「今日2025年3月1日で、このアカウント、3年目だってよ……早いよな……」
あの日は300字程度の物語を、ふっと考えて投稿して、後先考えず茶でも飲んで終わりだった。
某所在住物書きは、このアカウントで最初に投稿した文章を読み返して、ひとつため息を吐いた。
「最近最近の都内某所」をメインの舞台に据えた、
現代時間軸、連載風の投稿である。
最初の投稿で2人だけだった登場人物は、
連載風が続いて続いて、731日目の今日で、何人何匹になっただろう。
「なんなら『都内某所』から抜け出して、別世界の厨二ふぁんたじーまで舞台に出てきちまったもん」
初投稿の後の茶、あの日の温もりはガッツリ忘れたが、少なくとも3月なので、エアコンは……
「どうだろう、エアコン……?」
なんてったって最近、3月でもえらく暖かい。
――――――
初めてコンビニでコーヒーを買ったあの日の、温もりと銘柄は覚えていないわりに、意外と、どのコンビニで買ったかは覚えておる物書きです。
今回は「あの日の温もり」に関するおはなしを、3個ほどご用意しました。
最初のおはなしは、都内某所の杉林の中。
立派な建物がありまして、通称「領事館」といいます。朝から気温が高く推移して、少し風が吹き渡っては、忌々しい黄色の粉が、
もっふ、もっふと、まるで雪崩のよう。
「くそっ、ちきしょう、忌々しい」
この領事館の中で一番偉い人は、「館長」と呼ばれており、ビジネスネームを「スギ」といいました。
「とうとう、今年も、この時期が来やがった」
このスギさん、東京の領事館に配属された翌年から、重度のスギ花粉症持ちでして、
大量のティッシュ箱との付き合いもかれこれ◯年。
東京に来るまでは、なんてこと、なかったのです。
それが、あぁ、悲しきかな。
今はティッシュとゴーグルと目薬と、マスクと点鼻薬とあとコロコロクリーナーが手放せない!
「今年こそ!領事館に高性能清浄機を配備だ!」
配属初日の晴れた朝、花粉症など知らなかったあの日の温もりを思い出しつつ、
スギさん、今年もスギ花粉と戦うのでした。
次のおはなしは都内某所の某私立図書館。
3月1日から新しく、2人事務員が入ってきて、
そのうち1人が要は復職、もうひとりが初見さん。
前者は名前を藤森、後者は高葉井といいました。
「あら!あらあら『附子山』!昔はあんなに闇堕ちな顔をしてたのに!イイ顔になったじゃないの」
藤森を知っている副館長の多古はいわゆるオネェ。
「聞いたわよ。元恋人に酷く粘着されて、逃げるために名字変えたらしいわね。
今の名字は?ふーん、藤森?附子から藤で、『毒っ気抜けました宣言』?……あら違うの?」
取り敢えず寄贈本の装備と登録がたまっちゃってるから、すぐ始めてちょうだい。
副館長の多古さん、言うだけ言って、藤森と高葉井から離れていきました。
「たこ、副館長?」
多古に絡まれていた藤森に、高葉井が聞きました。
「多古 八重次郎、たこ やえじろう副館長だ」
ジト目で副館長を見送る藤森、言いました。
「私が旧姓だった頃から、副館長をなさっている。
普段は超が付くほどのお節介だ。怒らせたり危害を加えたりしなければ、命の危険は感じない」
あのひとが練ったココアも、今は良い思い出さ。
藤森は数年前、多古から温かいココアを貰ったあの日の温もりを思い返して、ため息を吐きました。
最後のおはなしは「ここ」ではないどこかの世界。
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじーな組織の、
建物の中にある大きな大きな難民シェルターの、
日光当たって花咲き誇る原っぱで、
強くてちょっと大きいドラゴンが、ヘソ天でぐぅすぴ、かぁすぴ。寝ておりました。
ドラゴンのどてっぱらの上では、都内某所の某稲荷神社に住まう不思議な子狐がこれまたヘソ天。
「オッサン、あったかい、あったかい」
陽光の当たり具合が、丁度良いのです。
陽光受けたドラゴンのハラも、プニプニ高反発な弾力をしていて、温かいのです。
「わかる。温かいよね。わかる……」
子狐の上では言葉を話すハムスターが、狐の毛の保温性に包まれて、毛づくろいをしておりました。
「ハムさん。もちょっと、みぎ」
「ここ?」
「そう。 きもちいい。きもちいい」
今でこそ平和にヘソ天して、お昼寝するなり毛づくろいで幸福するなり、互いに善良な時間をゆっくり共有しておったのですが、
よもやこのあと、子狐が寝返りを打って、
ハムスターが子狐の腹から落ちて、
結果としてハムスターが身の危険を瞬時に感じて、
結果として後日、「あの日の温もりは一瞬で壊れてしまったね」と回想するようになるとは
当時、誰も、ちっとも、思わなかったのでした。
「あの日の温もり」と題しまして、3個のおはなしでした。おしまい、おしまい。
「acuteは急性とか鋭いとか、subacuteは医学用語で亜急性だの亜急性期だの、elocuteは熱弁するの動詞系でexecuteは執行とか署名とか。
prosecuteなんて言葉もあるらしいな。告発か」
きゅーと、きゅーと。
エコキュー◯にキュートアグレッション。
某所在住物書きは「cuteで終わる単語」をネットで検索して、「scute(スキュート)」を発見した。
アルマジロやカメなどの大きな骨を言うらしい。
まぁお題には使えないだろう。多分。
「熱弁するって、エロキュートっつーのな」
こっちは使えそうだ。物書きはひとつの英単語に注目する。「elocute」だそうである。
「……読み方だけ見れば、完全に推し用語よな?」
だってエロキュートである。この字並びから、誰が「熱弁する」を予想できるものか。
――――――
明日3月1日から私、後輩こと高葉井は、
ブラックに限りなく近いグレー企業から、推しゲーの聖地にして生誕の地である某私立図書館に、
満を持して、転職することになった。
転職先は都内で、しかも前の職場より、私の自宅アパートに近い。
通勤手当は減るだろうけど、その分バスとか電車とかの時間が減る、というか自転車で行ける距離だから、ダイエットついでとでも、思うことにした。
なにより、私と一緒に某図書館に転職する先輩のアパートが、某図書館の通勤ルート上にある。
つまり先輩と、シェアランチをしやすくなる。
いつも節約にご協力頂きありがとうございます。
(特に推しゲーへの課金捻出の観点から)
「とうとう明日だよ。先輩」
いつもどおり食材と料理代を少し持参して、先輩の部屋に行くと、先輩は私の食材を受け取って、先輩の冷蔵庫の中身と一緒にさっそく料理を始めた。
「とうとう、このブラック企業からオサラバだよ」
今夜はお祝いだね。
私がバッグから缶チゥハイを出すと、
先輩はキッチンから「あのなぁ」と声を投げた。
「そのブラック企業からオサラバする代償として、給料は今より少し減るんだぞ。
私は別に構わないが、おまえ、それでもゲームへの課金額は見直さないつもりか?」
時折私のところでシェアランチだのディナーだのして、食費は最適化できているだろうけれどだな。
私が手伝えるのは、おそらく「それだけ」だぞ。
先輩はそう言って、料理の味見をしたんだと思う、
舌をやけどしたような悲鳴を小さく上げた。
「あのね先輩」
私は先輩に言葉を投げ返した。
「推しが居るから、お仕事頑張れるんだよ」
先輩は、私の推しゲーの推しキャラの、
厳密には推しゲーの推しカプの右側さんを、正確に理解してないらしい。
先輩に右側さんのえろきゅーとをelocute!
熱弁する私の言葉は、先輩に届いただろうか。
「あのね。ル部長はね、人間じゃなくてドラゴンなの。すっごく強いの。人気キャラなの」
「はぁ」
「でもって、明日からの職場は、ツウキさん情報によれば、たまにル部長の神レイヤーさんとエンカウントできるらしいの!」
「うん」
「神レイヤーさんと、ル部長のえろきゅーとを、elocute!しあう!これぞ私のじゃすてぃす!」
「エロキュート?」
「Elocute!『熱弁する』!
神レイヤーさんだよ!完全にル部長にそっくりなんだよ!もうル部長のえろきゅーとがエロキュートで、ゆえに神レイヤーさんとelocuteしあうんだよ」
「晩飯の味付けは鶏だし塩に柚子胡椒で良いか」
「おねがいします」
はぁ。ルブチョウねぇ。
先輩はため息ひとつ吐いて、キッチンから1〜2人用の小鍋を持ってきて、
それで、こたつ用布団が片付けられてただのテーブルになっちゃった卓の上に置いた。
「おいしそう」
「手羽元を使った肉そばだ。お前が大量のカット野菜を買ってきてくれたから、その野菜からも良いダシが出ているだろうさ」
お手々をぱっちん、いただきます。
先輩がよそってくれた手羽元をハフハフしながら、持参した缶チゥハイを飲む。
「図書館だから、明日は仕事だぞ」
「分かってまぁす」
えろきゅーと、Elocute!先輩に推しキャラの推したる理由を熱弁しながら、ごはんが進む。
明日私は、新しい職場で新しいスタートをきる。
「観察日記、研究レポート、買い物のレシートに録画した番組、それからゲームのセーブ。
まぁまぁ、『記録』にも多々あるわな」
某N◯Kスペシャル、「◯◯年追い続けた、現場の記録である」とかオープニングで言いがち説。
某所在住物書きは、手元の長い長いレシートを確認しながら、しかし必要経費なので、金額に目をつぶった――来月まで少し節約する必要がある。
「スマホの中の写真も、ひとつの記録よな」
レシートをくしゃくしゃ潰した物書きは、紙くずをゴミ箱目がけてポイチョ。 入らない。
「去年はもう、今頃、バチクソに暖かくなって、春の花もけっこう咲いてたのか」
ところでスマホの天気予報によれば、数日後、東京の最高気温が20℃に到達するらしい。
史上一番暑い3月を、記録したりしないだろうか。
――――――
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは世界から世界への渡航申請を受理したり、
先進世界による途上世界への過剰介入だの異常な流入だのを監視して取り締まったり、
あるいは、滅びた世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界に流れ着いて悪さをする前に、回収して保管したりしておりました。
潤沢な資金、経験豊富な事務局員と戦闘局員、
なにより、収蔵されている滅亡世界のチートアイテムの、多種多様なこと。
世界線管理局はそれらを使って、今日もその世界が「その世界」として、独立性を保ったまま存在し続けられるように、
世界の円滑な運行を、支えておったのでした。
で、そんな管理局に、今何が足りないかというと。
そうです。土地が足りないのです。
世界は星の数ほどあり、それらからこぼれ落ちた危険なチートアイテムは数知れず。
中には使い方を間違えれば、空間ひとつ、世界ふたつ、軽く溶かせる物品も生き物も居るのです。
そういうのを保管しておくための、
あるいは、そういうモノの性質を研究して管理局の運営に役立てるための、「確実に安全な」個別空間が、管理局には不足しておったのです。
管理局には、土地が無い!
管理局の環境整備部は、特にその中の空間管理課は、各部署から上がってくる「こういう空間が欲しい」「そういう個室が必要だ」を、一気に解決してくれるチートアイテムを、
更にワガママを言うなら「そんな空間」に鍵やセキュリティーのようなサムシングを付与してくれる神アイテムを、ずっと、探し続けておりました。
で、出てきたのが前回投稿分の水晶。
「人間と空間と時間を関連付けて、記録してくれる水晶」だったのです。
さぁ、ここから今回のお題回収。
人と空間と時間を記録する水晶のおはなしです。
「見たまえ。我々空間管理課が『保存空間発生装置』と呼んでいる装置の、最終試作機だ」
前回投稿分で環境整備部に飛ばされた奥多摩出身くんは、新しい冒険もとい異動先で、
とても大きな、無機質な、しかしシンプルに洗練されたデザインの機械の前に案内されました。
「この装置は、空間の中にもうひとつの空間を生成することで、管理局の個室・空間不足を解消する。
解消、するのだが、今のままでは各空間ごとのセキュリティーが、ガバガバ過ぎてだな……」
そこで、人と空間とを結びつけて、記録する能力を持っているこの水晶を組み込み、
それによって、顔認証、生体認証、声認証のようなセキュリティーの概念を実装したいのだ。
空間管理課のひとが言いました。
記録、きろく。水晶が局員と空間を結びつけて、記録しておくことで、「その人が入って良いか」「入ってはダメか」を定義づける。
なるほど。奥多摩くんは、少し納得しました。
少し納得しましたが、
「その機械に、この水晶を組み込んでまでセキュリティー概念を導入する必要、あるんですか」
水晶を手放すということは、奥多摩くん、
その水晶を使った余暇が、要はゲームが、更に言うならファミキューブだのドリームサターンだのが、できなくなってしまうのです。
「セキュリティーは必要だよ。奥多摩くん」
ポン、ぽん。
保存空間発生装置の説明をしていた局員が、奥多摩くんの肩を叩いて、真面目に言うことには、
「たとえば君が、保存空間発生装置の利用申請をして、君個人の完全プライベート空間を一時的に手に入れたとする。
中では色々なことができる。昼寝もできるしスナックも食える、持ち込んだゲームもできる。
セキュリティーが存在しなければ、ゲーム中に君の空間に、誰でも勝手に入ってくる。
掃除機をかけたり。勝手にゲームの線を抜いたり。
で、『またこんなに散らかして!』と」
イヤだろう。熱弁する局員さん、言いました。
記録というか、記憶にあるだろう。奥多摩くんの両目をじっと見て、確信をもって、言いました。
「セキュリティー、だいじですね」
奥多摩くんは、反論しません。
ただ、自分が研究して、調査レポートを記録し続けていた水晶を、局員さんに黙って渡すのでした。
「『さぁ』とか『ねぇ』とか、呼びかけ系が登場するお題って、珍しいような気のせいなような」
某所在住は今日も今日とて、過去のお題を確認しつつ、何をどう書こうか悩んでいる。
いつもの「少し言葉を足せば」を使えば、
「さぁ冒険だけでは済まない状況になりました」
とか、
「さぁ冒険ダイジェストをご覧に入れましょう」
とか、少し話題を逸らすことくらいはできる。
問題はどちらにせよ、「冒険」に類似した「何か」は確実にひとつ、出さなければならないこと。
「冒険、ぼうけんねぇ」
物書きは天井を見上げた。ソシャゲのダンジョン周回は冒険のうちに入るだろうか。
――――――
部署の異動は、冒険のひとつと言えます。
総務から経理へ、経理から法務へ。
ときには今まで事務の部署だったのに、いきなり保険の営業に回されることもあるでしょう。
今日は完全に厨二ふぁんたじーな職場の、
完全に突然通告された、異業種冒険のおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは世界から世界への渡航申請を受理したり、
滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが他の世界で悪さをしないよう回収したり。
それぞれの世界が「それぞれの世界」として、独自に独立して存在できるように、
いろんな仕事を、しておったのでした。
今回、お題回収役として異動の冒険に放り出されるのは、チートアイテムを収蔵・保管し続ける部署、
収蔵部収蔵課の局員さん。
奥多摩出身です。白黒ピコピコ8bitゲームをリアルタイムでプレイした世代です。
あるいはテレビがアナログから、地デジに移行するその瞬間を、哀愁とともに見届けた世代です。
で、そんな奥多摩さんの収蔵課に、
先月「本来は自分の世界のいろんな場所を映していた水晶」が収容されてきまして。
この水晶を「地デジ未対応水晶」と名付け、活用方法を研究し始めたのでした。
だってこの水晶、普段はザーザー、磁気嵐だの砂嵐だののような映像ばっかりなのです。
そしてこの水晶、誰か何かをアナログもとい物理的に触れさせると、ちゃんと「誰か」「何か」に関連した映像が映るのです。
これはもう「地デジ未対応」でしょうと。
「『自分の世界のあちこちを映す』って機能が、
『その世界』が滅んじまったから、『自分を持った者の何かを映す』だけに限定されちまったのか」
なるほど、なるほど。そういうことか。
奥多摩出身の局員さん、実験成果をもとに、地デジ未対応水晶の「今の能力」を結論付けます。
「こいつには、『自分に触れた誰か』と、空間やら時間やらを関連付ける能力がある。
だから端子繋げばファミキューブが動くし、ケービーのスカイライドも遊べるワケだ」
便利よな。ハードが少し壊れてても、ソフトが無事なら、ドリームサターンのゲームも遊べるんだぜ。
奥多摩さんが上機嫌で、昔々のゲームをピコピコ、ぴこぴこ、地デジ未対応水晶で遊んでいると、
「見つけましたぞ奥多摩くん」
ようやく、お題回収。
奥多摩出身局員さんを部署異動の冒険に連れていく、環境整備部 空間管理課の人が、現れました!
「それが、ちでじみ水晶ですな?
その水晶は、我々空間管理課の業務に有益な水晶になると思われる。空間管理課で使わせてもらうぞ」
どうやら奥多摩さんがまとめたこの水晶の、「人と空間と時間を結びつける能力が少し残っている」という
調査レポートが、
別の部署のひとの目にとまり、「その水晶、ウチで使いたい!」に繋がったようなのです。
「はぁ。そうですか」
うぅ。せっかくの俺のスカイライドが。バイオクライシスが。セェガァが。
奥多摩さん、心のなかで号泣しつつ、でも仕事なので、水晶を手放す決意をします。
地デジ未対応水晶は、あくまで管理局の収蔵品なのです。奥多摩さんのゲーム機ではないのです。
「じゃあ、収蔵部収蔵課から、環境整備部空間管理課に所有権を移すので、収蔵場所移管届等々、書類の記入お願いします」
「もう済んでいる。君も来るのだ奥多摩くん」
「は?」
「その水晶を一番よく使えるのは、奥多摩くんである。よって君も、空間管理課に来るのだ」
「は……?」
ほら、どうだ。これが君の新しい辞令。
空間管理課の職員が、奥多摩さんに紙切れを渡します。そこには確かに奥多摩さんを、収蔵部から環境整備部に異動させる文言が書かれています。
さぁ、冒険です。部署異動という冒険です。
「空間管理課って、具体的に何するの、」
「その辺は後ほど説明するのだ」
空間管理課なんて、厨二ふぁんたじーな部署に、これから奥多摩さんは異動の冒険を始めるのです。
不安と心配で、目が点々。奥多摩さんはそのまま、「空間管理課」へズルズル、連れていかれます。
どんな冒険が待っているかは、今後のお題の配信次第。 しゃーない、しゃーない。
「6月に『あじさい』書いたのは覚えてる」
あとは何だろな。去年は「ワスレナグサ」とか「花束」とか、そういうお題もあったかな。
某所在住物書きは過去のお題を確認して、
次に、ネットを検索した。
「一輪の」から歯車だのタイヤだの、そういうのに繋げられないかと考えたのだ。
一応「花車」なる単語はあるらしい。
タイヤではない。数え方もきっと、「一輪の花車」ではなく、「一台の花車」だろう。
――――――
3連休も、とうとうおしまい。
楽しかった思い出は、花瓶にさしていた一輪の花が、寒さに当てられて枯れるように、
一瞬の早さで、過ぎていきます。
ということで今回のおはなしは、そんな3連休中の美味しい美味しい思い出に関するおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこはビジネスネーム制を採用しておりました。
ちなみに今回のお題回収役は、ドワーフホト。
3連休の東京の、美味しい美味しいキッチンカーイベントに突撃しまして、
あたたかいビーフシチューに甘いお団子、ガッツリお弁当セットなんかも食べて食べて、
最高の連休を、堪能したのでした。
ただ友達のスフィンクスのために、お土産で買ってきたバタフライピーのティーバッグが、
長期保存に耐えるための乾燥ティーバッグなので、
キッチンカーでは一緒に飾られていたバタフライピーの花も、入れるだけでお茶の青を紫に変えたレモン果汁も、何も、なにも、無いのです。
「あのね、あのねぇぇ、」
青く美しいホットなお茶を、耐熱ガラスのティーカップに淹れて、ドワーフホトが言いました。
「キレイだったの、すごく、すごぉく、キレイだったの。スフィちゃんにも見せたかったのにぃ……」
こんなモンじゃ、ないんだよ。
もっともっと、一輪の花っていうか、青い八重咲きのアサガオみたいな、おっきいお花がカップにさ。
それが、レモン果汁が沈んだ場所から、
段々紫色に変わっていくのを見せたかったのに。
わぁん、わぁん。
ドワーフホトは真っ青な、耐熱ガラスのティーカップを友だちに差し出して、
苦悶するように、テーブルに突っ伏すのでした。
「ふーん。一輪の花ねぇ」
キッチンカーで見た芸術を、共有できないことにモヤモヤするドワーフホトを、
ドワーフホトの友達、スフィンクスが見つめます。
「まぁ、『一輪の花』は、さすがに無理よな。
でもな、ホト。バタフライピーを青から紫には、俺様、これができるんだわなぁ」
ヒヒヒ。まぁ、見てろよ。
スフィンクスがどこからともなく、小さな小瓶を取り出しまして、中身をトントン、カップに投下。
「なぁに、これ」
「んー?星くず」
「ほしくずぅ?」
それは、小さく砕かれた乾燥ゆずピールでした。
小さな小さな、とても小さな金平糖くらい。ゆずの皮は青い水面に降り注いで、その青を吸いまして、
徐々に、じっくり、ゆっくりと、
バタフライピーの青を、青紫に変えてゆきました。
青紫の上にパッと映える薄黄色は、
まさしく、夜空に散らばる星くずのようでした。
「茶ァに一輪、花浮かべるのもキレイだけどよ」
ヒヒ、ひひひ。スフィンクスは自慢げに笑います。
「星くず展開するのも、おまえ、好きだろ?」
ホラ飲めよ。きっと、ゆずが香るから。
一輪の花の代わりにゆずピールを散りばめたカップを、スフィンクスがドワーフホトに返します。
ドワーフホトは、それはそれは嬉しそうに、
ティーカップに浮かぶ星くずを、見ておったとさ。