なんと大変なことでしょう。
「大丈夫よ」
喫茶店の店主にして使い魔猫の御主人様、魔女のおばあちゃんが言いました。
「この日のために、パンもフルーツも生クリームもたっぷり、発注してあるもの」
それに、「今日」に限っては仕方ないわ。
望むまま、食べさせてやりましょう。
魔女のおばあちゃんは小さなため息ひとつ吐いて、
そして、お店のドアをチラリ見て、
「ほら」
ドアノブが少し動いたのを、はっきり、見ました。
「来たわ」
「アンゴラさーん、早いけど、お邪魔しまぁす」
チリンチリン、チリンチリン。
ドアベルの音とともに入ってきたのは2人の女性。
ひとりはまさしく「占い」の、「スイーツというスイーツをすべて食べ尽くすグルメウサギ」。
「うぅ……すいません。お世話になります……」
もうひとり、グルメウサギに付き添われてきたのは、おやおや?異世界から来て東京でお仕事している、「世界多様性機構」の職員さんです。
「なに拾ってきたんですか」
シャー!シャァー!多様性機構の職員に、使い魔猫のウルシが言いました。
「機構が建てた領事館の職員だろ?」
シャー!シャァー!予想外の敵対組織に、使い魔猫のジンジャーも言いました。
「あのねぇ、これには、深ぁいワケがあって〜」
なんでもぉ、大事に、こっちの世界の技術だけを使って育てようとしてた、こっちの世界の黄色いお花が、水のやり過ぎで全滅しちゃったらしい〜。
さーさー、座って座って。
意気消沈、ほぼ絶望の異世界人を喫茶店の席に座らせて、グルメウサギ、言いました。
「だからね、どうしても……どぉ〜ぅしても、
このコには、今、癒やしが必要なの〜」
だからアンゴラさん、食べさせてあげてよ。
美味しい美味しい、心の苦しいのを癒やしてくれる、スイーツをどっさり食べさせてあげてよ。
グルメウサギは魔女のおばあちゃんの、両手をひっしと包んでにぎって、お願いするのでした。
「今日ばかりは、仕方ないでしょう」
再度ため息を吐く魔女のおばあちゃんです。
「ただし、お店の今日の売上を全部短時間で持って行くつもりなら、お店貸し切りの別途料金か、
あるいは、あなたたち2人、今日はお店のお手伝いをしてちょうだい」
いいわね。分かった?
魔女のおばあちゃんはニッコリ。
別途料金が良いか、お店のお手伝いをするか、2人にとても良い笑顔で、問い詰めましたとさ。
とうとう火曜日から最高30℃予想の東京である。
今回のお題回収役は藤森といい、花咲き風吹く雪国の出身であったので、
東京が本格的な初夏もとい「暑夏」を迎える前に、
水出し日本茶のティーバッグをストックしようと、
休日を利用して、馴染みの茶葉屋へ来店。
藤森は某私立図書館の職員であった。
すなわち、月曜は休館日。休日であった。
「こんにちは」
くもり空の影響か、その日は先日に比べて涼しく、
藤森としては、そこそこ過ごしやすい気温帯。
「水出し用の茶葉は、もう……」
しかしこれが、24時間後には30℃を超えるのである。完全に真夏日である。
氷をたっぷり入れた水出し茶の1杯でもなければ、
でろるん、藤森は溶けてしまうのだ。
「……飲食スペース? バーカウンター?」
まって、待って。
藤森の視線が、少しの好奇心でもって固定された。
「あら。こんにちは」
黒髪の美しい女店主は、相変わらず穏やかな笑顔。
藤森が興味津々に、テイクアウトブースを取っ払って作られたスペースを見ているところで、抱えていた看板子狐を床に降ろし試飲の準備。
「今までテイクアウトだけであったものを、ティースタンドも兼用にしましたの」
それは、先週までは存在しなかった、立ち飲み形式の飲食スペースであった。
元々この茶葉屋には、常連専用の個室が複数個、飲食スペースとして用意されていたものの、
テイクアウトを別として、非常連客に向けた飲食サービスは、これが初めて。
「盛況ですよ」
女店主はにっこり笑った。
「突然寒くなったり、暑くなったり。
そういうときに1杯でも、2杯でも」
さぁ今年の水出し緑茶と水出しほうじ茶をどうぞ。
女店主は小さなコップに、キンと冷やされた翡翠色と、べっこう色とを注ぐ。
詰まっておるのは、前者は緑茶的な甘さ、後者はほうじ茶的なすっきり感。
「今年は、去年の柚子風味緑茶とレモン風味ほうじ茶が、更に改良されたそうですよ」
何袋お買い求めなさる?コンコン、5袋?
店主は特にそんなことを、言うでもなく、強制するでもなく、ただ藤森の紙コップが空になる様子だけを見つめていたものの、瞳は正直。
「緑茶2袋と、ほうじ茶3袋で」
店主の静かな視線などいつものことなので、藤森は気にしない。ただ好ましかった方を多めに、必要と思った分だけを、少しずつ手に取った。
くぅー、くっくぅ。くわぁ。こやん。
床に降ろされた看板子狐と目が合って、尻尾を振る子狐が「もっと買って」とアイコンタクト。
強まっていく瞳の輝きは、藤森が子狐を見つめ返しつつ、もう1袋、水出し緑茶に手を伸ばしたから。
くわー、くわぁ。 まいど、まいど。
追加お買い上げ、ありがとございます。コンコン。
「1袋だけだぞ」
こやん。もっと買って、おとくいさん、もっと。
「3と3。今日はこれだけだ」
こやん。あと2コずつで、コンコン、キツネだよ。
「店主さん。これで、会計をお願いします」
ぎゃぎゃっ!まって!もっと!かって!もっと!
「来週には、水出しハーブティーも増えます」
ぎゃぎゃん!買って買ってぇ! 藤森のリネンのサマーコートに、がぶちょ、噛みついて離さない子狐を、一旦置いといて会計に入る。
「梅雨の低気圧にともなう不調にオススメな水出しも出ますので、ぜひ、ご友人にも」
情報提供、お願いしますね。
穏やかに笑う店主がレシートを藤森に、
渡して、子狐を抱いて、ポンポン、ぽんぽん。
コートを放すよう、おしりを叩く。
「ほら。お得意様を、放しておやりなさい」
うーうー!やだ!お買い物おわったら、おとくいさん、キツネとあそべ!あそべっ!
「良い子だから」
うぅぅ!やだ!おとくいさん、もっと、ショーバイハンジョ!もっと、おさいせん!
ふーん。そう来るか。
店主と藤森は視線を交わして、軽く会釈しあって、
藤森が近くの茶っ葉缶に手を伸ばしたのを
子狐が瞳キラキラ輝かせて、口を開き、
サマーコートから牙が離れたのを見計らって
店主が サッ! と子狐を、藤森から引き剥がす。
「では。また来ます」
藤森が茶葉屋から出ていくのを、看板子狐は寂しそうに、くぁー!くぁー!ここココンコンコン!!
待って待ってと大音量で、鳴いておったとさ。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某深めな森の中の稲荷神社には、本物の稲荷狐が家族で住んでおりまして、
そのうち末っ子の子狐に、最近、異世界の技術で作成された魔法生物、陽キャドッグの友達が爆誕。
拝殿のガラガラ鈴緒で2匹して、ぶらぶらスイングして遊んで、子狐のお母さんが作った絶品お肉料理と稲荷寿司を分け合いっこして楽しんで、
そして、お母さんから丁寧に抜け毛取りとブラッシングとを、してもらったのでした。
陽キャドッグも子狐も、5月は丁度換毛期。
すっぽすっぽ冬毛が抜けて、それはそれは、もう、それは。気持ち良いったらありません。
「さぁ。そろそろ今日は、おしまいですよ。
この犬の飼い主も、この犬の帰りを待っていることでしょう。送っていっておやりなさい」
「はい、かかさん、いってきまーす」
東京の独特な、夕陽の見えない夕暮れと一緒に、
コンコン子狐は陽キャドッグの、お家が存在する世界へ渡ってゆきました。
「おかえり。向こうの世界は楽しかった?」
「あら、その子狐とお友達になったの?」
「ちゃんと家に戻る前に、ジャーキー、貰っていくんだぞ。ああ、良い子良い子」
わふ!わふ!わうわう!わをん!
飼い主が勤務している異世界の組織に戻ってきた陽キャドッグは、歓喜で尻尾を高速ぶんぶん!
帰ってきた証拠として、飼い主の職場の受付係さんから撫でてもらい、遊んでもらい、
そしてなにより、ジャーキーを貰うのです、
が、 どうやらその日に限って、受付係さん、ジャーキーの在庫が尽きておったようで。
「すまない。丁度、さっき補充の注文をしたんだ」
わふわふ。わうわう。
陽キャドッグ、いっつもジャーキーのパックをくれる犬耳のお姉さんに突撃します。
「明日には届く。だから今日は、すまないが直接、工場に行って、できたてを貰ってきてくれ」
工場にはちゃんと、ハナシを付けておいたよ。
犬耳お姉さんはそう言うと、陽キャドッグと子狐に、
工場までの単発往復セキュリティーパスを、それぞれ首から下げてやりました。
「ジャーキー……できたて……!」
子狐のまだ知らない、できたてジャーキーの世界!
ああ、なんと甘美で、なんと幸福な世界でしょう!
コンコン子狐はキラキラと目を輝かせて、
陽キャドッグの先導に、ついてゆきました。
え?ナレーションが男性で脳内再生?
オネェ?火曜日?テーマ曲が英語?
さあ。ナンノコトデセウ。
ということで、子狐のまだ知らないできたてジャーキの世界です。さっそくお題回収です。
飼い主の職場のエントランスから、あっちの自動扉を通り、そっちの職員専用食堂を通り、
食堂に食品を供給している、大きなおおきな、屋外・屋内両対応の、食料製造プラントへ。
「やぁやぁ。まいど」
食料プラントのエントランスフロアでは、小さなカゴに入れられたホカホカのジャーキーが、
2個並んで、子狐と陽キャを待っておりました。
「完全にできたてのジャーキーや。持って行きぃ」
ニセ関西弁の二足歩行ニホンホンドタヌキが、
緑の腰巻きエプロンして、子狐と陽キャドッグの口にそれぞれ、ジャーキーのカゴを差し出します。
ジャーキーは、まだ少しの熱をもって、まさについさっき温風乾燥を終えたのだと分かります。
ジャーキーは、まだ少しのフワフワをもって、確実に柔らかくホロホロ解ける肉だと分かります。
「これがッ、これが、できたて、ジャーキー」
子狐のまだ知らない、できたてジャーキーの世界!
コンコン子狐はカゴから咲く、かぐわしい干し肉の匂いに、どうしても我慢できません!
だって、目の前にご馳走です。お肉です。
コンコン子狐は狐なので、お肉、大好きなのです。
「あんな、おばちゃんな」
緑のエプロンのホンドタヌキ、すごく悪い顔して子狐と、陽キャドッグに言いました。
「実は今、試作品持って来とってん……」
どない? おばちゃんのこと、手伝ぅてくれへん?
緑腰エプロンのホンドタヌキが、次に取り出したのは、試作ジャーキーの味見アンケート。
「ちょこーっと、舌、貸してほしいんよ。タダで」
食料プラントのおばちゃんが、また笑いました。
2匹のまだ知らない、試作品の世界!
陽キャドッグと子狐も、2匹して顔を見合わせて、
そして、目を幸福に輝かせたのでした。
使い古したタオルを手放す勇気というのは、タイミングが独特のような気がする物書きです。
使えば使うほど吸水力が増える気もするし、
しかし使えば使うほど汚れていくし、
なにより、いずれ破れてゆくのです。
と、いうお題回収はそのへんに置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、最近、拝殿の鈴緒、すなわちガラガラの房にジャンプで噛みついて、
びょんびょん、ぶらんぶらん!
振り子遊びをするのが急上昇マイトレンド。
勢いをつければ小さなメリーゴーランド、
そこから手ならぬ牙を放せば横ジャンプ。
一人遊びには丁度良く、なかなか、楽しいのです。
で、その稲荷子狐の遊びと「手放す勇気」が、どう合体するかといいますと。
そうです。この、「牙を放す」のが、そこそこスリル増し増しなのです。ゆえに、勇気がいるのです。
「んんん、んううううう!!」
その日はコンコン、稲荷子狐、前回投稿分でまさかの陽キャわんこの友達が爆誕したので、
この陽キャわんこを勝手に「ワンワンさん」と名付け、彼といっしょに鈴緒でぶんぶん。
「うぅぅううおりゃぁぁぁぁぁ!!」
房をしっかり噛み、体を揺らして左右にゆらゆら。
十分運動エネルギーを生成できたら……かぱっ!!
房から牙を放す……もとい、房を手放すと、子狐の体は弧を描き、慣性の法則か何かで回転して、
そして、ぼふっ! 子狐が神社の中から持ってきた大きなクッションの上に、丁度、着地するのです。
それを見ていた陽キャドッグ、頭が良いらしく、
稲荷狐のスイングを見てガッツリ仕組みを学習。
自分も早くやりたくて、上げた尻尾を歓喜と興奮で、ぶんぶん回しています。
ところで稲荷神社の拝殿、鈴緒が2本ありますね。
わをん! がぶっ!!
陽キャドッグはとうとう、子狐の真似をして神社の鈴緒に、飛びかかり、噛みつき、房を噛みます。
ガランガラン、ガランガラン!
神社の鈴緒のひとつは、陽キャの体重と勢いによって、大きな、良い音をたてました。
が、陽キャドッグ、房に噛みついてぶらんぶらん、それは楽しいものの、房を手放す勇気が無い!
うう、うぅー。 飛べば確実に楽しいでしょうけれど、陽キャドッグ、踏ん切りがつきません。
陽キャドッグの鈴緒は段々、揺れの勢いを失って、
最終的に、元の位置に静止しました。
わふ。 わふ。 ワンコはまた、学習しました。
鈴緒、意外と房を手放して放り投げられなくても、
揺れてるだけで結構楽しい。
「あらあら。なにごとですか」
ガランガラン、ガランガラン!
その後もコンコン稲荷子狐と、わんわん陽キャドッグは、それぞれ思い思いに鈴緒スイングを楽しんでおりましたが、鈴緒の断続的な音が気になった子狐のお母さんに、発見されてしまいました。
「まぁ」
音の発生源たる拝殿に行ってみれば、
子狐と不思議な大型犬とが、仲良くそれぞれ鈴緒の房に噛みついて、ぶらんぶらん、ぶらんぶらん。
ケンカせず、遊んでおります。
「あんまり、やり過ぎてはなりませんよ。鈴緒が傷んで、壊れてしまいますからね」
子狐のお母さん、言いました。
「おやつにしましょう。今日はおまえの大好きな、稲荷寿司と油揚げと、お肉ですよ」
「んん!!んんん!!」
おあげさん!おあげさんだ!
コンコン子狐は鈴緒に噛みついたまま。
もっと遊びたい心と、油揚げを食べたい心とが、ごっちゃになってぶつかって、葛藤しています。
「うー!!」
たべたい!あそびたい!
コンコン子狐の葛藤は、まさに、「手放す勇気」のお題に、相違ありませんでしたとさ。