「acuteは急性とか鋭いとか、subacuteは医学用語で亜急性だの亜急性期だの、elocuteは熱弁するの動詞系でexecuteは執行とか署名とか。
prosecuteなんて言葉もあるらしいな。告発か」
きゅーと、きゅーと。
エコキュー◯にキュートアグレッション。
某所在住物書きは「cuteで終わる単語」をネットで検索して、「scute(スキュート)」を発見した。
アルマジロやカメなどの大きな骨を言うらしい。
まぁお題には使えないだろう。多分。
「熱弁するって、エロキュートっつーのな」
こっちは使えそうだ。物書きはひとつの英単語に注目する。「elocute」だそうである。
「……読み方だけ見れば、完全に推し用語よな?」
だってエロキュートである。この字並びから、誰が「熱弁する」を予想できるものか。
――――――
明日3月1日から私、後輩こと高葉井は、
ブラックに限りなく近いグレー企業から、推しゲーの聖地にして生誕の地である某私立図書館に、
満を持して、転職することになった。
転職先は都内で、しかも前の職場より、私の自宅アパートに近い。
通勤手当は減るだろうけど、その分バスとか電車とかの時間が減る、というか自転車で行ける距離だから、ダイエットついでとでも、思うことにした。
なにより、私と一緒に某図書館に転職する先輩のアパートが、某図書館の通勤ルート上にある。
つまり先輩と、シェアランチをしやすくなる。
いつも節約にご協力頂きありがとうございます。
(特に推しゲーへの課金捻出の観点から)
「とうとう明日だよ。先輩」
いつもどおり食材と料理代を少し持参して、先輩の部屋に行くと、先輩は私の食材を受け取って、先輩の冷蔵庫の中身と一緒にさっそく料理を始めた。
「とうとう、このブラック企業からオサラバだよ」
今夜はお祝いだね。
私がバッグから缶チゥハイを出すと、
先輩はキッチンから「あのなぁ」と声を投げた。
「そのブラック企業からオサラバする代償として、給料は今より少し減るんだぞ。
私は別に構わないが、おまえ、それでもゲームへの課金額は見直さないつもりか?」
時折私のところでシェアランチだのディナーだのして、食費は最適化できているだろうけれどだな。
私が手伝えるのは、おそらく「それだけ」だぞ。
先輩はそう言って、料理の味見をしたんだと思う、
舌をやけどしたような悲鳴を小さく上げた。
「あのね先輩」
私は先輩に言葉を投げ返した。
「推しが居るから、お仕事頑張れるんだよ」
先輩は、私の推しゲーの推しキャラの、
厳密には推しゲーの推しカプの右側さんを、正確に理解してないらしい。
先輩に右側さんのえろきゅーとをelocute!
熱弁する私の言葉は、先輩に届いただろうか。
「あのね。ル部長はね、人間じゃなくてドラゴンなの。すっごく強いの。人気キャラなの」
「はぁ」
「でもって、明日からの職場は、ツウキさん情報によれば、たまにル部長の神レイヤーさんとエンカウントできるらしいの!」
「うん」
「神レイヤーさんと、ル部長のえろきゅーとを、elocute!しあう!これぞ私のじゃすてぃす!」
「エロキュート?」
「Elocute!『熱弁する』!
神レイヤーさんだよ!完全にル部長にそっくりなんだよ!もうル部長のえろきゅーとがエロキュートで、ゆえに神レイヤーさんとelocuteしあうんだよ」
「晩飯の味付けは鶏だし塩に柚子胡椒で良いか」
「おねがいします」
はぁ。ルブチョウねぇ。
先輩はため息ひとつ吐いて、キッチンから1〜2人用の小鍋を持ってきて、
それで、こたつ用布団が片付けられてただのテーブルになっちゃった卓の上に置いた。
「おいしそう」
「手羽元を使った肉そばだ。お前が大量のカット野菜を買ってきてくれたから、その野菜からも良いダシが出ているだろうさ」
お手々をぱっちん、いただきます。
先輩がよそってくれた手羽元をハフハフしながら、持参した缶チゥハイを飲む。
「図書館だから、明日は仕事だぞ」
「分かってまぁす」
えろきゅーと、Elocute!先輩に推しキャラの推したる理由を熱弁しながら、ごはんが進む。
明日私は、新しい職場で新しいスタートをきる。
2/28/2025, 5:42:35 AM