「2月3日のお題が『隠された手紙』だった」
アレか、あの日あのお題で書いた手紙の行方について投稿してくださいってお題か。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、
ぽわぽわ、もわんもわん。
当時書いた手紙の「行方」を想像した。
たしか神社の子狐が、手紙を自分のドテっ腹に敷いて昼寝をしてしまい、
ゆえに、行方不明になってしまった物語だ。
アレのその後を書けと?
「まず子狐の体温で、手紙はホカホカよな」
物書きは更に想像する。
なお狂犬病やエキノコックスは対策済みとする。
「……別のハナシにしねぇか?」
――――――
健康診断の結果が郵送で送付されてくるなら、
診断結果を放っぽって、見なかったことにしてしまえば、それで「手紙の行方」のハナシが書けると思った物書きです。
高血圧?脂質異常?ナンノコトデセウ? ということで、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。
都内の土日対応な某病院、某漢方外来のコンコン5番診察室に、それはそれはウデの良い漢方医が詰めておるのですが、
なんとこの漢方医、都内の某稲荷神社に住まう、人に化ける妙技を持つ本物の化け狐の末裔。
本物の、稲荷の御狐様なのでした。
稲荷の狐は五穀豊穣の狐、商売繁盛の狐、諸願成就の狐で縁結びの狐。
人間のありとあらゆる希望と欲望を、清濁双方、神様のもとへ届けます。
稲荷の神様の使いとして、人間の社会を見守り、ときに手を差し伸べ、あるいは警告します。
稲荷の狐は人々の近くに在って、
稲荷の神様のご利益と罰とを、それぞれ、与えるべき者に与え、奪うべき者から奪うのです。
そしてこの薬師の狐は、コンコン、
不思議な不思議な、体にも心にも、魂にも効く稲荷の狐の薬でもって、
弱ってしまった人間たち、傷ついてしまった人間たちを、こっそり、癒やしておるのでした。
要するに、善い化け狐なのです。
要するに、偉大な御狐なのです。
で、なんでいちいち、この薬師狐のことを良く言うかといいますと、
これだけコンコン、よく働くということは、
つまり働き終わった後が、くったくたのヘットヘトということなのです。
その日の狐も、コンコン、人間たちのためによく働き、自分が勤めている病院に2回泊まって、
3連勤目の深夜に、ようやく愛するお嫁さん狐と末っ子の子狐と、それから尊敬する両親狐が待つお家――某稲荷神社敷地内の一軒家に、
コンコン、帰ることが許されたのでした。
ここまで疲れたら、コンコン、こんこん。
飲まないと、やってられないのです。
丁度稲荷神社のすぐ近くに、行きつけの、古い大オロチのおでん屋台が来ていたので、
ここでお酒を飲みましょう。
ここでお肉とお揚げさんを、お稲荷さんを、そして餅巾着を食べましょう。
何度も言いますが、コンコン、飲まないとやってられないのです。こやん。
「こんばんは……」
ぷわぷわ、プカプカ。善い化け狐にして偉大な御狐の薬師狐、口から魂だか妖力だか、出てきちゃいけないものを少しはみ出しながら、
おでん屋台ののれんを、くぐりました。
ここでお題回収。
「遅かったな。何かあったのか」
屋台の先客さんが、薬師狐のテーブルの前に手紙をススッ、差し伸べて、話しかけてきたのです。
そうです。薬師狐、その日の夜にこのおでん屋台で、大事な人と「世界を保全するためのお仕事」のハナシをする約束だったのを、
すっかり、こっくり、疲労と過労と重労働のせいで、忘れておったのです。
「事前に話していた『頼みたいこと』の詳細だ」
トン、とん。
薬師狐の前に差し出した手紙を叩いて、おでん屋台の先客さんが言いました。
「今回も、相応の礼はする。必要であれば、ウチのを何人か手伝いに寄越す。
俺達のハナシに毎度毎度首を突っ込ませてしまって申し訳ないが、たのむ。チカラを貸してくれ」
なにやら、すごく、重要なハナシをしています。
先客が薬師狐に、深く、頭を下げています。
肝心の薬師狐はというと?
「すいません、いま、いろいろ、つかれてて。
あたまが、まわっていないのです」
ああ、あぁ。なんということでしょう。
モンスターカスタマーな患者さんを■■人、急な対応を●回、妙な電話を▲件受け付けた薬師狐は、
虚ろな目で、酷く疲れてしまって、
先客のハナシなんて、全部、ぜーんぶ、右耳から左耳へ抜けてってしまっておるのです。
「これから、やすみなので、
よるがあけてから、おねがいします」
ぽわぽわ、プカプカ。
薬師狐は口から妖力だか魂だかを浮かべたまま、
コテン。おでん屋台のテーブルに、顔だけうつ伏せてしまいました。
「……本当に大丈夫か?」
あんまり重症そうなので、先客さん、薬師狐が心配で心配でたまりません。
「ちょっと、この件は、お前の疲労回復ためにも、俺達だけでもう少し進めてみることにする……」
じゃあな。先に失礼する。
先客さん、薬師狐に渡すはずの手紙を胸ポケットに戻しまして、屋台から出ていきました。
その後の手紙の行方は、はてさて、2日後、どうなったことやら……。
2/19/2025, 3:44:14 AM