かたいなか

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「『投稿用のハナシを考えている間に考えついたネタ』は、保存しておくようにしてるぜ」
今日も今日とて書きづらいお題が来た。某所在住物書きは天井を見上げて途方に暮れ、ため息を吐く。
「たとえば、昨日の『手のひらの宇宙』。
いっそ『手乗りのハムスターか何かが宇宙を内包してる』って設定とかどうだ、って考えついたのさ。……まぁ前回は使わなかったけどな」

で、要するにどうした、ってハナシ。
カキリ、カキリ。物書きは小首を鳴らす。
「つまり、今回のお題があんまり難しいから、いっそぶっ飛んだ設定であるところの『宇宙ハムスター』、出しちまうか、っていう」

――――――

前回投稿分からの続き物。「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじーな団体組織がありまして、
滅んだ世界から漂着したチートアイテムを収容したり、滅びそうな世界への渡航を制限したり、
ともかく、世界間の円滑で安全な運行のために日々、アレコレ色々やっておるのでした。

ここの経理部の新人さん、マンチカンは、丁度収蔵部の仕事の見学遠足から帰ってきたところ。
「ヒラメキは大事」という気付きを得て、自分の部署に戻ってきました。
先輩のロシアンブルーは、マンチカンが他部署でたくさんメモをしていたので、大満足の大感心。
貪欲に勉強する者は、先輩ロシアン、大好きです。

ところで他部署の見学遠足から帰ってきて早々、
経理部のコタツの上に、かわいらしいハムスターが1匹2匹、3匹4匹……?

「あら。珍しい」
マンチカンがハムスターにうずうずしていると、
先輩のロシアンブルー、コタツの上の複数匹を見て、言いました。
「法務部執行課特殊情報部門、通称『ハム部』、『管理局のネズミ』よ。外見がハムスターなのに、法務部に居るから、名前が全員鳥類なの」

怒らせちゃダメよ。 ああ見えて、「怒らせてはいけない管理局員」の第2位なんだから。
ロシアンブルー、コタツの上のハムーズに、
よくローストされたアーモンドとフレッシュなマカダミアナッツ、それからよく厳選されたカボチャのナッツを提供すると……?

「おっと、ロシアン嬢!」
なんと、群れているハムズのうちの1匹が、明るく透き通るダンディーボイスで、先輩ロシアンに話しかけてきたではありませんか!
「丁度良かった。貴女から問い合わせを受けた例の件、今日ようやく調査が終わったんだ。
マダム・ノラに預けてある。受け取ってくれ」

「先輩。ロシアンせんぱい」
「なぁに。マンチカン」
「ハムスターが、喋ってます」
「そりゃそうよ。管理局員だもの。筆記言語なり音声言語なり、そりゃあ、するわよ」

「『私達』を見るのは、初めてかしら?」
ハムスターが喋ってる。
驚愕する経理部の新人マンチカンに、「法務部の局員」と紹介されたハムーズの1匹が、
落ち着いた優しい淑女の声で言いました。
「私達は『世界を崩壊させるリスクを持つ侵略生物』セカイバクダンキヌゲネズミと、その亜種。
通称『破壊神ハムスター』の生き残り。
本当は駆除対象なのだけれど、管理局の恩情で、局員として生存を許されているのよ」

破壊神ハム?世界爆弾絹毛ネズミ?
新人マンチカン、新出単語続出でちんぷんかんぷん。要するにこのハムズ、何者なのでしょう。

ここからがお題回収。
破壊神ハムこそ、「ただひとりの君」なのです。

「俺が、その『破壊神ハムスター』の原種、たった1匹残った『本物の世界爆弾』だ」
ハムの1匹、自分より大きな名刺をマンチカンに渡しながら言いました。
名刺には法務部執行課の部署名と、ハムのビジネスネーム、「ヒクイドリ」が書かれていました。
「俺達破壊神ハムスターは、その亜種も含めて、体内に固有の『概念の種』を持っていてね」
破壊神ハムの原種ことヒクイドリが言いました。
その顔は、ハムスターなのに、すごくイタズラで鬼畜な笑顔をしておりました。

「特に原種に関してだけは、自分の命が尽きると、
『宇宙』や『世界』の概念を発芽させて、『その場所』で新しい世界を誕生させるのさ――元々存在している宇宙も世界も全部吹っ飛ばして、な。

だから俺が、管理局内で高所から落っこちたり、
ネコチャーンに狩られてコロリンチョしたり、
チューチューコロリみたいな罠に引っかかったりすると、君も、君の先輩も、その上司も全部全員、『新しい宇宙の誕生』に巻き込まれちまうワケだ」

「だから僕たち、特に『僕たちの原種』は、『世界爆弾』として恐れられているのさ」
ハムズの仲間の他の一人が、にっこり笑ってマンチカンに、教え諭すように言いました。
「といっても、亜種の方は世界を壊すワケじゃなくて、身の危険を感じると花粉を飛ばしたり酷く大きな音を出したりするだけ、なんだけどね。
まぁ、気をつけて。僕たち、特に『僕たちの原種』の『ただ1匹の爆弾』を、怒らせないように」

新人マンチカン、説明を聞き終えて、
静かに、「ヒクイドリ」の名前を持つ破壊神ハムスターの原種を見つめました。
ただひとりの君へ。 ただ1匹、本当に危険な爆弾を抱えているハムへ。 長生きしてください。
新人マンチカン、静かに、目で訴えたのでした。

1/20/2025, 3:56:25 AM