「羅針盤。らしんばんなぁ……」
丁度、この「書く習慣」アプリには、それに準ずるものが去年まで存在していたのだ。
某所在住物書きは大きなため息ひとつ吐いて、ぽつり、ぽつり――つまり今年から、その「羅針盤」が役に立っていないのである。
明日はこのお題だから、今日はこの物語にしよう。
来週このお題が来るから、今日はこの伏線を仕込んでおいて、来週回収しよう。
「次」のお題が見えるのは、連載風の投稿スタイルを使用する物書きとして、まさに羅針盤であった。
「……Webブラウザ版、ホントに、いい加減、お題の更新作業してくれねぇかな」
物書きは愚痴った。
「このまま行けば、今年中に全部新しいお題に差し替えになって、ブラウザ版から2024年以降の投稿読めなくなるが……??」
――――――
羅針盤は、元々風水に関係する占いの道具「羅盤」が存在して、それに磁針をくっつけたところ、現代まで重宝される「羅針盤」になった、
という背景・物語があるそうです。
「占いにルーツを持つ現代の事物」といえば、「インフルエンザ」も、占星術が名付け親。
ということで今回はインフルエンザのおはなし……
は、ちょっと置いておきまして、
普通に、不思議な不思議な羅針盤が登場するおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじーな組織があり、
そこのビジネスネームは全部動物。
お題回収役の法務部局員さんも、「ツバメ」という名前で仕事をしておりました。
その日ツバメは昼休憩に、部長の「ルリビタキ」について、ひとつ気付いたことがありまして、
ここ数日、ルリビタキ部長は休憩の時刻になると、執行課実動班 特殊即応部門のオフィスから、
スルッと出ていって、
休憩終了の時刻まで帰ってこなくて、
いつの間にか部長の席に戻ってきて、午後の仕事をしておったのでした。
「一体全体、いかがなさったのだろう」
部下のツバメ、ルリビタキがちょっと心配です。
「局内のどこを探しても、全然見つからない」
最近ルリビタキは、ツバメの目から観れば、時折疲れが溜まっていそうな雰囲気もあるのです。
ルリビタキが気になるツバメのもとに、収蔵課の魔女アンゴラが、助け舟を出してくれました。
「部長が気になるなら、良いものがあるわ。『言い訳物語の羅針盤』を、持っていきなさい」
収蔵課の魔女のアンゴラの、部下のドワーフホトから不思議な、魔法の羅針盤を受け取りまして、
その羅針盤の光がさす方へ、ツバメ、さっそく向かいました。
最初に羅針盤の光が示したのは、ドワーフホトと一緒にコタツで昼寝をしていたスフィンクス。
「あ?鳥頭のルリビタキ?
ああ、あいつのことなら知ってるよ」
コタツムリなスフィンクス、言いました。
「俺様が作ってやった、『熱』の概念を吸い取る宝石が、自分の激しいイライラの熱も吸い取ってくれるって知ったらしくてな。
最近ずっと、自分の焦りもイライラも全部、宝石に食わせてるって話してやがったぜぇ」
「『熱』の概念を吸い取る宝石って何だ」って?
それは過去作、1月17日投稿分のおはなしなのです。ちょっとスワイプが面倒なので、詳しくは気にしないのです。
次に羅針盤の光が示したのは、医療棟で局員の治療を請け負うヤマカガシ。
「ふむ。最近のルリビタキ部長のハナシか。
勿論知っているとも」
妙な薬を調合しているヤマカガシ、言いました。
「最近、焦りやイライラを吸収してくれる宝石を手に入れたらしいが、
自分の心を宝石に食わせると、確かに一瞬で冷静な状態に戻るものの、食わせた分の反動が酷いことが判明したらしくてな。その相談に来ていた」
食わせた心の反動か。
最近疲れが溜まっていそうだったルリビタキの、その「疲れ」の背景が見えた気がして、
ツバメは小さく、数度、頷きました。
最後に羅針盤の光が示したのは、「向こう側」の世界、「最近最近の都内某所」の某アパートの一室で、泥のように眠っているルリビタキ本人。
「今週の頭に、例の敵性組織がまた、ウチの局員を10人拉致っただろう」
宝石に焦りとイライラの心を食わせた反動で疲労コンパイのルリビタキ、言いました。
「早く救出するためには、焦りも苛立ちも不要だから、手っ取り早く平常心に戻るために宝石に全部食わせてたんだがな。
結果として、今日の午前で局員は救助が完了したものの、毎日毎日イライラと平常心の間を一瞬で何度も行き来したせいで、気力がな……」
で、ここ数日は、せめて昼だけでも休もうと、「こっちの世界」の「この部屋」に来て、昼休憩の間だけ寝ているというワケだ。
ルリビタキがこれまでの言い訳を終えると、
不思議な不思議な「言い訳物語の羅針盤」の光が、フッ、と消えました。
部長のルリビタキが昼休憩の間だけ消える理由を知ったツバメは、ため息ひとつ。
「今は休んでください」と、「宝石を乱用せず、自分の心を大事になさってください」とだけ、
部長に伝えましたとさ。
「過去にはもっと、長文なお題も出てたな」
久しぶりに文章系のお題が出てきた。
某所在住物書きは天井を見上げて、今日も今日とてため息を吐いている。
文章系というか、エモエモ系というか、抽象的なお題は「書く習慣」の日常風景である。
エモと恋愛と、空と雨雪と、それから季節と年中行事。そして「明日」。これが「書く習慣」のお題のほぼ過半数な傾向であった。
ところで、去年までの「書く習慣」は、ある方法によって「次のお題がこれだから」と、明日に向けて投稿を考えられた――でも今年は?
――――――
明日までの「過去」とはすなわち、あなたがたがその全工程・全行程を、どの程度速い努力で進んできたかによって算出されます。
今までの人生 = みちのり ÷ はやさ。
では今回のお題のように、明日に向かう未来を算出するには、どうすれば良いでしょう?
すなわち、歩くのです。今回配信のお題によれば、「明日」は歩けば到達できる未来なのです。
と、いう屁理屈は置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
全開投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじーな組織がありまして、
そこはビジネスネームが全部動物。
経理部の新人は「マンチカン」というネコチャーンな名前を貰いました。
今日は他部署の仕事の見学遠足2日目。
管理局の受付窓口を見に行きます。
管理局にどんなお客さんが来ているか、先輩ロシアンブルーと一緒に見に行きます。
「総務部総合案内課、通称『窓口係』だ」
犬耳の窓口係さん、コリーが説明しました。
「私達の業務は多岐にわたる。
異世界渡航許可を申請する者への窓口、
異世界召喚士の情報収集用窓口、
他の世界から妙な物体や生命体が漂着してきたときの、持ち込み窓口や相談窓口。
相談や持ち込みを、他部署に繋げることもある」
そういえば、管理局が襲撃されたとき、
窓口係さんが非戦闘局員を、率先して先導してシェルターに案内してた。カッコよかったなぁ。
新人マンチカン、大人な女性の犬耳コリーに、いわゆる尊敬のまなざしです。
「『管理局が敵襲』ってなに」って?
それは過去投稿分12月3日のおはなしですが、
スワイプがただただ面倒なので、気にしない。
ところでマンチカンの先輩ロシアンが、
ひとつ咳払いして、マンチカンの肩をポンポン、叩いていますよ。
嫉妬でしょうか? いいえ、違います。
マンチカンが気が付いて、ロシアンが目線でさす方向を見ると、 ああ、なるほど。
「子狐ちゅぁん!今日も管理局に来たんですか!」
「はい、管理局内巡回許可証、交付しましゅよ、今日もお餅売りの営業、頑張ってきてね〜」
「コンちゃんその前に。危険物持ち込んでませんか?ナデナデして検査しましょうね」
「ジャーキーたべる?写真撮ってもいい?」
「どこもそうだけど、」
先輩ロシアン、こっそり言いました。
「非戦闘部署としては、窓口係がイチバン、『癒やしが存在しない』って言われているの。
だからひとたびモフモフキュートが来局すると、
……つまり、こうなるのよ。覚えておきなさい」
さて、そろそろお題回収といきましょう。
「たすけてください!」
窓口に来たお客さん、すごく必死に窓口係さんに、1枚の結晶板を見せながら懇願しています。
その結晶板には情報が――つい先日閉鎖した世界の情報が表示されているのです。
「閉鎖して、もうすぐ滅ぶ私の世界に、まだ何万人も生存者が取り残されているんです。
生きているんです!どうか、助けてください」
それは、既に「過去」となった、自然の摂理として滅びに向かった世界からの延命要請でした。
「申し訳ありませんが、救助はできません」
窓口係さん、感情を意図的に凍らせて答えました。
「明日に向かって歩く」のが世界線管理局です。
他の世界の独自性を尊重するために、
他の世界が、その世界であり続け、
どの世界からも文化的・生態的・経済的侵略を受けないようにするために、歩くのです。
「でも」、何万人の滅ぶべき人を、
毎度毎度、毎回毎回救助して、他の生きている世界へ横流しし続けていては、
いずれ世界は、過去の「滅んだ世界」に生きていた人々で満たされてしまうのです。
んん。なかなか、難しいハナシです。
「ひとまず奥の方で、おはなしを」
「結構です。助けてくれないなら、世界多様性機構に相談に行きます!」
ぷんぷん。 泣きながら、怒りながら、お客さんが帰っていったその影で、
受付係のうちのひとりが、なにやら、デスクから離れてどこかへ行ってしまいました。
新人マンチカン、何事だと思ってそのひとを観察していると、
「あのひと、多分ウチの局員じゃないわ」
先輩ロシアンが、言いました。
「私達は『明日』に向かって歩くの」
ロシアンには、確信がありました。
「でも、『過去』をどうしても放っておけない組織、『過去』に手を全力で差し伸べる組織も、
ああいうふうに、たしかに、居るのよ」
ふーん。そうなんだ。
新人マンチカンはただただ、小首を傾けたとさ。
「『投稿用のハナシを考えている間に考えついたネタ』は、保存しておくようにしてるぜ」
今日も今日とて書きづらいお題が来た。某所在住物書きは天井を見上げて途方に暮れ、ため息を吐く。
「たとえば、昨日の『手のひらの宇宙』。
いっそ『手乗りのハムスターか何かが宇宙を内包してる』って設定とかどうだ、って考えついたのさ。……まぁ前回は使わなかったけどな」
で、要するにどうした、ってハナシ。
カキリ、カキリ。物書きは小首を鳴らす。
「つまり、今回のお題があんまり難しいから、いっそぶっ飛んだ設定であるところの『宇宙ハムスター』、出しちまうか、っていう」
――――――
前回投稿分からの続き物。「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじーな団体組織がありまして、
滅んだ世界から漂着したチートアイテムを収容したり、滅びそうな世界への渡航を制限したり、
ともかく、世界間の円滑で安全な運行のために日々、アレコレ色々やっておるのでした。
ここの経理部の新人さん、マンチカンは、丁度収蔵部の仕事の見学遠足から帰ってきたところ。
「ヒラメキは大事」という気付きを得て、自分の部署に戻ってきました。
先輩のロシアンブルーは、マンチカンが他部署でたくさんメモをしていたので、大満足の大感心。
貪欲に勉強する者は、先輩ロシアン、大好きです。
ところで他部署の見学遠足から帰ってきて早々、
経理部のコタツの上に、かわいらしいハムスターが1匹2匹、3匹4匹……?
「あら。珍しい」
マンチカンがハムスターにうずうずしていると、
先輩のロシアンブルー、コタツの上の複数匹を見て、言いました。
「法務部執行課特殊情報部門、通称『ハム部』、『管理局のネズミ』よ。外見がハムスターなのに、法務部に居るから、名前が全員鳥類なの」
怒らせちゃダメよ。 ああ見えて、「怒らせてはいけない管理局員」の第2位なんだから。
ロシアンブルー、コタツの上のハムーズに、
よくローストされたアーモンドとフレッシュなマカダミアナッツ、それからよく厳選されたカボチャのナッツを提供すると……?
「おっと、ロシアン嬢!」
なんと、群れているハムズのうちの1匹が、明るく透き通るダンディーボイスで、先輩ロシアンに話しかけてきたではありませんか!
「丁度良かった。貴女から問い合わせを受けた例の件、今日ようやく調査が終わったんだ。
マダム・ノラに預けてある。受け取ってくれ」
「先輩。ロシアンせんぱい」
「なぁに。マンチカン」
「ハムスターが、喋ってます」
「そりゃそうよ。管理局員だもの。筆記言語なり音声言語なり、そりゃあ、するわよ」
「『私達』を見るのは、初めてかしら?」
ハムスターが喋ってる。
驚愕する経理部の新人マンチカンに、「法務部の局員」と紹介されたハムーズの1匹が、
落ち着いた優しい淑女の声で言いました。
「私達は『世界を崩壊させるリスクを持つ侵略生物』セカイバクダンキヌゲネズミと、その亜種。
通称『破壊神ハムスター』の生き残り。
本当は駆除対象なのだけれど、管理局の恩情で、局員として生存を許されているのよ」
破壊神ハム?世界爆弾絹毛ネズミ?
新人マンチカン、新出単語続出でちんぷんかんぷん。要するにこのハムズ、何者なのでしょう。
ここからがお題回収。
破壊神ハムこそ、「ただひとりの君」なのです。
「俺が、その『破壊神ハムスター』の原種、たった1匹残った『本物の世界爆弾』だ」
ハムの1匹、自分より大きな名刺をマンチカンに渡しながら言いました。
名刺には法務部執行課の部署名と、ハムのビジネスネーム、「ヒクイドリ」が書かれていました。
「俺達破壊神ハムスターは、その亜種も含めて、体内に固有の『概念の種』を持っていてね」
破壊神ハムの原種ことヒクイドリが言いました。
その顔は、ハムスターなのに、すごくイタズラで鬼畜な笑顔をしておりました。
「特に原種に関してだけは、自分の命が尽きると、
『宇宙』や『世界』の概念を発芽させて、『その場所』で新しい世界を誕生させるのさ――元々存在している宇宙も世界も全部吹っ飛ばして、な。
だから俺が、管理局内で高所から落っこちたり、
ネコチャーンに狩られてコロリンチョしたり、
チューチューコロリみたいな罠に引っかかったりすると、君も、君の先輩も、その上司も全部全員、『新しい宇宙の誕生』に巻き込まれちまうワケだ」
「だから僕たち、特に『僕たちの原種』は、『世界爆弾』として恐れられているのさ」
ハムズの仲間の他の一人が、にっこり笑ってマンチカンに、教え諭すように言いました。
「といっても、亜種の方は世界を壊すワケじゃなくて、身の危険を感じると花粉を飛ばしたり酷く大きな音を出したりするだけ、なんだけどね。
まぁ、気をつけて。僕たち、特に『僕たちの原種』の『ただ1匹の爆弾』を、怒らせないように」
新人マンチカン、説明を聞き終えて、
静かに、「ヒクイドリ」の名前を持つ破壊神ハムスターの原種を見つめました。
ただひとりの君へ。 ただ1匹、本当に危険な爆弾を抱えているハムへ。 長生きしてください。
新人マンチカン、静かに、目で訴えたのでした。
「『書く習慣』のお題ってさ。どうしても、現実軸の連載風に合わないお題が出てくるワケよ」
たとえば今回みたいな。某所在住物書きは言った。
「手のひらの宇宙」である。手のひらの海なら分かる。スマホによるネットウォッチングは「サーフィン」として海に例えられている。
手のひらの「宇宙」は何を書けば良いのやら。
「そういう、抽象的でファンシーで、ファンタジックでフォトジェニック系のお題を、『エモネタ系のお題』って呼んでるんだけどな」
要するに何が言いたいかというとだな。
物書きは小さく首を振り、ぽつり。
「そろそろこのアプリ入れて3年になるけど、
ホント、俺、不得意が克服できてねぇわ……」
――――――
手のひらに、鉄をひとつ、のせてみてください。
それは、どこかの恒星――自前で光り輝いていた大きな星が、滅びの最期の最後の爆発で、宇宙に放った「星による核融合の第一到達点」。
お題どおり、「手のひらの宇宙」なのです。
……と、いう高校だか大学だかで学習するかもしれない天文系・物理系のハナシは置いといて、
今日は、こんなおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という団体組織がありまして、
世界から世界への渡航申請の受付をしたり、
滅びそうな世界への渡航経路を制限・封鎖したり、
あるいは、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムが、他の世界に流れ着いて悪さをしないように回収・収容したり。
ともかく、いろんな仕事をしておったのでした。
ところでこの管理局、ビジネスネーム制を採用しておりまして、経理部の皆様は全員猫の名前。
数ヶ月前に就職した新人は、マンチカンという名前を与えられて、ロシアンブルーのお姉さんをメインの教育係に据えられて、
それはそれは、一生懸命、仕事をしておりました。
「今日は、収蔵部の仕事を見に行くわよ」
先輩局員ロシアンさん、新人マンチカンを連れて、経理とは別の仕事をしている部署に対して、見学遠足を敢行します。
「連中が何をしているか、よく見ておきなさい」
収蔵部とは、滅んだ世界のチートアイテムを、文字通り収蔵したり研究したりするための部署。
既に滅んでしまっているマンチカンの世界の宝物も、この収蔵部で保管されています。
「どうして、収蔵部の仕事を見に行くんですか」
新人経理部マンチカン、メモとペンをしっかり準備して、ロシアンの後ろを付いていきます。
「伝票チェックの役に立つからよ」
先輩ロシアン、即答しました。
「相手の仕事を覚えておけば、経費をちょろまかそうとしていそうなデータに気付きやすいでしょ」
なるほどなー、とマンチカン。
しっかりメモに記入しました。
『ちょっとは相手の仕事も覚えよう』
さて。そろそろお題回収です。
収蔵部に到着したマンチカンが最初に見たのは、
「手のひらの宇宙」を手のひらにのせて、困惑気味に議論をしている収蔵部収蔵課の皆様でした。
「あのねぇ。収容班さんが言うには、最初はホントに『別の宇宙』が映ってたらしいのぉ」
収蔵課の局員さん、メモを見ながら言いました。
手のひらにのせた水晶玉は、真っ黒で、
コンコン叩くと砂嵐がザザッとはしって、
結局、また真っ黒に戻ります。
「でねー。収容班さんのハナシによると、『最初は他の宇宙の映像が見える水晶玉だったのに、定刻になって収容元の世界が閉鎖した途端、何も映らなくなった』らしいのぉ」
ザザザ、サラサラサラ。
手のひらの、宇宙を映していた筈の水晶玉は、相変わらず真っ黒で時々砂嵐。何も見えません。
「どうすんだよコレ。収蔵のために分類しようにも、能力が分からねぇし、どうにもなんないぞ」
他の収蔵課局員さんも、頭を抱えます。
「『以前は見えていたのに、定刻になって世界が閉鎖した途端映らなくなった』……?」
何か閃いたらしく、奥多摩出身の局員さんが、
考えて、考えて、手を叩いて言いました。
「『地デジ未対応のアナログテレビ』だ!
チューナー付ければ、この水晶玉、もしかして何かまた映るんじゃね?!」
「ちでじみ……?」
「ちでじみ対応?」
パッと走り出した、奥多摩出身局員さんを尻目に、
「こっち」の世界をよく知らない他の局員さん、完全に理解不能で目が点です。
「ちでじみって、なぁに……?」
「ゴメン。俺もわかんね」
手のひらの、宇宙を映していた筈の水晶玉は、結局その後1時間、何も映ることなく真っ黒でした。
その様子を見ていたマンチカン、何かをメモしようとペンを持ちましたが、
丁度そのとき、奥多摩出身局員さんが、収蔵庫から妙にデカい化石級の旧式アンテナを持ってきて、
ブスリ!水晶玉に装着。
「おお!」
「映ったぁ!」
「映った!??どこのなにが?!!」
水晶玉は手のひらに、どこかの宇宙を映して、キラキラ、きらきら。輝きました。
新人マンチカン、今度こそメモに、記録しました。
『ヒラメキは大事』
「『昭和・平成風のいたずら』、『ロシアンルーレット風のいたずらお菓子』、『気まぐれ風のいたずらサラダ:鶏出汁仕立て』。
言葉を追加すれば、いくらでも改変は可能よな」
いたずら菓子は、バレンタインネタに取っておくのも面白いな。 某所在住物書きはスマホのニュースを確認しながら、ぽつり、ぽつり。
スギ花粉の情報である。東京では1月8日から、既に飛散が始まっていたようだ。
「風のいたずらで、家の中に……」
ああ、もう、そんな時期なのだ。物書きは思う。
花粉症の民としては、試練の時期であろう。
――――――
最近最近の都内某所、杉林を抜けた先に隠れて佇む建物がありまして、
それは、「世界多様性機構」なる厨二ちっくファンタジーな組織の活動拠点でした。
世界多様性機構は、「ここ」ではないどこかの世界からやってきた、いわば異世界の組織。
滅んだ世界の難民を保護したり、その難民を他の世界に密航させてやったり、発展途上の世界に先進世界の技術を導入したりと、
色々、まぁまぁ、やっておりまして。
杉林を抜けた先の建物は、東京に避難させた異世界の難民たちが、東京で平和に生活できるようサポートするための支援場所。
名前を、「領事館」といいました。
ところでこの領事館の領事官、もとい館長さん、
異世界人なのですが、東京の領事官に着任して早々、スギ花粉症を発症してしまいまして。
しかもビジネスネームを「スギ」というのです。
「ぶぇっくし!! ぶぇーっくしょい!!」
異世界人のスギさん、デスクにロールティッシュと箱ティッシュを常備しまして、
難民さんのためのお仕事を、せっせとさばきます。
部屋ではぐぉーぐぉー、がーがー、家庭用の空気清浄機が花粉を検知して、
自分の本来の想定スペック以上に広い部屋を、頑張ってキレイにしております。
「おかしい。例年なら、『ヤツら』が飛散するまでまだ猶予があったハズだ」
業務用空気清浄機の予算を付けてもらえるように、ずっと、ずーっと、多様性機構の本部に要望書は提出しているのですが、
なにせ、「花粉症」を知らぬ異世界人がトップに座っている組織です。
なんなら、多様性機構と敵対している「世界線管理局」と違って、活動資金が潤沢に、あるワケではないカッツカツ組織です。
多様性機構には、カネがない!
「ちきしょう、いまわしい、管理局どもめ!
……ぐしゅぐしゅ。 ちーん」
館長のスギさん、敵対組織に恨み言など言いながら、鼻をかんでおりました。
「ヤツら」って、誰のことだろう。
管理局が関係してるのかな。
領事官の新人の、アテビにはサッパリ。
ただ自分の仕事、部屋の掃除を頑張ります。
掃除機かけて、ホコリを片付けて……
そろそろお題回収といきましょう。
「大変です、館長!」
スギさんの部下、アスナロさんが、慌てた様子で執務室に入ってきました。
「都内で既に、1月8日頃から、『ヤツら』の飛散が始まっているようです!」
手には「こっち」の世界の文明の利器、スマホ。
ネットニューが表示されたディスプレイには、こんな文言がデカデカと、表示されておりました。
『都内、早くもスギ花粉が飛散開始
統計開始以来最も早く 東京都』
「なんだと……!」
ティッシュがノールックシュートで大容量ゴミ箱に入ったのも構わず、館長のスギさん、大驚愕で開いた口が塞がりません。
そんなスギさんに、部下のアスナロさん、とどめとばかりに畳み掛けました。
「しかも今年の量ですが、多くなる予想です」
なんだろう。
アスナロさんもスギ館長も、酷く慌ててるなぁ。
新人アテビ、スギ花粉のことなど、知りません。
ただ自分の仕事、部屋の掃除を頑張ります。
ホコリの片付けも終わったので、窓を開けて……
窓を開けて??
「おい、アテビ!!なにやってる!」
「えっ?」
「窓を開けるな!『ヤツ』が、『ヤツら』が!」
ヤツら、スギ花粉が、入ってくる。
館長のスギさんが言い終わる前に、カーテンが揺れて部屋の空気が入れ替わり、
「風のいたずら」で、飛散し始めたスギ花粉が、スギさんの鼻と目にたどり着きます。
スギさんの免疫が、スギ花粉と過剰に戦います。
「ぶぇーっくしょい!ぶぇぇっくしょぉい!!」
スギ花粉症を初めて見たアテビはびっくり仰天。
1時間後、症状がおさまった館長のスギさんから、
「こっち」の世界の日本という国の、すごくメジャーな国土病、「花粉症」の仕組みと注意点を、みっちり勉強させられましたとさ。