「『書く習慣』、たしかに空ネタと雨雪ネタは、確実に多いとは思ってたけどさ……」
まさか虹が出づらいとされる「冬」に、虹のお代を持ってくるとは思わんかったわな。
某所在住物書きはネットの検索結果をスワイプ、スワイプ。窓の外も時折見て、呟いた。
虹は夏に出やすく、季語にもなっているらしい。
日本海側では晩秋から初冬にかけても見られるらしいが、2月の今は明らかに晩冬。雪の粒では光が屈折しないから虹は見られない。
なにより冬は、春や夏に比べて、日の光が弱いため、虹そのものが発生しづらいという。
――その冬の虹を、「君と見」るのか?
「まぁ、ロマンチックでは、あるわな」
ところでソシャゲのガチャでは、最高レアの確定演出が、だいたい「虹」だった気がする。
「ピックアップ対象である君と見た虹演出?」
ひと、それを「すり抜けフラグ」という。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、絶賛修行中。
今朝も取引先の、古い大オロチのおでん屋台に、どっさり、餅巾着を納品したきたところ。
日頃の頑張りが認められて、お駄賃たっぷり!
5千円のピン札を、大オロチのおでん屋さんから貰ったのでした。
ところで新デザインの5千円札、ホログラムの帯が虹みたいですね?(お題回収の布石その1)
「キレイだな。キレイだなぁ」
コンコン子狐、小ちゃなお手々でピン札を、持って傾けて、縦な帯状のホログラムもとい虹を見ます。
「よし、きょうはゴーユー、豪遊するぞ!」
丁度、その日は3連休。
あっちこっちで晩冬の、晴れた寒空を背景に、いろんなイベントの真っ最中です。
「あそこに、いこう」
コンコン子狐、屋外の公園で開催されているキッチンカーイベントにロックオン!
「いろいろ、いっぱい、たべるぞ!」
しっかり人間に化けて、かわいい狐耳も狐尻尾もちゃんと隠して、5千円札をしっかり持って、
キッチンカーイベントのチケット売り場へ……
ところで今回のお題、「『君と』見た虹」ですね?
(お題回収の布石その2)
「うぅー。5千円で、何台まわれるかなぁ」
コンコン子狐がキッチンカーイベントの、チケット売り場に到着しますと、
子狐のよく知る人間の女性が、5千円札1枚持って苦悶の表情を浮かべておりました。
「デザート系は全部食べたいけど、でも、ホットドリンク系は気温的に欲しいし〜、
うぅぅぅ。予算がぁ、よさんが、足りないぃ」
子狐がお餅の訪問販売をしている組織の常連さんです。お化粧がとっても上手なお姉さんです。
子狐と同じく、食いしん坊さんなのです。
「スフィちゃんにも、おみやげ、買いたい……!」
ふむふむ。子狐は理解しました。
あのお得意さんも、予算5千円でもって、いろんなキッチンカーの美味を色々食べたい様子。
さぁ、今こそお題を回収しましょう。
コンコン子狐と常連さんとで、一緒に、お札のホログラムもとい虹を見るのです!
「おけしょーの、おねーちゃん!」
コンコン子狐、隠している狐尻尾をブンブンぶんぶん、振り倒す勢いで常連さんに突撃します!
「いっしょに、わけあいっこ、しよう!」
「コンちゃぁん!!」
子狐の声と、子狐が持っているホログラムに気付いた常連さんは、歓喜の声を上げました。
「そうだね、一緒に料理、分け合いっこしよぉ!」
全部で1万円だよ!何でも食べられるよ!
常連さんが良い笑顔で、縦のホログラムが付いた5千円札を掲げます。
いちまんえん!いちまんえん!
コンコン子狐も良い笑顔で、同じホログラムが付いた同じお札を掲げます。
キラキラ、きらきら。晩冬の寒空に2枚の縦ホログラムは美しく虹色に輝いて、
子狐と常連さんは2人して、幸福に、縦ホログラムが作り出す虹を、数秒、見ておったとさ。
「夜としてのお題は、これで8個目。空のお題としては9個目だな」
夜、空、星。「書く習慣」は本当に空のネタが豊富。某所在住物書きは過去のお題を数えた。
1月7日から新しいお題配信方法になったようだが、配信ジャンルに過度過剰な変動は無い。
たとえば空や恋愛系のネタが多いとか。
あるいはエモエモ系、ロマンス風、ファンタジーちっくなお題もよく含まれるとか。
今回のお題がまさにそのひとつ。
「流れ星の他に何が『夜空を駆ける』って?」
それを考えるのが物書きの作業である。
――――――
山のツーリング、エアキャビンやらゴンドラやら、あるいは最近話題のジップライン。
夜空を駆ける方法は、色々あるものです。
今回は様々存在する方法の中から、ド直球に「夜空を駆ける」おはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、社会と人間とを学んでおったのでした。
最近は、子狐の餅づくりのスキルもだいぶ上がり、
古い大オロチのおでん屋台に、おでん種としての餅巾着を納品し始めたところ。
その日は始めての、期間内に餅巾着がいくつ売れて、お客さんの反応がどうであったかを、
大オロチのおでん屋台さんから聞く約束の日。
「いそげ!いそげっ!」
コンコン子狐、古い大オロチのおでん屋台の、店主が待っている奥多摩の山に向けて、
雑居ビルの屋上を走り、貸しオフィスと貸しオフィスの間を跳んで、夜空を駆ける、駆ける!
「いそげ!いそげっ!」
大きな街路樹は、特に太い幹は、子狐の通り道。
文字通り、お題どおりに、餅売りの稲荷子狐、夜の東京を駆け抜けるのです。
時折、足場も何も無い、本当の「夜空」を駆けているカンジもありますが、
そこはほら、この子狐、不思議な稲荷の子狐ですので。そういうことも、あるのです。
どだだだだ、とたたたたた!
コンコン子狐は尻尾を少し上げ、耳を畳んで、
それはそれは嬉しそうに、古い大オロチのおでん屋台の、店主が待っている山へ、走ってゆきます。
子狐が納品した餅巾着は、絶品の自信作。
過去作2月11日あたり投稿分のあたりで5回もリテイクして、おでん屋台のダシに合うように調整したお餅なのです。美味しくないワケがない。
「おじちゃん!おじちゃん、こんばんは!」
夜空を駆ける子狐は、ビルを跳び、大樹を渡り、
美しく深い森の残る奥多摩の奥の奥、古びた蛇の祠の大穴に、ようやく到着しました。
「キツネのおもち、うれゆき、どうですか!」
『やぁ。まいどさん』
ズルリ、ずるり。 子狐のかわいらしい大声を聞いて、大穴の中から大きな大きなオロチが、
おでんのダシとお酒の、深く芳醇な香りを漂わせて、ゆっくり出てきました。
『良い知らせと悪い知らせ、どっちもあるよ』
まず、売り上げなんだけどねぇ。
おでん屋台の大オロチ、尻尾で小さな紙切れを、ちょいと子狐の前に出してやりました。
『売れ行きは、間違いなく好調なんだ』
大オロチが子狐に見せた紙切れは、
大オロチが子狐から仕入れた餅巾着が、3日と待たずすっかり全部、売り切れたことを示しています。
『好調なんだけどね』
ピラリ。大オロチの尻尾が、2枚目の紙切れを子狐の前に出しました。
『あのね。おまえさんのお父ちゃんが、ほぼほぼ初日に、大量に買っちまったんだよ……』
ほら、見てごらん
大オロチが子狐に見せた2枚目には、
誰が、何日目に、何個子狐の餅巾着を注文したか、ちゃんと記録されていましたが、
子狐の餅巾着を食べることができたのは、たった2人と2匹と1柱。
しかも全餅巾着の8割を、たった1匹が1匹して、ぺろり、1日で食ってしまったのです!
その1匹こそ、子狐の父親でした。
「ととさぁぁぁぁん!!」
もう、ととさん、ととさん!なんてことを!
子狐ぎゃんぎゃん!おててで頭をガジガジして、あんよをバタバタ暴れさせて、
悶絶して、転がって、吠えて騒いで、大オロチにヨシヨシされています。
お餅が売り切れたのは、素晴らしいことです。
でもそのお餅を、「たくさんの人が買った」ことは、もっと素晴らしいことなのです。
それを、どんな理由であれ、子狐のお父さんが、ほぼほぼ買い占めていたなんて!
『次回は、前回の倍の餅巾着を、納品しておくれ』
ぎゃん!ぎゃぁん!泣いてるんだか吠えてるんだか分からない悶絶子狐に、酒好きなおでん屋台の大オロチ、優しくアドバイスしました。
『お前のお父ちゃんはね、なにも、ひとりで買い占めて、ひとりで食ったんじゃないんだ。
買い占めた餅巾着を、職場のキツネやタヌキやカラスの同僚におすそ分けしていたんだよ』
大オロチが最後の紙を、子狐に見せてやります。
そこには、5匹と3人くらいの名前が書かれており、つまり、次回納品分の餅巾着に、予約が入っていることを示しておったのです!
餅売り子狐は、さっそく夜空を駆けてゆきます。
今回の餅巾着は気合を入れて、たくさん、たくさん、作る必要がありそうでした。
「『届かぬ想い』、『過ぎた日を想う』、『たくさんの想い出』、それから『ひそかな想い』。
これで『想』シリーズは第4弾だわな」
「思う」と「思い出」も、無いことはないんだけどさ。今のところ2個しか無いんだよな。
某所在住物書きは過去のお題を検索しながら、ぽつり、ぽつり。
「思い」と「想い」の違いはこれまで何度もネットで調べた――要するにだいたい、特に公的文章では「思」でヨシとのことであった。
「ひそかな想い、おもいねぇ」
過去のお題、「過ぎた日を想う」で投稿した物語が、ほぼほぼそのままコピペして使えそうだと気付いた物書きは、ひそかに想像した。
これ、そろそろ過去投稿分だけでやりくりして行けるのではなかろうか。
「……いや無理だな」
――――――
前回投稿分から、続いているような、そうでもないようなおはなしです。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじーな職場がありまして、
それぞれの世界が「それぞれの世界」で在り続けられるよう、独自性の保全に関するお仕事をしたり、
あるいは、他の世界への渡航申請を受理したり拒否したり、密航者を取り締まったり。
世界間の円滑な運行に関わるいろんな仕事を、しておったのでした。
「その世界は『その世界』であるべきだ」と、
「その世界の独自性を尊重すべきだ」と、
こういう立ち位置で仕事をしておると、だいたい出てくるのが反対の、多様性を掲げる敵対組織。
「発展途上世界には積極的に先進技術を!」
「滅んだ世界からの難民を受け入れよう!」
打倒管理局を掲げる彼等は「世界多様性機構」という名前の組織。
東京に「領事館」を置き、故郷が滅んでしまった難民を密航の形で連れてきて、心の傷をケアしたり、定住支援をしたり。
管理局の局員と深い付き合いのありそうな東京都民を、管理局への脅し材料として拉致して、
色々と、都民だの管理局だのに、迷惑をかけたりも、しておったのでした。
前回投稿分で普通の一般都民の部屋に、突然妙な組織が押し入ってきて、中のぼっちを縛ってしまったのも、実はコレが背景にあったのです。
ただ、そんな迷惑千万な多様性機構でも、
ひとつだけ、絶対、ぜったい、手を出してはならぬとキツく周知されている場所がありました。
都内某所の某私立図書館です。
図書館を建てた「すごく強い組織」との取り決めで、この図書館に勤めている者、この図書館の中に居る者は、絶対、どんな理由があっても、
危害を加えては、ならぬのです。
前回投稿分の一般都民は、この取り決めのおかげで、難を逃れたのでした。
さて。 「ここ」ではないどこかの、世界線管理局の殉職者慰霊棟、法務部フロアの某墓碑前で、
なにやらカニやら、誰かが近況報告していますよ。
「ねぇ先代さん。相変わらず、多様性機構の連中、セコいことやってるみたいだよん」
拭き拭き、ふきふき。
墓碑を掃除するその男、管理局内でのビジネスネームをカラスといいまして、東京での名前は付烏月、ツウキといいました。
「管理局に直接立ち向かっても勝てないから、管理局と繋がってる普通の都民を拉致る。
あいつら、十数年前から何も変わってないねぇ」
ね、先代さん。ホント参っちゃうよ。
カラスはそう言いながら、墓碑を掃除します。
「でも俺、『十数年前のあの日』は繰り返さないよ。今回だって、俺が根回し、したんだよん」
ここでようやく、お題回収。
実はカラスはその昔、一般の東京都民な女性と両思いになりまして、その女性を、機構に拉致されたことがあったのです。
一般女性を救出すべく、この墓碑の主とカラスは一緒に機構のアジトのひとつに潜り込み、
そして、墓碑の主が、亡くなってしまったのです。
同じ悲劇は繰り返さない。
「ひそかな想い」を胸に、カラスは前回投稿分より前に、先手を打っておったのです。
今回は機構が手出しできないように、「前回投稿分」で機構に縛り上げられてしまったひとを、
「図書館で一緒に働こう」、誘っておったのです。
「ねぇ、先代さん。良いアイデアだったでしょ」
拭き拭き、ふきふき。カラスは墓碑に笑います。
「ご褒美ちょうだいよ。美味い飯1回で良いよ」
墓碑はなんにも言いません。
カラスのひそかな想いを、受け止めて、それだけ。
近くではたまたま居合わせていた経理部の天才エンジニアが、自分が持ってきていた宝物、「美しい水晶の文旦」の淡い強い発光に、
ちょっとだけ、慌てておったとさ。
「言葉を少し付け足せば、『あなたは誰と「最初のカントー」を旅しましたか』とか、
『あなたは誰かを頼ることを覚えなさい』とか、
まぁまぁ、Who are you以外も書けるわな」
あとはアレか。「あなたは誰からもマークされていません!ボールを受け取り、ゴールまで突っ切りましょう!」にすればサッカーも書けるな。
某所在住物書きは今回のお題を見ながら、ぽつり。
なおスポーツ系の文章描写は完全に不得意である。
「あなたは誰からも愛されない」にすれば、昔の海苔巻きミームでも書けるかもしれない。
「……メタフィクションネタ?」
突然、カメラ目線をキメる。 1カメ、2カメ。
『あなたは誰に向かって話をしているのだ』。
――――――
カッコいい系のおはなしをご用意しました。
普通の生活、普通のアパートの中に、突然不思議な悪者が入ってきて、
誘拐されそうになったところに、見覚えのある人物が丁度さっそうと現れて撃退!
そして言うのです。
「あなたは誰ですか」
「まだ伝えるべき時じゃない」
さぁ、厨二ふぁんたじーの、はじまり、はじまり。
最近最近の都内某所、某アパートの一室です。
お題回収役は名前を藤森といいまして、
今月で今の職場を辞めて、来月から前々職の私立図書館に復職予定。
今の職場の後輩も、一緒についてきます。
「まさか、あの図書館に戻ることになるとは」
前々職の図書館は、藤森にとって働きやすく、居心地もそこそこ良い図書館でしたが、
実は妙な噂話も存在する、不思議な図書館でした。
いわく、この図書館で●●年前、同人ゲームが生まれて育って、大きなソシャゲに成長したけれど、
実はすごく低確率ながら、ゲームの登場キャラ本人と、図書館で遭遇することがあるとかないとか。
いわく、「市」立ではなく「私」立、かつ大規模な図書館なのに、日本のどの企業も、世界中のどのセレブもバックに付いていないのは、
実は「ここ」ではないどこか、別の世界の大きな団体が、バックに付いて建てたからだとか。
そして、いわく、その図書館には隠された「地下●階」と「地上●階」があり、
そこで、実際に「ここ」ではないどこかの世界の組織が、世界のために働いてるとか、何とか……。
まぁフィクションですので。
「マンガやアニメ、ゲームでもあるまいし」
さぁ。前フリが終わりました。
そろそろお題回収に入りましょう。
ピンポン、ピンポン。
藤森の部屋に、夜、インターホンの音が響きます。
「条志さんか?」
藤森の部屋には、その当時、
藤森の隣に3月から越してくるという「条志さん」が、時折やってきて、晩ごはんを一緒に食べつつ会話をすることがありました。
「今日は珍しく、ドアから入ってくるんだな」
条志さん、何故か藤森の部屋のベランダの、窓から入ってくることが多いのです。
今回は、行儀が良いようだ。
藤森が小さなため息をひとつ吐いて、自分の部屋のロックを解除し、そしてドアを開けると、
どだだだだっ!
突然、黒スーツの妙な男女が数名入ってきて、
藤森を床に組み伏せ、縛り上げてしまいました!
口を押さえられていて、藤森、声も出せません。
「間違いない。こいつだ」
リーダーのような男が藤森の目を見て言いました。
こいつって、誰でしょう。人違いじゃないかしら。
「対象確保。勘付かれる前にズラかるぞ」
なんだ、何が、どうなっている。
頭にはてなマークを量産し続けている藤森が、アパートから運び出されそうになった、
まさに、そのときでした。
「誰に勘付かれる前にズラかるって?」
藤森の隣に3月から越してくる、例のベランダ進入常習犯、「条志」さんが、
「そいつは3月から、『あの図書館』の職員だ」
藤森を縛り上げたやつをズバン!どしゃん!
「『例の図書館にいる者、例の図書館の関係者は、誰であれ、攻撃してはならない』。
まさか忘れたワケじゃないだろうな」
数秒で、カッコよく、やっつけてしまいました!
黒スーツの連中は、何も言わず、逃げていきます。
「条志さん、これはいったい、」
縛られた縄もテープも解いてもらって、藤森は自分を助けてくれた条志に聞きました。
「いったい、あなたは『誰』なんだ……?」
「まだ言えない」
条志さんは、何も教えてくれません。
「『まだ』、な」
ただ黒スーツが逃げていく先を、鋭利な視線で、見えなくなるまで、追うだけでした。
「2月3日のお題が『隠された手紙』だった」
アレか、あの日あのお題で書いた手紙の行方について投稿してくださいってお題か。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、
ぽわぽわ、もわんもわん。
当時書いた手紙の「行方」を想像した。
たしか神社の子狐が、手紙を自分のドテっ腹に敷いて昼寝をしてしまい、
ゆえに、行方不明になってしまった物語だ。
アレのその後を書けと?
「まず子狐の体温で、手紙はホカホカよな」
物書きは更に想像する。
なお狂犬病やエキノコックスは対策済みとする。
「……別のハナシにしねぇか?」
――――――
健康診断の結果が郵送で送付されてくるなら、
診断結果を放っぽって、見なかったことにしてしまえば、それで「手紙の行方」のハナシが書けると思った物書きです。
高血圧?脂質異常?ナンノコトデセウ? ということで、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。
都内の土日対応な某病院、某漢方外来のコンコン5番診察室に、それはそれはウデの良い漢方医が詰めておるのですが、
なんとこの漢方医、都内の某稲荷神社に住まう、人に化ける妙技を持つ本物の化け狐の末裔。
本物の、稲荷の御狐様なのでした。
稲荷の狐は五穀豊穣の狐、商売繁盛の狐、諸願成就の狐で縁結びの狐。
人間のありとあらゆる希望と欲望を、清濁双方、神様のもとへ届けます。
稲荷の神様の使いとして、人間の社会を見守り、ときに手を差し伸べ、あるいは警告します。
稲荷の狐は人々の近くに在って、
稲荷の神様のご利益と罰とを、それぞれ、与えるべき者に与え、奪うべき者から奪うのです。
そしてこの薬師の狐は、コンコン、
不思議な不思議な、体にも心にも、魂にも効く稲荷の狐の薬でもって、
弱ってしまった人間たち、傷ついてしまった人間たちを、こっそり、癒やしておるのでした。
要するに、善い化け狐なのです。
要するに、偉大な御狐なのです。
で、なんでいちいち、この薬師狐のことを良く言うかといいますと、
これだけコンコン、よく働くということは、
つまり働き終わった後が、くったくたのヘットヘトということなのです。
その日の狐も、コンコン、人間たちのためによく働き、自分が勤めている病院に2回泊まって、
3連勤目の深夜に、ようやく愛するお嫁さん狐と末っ子の子狐と、それから尊敬する両親狐が待つお家――某稲荷神社敷地内の一軒家に、
コンコン、帰ることが許されたのでした。
ここまで疲れたら、コンコン、こんこん。
飲まないと、やってられないのです。
丁度稲荷神社のすぐ近くに、行きつけの、古い大オロチのおでん屋台が来ていたので、
ここでお酒を飲みましょう。
ここでお肉とお揚げさんを、お稲荷さんを、そして餅巾着を食べましょう。
何度も言いますが、コンコン、飲まないとやってられないのです。こやん。
「こんばんは……」
ぷわぷわ、プカプカ。善い化け狐にして偉大な御狐の薬師狐、口から魂だか妖力だか、出てきちゃいけないものを少しはみ出しながら、
おでん屋台ののれんを、くぐりました。
ここでお題回収。
「遅かったな。何かあったのか」
屋台の先客さんが、薬師狐のテーブルの前に手紙をススッ、差し伸べて、話しかけてきたのです。
そうです。薬師狐、その日の夜にこのおでん屋台で、大事な人と「世界を保全するためのお仕事」のハナシをする約束だったのを、
すっかり、こっくり、疲労と過労と重労働のせいで、忘れておったのです。
「事前に話していた『頼みたいこと』の詳細だ」
トン、とん。
薬師狐の前に差し出した手紙を叩いて、おでん屋台の先客さんが言いました。
「今回も、相応の礼はする。必要であれば、ウチのを何人か手伝いに寄越す。
俺達のハナシに毎度毎度首を突っ込ませてしまって申し訳ないが、たのむ。チカラを貸してくれ」
なにやら、すごく、重要なハナシをしています。
先客が薬師狐に、深く、頭を下げています。
肝心の薬師狐はというと?
「すいません、いま、いろいろ、つかれてて。
あたまが、まわっていないのです」
ああ、あぁ。なんということでしょう。
モンスターカスタマーな患者さんを■■人、急な対応を●回、妙な電話を▲件受け付けた薬師狐は、
虚ろな目で、酷く疲れてしまって、
先客のハナシなんて、全部、ぜーんぶ、右耳から左耳へ抜けてってしまっておるのです。
「これから、やすみなので、
よるがあけてから、おねがいします」
ぽわぽわ、プカプカ。
薬師狐は口から妖力だか魂だかを浮かべたまま、
コテン。おでん屋台のテーブルに、顔だけうつ伏せてしまいました。
「……本当に大丈夫か?」
あんまり重症そうなので、先客さん、薬師狐が心配で心配でたまりません。
「ちょっと、この件は、お前の疲労回復ためにも、俺達だけでもう少し進めてみることにする……」
じゃあな。先に失礼する。
先客さん、薬師狐に渡すはずの手紙を胸ポケットに戻しまして、屋台から出ていきました。
その後の手紙の行方は、はてさて、2日後、どうなったことやら……。