「気象庁で使われている用語としては、『くもり』は『雲り』ではなく、『曇り』らしい」
以前も「始まり」を「初まり」って敢えて書いたお題があった。某所在住物書きは先々週のお題を確認しながら、かっくり、こっくり。
小首を鳴らして天井を見上げて、配信されたお題をどう回収するか、考えていた。
前回は「初」と「始」の違いをまず調べた。
「曇」と「雲」にはどのような違いがあるだろう。
「『曇』は空の状態で、『雲』は空に浮かぶ水蒸気の塊、とか?そういうやつ?」
今回も、なかなかに難しい。物書きは考える。
ネットはもう一度、検索しても良いかもしれない。
――――――
雲りんどう、雲りゅうきんか、雲りゅうぜつらん。
「曇り」ではなく「雲り」であることを活用して、
「雲」の名を持つ希少な架空の花のハナシでもしようと思った物書きです。
そんな物書きが今日はこんなおはなしをご用意。
「雲りスープ」です。
桜の開花宣言が為された東京です。
某所には本物の、魔女のおばあちゃんが店主をしている、アンティーク家具の美しい喫茶店があり、
その日は臨時休業して、常連さんと常連さんと、それから稲荷神社の子狐だけを招いて、試食会。
溶き卵を雲に見立て、鶏の「せせ『り』」と「ぼんじ『り』」をスリスリした鶏団子も入れて、
塩、生姜、それから少しのコンソメでもって仕上げた、くもりの日限定予定の試作品。
それが、「雲りスープ」なのです。
「溶き卵の雲とセセリボンジリだから、メニューが『曇り』じゃなくて『雲り』だったのな」
へー。シャレてるじゃねーの。
常連さんその1、スフィンクスというビジネスネームの女性が何度か頷いて、鶏団子をぱくり。
「んんん。団子にも柚子ピールか何か、生姜とか、ちょっと入れようぜ。ゼッタイ合う」
個人的には柚子少々、生姜少々な。
スフィンクスがそう付け足す隣では、狐用によくよく塩分と温度が調整されたスープを、
稲荷のコンコン子狐が、ちゃむちゃむ、じゃぶじゃぶ!猛烈な勢いで食べています。
狐は肉食寄りの雑食性。タマゴもお肉も大好き!
ちゃむちゃむ、じゃぶじゃぶ!
「おいしい。おいしい」
卵の雲も、団子のせせりとぼんじりも、全部ぜんぶ、超高速で胃袋に収容してゆきます。
「溶き卵の『雲』とぉ、セセリとボンジリの『り』で、曇りの日限定ってのは分かるけどさぁ」
曇りの日しかコレ食べられないの、もったいない気がするんだよなぁ〜。
しょんぼり言うのは常連さんその2、スフィンクスの親友のドワーフホト。
「晴れの日も、予約限定とか、数量限定とかぁ」
食べられるようにしようよ、しようよぉ。
「ちょっと」食いしん坊なドワーフホト、雲りスープをお気に召したようで、悪天候限定メニューであることがどうにも寂しいようなのです。
「でもよぉ。晴れの日に雲のスープって、どうよ」
「晴れの日だって、雲、あるもーん」
「快晴の日だってあるじゃねぇの。どうすんだ」
「東京が快晴でも、関東が快晴でも、どこか、ゼッタイ、雲あるもーん。 ね、コンちゃん」
コンちゃんも雲スープ、いつでも食べたいよね〜。
ドワーフホトは仲間を求めて、おかわり申請のために「おすわり」している子狐を、わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。撫でくり回します。
たべたい!タマゴ、おにく、たべたい!
子狐は尻尾をぶんぶん!体全体で同意します。
「晴れの日の、雲、ねぇ」
その案、頂こうかしら。店主の魔女のおばあちゃん、ふと甘いメニューを閃いたらしく、
「これから桜も咲くし、良いかもしれないわ」
カリカリ、アンティークの黒板にチョークでメモ。
ふわふわ白い色で、こう書かれておったとさ。
『サくラ、ネもフィラ、カタクりの、
くもり・雲りコットンキャンディー』
3/24/2025, 7:31:09 AM