「去年4月10日頃のお題が『春爛漫』だった」
一昨年はスミレの砂糖漬け、去年は桜の塩漬けと山椒の新芽。それぞれ春にふさわしいであろう食い物を投稿してきた某所在住物書きである。
スミレも桜も投稿済み。今年は何を書こう。
「5月前後に咲くらしいミカンって『春』?」
それは初夏かもしれない。または晩春か。
「じゃあリンゴの花は?」
ネット検索によれば5月上旬に咲くとの情報。
意外と南国のミカンと雪国のリンゴは似た時期に春爛漫、花を咲かせるらしい。
「来年もこのお題が来たら、次はミカンかな」
なお季語としては、「ミカンの花」は初夏で「リンゴの花」は晩春とのこと。
3月に真夏日など観測する昨今。いずれミカンで「春爛漫」を書ける時期が来るかもしれない。
――――――
花より団子、春のパンまつり、お花見ケバブ。
春爛漫を楽しむ食い物の言葉というのは、世に多々色々、あるもので。
今回は桜とお菓子とグルメと、不思議な子狐が出てくるおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の宿坊に、稲荷の子狐と和菓子屋の化け子狸と、
それから別の世界から仕事でやってきた管理局員が、それぞれ、「春の美味しい」を持ち寄って、
秘密の春爛漫会合を、開催しておりました。
「キツネは、キツネはね、まず、フキの肉づめ」
稲荷神社在住のコンコン子狐、母狐が宿坊の厨房で作ってくれた大きな大きなお弁当箱の、フタをよいしょ、開けました。
「それから、フキの天ぷら、ワラビとおニクのあぶらいため、おあげさんの肉づめ」
子狐が持ってきた春爛漫、「春の美味しい」には、早春の山菜がいっぱい!
「あのね、キツネ、イチバンおいしーのは、コレだとおもう。おニクとキノメ、木の芽」
最後に出したのは鶏肉の甘じょっぱ煮に、山椒の新芽を添えたピリ辛メニュー。
「わぁ……いいよ、イイよぉ……」
秘密会合唯一の人間、「ドワーフホト」というビジネスネームの女性が、幸福のため息をひとつ、
はわぁ。吐きました。
「あたしが持ってきたジュースに、合いそう」
「次は、僕だ」
和菓子屋さんで見習いをしてる化け子狸が、2段の木箱をゆっくり、開けました。
「春だから、僕、お花の和菓子と、おまんじゅう、がんばって作ってきた。
お花のネリキリ、おはなのワサンボンって砂糖菓子、お花見団子、あとサクラのおまんじゅう」
化け子狸が持ってきた春爛漫、「春の美味しい」には、春の花がいっぱい!
「おはぎもあるよ」
みて、みて。白あんをサクラの色に染めたおはぎの上に、本物の桜の花を添えて、季節感もばっちり。
「うぅ〜、どれから食べるか、迷うよぉ」
ドワーフホトは子狸の、一生懸命作った和菓子に一目惚れ。だってすべてが、今日のため、この春爛漫な秘密会合のためだけに、作られたのです。
「よぉし!最後は、あたしだよー!」
唯一の人間のドワーフホト、満を持して、持ってきたものをお披露目です。
「少しずつお湯で溶かして楽しめる、スープ系とか飲み物系とか、持ってきたぁ!
コンちゃんの山菜料理に合いそうな、新玉ねぎとか新じゃがとかのお味噌汁の味噌玉でしょ〜、
ポンちゃんのお菓子に合いそうな、桜の緑茶とか紅茶とかぁ、あと、山椒の香りがするジュースぅ!」
ドワーフホトが持ってきた春爛漫、「春の美味しい」には、花と美味の香りがいっぱい!
「個人的に桜とチェリーの紅茶はマストぉ〜」
タパパトポポ、とぽぽ。
さっそくドワーフホト、ティーセットを引っ張り出して、ティーバッグにお湯をそそぎました。
「あとねぇ、今日来れなかった友達から、ミカンの花とミカンジュース預かってきた〜」
「キツネ、この、おあげさんにする!」
ドワーフホトが持ってきた油揚げ味噌汁の味噌玉に、早春の山菜を並べた子狐は大興奮!
「僕はこれだ、桜のかおりがするお茶!」
ドワーフホトが持ってきた桜緑茶のティーバッグに、花のお菓子を並べた子狸も大喜びです。
さぁさぁ、皆で春爛漫、山菜の天ぷらと花のお菓子を食べながら、それらを繋ぐ飲み物を飲もう。
稲荷の子狐と和菓子屋の化け狸と、それからドワーフホトのビジネスネームを持つ女性は、笑って仲良く秘密の会合。春のグルメ祭り。
次は誰を誘おう、何を持ってこようと、
わいわい、わいわい。語り合ったとさ。
「3年も『書く習慣』で連載モドキしてるおかげで、キャラクターというか組織というか、それはけっこう増えたから、ネタは色分けしてるわな」
先月「君と見た虹」のお題を片付けた某所在住物書きである。今回は別の七色を書くために、「医療 七色」を検索したり、「食の七色」を調べたり。
結果、面倒になって検索スクショをすべて消した。
何が悲しくて健康食としての「七色料理」を説教よろしく書かねばならぬのだ。
「フルーツサンドイッチにフルーツジャムで七色、とかならアリか……?」
いちご、みかん、黄色と緑のキウイ、以下略。
できないこともない。 ただ青と藍色は?
――――――
先月のいわゆる「七色」、虹のお題では新札の、ホログラムを七色に見立てて投稿した物書きです。
今回は別の七色のおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこはたとえば、自分の世界から別世界への渡航申請を受理したり、密航者を取り締まったり、
あるいは、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが他の世界で悪さをしないよう、回収して適切な方法で保管したり、活用したり。
いろんな世界のために、いろんなことを、アレコレやっている組織なのでした。
ところでその「世界線管理局」の局員、実は最近、都内某所に出没しておりまして、
理由がなんとも単純明快。
滅んだ世界から逃げ延びてきた難民が、密航の形で「こっちの世界」に渡ってきまして、
東京の雑踏に、紛れて隠れ住んでおるのです。
異世界からの密航は、「その世界」の文化と生活と、その世界自体の独自性を崩すリスクです。
ましてや異世界渡航が夢物語でしかない「こっち」の世界に、本物の異世界人が入ってきて、好き勝手に異世界技術を行使しては。
「こっちの世界」の「常識」が壊れてしまいます。
こっちの世界が「こっちの世界」のまま、自分たちの知識と技術と運でもって、
どこかの真似事ではなく、独自の技術を確立して、独自の成長を成し遂げられるように。
世界線管理局は今日もどこかで、異世界人による密航や違法行為を、取り締まっておるのです。
ところで今回のお題は「七色」です。
実は東京から異世界の密航者を、管理局内の難民シェルターに護送してきた管理局員が、
護送の途中で「七色」の美味を昼食に食べまして、
本人、その料理をいたく気に入ったのに、
美味かったその七色料理の名前を忘れたのです。
「くそっ、思い出せん、もどかしい!」
ぐるるるる、うぐぐぐぐ!
七色のお題回収役、七色料理を東京で食ってきた特殊即応部門長、ルリビタキが頭をガリガリ。
七色料理の名前を思い出せず、悶絶しています。
「美味かったんだ、甘じょっぱいというか、しょっぱ辛いというか、唐辛子の少しの辛さがだな、
そのタレと一緒に食った肉が最高だったのに!」
あの美味は何だ、何という食い物だったんだ。
管理局に就職してから異世界グルメを覚えたルリビタキは、自分のデスクで「七色」を食った記憶を、掘り返して、掘り返して、
名前だけ思い出せなくて、がるるるる、ぐるる!
「召し上がった店にもう一度、行ってみてはいかがです?それはご存知でしょう?」
部下のツバメがやってきて、ルリビタキに新規出動要請のリストを渡しながら正論をぽつり。
「それが分かれば苦労しない」
正論のツバメにルリビタキ、反論します。
「護送対象が『どうしても東京を離れる前に食っておきたい』と行った飯屋だ。俺には分からん」
「和洋中、伊仏、どのあたりの料理でした?」
「漢字ばっかりだった」
「和食か中華ですね。で?」
「七色くらいあった」
「彩りが多いなら、和食かもしれませんね。色は」
「茶色と赤とオレンジと、黄色と濃い茶色とk」
「待った待った。待ってください。
それ『七色』って言います?」
「七色だろう。茶色、赤、オレンジ黄色、濃い茶色、あと黒と白。そら、七色だ」
「白は白米として」
「こんにゃくだった」
「こんにゃく」
ポカンとするツバメを置いてけぼりに、ルリビタキは美味の七色を、遠くを見ながら思い出します。
「美味かったんだ……」
最終的にルリビタキ、都内の現地住民に情報を渡して、料理の名前を推理してもらったところ、
無事、それが「野菜マシマシのピリ辛あんかけごぼうこんにゃく」であったと判明。
『そりゃ分かりませんよ』。正解を聞いたツバメは大きく、短いため息を吐いたとさ。
「記憶力、記憶保持、記憶器官、記憶装置。
長期記憶とか短期記憶とかのハナシも書ける」
他には何があったかな。某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、ぽつり、ぽつり。
去年「遠い日の記憶」を書いて、先月「未来の記憶」のお題が配信されたのは、記憶に新しい。
「記憶にございません」はよく用いられている言葉である。物書きも先日使った。
ガチャ石である。50連分である。
「いけると思ったんだよ。……だけどな」
おかしいなぁ。ピックアップが当たらないし、ガチャ石も消えてしまった。
それらはどこへ消えたのだろう。
――――――
自分の記憶力に自信が無い物書きです。
「書く習慣」に使えそうなネタはなるべく、メモとして残すようにしているものの、
何故「その文字」をメモったのか、記憶に残っていない場合もあったり、なかったり。
『人は腹が減るとロクなことを考えない』。
何にひらめいて何を書こうとしたんでしょう。
と、いうハナシは置いといて。
今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某深い深い杉林の中に隠れて、立派な建物が建っており、それは通称「領事館」といいました。
「お久しぶりです。どうです、もう慣れましたか」
「少しだけ、慣れた気がします」
その領事館はこの世界の、どこの国のものでも、どの星や銀河のものでもなく、
つまり、「ここ」ではない別の世界に本拠地を置く組織が開設した領事館。異世界から「この世界」に避難してきた難民のための領事館でした。
領事館の所有者は、「世界多様性機構」。
滅びそうな世界に取り残されている人々を、他のまだ生きている世界に「密航」させて、
違法ながら、しかしそれによって、多くの異世界人の命を救っておったのでした。
「領事館」は密航に成功した異世界難民のための、世界多様性機構による支援拠点。
領事館を訪れたエルフ耳も、つい先日崩壊した故郷から逃げてきたばかりの異世界人です。
この世界に密航してきて、エルフ耳異世界人さんの東京生活も、はや1週間。
東京での新生活にあたって、現地住民からイジワルされていないかとか、困りごとは無いかとかを、
密航と定住の支援をしてくれた領事館に、エルフ耳異世界人さん、報告しに来たのです。
「すごく不思議な気分です」
領事館の館長さんから出されたお茶を飲みながら、エルフ耳異世界人、言いました。
「この世界は、私の故郷にとてもよく似ています。
文化レベル、言語、気候、気温。どれも私の、滅んだはずの世界の記憶を呼び起こします」
そうですか、それは良かった。
言おうとした館長さんでしたが、
「でも、」
エルフ耳異世界人、寂しそうに付け足します。
「故郷の世界の記憶を呼び起こされるからこそ、時折感じる『故郷』との違いが、苦しくなります。
絶妙に似ていて、微妙に違う。現地住民の優しさと
親切が、時折怖く感じるのです」
なんで怖いんですか?
何か、現地住民にイジワルされたんですか?
お茶のおかわりを注ぐ職員さんが、エルフ耳さんに聞こうとすると、
領事館の館長さん、黙って職員を右手で制します。
館長は事前に、知っておったのです。
エルフ耳さんの故郷では、膨大な魔力を持つこのエルフ耳さんは、被差別対象だったのです。
なんやかんや、アレやコレや、色々耐えて忍んできた世界の記憶が、東京の景色に重なるのです。
記憶とのズレが、怖いのです。
「どうしてもツラくなってきたら、我慢せず、我々領事館に御一報ください」
領事館の館長さん、エルフ耳さんに言いました。
「至急、別の定住先を探します」
「ありがとうございます」
深々とお辞儀をして、エルフ耳異世界人、領事館から出てゆきました。
「苦しくなったら、よろしくお願いします」
それから後のエルフ耳さんの行方を、領事館が知ることはありませんでした。
密航がバレて管理局に保護されてしまったか、領事館を頼る必要が無いくらい生活が安定したか。
ただ、このおはなしから1ヶ月後、領事館に切手も消印も無い手紙が届いて、
ただ短文、『お世話になりました。おかげで本当の安全を得ました』と、書かれておりましたとさ。
おしまい、おしまい。
「言葉を付け足せば、『飲もう二度ときめいた豪華ビュッフェで』とか、こじつけることは可能か」
頼もう二度、とりカツを。
某所在住物書きは天気予報を確認しながら、黄砂の予報にため息をついて、目薬などひとつ。
黄砂が冬に来ないのは、黄砂発生源を雪がフタしているからだとか、なんとか。
黄砂発生箇所がずっと湿っていて雪や雨に覆われていれば、もう二度と黄砂は発生しないのだろう。
「まぁ夢物語よな」
黄砂飛来予測を見ると、北海道と青森県にはほぼ飛来しないようである。
北海道はたしか、スギ花粉がほぼゼロのはず。
「移住したら花粉症とぜんそく……」
なお北海道の冬は極寒。移住は春に限定した方が良いかもしれない。
――――――
スギ花粉に黄砂。ぜんそく持ちや花粉症持ちには、厳しい時期となりました。
気候が変動してナントカ風が大蛇行しているというなら、ついでに黄砂も蛇行して、もう二度と日本に来てほしくないと思う物書きです。
今日は「もう二度と」と題して、こんなおはなしをご用意しました。
前回投稿分と繋がるおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織があり、
そこには、敵対組織から「ミカン休暇」と言われて酷く恐れられている、あるいは諦められている、
とても恐ろしい、警備システムがありました。
ミカン休暇は管理局の、主に経理部近辺で見られる、一連のシステムの総称。
経理部の天才エンジニアであるところの、ビジネスネーム「スフィンクス」が、設計してメンテナンスして、運用しておるのです。
24個の「しらぬい」の形をしたミカンが、エリートしらぬいミカン、デ□ポンの指揮でもって、
あっちをパトロール、そっちをパトロール。
24+1個の不知火の、どれか1個にでも見つかれば、そこでそのスパイはバイバイ、さよなら。
敵性人物侵入の情報が全不知火&ポンデコに共有され、コロコロコロ、ころころころ!
たちまちミカンに捕まって、ベルトコンベアのように所定位置まで輸送されて、
スフィンクスが待ち構えているコタツの前に引き出され、その後は「もう二度と」、自分の所属組織に戻れないのです。
ところで経理部の「スフィンクス」ですが、
その日は収蔵部のドワーフホトと一緒に、アンゴラおばあちゃんの魔法の喫茶店で「雲りスープ」の試食会に行っておりまして。
そうです。前回投稿分の、アレです。
「スフィンクスが居ないならこっちのモンだ!」
管理局をイチバン敵視しているのが、同じく「ここ」ではないどこかの組織、「世界多様性機構」。
「スフィンクス不在の情報が漏洩するなど、このチャンスはもう二度と来ない。行くぜぇ!」
ここのスパイ部門の特潜課、「ミカン休暇」の怖さを知らぬ若手が、出世欲を出して管理局に潜ります。
「へへへっ。管理局に爆弾ひとつでも設置できれば、ワシは昇給間違いなしだ。 ひとつと言わず、大量に爆弾隠して、局内を荒らし回ってやる!」
はははっ、ヒャーハハハ!
機構の若手スパイさん、まんまとスフィンクス不在の間に管理局に忍び込んで、それそれ、ほれほれ。
お手製の小さなチート爆弾を、あっちにポイポイ、こっちにポイポイ。設置します。
「よし、カウントダウン……」
爆破のカウントダウン、スタート!
スパイさんが爆弾の、遠隔スイッチを押しますが、
いったい何がどうなってるやら、設置した爆弾はオンラインにならず、スイッチも信号を発信できず。
代わりにあちこち、コロコロ集まってきたのが、
そうです、ミカン休暇の不知火とポンデコです。
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
不知火とポンデコは、警戒音をけたたましく鳴らして、スパイさんに向かっていきます。
「やかましい!やかましいわ!」
スパイさんはミカンを踏み潰そうとしますが、
不知火もデ□ポンも、すばしっこくて踏めません。
「くそっ、やかましいわ、やかましい!!」
スパイさんは知らなかったのです。
てっきり不知火とポンデコはただの監視カメラで、スフィンクスさえ居なければ何も怖くないと、勘違いしておったのです。
スフィンクス御主人様の命令を、自分で考えて、集団で協力して解決できる不知火とポンデコは、
スフィンクスからの指示を待たず爆弾解除と回収ができるし、妨害電波も出せるのです!
「離せッ!はなせぇー!!」
結果、出世欲に負けて管理局を荒らしに来たスパイさんは、誰にも気づかれず誰からも危険視されず、
コロコロ、ころころ。
しらぬいの形をした複数個に捕まって、コタツまで輸送されて、コタツの中にスポン!
押し込まれてからもう二度と、「ミカン休暇」によって、コタツの外へは出てきませんでしたとさ。
「気象庁で使われている用語としては、『くもり』は『雲り』ではなく、『曇り』らしい」
以前も「始まり」を「初まり」って敢えて書いたお題があった。某所在住物書きは先々週のお題を確認しながら、かっくり、こっくり。
小首を鳴らして天井を見上げて、配信されたお題をどう回収するか、考えていた。
前回は「初」と「始」の違いをまず調べた。
「曇」と「雲」にはどのような違いがあるだろう。
「『曇』は空の状態で、『雲』は空に浮かぶ水蒸気の塊、とか?そういうやつ?」
今回も、なかなかに難しい。物書きは考える。
ネットはもう一度、検索しても良いかもしれない。
――――――
雲りんどう、雲りゅうきんか、雲りゅうぜつらん。
「曇り」ではなく「雲り」であることを活用して、
「雲」の名を持つ希少な架空の花のハナシでもしようと思った物書きです。
そんな物書きが今日はこんなおはなしをご用意。
「雲りスープ」です。
桜の開花宣言が為された東京です。
某所には本物の、魔女のおばあちゃんが店主をしている、アンティーク家具の美しい喫茶店があり、
その日は臨時休業して、常連さんと常連さんと、それから稲荷神社の子狐だけを招いて、試食会。
溶き卵を雲に見立て、鶏の「せせ『り』」と「ぼんじ『り』」をスリスリした鶏団子も入れて、
塩、生姜、それから少しのコンソメでもって仕上げた、くもりの日限定予定の試作品。
それが、「雲りスープ」なのです。
「溶き卵の雲とセセリボンジリだから、メニューが『曇り』じゃなくて『雲り』だったのな」
へー。シャレてるじゃねーの。
常連さんその1、スフィンクスというビジネスネームの女性が何度か頷いて、鶏団子をぱくり。
「んんん。団子にも柚子ピールか何か、生姜とか、ちょっと入れようぜ。ゼッタイ合う」
個人的には柚子少々、生姜少々な。
スフィンクスがそう付け足す隣では、狐用によくよく塩分と温度が調整されたスープを、
稲荷のコンコン子狐が、ちゃむちゃむ、じゃぶじゃぶ!猛烈な勢いで食べています。
狐は肉食寄りの雑食性。タマゴもお肉も大好き!
ちゃむちゃむ、じゃぶじゃぶ!
「おいしい。おいしい」
卵の雲も、団子のせせりとぼんじりも、全部ぜんぶ、超高速で胃袋に収容してゆきます。
「溶き卵の『雲』とぉ、セセリとボンジリの『り』で、曇りの日限定ってのは分かるけどさぁ」
曇りの日しかコレ食べられないの、もったいない気がするんだよなぁ〜。
しょんぼり言うのは常連さんその2、スフィンクスの親友のドワーフホト。
「晴れの日も、予約限定とか、数量限定とかぁ」
食べられるようにしようよ、しようよぉ。
「ちょっと」食いしん坊なドワーフホト、雲りスープをお気に召したようで、悪天候限定メニューであることがどうにも寂しいようなのです。
「でもよぉ。晴れの日に雲のスープって、どうよ」
「晴れの日だって、雲、あるもーん」
「快晴の日だってあるじゃねぇの。どうすんだ」
「東京が快晴でも、関東が快晴でも、どこか、ゼッタイ、雲あるもーん。 ね、コンちゃん」
コンちゃんも雲スープ、いつでも食べたいよね〜。
ドワーフホトは仲間を求めて、おかわり申請のために「おすわり」している子狐を、わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。撫でくり回します。
たべたい!タマゴ、おにく、たべたい!
子狐は尻尾をぶんぶん!体全体で同意します。
「晴れの日の、雲、ねぇ」
その案、頂こうかしら。店主の魔女のおばあちゃん、ふと甘いメニューを閃いたらしく、
「これから桜も咲くし、良いかもしれないわ」
カリカリ、アンティークの黒板にチョークでメモ。
ふわふわ白い色で、こう書かれておったとさ。
『サくラ、ネもフィラ、カタクりの、
くもり・雲りコットンキャンディー』