「夜としてのお題は、これで8個目。空のお題としては9個目だな」
夜、空、星。「書く習慣」は本当に空のネタが豊富。某所在住物書きは過去のお題を数えた。
1月7日から新しいお題配信方法になったようだが、配信ジャンルに過度過剰な変動は無い。
たとえば空や恋愛系のネタが多いとか。
あるいはエモエモ系、ロマンス風、ファンタジーちっくなお題もよく含まれるとか。
今回のお題がまさにそのひとつ。
「流れ星の他に何が『夜空を駆ける』って?」
それを考えるのが物書きの作業である。
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山のツーリング、エアキャビンやらゴンドラやら、あるいは最近話題のジップライン。
夜空を駆ける方法は、色々あるものです。
今回は様々存在する方法の中から、ド直球に「夜空を駆ける」おはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、社会と人間とを学んでおったのでした。
最近は、子狐の餅づくりのスキルもだいぶ上がり、
古い大オロチのおでん屋台に、おでん種としての餅巾着を納品し始めたところ。
その日は始めての、期間内に餅巾着がいくつ売れて、お客さんの反応がどうであったかを、
大オロチのおでん屋台さんから聞く約束の日。
「いそげ!いそげっ!」
コンコン子狐、古い大オロチのおでん屋台の、店主が待っている奥多摩の山に向けて、
雑居ビルの屋上を走り、貸しオフィスと貸しオフィスの間を跳んで、夜空を駆ける、駆ける!
「いそげ!いそげっ!」
大きな街路樹は、特に太い幹は、子狐の通り道。
文字通り、お題どおりに、餅売りの稲荷子狐、夜の東京を駆け抜けるのです。
時折、足場も何も無い、本当の「夜空」を駆けているカンジもありますが、
そこはほら、この子狐、不思議な稲荷の子狐ですので。そういうことも、あるのです。
どだだだだ、とたたたたた!
コンコン子狐は尻尾を少し上げ、耳を畳んで、
それはそれは嬉しそうに、古い大オロチのおでん屋台の、店主が待っている山へ、走ってゆきます。
子狐が納品した餅巾着は、絶品の自信作。
過去作2月11日あたり投稿分のあたりで5回もリテイクして、おでん屋台のダシに合うように調整したお餅なのです。美味しくないワケがない。
「おじちゃん!おじちゃん、こんばんは!」
夜空を駆ける子狐は、ビルを跳び、大樹を渡り、
美しく深い森の残る奥多摩の奥の奥、古びた蛇の祠の大穴に、ようやく到着しました。
「キツネのおもち、うれゆき、どうですか!」
『やぁ。まいどさん』
ズルリ、ずるり。 子狐のかわいらしい大声を聞いて、大穴の中から大きな大きなオロチが、
おでんのダシとお酒の、深く芳醇な香りを漂わせて、ゆっくり出てきました。
『良い知らせと悪い知らせ、どっちもあるよ』
まず、売り上げなんだけどねぇ。
おでん屋台の大オロチ、尻尾で小さな紙切れを、ちょいと子狐の前に出してやりました。
『売れ行きは、間違いなく好調なんだ』
大オロチが子狐に見せた紙切れは、
大オロチが子狐から仕入れた餅巾着が、3日と待たずすっかり全部、売り切れたことを示しています。
『好調なんだけどね』
ピラリ。大オロチの尻尾が、2枚目の紙切れを子狐の前に出しました。
『あのね。おまえさんのお父ちゃんが、ほぼほぼ初日に、大量に買っちまったんだよ……』
ほら、見てごらん
大オロチが子狐に見せた2枚目には、
誰が、何日目に、何個子狐の餅巾着を注文したか、ちゃんと記録されていましたが、
子狐の餅巾着を食べることができたのは、たった2人と2匹と1柱。
しかも全餅巾着の8割を、たった1匹が1匹して、ぺろり、1日で食ってしまったのです!
その1匹こそ、子狐の父親でした。
「ととさぁぁぁぁん!!」
もう、ととさん、ととさん!なんてことを!
子狐ぎゃんぎゃん!おててで頭をガジガジして、あんよをバタバタ暴れさせて、
悶絶して、転がって、吠えて騒いで、大オロチにヨシヨシされています。
お餅が売り切れたのは、素晴らしいことです。
でもそのお餅を、「たくさんの人が買った」ことは、もっと素晴らしいことなのです。
それを、どんな理由であれ、子狐のお父さんが、ほぼほぼ買い占めていたなんて!
『次回は、前回の倍の餅巾着を、納品しておくれ』
ぎゃん!ぎゃぁん!泣いてるんだか吠えてるんだか分からない悶絶子狐に、酒好きなおでん屋台の大オロチ、優しくアドバイスしました。
『お前のお父ちゃんはね、なにも、ひとりで買い占めて、ひとりで食ったんじゃないんだ。
買い占めた餅巾着を、職場のキツネやタヌキやカラスの同僚におすそ分けしていたんだよ』
大オロチが最後の紙を、子狐に見せてやります。
そこには、5匹と3人くらいの名前が書かれており、つまり、次回納品分の餅巾着に、予約が入っていることを示しておったのです!
餅売り子狐は、さっそく夜空を駆けてゆきます。
今回の餅巾着は気合を入れて、たくさん、たくさん、作る必要がありそうでした。
2/22/2025, 6:38:03 AM