かたいなか

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「観察日記、研究レポート、買い物のレシートに録画した番組、それからゲームのセーブ。
まぁまぁ、『記録』にも多々あるわな」
某N◯Kスペシャル、「◯◯年追い続けた、現場の記録である」とかオープニングで言いがち説。
某所在住物書きは、手元の長い長いレシートを確認しながら、しかし必要経費なので、金額に目をつぶった――来月まで少し節約する必要がある。

「スマホの中の写真も、ひとつの記録よな」
レシートをくしゃくしゃ潰した物書きは、紙くずをゴミ箱目がけてポイチョ。 入らない。
「去年はもう、今頃、バチクソに暖かくなって、春の花もけっこう咲いてたのか」
ところでスマホの天気予報によれば、数日後、東京の最高気温が20℃に到達するらしい。
史上一番暑い3月を、記録したりしないだろうか。

――――――

前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは世界から世界への渡航申請を受理したり、
先進世界による途上世界への過剰介入だの異常な流入だのを監視して取り締まったり、
あるいは、滅びた世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界に流れ着いて悪さをする前に、回収して保管したりしておりました。

潤沢な資金、経験豊富な事務局員と戦闘局員、
なにより、収蔵されている滅亡世界のチートアイテムの、多種多様なこと。
世界線管理局はそれらを使って、今日もその世界が「その世界」として、独立性を保ったまま存在し続けられるように、
世界の円滑な運行を、支えておったのでした。

で、そんな管理局に、今何が足りないかというと。
そうです。土地が足りないのです。
世界は星の数ほどあり、それらからこぼれ落ちた危険なチートアイテムは数知れず。
中には使い方を間違えれば、空間ひとつ、世界ふたつ、軽く溶かせる物品も生き物も居るのです。

そういうのを保管しておくための、
あるいは、そういうモノの性質を研究して管理局の運営に役立てるための、「確実に安全な」個別空間が、管理局には不足しておったのです。

管理局には、土地が無い!

管理局の環境整備部は、特にその中の空間管理課は、各部署から上がってくる「こういう空間が欲しい」「そういう個室が必要だ」を、一気に解決してくれるチートアイテムを、
更にワガママを言うなら「そんな空間」に鍵やセキュリティーのようなサムシングを付与してくれる神アイテムを、ずっと、探し続けておりました。

で、出てきたのが前回投稿分の水晶。
「人間と空間と時間を関連付けて、記録してくれる水晶」だったのです。

さぁ、ここから今回のお題回収。
人と空間と時間を記録する水晶のおはなしです。

「見たまえ。我々空間管理課が『保存空間発生装置』と呼んでいる装置の、最終試作機だ」
前回投稿分で環境整備部に飛ばされた奥多摩出身くんは、新しい冒険もとい異動先で、
とても大きな、無機質な、しかしシンプルに洗練されたデザインの機械の前に案内されました。

「この装置は、空間の中にもうひとつの空間を生成することで、管理局の個室・空間不足を解消する。
解消、するのだが、今のままでは各空間ごとのセキュリティーが、ガバガバ過ぎてだな……」
そこで、人と空間とを結びつけて、記録する能力を持っているこの水晶を組み込み、
それによって、顔認証、生体認証、声認証のようなセキュリティーの概念を実装したいのだ。
空間管理課のひとが言いました。

記録、きろく。水晶が局員と空間を結びつけて、記録しておくことで、「その人が入って良いか」「入ってはダメか」を定義づける。
なるほど。奥多摩くんは、少し納得しました。
少し納得しましたが、
「その機械に、この水晶を組み込んでまでセキュリティー概念を導入する必要、あるんですか」
水晶を手放すということは、奥多摩くん、
その水晶を使った余暇が、要はゲームが、更に言うならファミキューブだのドリームサターンだのが、できなくなってしまうのです。

「セキュリティーは必要だよ。奥多摩くん」
ポン、ぽん。
保存空間発生装置の説明をしていた局員が、奥多摩くんの肩を叩いて、真面目に言うことには、

「たとえば君が、保存空間発生装置の利用申請をして、君個人の完全プライベート空間を一時的に手に入れたとする。
中では色々なことができる。昼寝もできるしスナックも食える、持ち込んだゲームもできる。
セキュリティーが存在しなければ、ゲーム中に君の空間に、誰でも勝手に入ってくる。
掃除機をかけたり。勝手にゲームの線を抜いたり。
で、『またこんなに散らかして!』と」

イヤだろう。熱弁する局員さん、言いました。
記録というか、記憶にあるだろう。奥多摩くんの両目をじっと見て、確信をもって、言いました。
「セキュリティー、だいじですね」
奥多摩くんは、反論しません。
ただ、自分が研究して、調査レポートを記録し続けていた水晶を、局員さんに黙って渡すのでした。

2/27/2025, 3:48:00 AM