「『透明』と『涙の理由』なら、たしか過去に書いてるんだわ……」
ところで「透明な」涙って、なんだろな。
透明を強調したいのかな。
某所在住物書きは天井を見上げて、配信されたお題をどう扱うべきか苦慮している。
今回のお題に他の文字をくっつければ、「不透明な涙」だの、「透明な涙型の宝石」だののハナシに持ち込むはできる。
なんだ「不透明な涙」って。
人間の涙は透明だから、他の生物のそれか。
「……涙型の宝石が無難かなぁ」
物書きは呟いた――で、その宝石をどうするのだ。
――――――
今回のお題は、「透明な涙」だそうです。
逆に透明「じゃない」涙って、どんな涙でしょう。
なんなら、わざわざ「透明」と前置くような涙って、どんな涙でしょう。
あれこれ考えた物書きが、苦しまぎれに、こんなおはなしを思いつきました。
前回投稿分の、裏側で起こっていたおはなし。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ファンタジーな組織がありまして、
そこでは、滅びた世界からこぼれ落ちた、チートアイテムだの魔法の道具だのを、
他の世界に流れてって、そこで悪さをしないように、回収・所蔵しておく仕事もしておりました。
ところで管理局の経理部には、魔法の道具を作るのが得意なエンジニアさんがおりまして、
ビジネスネームを、猫の無毛種になぞらえて、スフィンクスといいました。
「よぉし!出力、最大!」
経理部のスフィンクス、法務部の某部署に頼まれて、「透明な涙」の形をした魔法の宝石を、まさに、精製している最中。
「俺様の至宝、日向夏よ、水晶文旦よ!
この赤と青の、透明な涙型の宝石に、『熱』の概念エネルギーを注入するのだッ!」
スフィンクスが上機嫌に、なにやらカッコイイことを言いますと、
24と1個の、涙型……に見えなくもない、しらぬいタイプの形のミカンたちが、
美しい日向夏と、水晶の文旦とを掲げます。
日向夏と水晶の文旦は、たちどころにミカンの色に光り輝いて、ちゅぴーん!
透明な涙の形をした、赤い宝石12個と、青い宝石12個に、エネルギーを注入し始めたのです!
何故でしょう。お題のせいです。
何故でしょう。法務部某部署が、「こういうアイテムを作成できないか」と依頼してきたのです。
すなわち、赤い透明な涙は周囲の「熱」や「あたたかさ」の概念を吸収して溜め込んで、
青い透明な涙は「寒」や「つめたさ」の概念を吸収して溜め込んで、
それらをパリン!壊したときに、中のエネルギーを開放して、「あたたかい何か」なり、「つめたい何か」なりを生成するのです。
要するにオヤジギャグの「寒さ」を溜め込んで、物理的に「氷」を作る、みたいな。
あるいはガチギレ局員の「熱量」を吸い取って、一気にイライラをノーマルに戻す、みたいな。
「名付けて、『熱量保存の宝石』と、『冷気保存の宝石』!……まぁ、まんまのネーミングよな」
日向夏と水晶の文旦の、美しい光線がおさまって、合計24個の魔法宝石、その試作品のできあがり。
スフィンクスも満足の仕上がりです。
「さてさて。依頼主のところに持ってくか」
合計24個の宝石を、しっかり宝石箱に敷き詰めまして、依頼主のもとへ移動します。
試作品なので、お代は応相談。ちゃんと成果を上げれば貰うし、改善点が出てくれば値引きします。
「ひとまず、あいつらに1回でも使ってもらわにゃ、何とも言えねぇわな」
はてさて、熱量と冷気を吸い取り溜め込む宝石を、法務部の連中、一体何に使うやら。
経理部のスフィンクスが、依頼主であるところの、法務部執行課、実働班特殊即応部門なる部署の、オフィスをトントン、尋ねますと……?
「まったく、部長もカラス査問官も!ふたりして特応の備品を壊して! 修理と再申請と補充に、いくらかかると思っているんですか!」
「だって部長が、」
「そもそもコイツが!」
「私語厳禁!!」
そうです。ここで、前回投稿分と、繋がるのです。
なにやら大きなケンカでもしたらしく、備品ごっちゃごちゃ、設備バラッバラ。
これは修理と補充と新調が大変そうです。
ところでスフィンクスが作った「透明な涙」の形の赤い宝石、まさしく「ガチギレなケンカ連中の熱量を吸い取る機能」がありまして……
「丁度イイじゃん。使ってみよっと」
ヒヒヒ。あいつら、ゼッタイ驚くぜ。
イタズラに笑うスフィンクス、赤と青の宝石のうちの、赤の1個を取り出して、さっそく、ケンカの真っ只中の膨大な熱量に向けてみます。
赤い透明な涙型の宝石は、たちどころにガチギレの「熱」の概念を吸い取って、
法務部でギャーギャー騒いでる連中を、静かにしてしまったとさ。
「『あなた、野本へ』、『穴、田之本へ』、『あなたの元へ』。……あんまり漢字変換可能なひらがなのうまみが無いな……」
去年や一昨年と違うお題に差し替えられて、これで何連続だろう。
某所在住物書きはスマホの漢字変換予測を見ながら悩んでいた。 面白い変換が思いつかないのだ。
「第一印象の、他のネタをなるべく考えるようにはしてるけどさぁ……」
仕方無いときは、その「第一印象」で勝負するしか、ねぇわな。物書きはぽつり。
考え過ぎると、ドツボだ。15時投稿コースだ。
――――――
前回投稿分の続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に「世界線管理局」という厨二ちっくファンタジーな組織があり、
世界と世界の円滑な運行や交流を支援するため、
あるいは、いろんな世界から他の世界への密航、密入出を取り締まるため等々、等々で、
日夜、いろんな業務にはげんでおるのでした。
管理局は、どんな理由があろうと、どんな事情を持っていようと、
滅んだ世界の難民が、過剰に、他の世界に入ってくることを許しません。
「そこ」は、「そこ」に住む者の世界です。
「そこ」は、「そこ」の独自性を、保つべきです。
制限無く難民を、別の世界で受け入れてしまうと、いずれ、難民の受け入れ先となった世界は、「別の世界から来た」「別の世界の住人」で、溢れかえってしまうのです。
こんな団体方針の組織なので、
管理局をよく思わない個人、管理局と敵対する組織、なんなら管理局にテロ行為を計画する団体なんかは、多からず少なからず、おりまして。
世界線管理局は、そういう敵対組織とも、
日夜、攻防を繰り広げておるのでした。
そんな、敵対組織との攻防の最前線、
世界観の取り締まりの第一線の部署、
世界線管理局法務部、執行課実働班、特殊即応部門のオフィスを、ちょっと覗いてみましょう。
管理局の局員さん、あなたのもとへ、物語のカメラをズームイn
「今日という今日は許さん!!」
「へ〜、許さないんだ、どう許さないのかなー。
ねぇルブチョ、攻撃当たってないけど、どんな気持ち、どんな気持ち、ねぇ部長さ〜ん」
「部長を煽るな、カラス査問官!
あと部長!いい加減!落ち着いてください!!」
ズドドドド、ドギャギャギャギャ!
ひらぁりはらぁりの、やーいやーい。
おやおや。管理局の即応部門、なにやら内部で喧嘩をしている様子。
部門の部長さんがカンカンで、ガチギレで、部下に本気で魔法をブチかましています。
「管理局がどれだけ多くの敵を抱えてるか、キサマも分かってるだろう!」
部長のルリビタキが、部下のカラスにズドドドド!光の弾を撃ちまくります。
「何故その管理局に、『あの世界』の一般市民を引き込んだ!? 答えろカラス!!」
この「カラス」こそ、前回の「藤森の友人」。
「付烏月 殻花」とは東京で生きるための仮の姿。その正体は世界線管理局の局員だったのです!
「『図書館』側のご意向でーす」
部長の攻撃をことごとく、ひらぁりはらぁり避けまして、時折ちょっかいなど出してるのが、付烏月ことカラス査問官。
「全世界図書館」とかいう別の組織と共同で建てた図書館に、法務部から出向しておりまして、
今日は部長に、「藤森と高葉井を図書館に引き込む予定だ」と、報告に来たのです。
「そもそも今までも、ウチの図書館、管理局と機構と東京の市民さんを満遍なく、公平性を保つために雇用し続けてたじゃん。
何を今更。なにをいまさらぁ〜。ねぇルブチョ」
ほらほら部長、攻撃、当たっていませんよ。
付烏月ことカラス、ムキになってる部長の頭が疲れて疲れて冷えるまで、煽ってちょっかい出す魂胆。
楽しんでいるのではありません(ホントかな)
部長のためを思っての行動です(ホントかな)
カラスとしては、とても、心苦しいのです
(そのわりには、すごく、楽しそうなのです)
ズドドドド、ドギャギャギャギャ!
ひらぁりはらぁりの、やーいやーい。
部長のルリビタキが光の弾を撃ちまくり、
付烏月ことカラスが避けるので、オフィスの備品が代わりに被弾します。
他の部下は淡々と、粛々と、大事な備品を避難させたり、他の部署からのお客さんを「あー、今はちょっと都合悪いですねー」したり。
部長のイチバンの部下、ツバメのもとへカメラを向けると、おやおや、何か光の縄を……?
「いい加減!落ち着けと!言ってるでしょう!!」
急展開。ツバメが管理局収蔵のチートアイテムでもって、ぐるぐるぐる!!
ガチギレルリビタキとイタズラカラスを、個別に正座スタイルで、縛り上げてしまいました。
「まったく、部長もカラス査問官も!ふたりして特応の備品を壊して! 修理と補充と買い替えで、経理にいくら申請すると思っているんですか!」
「それは部長が、」
「そもそもコイツが!」
「私語厳禁!!」
「「はい」」
比較的静かになった実働班特殊即応部門のオフィスには、30分程度、ツバメの説教が響き続けておったとさ。 おしまい、おしまい。
「単語でも文章でもないお題ってのは、ずいぶん珍しいような気もするわな」
そっと、そっ閉じ、卒倒、出そっと、ソットーリオ。 ひらがな表記であれば漢字変換で、お題をどうとでもイジれる。
俺の十八番よな。某所在住物書きは珍しく、配信されたお題に小さく笑った。
「去年の14日配信は、『どうして』だった」
ところで、そっとーりお、なる料理は初めて知った物書きである。
イタリアの油漬けらしい。美味いのだろうか。
――――――
最近最近の都内某所。
お題回収役を藤森といい、丁度、仕事を終えて自分のアパートに帰ってきたところ。
2024年度はこの藤森にとって、騒動に騒動が重なった年度で、
職場に元恋人が就職してきたと思ったら、ヨリを戻そうと藤森を探し始めて、
最終的に、藤森の友人に計略を仕掛けられ、逃げるように退職、退散していった。
一見略着、大団円と思っていたところ、
今度は、藤森の待遇をよく思わない総務課係長が、藤森の仕事に対してイヤガラセをしてくる始末。
もちろん、解決した。
「来年度は、平和な年度であってほしいな」
2023年度も散々な年度だった。
藤森は一昨年の惨状も思い出す。
アレがあって、ソレがあって、そうだ自分の高葉井をオツボネ係長がチクチクしたのも、たしか一昨年――左遷させられた彼女は今頃どうしているだろう。
「ん?」
そんなこんなで、自分のアパートの郵便受け・配達受けコーナーにたどり着いた藤森。
「郵便?」
自分の部屋の番号が書かれたポストに、自分の前々職の図書館から、茶封筒が届いていたのに気付いた。
差し出し担当者の、名前を確認すると、
「『付烏月 殻花』……ツウキさん?」
すなわち、上記の「元恋人が就職してきたときに、計略を仕掛けて恋人を退散させてくれた」、「藤森の友人」からであった。
「付烏月」と書いて「ツウキ」と読む彼は、
去年の暮れに、藤森の職場から離れて、藤森の前々職であるところの図書館に転職した。
彼が今頃、藤森に何の用事だろう。
ビリビリビリ。 その場で茶封筒を開ける。
中には白紙の履歴書と、その履歴書に貼られた弱粘着タイプのメモ用紙。
メモにはこう書かれていた。
『お前の後輩ちゃんは預かった!
てことにしたいから、図書館に戻ってきて
*´ω`*)ノシ マッテルヨ〜 付烏月』
「……」
ここでお題回収。
藤森は、そっと、封筒を閉じた。
――時間が過ぎ、場所も変わって、
藤森は藤森自身の部屋に戻ってきた。
「付烏月さん。お久しぶりです」
すぐに手に取ったのはスマホである。付烏月の番号は知っていた。
「アパートで封筒を受け取ったが、その、アレは一体、どういう意味で……?」
『そのまんまの意味だよん』
電話の向こうの友人は、相変わらずの明るい声で、メモの内容を嘘かドッキリのように錯覚させる。
ただ、付烏月の更に向こう側が、どうにもこうにも、騒がしい。
轟音と怒声と誰かの叫び声とで、付烏月が居るであろう空間は混沌としている様子。
『お前の後輩ちゃんに、後輩ちゃんの推しがウチの図書館に来てる風景の画像を見せたら、
後輩ちゃん、「このハイクオリティーなレイヤーさん、付烏月さんの職場に来るの?!」って』
「はぁ」
『職場だけ違う同僚だから、ウチの図書館で仕事してたら会えるかもよーって伝えたら、
「藤森先輩次第で転職する!!」って』
「は……」
『とゆことで、後輩ちゃんをウチで預かりたいので、お前も前々職の図書館に戻っといで』
「その前に、あなたの向こう側が随分騒がしいが、何がどうなって」
『気のせいだよん』
じゃ、イイ返事、よろしくねー。
付烏月が明るい声で通話の終わりを告げるその奥で、相変わらず混沌は続いている。
今日という今日はゆるさん!覚悟しろ!
部長!!落ち着いてください!!
はなせッ!!離せ!こいつのバグった思考回路を叩き直してやる!!
あなたが本気出したら!叩き直すどころか!叩き壊すでしょってェ!!
ぎゃーぎゃー、ずどどど、ちぴゅーん。
「なんなんだ。いったい……」
2度目のお題回収。藤森は混沌音声飛び交う通話の終話ボタンを、そっと、タップ、タップ。
付烏月が自分と通話している間、彼の周囲で何が発生していたのか、藤森は理解できない。
ただ確実なのは、藤森の後輩の推しによく似たコスプレイヤーが付烏月の職場に居て、
そのレイヤーに会うため、後輩が藤森の前々職に転職しようとしていることである
……たぶん。
『景色』に関しては、9月に『窓から見える景色』っつーお題があった」
随分と、最近、お題の差し替えが多い。
これまで投稿してきた約680個分のお題を思いながら、某所在住物書きが呟いた。
「『まだ見ぬ』の理由が、
自分が見たくないから見てないのか、
見たいけどまだ見ることができない景色なのかで、変わってくるだろうな」
自分が見たくないから見てない景色ねぇ。
心当たりのある物書きである。それはすなわち、去年の合計課金額である。
見たいけど見られない景色ねぇ。
それも心当たりのある物書きである。それはすなわち、札束でパンパンの財布である。
「……今年は節約、せつやく、……くぅ……」
――――――
1月は、2024年度の終わりに近づく時期であると同時に、2025年度に向けた準備が始まる時期でもあるように思います。
ということで、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
「この」世界とは違う、別の世界からやってきた、「世界多様性機構」とかいう厨二ちっくファンタジーな組織の活動拠点が、
すなわち、杉林の中に隠れて、美しい洋館スタイルの豪邸として建っており、
通称、「領事館」といいました。
世界多様性機構は、その名のとおり、世界の多様性を第一に考える組織。
滅びゆく世界の難民を、可能な限り救助して、まだ元気な世界に「密航」の形で、送り届け、そして「領事館」で彼等の支援をするのです。
「密航」がバレると、敵対組織の「世界線管理局」に、世界間の違法渡航として捕まります。
管理局を妨害するのも、領事館のお仕事。
管理局から難民を守るのも、領事館のお仕事。
滅んだ世界の難民は、東京のコンクリートジャングルと、LEDの強烈な明かりの中で、
初めて見る景色に驚き、
まだ見ぬ景色を思い描いて、
崩壊の恐怖から程遠い「この」世界で、一時的な休息に心魂を癒やしてもらうのです。
さて。今日はこの「領事館」に、「この」世界のお隣さんを故郷に持つ元難民さんが、
領事館の新人職員として、着任しまして。
さっそく、自己紹介などしておりました。
「『アテビ』のビジネスネームを頂いて、今日付けで、『領事館』に着任しました!」
数年前、こことは違う世界で、領事館の世話になったという新人さん。
明るい声で、領事館長に挨拶です。
「難民の皆さんが『この世界』で快適に過ごせるように、全力を尽くします!」
実は世界多様性機構、ビジネスネーム制を採用しておりまして、
それらは全部、植物の名前と呼び名で、統一されておったのでした。
ちなみに『アテビ』はヒノキ科アスナロ属、ヒノキアスナロの別名だそうです。
「この領事館の館長の、スギだ」
館長さんも、館長さんの部下もまた、「この」世界の出身者ではありませんでした。
「まず、この世界で生活するにあたって、先に言っておくべき重要事項がある。
『スギ花粉症』だ。
絶対に、1月後半から7月までは、領事館の窓を開けるな。
特に2月から5月の間は、領事館の外から帰ってきた際、館内に入る前に、第一玄関で上着を脱ぎ、足まわりのコロコロを欠かすな」
「すぎかふんしょ?いちがつから……?」
随分とまぁ、注文の多い領事館だことで。
新人アテビ、言われた重要事項の意味と理由が分かりません。
というのも、アテビの故郷の世界には、「花粉症」というものが無かったのです。
領事館長も、花粉症を知りませんでした。
知らずに「この」世界で、自分のビジネスネームの花粉をノーガードで浴びて、
結果、自分のビジネスネームの、花粉症を発症したのでした。
「アレルギーの一種で、『この』世界の主要な風土病のひとつです」
スギの2人の部下のひとり、花粉症を知らない「ヒバ」が言いました。
「時期が来れば、分かりますよ。世界に黄色が飛び交って、世界が黄色で染まるんです」
2人の部下のもうひとり、花粉症も食物アレルギーも知らない「アスナロ」が言いました。
「世界が、黄色で染まる……!」
スギ花粉を知らぬ新人アテビ、まだ見ぬ黄色の景色を想像します。
きっと、それは美しい光景です。
きっと、それは幻想的な光景です。
「私、黄色、大好きなんです」
無機質で殺伐とした第一印象のこの世界が、黄色い花か霧か、鳥の群れか知りませんが、
それらでいっぱいになるのだと、思いました。
実際は、アレがドッパで、風でびゅうびゅうで、
ああ、語るも恐ろしく、記すも憎らしい。
「いいな」
スギ花粉症持ちの館長スギさん、新人アテビに再度、入念に、クギをさしました。
「絶対、ゼッッタイ、窓を開けるなよ!」
スギ花粉が「まだ見ぬ景色」という、幸運で幸福な新人アテビの、未来やいかに……?
「ひらがな表記のお題は、個人的に、だいたい漢字変換に逃げ道があると思ってる」
ほら。たとえば「あの、夢野 津々木を、窓口に出してもらえませんか」、とかさ。
某所在住物書きは相変わらず、過去配信分のお題を確認している。 これまでも何度か、漢字変換でお題を乗り切ってきたのだ。
たとえば最近では「あ戦いね」とか。
「なるべく、第一印象から離れたアイデアにも、目を向けるようにはしてるぜ」
物書きは言う。 というのも、「夢」のお題はこれでかれこれ3〜4例目なのだ。
「ただ、ド直球にストレートなネタも、時には書きたくなるんよな……」
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、遊びざかりの食いしん坊。温かい油揚げや甘いホットミルク、その他美味しいものは何でも大好き。
その日は、優しい魔女のおばあちゃんの喫茶店で、ぐーすぴ、かーすぴ。
ヘソ天キメて、寝ておったのでした。
夢の中で子狐は、綺麗な紅白のしめ縄と金色の鈴、それから真っ赤な前掛けでおめかしして、
堂々と、稲荷神社の拝殿で、招き猫ならぬ招き子狐ポーズをしておりました。
『偉大なる御狐様。ジャーキーをお持ちしました』
子狐の右隣には、優しい犬耳のおばちゃん。
『偉大なる御狐様。ジャーキーを召し上がる前に、是非一度、俺と鬼ごっこを』
左隣には、よく遊んでくれるタバコのオッサン。
双方、子狐の夢補正によって、子狐を丁寧にお世話しています。
おや。子狐を巡って、夢の中のおばちゃんと、お得意様とが、言い争いを始めたようです。
『お前ら全然分かってねぇな。御狐様に今必要なのは、俺様のミカンとコタツだ!』
『分かっていないのは、あなただ。子狐が今欲しがっているのは、ミカンでも、コタツでもない』
『これ。けんかは、やめるのです』
夢の中のコンコン子狐、満足そうな笑顔をして、尻尾も少しだけお上品にぶんぶん振って、
夢の中のみんなに言いました。
『キツネは、これから、おひるねをします。
おとくいさん、キツネに、あったかいオフトンと、あったかいマクラと、あと、
えほんを、もってきて、えほんをよみなさい』
『はい、子狐。ただいまお持ちします』
夢の中のお得意様は、深々とお辞儀をして、子狐の前から居なくなりました。
『では、御狐様。お昼寝の準備が整う間――』
そして、お得意様の代わりに、コーヒーのおじちゃんと、お化粧のお姉さんがやってきて、
それから、ああ、それから……
――「んん、くるしゅない、くるしゅない……
あれ、 ジャーキー、どこ……」
気が付くとコンコン子狐は、夕暮れの都内の稲荷神社に至る道路を、子狐の商売のお得意様に暖かく抱きかかえられて、
ぬくぬく、ぬくぬく、運ばれておりました。
「寒かったか?」
冷たい風に当てられて子狐が起きたと思ったお得意様。自分の体温で暖まったマフラーを取って、オフトンよろしく、それで子狐を包んでやりました。
「お前の母さんから、お前を迎えに行くように言われた。晩飯は、鶏の照焼きと稲荷寿司だとさ」
「おにく、おいなりさん、」
おやおや。子狐、寝ぼけているようです。
「くるしゅない。くるしゅない……」
マフラーのぬくもりで、むにゃむにゃ、こやん。
コンコン子狐は幸福に、また、ぐーすぴかーすぴ。
ソッコーで、寝てしまいます。
きっと、あの夢のつづきを、見ているのでしょう。
きっと、あの夢の中でも、お昼寝の準備を見守っているのでしょう。
そんなことは知りもせず、子狐を迎えに来てくれたお得意様は、子狐を優しく抱っこしたまま稲荷神社に入っていったとさ。 おしまい。