「去年の3月にインストールして、
今年の2月で2023年のシーズン1が終わって、
3月から、2024年のシーズン2。
それもあと2ヶ月で終わるワケだ。早いわな」
振り返れば今年は終盤に、執筆環境が非常に大きく変わった年であった。
某所在住物書きはしみじみ、数ヶ月を振り返る。
ほぼほぼ現実風の日常ネタだけで組まれていた筈の1年目に対して、
2024年の終盤から増えてきたのは、「『ここ』ではないどこかの職場」、一次創作のフィクションファンタジーを舞台にした投稿。
1年の最初には、考えもしなかった展開である。
「来年ってどうなるんだろうな」
物書きは天井を見る。おそらく今考えている物語と、1年後に完成している物語は、まったくの別物となっているだろう。
――――――
大晦日の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、今年最後の食事の用意として、キューブタイプの鶏塩鍋の素1個を落とした鍋に、少しだけ醤油とごま油を隠して、
ことこと、コトコト。割引カット野菜とB級品の鶏手羽元を煮込んでいる。
シメは先日スーパーで購入した、無塩蕎麦の予定。
あるいは、そうめんも良いかもしれない。
どちらにせよ、手羽元からしみ出した鶏のダシと、ごま油とが麺に絡んで、年越し麺はそこそこ食うに値する美味となるだろう。
スープを味見して、藤森は小さく頷いた。
これで良い。 スープの余剰を明日の朝食に残して、これで白米をおかゆ風にするのも良い。
体を温めるために、生姜を削ろう。
藤森は清潔な容器に、1杯、2杯、3杯。
レードルで玉油の美しい琥珀色を取り分けた。
ここからがお題回収。
藤森の部屋に客が来ており、その客が椅子付きコタツで、1年間を振り返っている。
客は名前を後輩、もとい高葉井といい、藤森とは生活費節約術として、シェアランチだのシェアディナーだのを共につっつく仲であった。
主に高葉井のソシャゲ課金費用捻出が理由である。
「できたぞ」
鍋と、味チェンジ用の薬味一式と、それからシメの乾麺とをトレーにのせて、高葉井の待つコタツへ。
「明日はこの、」
明日はこの鍋のスープを使って、おかゆを作る予定だが、相変わらず今年も食っていく予定なのか。
藤森が尋ねようとした言葉は途中で詰まったが、
理由は別に、キッチンに肝心の取り皿と取り箸、それからレードルを忘れたからではない。
「後輩、どうした、高葉井?」
椅子付きコタツで電卓を叩いていた高葉井の顔が、絶望的に良くない。完全に心の温度が冷えている。
「高葉井、高葉井。 高葉井 日向……ひなた?」
なんだ、どうした。何があった。
トレーを置き、高葉井の背後にまわると、
高葉井が計算していた高葉井自身の今年の課金額が、すなわち電卓の表示が、
最初の桁に、2を示していた。
「せんぱい」
ぽつり。高葉井が呟いた。
「ことしは、ほんとうに、おせわになりました」
「生活費節約のための、シェアランチのことか」
「1年間を振り返って、すごく、すごく、お世話になってたなって、すごく思って」
「だろうな。 今年はいくら使ったんだ」
「来年もどうぞ、よろしく支援のほど」
「20だったのか?」
「おねがい、もうしあげ、ます」
「どうだったんだ。25?
おい。何故電卓を隠す。どうした。おい……?」
そそくさと、藤森の客であるところの高葉井は、
電卓をコタツの毛布の下に隠し、スマホの課金額一覧を消して、鍋のフタを開けた。
「わぁ。おいしそう」
抑揚は完全に単調で、しかしわずかに、藤森への多大な感謝が滲んでいる。
「本当に、1年間、ありがとう」
再度、高葉井が呟いた。
「ところで取り皿と取り箸どこ?」
ここに至って藤森は、自分の忘れ物にようやく気付き、キッチンへ戻った。
「みかんといえば、『陳皮(ちんぴ)』とかいうミカンの皮を乾かした生薬と、『オレンジフラワー』だの『オレンジピール』だののハーブティーか?」
昔スーパーで試食配ってたねーちゃんが、カマンベールにオレンジマーマレードのせて渡してくれて、それは美味かったわ。
某所在住物書きは賞味期限間近なマーマレードの瓶を眺めながら、これをどう処理すべきか思考していた。
「『ミカン科』のグループで言えば、レモンもミカンで山椒もミカン。カレーリーフもミカン科だとさ」
意外と仲間は多いようだが、で、その「みかん」で何書けっていうんだろう。物書きは相変わらず途方に暮れて、ため息を吐く。
「『マーマレード 活用法』で調べたら、照り焼きとかマーマレード焼きとか出てきたわ。……パンだのチーズだのに使うだけじゃねぇのな」
――――――
「みかん」のお題を「蜜柑」と「未完」で回収したい物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
前回からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なるフィクションファンタジーな職場がありまして、現在、年末休みの真っ最中。
ただ、「我が部署に年末休みはありません」なブースが、管理局にはありまして、
そのひとつは、すなわち、「法務部執行課 実働班特殊即応部門」といいました。
ところでその法務部執行課に、とても温かそうなコタツがドンと鎮座しておって、
若い女性のコタツムリさんが、小さな折りたたみ式の1人用コタツをガチャガチャいじっている様子。
コタツムリさんは、ビジネスネームをスフィンクスと言いました。
そしてスフィンクスがいじっているのは、ボタンを押せばミカンが出てくる不思議なコタツ、「Ko-Ta2」のコンパクト持ち運びタイプ。
未完の「Ko-Ta4」。試作機だったのでした。
コタツムリのスフィンクス、Ko-Ta4試作機の調整が一段落したので、ひとまず試運転。
「ミカンの材料」をぐいぐい押し込みます。
「この前は、このKo-Ta4、ミカンじゃなくてレモンが生成されて出てきたんだよな」
ある程度材料をコタツに押し込み、ポチッ。
スフィンクスがKo-Ta4試作機のボタンを押すと、ウィンウィン、ウィンウィン。
ミカンの材料は静かなモーター音とともに、コタツの中に引き込まれていきました。
それを、マグカップに入れた赤味噌の味噌汁など飲みながら見ていたのが、特殊即応部門の部長さん。
ビジネスネームをルリビタキといいます。
「毎回思うんだが、」
マグカップにお湯を少し足して、ルリビタキ部長、スフィンクスに聞きました。
「その、コタツのボタンを押せばミカンが出てくる仕組み、どうなってるんだ」
フィクションファンタジーな不思議物語で、その「不思議」の仕組みを聞くなんて、
ルリビタキ部長もなかなか無粋なことをしますね。
まぁまぁ。細かいことは気にしない。
「アンタもミカンにしてやろうか、鳥頭?」
ウィンウィン、ウィンウィン。
Ko-Ta4試作機のミカン生成シーケンスを、じーっと観察しながら、スフィンクスが言います。
「そうすれば、どうやって俺様のコタツがミカンを生成してるか、身をもって学べるぜぇ」
どうやら材料の取り込みまでは、順調な様子。
Ko-Ta4試作機のモーターの音が、止まりました。
「ミカンの材料」の取り込みからミカン変換までの工程の、ほぼ半分が完了したのです。
「よしっ!ミカン化スイッチ、オン!」
スフィンクスは満を持して、コタツのスイッチを押しました! すると、
ウィンウィン、 ガガガ、 ガガガガッ。
ミカンの材料からミカンを生成してくれるコタツ、持ち運び可能タイプのKo-Ta4試作機が、
不穏な、不安な音を出し始めたのです。
「んん〜?」
「なんだ。どうした鬼畜猫」
「いやー、俺様の傑作Ko-Ta4がな、アンタを是非賞味したいって駄々こねちまって」
「それがジョークで、実際のところは?」
「なんかミカン生成の一番最後の段階が妙な回路と繋がっちまったっぽい」
緊急停止を押そうか、そのまま放っておこうか。
スフィンクスがアレコレ考えていると、
スポン! ここでお題回収。
スイッチひとつでミカンが出てくる、不思議な不思議なコタツ、「Ko-Ta4」から、
みかんのみかん、「未完の蜜柑」が堂々爆誕。
丁度左半分しか果肉が入っていなくて、かつ皮が未熟に黄緑色したみかんが、排出されたのでした。
「あるぇ?」
この手の不具合は、俺様、見たことねぇぞ。
コタツムリのスフィンクス、首を大きく傾けまして、出てきた未完のミカンを見たり、コタツに組み込んだ回路を見たり。
バラして組み直して、また首をカックリ傾けます。
「……あるぇ?」
不具合が直ったのは、数時間後だったとさ。
「未完の蜜柑」がコタツから出てくるおはなしでした。おしまい、おしまい。
「冬『が』休み、っつーのを考えついたんだわ」
今年も残すところ数日。某所在住物書きは毛布にミカンで、コタツに入るのも面倒くさく、ベッドでぬくぬく。スマホなどいじっている。
「冬の長期休暇が『冬休み』。それは分かるさ。
『冬』の概念が行方不明、『冬』が仕事サボって休んでるってのも、『冬休み』じゃねぇかなって」
どうだろう。名案だと思ったんだ。物書きは言う。
「……なお、うまく文章化できなかったワケで」
去年なら書けたかもしれない。
たしか雪が極端に少ない豪雪地帯があったから。
――――――
「冬休み」を「年末休み」と言い、要申請の立場になってから、はや◯◯年の物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なるフィクションファンタジーな職場があり、
そこは異世界渡航の申請を受理するとか却下するとか、滅んだ世界から流れ着いたチートアイテムが他の世界に悪さをしないよう回収するとか、
そういう、厨二ちっくな業務を、真面目にやっている団体組織なのでした。
管理局そのものに「相対的時間」は存在しません。
でもそれが無いと、局員は昼食も昼休憩も、定時帰宅も夏季休暇も、冬休みすら取れないので、
時間の無い世界に「時間」をつかさどるチートアイテムで、人工的な朝と夜と、人工的な1年とを、
それぞれ、付与しておったのでした。
今日の管理局は、多くの部署で「仕事おさめ」。
現存する世界から通勤している局員は故郷に帰り、
滅んだ世界出身の局員は、難民シェルターに用意された6LDK+バルコニーの自宅でリラックス。
あるいは、シェルターは「拡張空間」の付与が為されてバチクソに広いので、シェルター内で4泊5日な長期旅行すらできるのでした。
ところでそんな、冬休み初日で警備が手薄の世界線管理局に、敵対組織の新人スパイがひとり。
世界多様性機構といいます。
管理局の難民シェルターは、いつわりの世界、作られた自由、管理された平和。
そこにとらわれた難民たちを救い出して、「本当の世界」へ逃がしてあげようという魂胆なのでした。
難民を保護する管理局と、難民を開放したい機構。
完全に正反対、真逆の組織です。
なかなか善悪つけ難い関係なのです。
さて。滅んだ世界の難民が捕まっているシェルターの場所を知りたい、多様性機構の新人スパイです。
ひとまず管理局の中の、「冬休み」が存在しない、
「法務部執行課 実働班特殊即応部門」の職員に化けて、その部門の部長のところへ潜入。
「部長。先日収容された難民に対して、開放希望の方が見えて、既にシェルターに向かっています」
半分事実です。だって機構の新人スパイ、難民を管理局から開放したいのです。
「対応は、どのようにしましょう?」
さぁ。外部者に難民シェルターの場所を知られるのは困るだろう。 新人スパイは内心ニヤリ。
管理局の冬休み中にシェルターが荒らされたとあれば、冬休み期間中に勤務していた部署の責任。
必然的に、部長みずからシェルターへ行って、
この「開放希望の方」を排除しようとするだろう。
と、思っていたのですが。
どうやら機構の新人スパイの変装は、管理局の部長さんにガッツリとバレていたようです。
「お前が勝手に引き込んできたんだろう。その『開放希望の方』とやら?」
マグカップに赤味噌の味噌汁を入れて、一味など2振り。特殊即応部門の部長さん、言いました。
「ウチは今、年末の冬休みという設定だ。
異世界難民の話し合いなら『年明け』にしてやるし、難民保護担当の部署にもハナシを付けといてやるから。今日は帰ってくれ」
そもそも部署が違うんだよ。ウチじゃない。
部長さんは大きなため息ひとつ吐いて、新人スパイにレトルトの味噌汁を2個、差し出しました。
「なんです。これ」
「お前のところも、どうせ『今』は冬休みだろう」
「何のハナシです」
「お互い冬休みの期間中も仕事に駆り出されて災難だよな、というハナシだ。
難民シェルターに向かってるっていうヤツを、ここに呼び出して、そいつを飲んだらすぐ帰れ」
「は……?」
「2個で足りるか?何人で来た?」
「えっ」
「3人?4人?」
「ひ、ひとり、です」
「じゃあ1個返せ」
「……」
任務失敗で多様性機構に帰るのが怖いなら、年明けにウチで雇用できないか相談してやる。
とりあえずシェルターの空き家に籠城でもしてろ。
法務部の部長さん、そう言って新人スパイから1個、レトルト味噌汁を取り返すと、
味噌汁飲んでため息吐いて、それっきり。新人スパイに背を向けて、仕事に戻ってしまいました。
(今なら無力化できるのでは?)
閃いた機構の新人スパイ、冬休み業務中の部長を気絶させようと、懐からナイフを、
取り出したところ、背後から肩をポンポン、誰かに叩かれまして。
振り返ればダウンコートだの着る毛布だの、じゃんじゃか厚着に厚着を重ねた若い女性が、
にっこり。新人スパイを見つめておったとさ。
「去年は『手ぶくろを買いに』をネタにしたわな」
ゴム手ぶくろ、毛糸の手ぶくろ、猫の靴下・手ぶくろにスマホ対応手ぶくろ。「手ぶくろ」も数種類。
そういえばゴム手ぶくろは、バナナのアレルギーの原因になる可能性があると、聞いたようなデマなような。どっちだっけ。
某所在住物書きは自室の「手ぶくろ」を見ながら、ぽつり。 最近「それ」を使っていない。
「最後に使ったの、いつだっけ」
もう、かれこれ数年前かもしれないが……
――――――
フィクションファンタジーと現代を組み合わせた、こんな「手ぶくろ」をご用意しました。
前回からの続き物、最近最近の都内某所に、
別の世界からの避難民が、1人密航してきまして、
彼女の世界は数週間前に、諸事情と今回の物語の都合で、滅んでしまったのでした。
『でも、大丈夫。
我々世界多様性機構が、あなたを保護します』
滅びゆく世界からの脱出を助けてくれたのは、
世界間の移住・定住サポートや、
発展途上世界への先進技術導入を推進する、
「世界多様性機構」という団体組織。
彼等は滅んだ世界の人々を、まぁまぁ、実際に救い出せたのはほんのひと握りではありますが、
それぞれの要望に応じて、まだ元気な別の世界へ、
「密航」の形で、送り届けたのでした。
『ただ、気を付けてください。
あなたがたの移住は、「密航」、つまり違法。
世界間渡航を正式に取り扱っている「やつら」……「世界線管理局」の連中には、決して、見つからないようにしてください』
別の世界からの避難民。
見た目が都民と違うので、まず多様性機構の技術で一般の日本人女性っぽく変装して、
母語が都民と違うので、次に多様性機構のチートアイテム「翻訳機」を貸与して。
この翻訳機こそ、今回のお題回収役。
手ぶくろの形をした翻訳機だったのでした。
「ここが、私がこれから生きていく世界……」
避難民さん、スクランブル交差点の雑踏に目を丸くして、人の多さと建造物の密集ぶりを観察中。
翻訳手ぶくろを入れたバッグを大事に抱えて、まず、「翻訳手ぶくろを通さない音」を感じます。
「まぶしい。世界が、こんなに明るい」
暗い、世界が壊れる轟音ばかりが響いていた故郷に比べれば、東京の80〜110デシベル程度なんて、心地良い「平和の音」です。
避難民さんは空を見て、ビルを見て、信号と人々と道路に描かれた白線とを観察して、
あんまりボーっと突っ立っておったので、
大事に抱えていた「翻訳手ぶくろ入りのバッグ」を、ひったくられてしまいました。
「あっ!」
気が付いた時にはもう遅く、ひったくり犯は妙な輪っかが2個付いたアナログな乗り物に乗って、遠く遠くへ逃げた後でした。
「どうしよう、これじゃ、現地民の言葉が」
避難民さん、翻訳機が無いので、誰にもどこにも助けを求められません。
「すいません」
試しに優しそうな現地民に、実は意思疎通ができるんじゃないかと話しかけてみましたが、
「縺斐a繧薙↑縺輔>縲√◎繧後▲縺ヲ菴戊ェ槭〒縺吶°」
やっぱり通訳手ぶくろ無しでは、相手の言葉が全然、一言も、分かりません。
「隴ヲ蟇溘〒縺吶°縲∵舞諤・霆翫〒縺吶°」
優しい現地民は、避難民さんに優しそうな声で話しかけてくれていましたが、
結局、避難民さんのような人々を支援してくれる多様性機構の支援拠点、いわゆる「領事館」の場所は、サッパリ分かりませんでした。
手ぶくろさえあれば。
世界多様性機構から貸与された、翻訳手ぶくろさえあれば、この優しそうな人に助けを求めることも、
パニックになっていきなり話しかけてしまった謝罪も、ちゃんとできるのに。
悔しさともどかしさで、避難者さんがしょんぼりしていた、そのときです。
(あれは、 あぁ、あのひとは……)
優しそうな現地民の、後方20メートルくらいに、
こちらへ向かってくる「世界線管理局」の制服を、見つけてしまったのでした。
『「世界線管理局」の連中には、決して、見つからないようにしてください』
自分をこの世界に逃がしてくれた、多様性機構のひとの言葉を、避難民さんは思い出します。
捕まってはいけない。話しかけられてはいけない。
とっさに、後ろを向いて、全力で走り出しました。
「そこの違法渡航の異世界人、止まりなさい」
世界線管理局の制服を着た人の言葉は、ハッキリした意味をもって、避難民さんに届きました。
走って、はしって、なんとか自分の記憶と運とで、多様性機構の支援拠点、「領事館」にたどり着いた避難民さん。疲れてしまってヘトヘトです。
事情を話して新しい翻訳手ぶくろを貰いまして、
もう盗まれないようにちゃんと手ぶくろをして、
領事館から……
出て街の中に戻ってきたところを、
世界線管理局の人に見つかって、保護されて、
管理局の3食昼寝・おやつ付きの難民シェルターに、ひとまず収容されたとさ。
「『書く習慣』3年目の2025年、シーズン3に向けて、仕込んでおきたいネタがあるワケよ」
要するに、変わらぬ日常の連載風で投稿を続けてきているこのアカウントにも、
1年ごとに何かの「変わったもの」を入れたい。
某所在住物書きは、遅れに遅れた投稿予定時刻を確認して、ため息をひとつ。
久しぶりの17時投稿である。普段は正午から14時にかけての投稿なのに。
「『保全』と『多様性』。『独自性』と『改革』。
新しいギャグパート。……うん」
本格始動は来年だけどさ。 物書きは言う。
それでも「匂わせ」を仕込みたいと、今回のお題に滑り込ませた「このアカウントの一次創作」が、
なかなか、実際に書くと、難しいハナシで……
――――――
新卒ちゃんと一緒に、今年最後の外回りをしてたら、突然「誰か」に絡まれた。
「縺吶>縺セ縺帙s」
言葉が分からない。
見た目は日本人っぽいのに、話す言葉が、英語でもフランス語でも、中国語でも韓国語でもない。
完全に、聞いたことがない言語だった。
「鬆倅コ矩、ィ縺ッ縺ゥ縺薙〒縺吶°」
すごく困ってそうな顔してるのは確かなんだけど、
こっちも、相手が何に困ってるのか分からないし、
頼みの綱の翻訳アプリも、相手の言語を検出できなくて全然役に立たない。
新卒ちゃんは真面目で、優しいから、身振り手振りでどうにか意思疎通しようとしてる。
「繧ォ繝舌Φ繧堤尢縺セ繧後∪縺励◆縲ゅ◎縺ョ荳ュ縺ォ鄙サ險ウ讖溘′蜈・縺」縺ヲ縺セ縺励◆縲りェー縺ィ繧りゥア縺後〒縺阪↑縺上※蝗ー縺」縺ヲ縺励∪縺」縺ヲ」
日本人っぽい人の、完全に日本語じゃない救助要請は、なおも続く。
「蝗ー縺」縺溘↑縲ょ峅縺」縺溘↑」
多分、「困った困った」みたいなことを言ってるんだろうけど、こっちもどうしようもない。
なおもジェスチャーで頑張ってる新卒ちゃんを引っ張って、戦線離脱しようと思ったら、
私達が離れる前に、目の前の人が、
突然恐怖に血相変えて、走って逃げちゃった。
何があったんだろうって、振り返ろうとしたら、
私達の横を「私の推しゲーの推しカプの、左側の方の人」によく似た制服と姿と声の人が、スッて通り過ぎて走っていって、
逃げちゃったひとに、声を張り上げた。
「縺昴%縺ョ驕墓ウ墓ク。闊ェ縺ョ逡ー荳也阜莠コ縲∵ュ「縺セ繧翫↑縺輔>」
「……なるほど」
「推しの左側」によく似た人は、必死に逃げる例の人を、息も切らさず走って追っかけてる。
「アレだ。私の推しゲーの実写PV撮影だ」
そういえば公式が、今月の最初あたりに「今回の一件」と関係ありそうなアップデートを、チラっとほのめかしてた気がする。
私は理解したけど、新卒ちゃんは私を見て、キョトンとして、首をかっくり。深く傾けた。
――…「私が推してるゲームの味方サイドは、『世界線管理局』っていう組織なんだけどね」
今年最後の外回りを終わらせた帰りに、
例の日本人っぽい別言語話者さんのことを、あんまり新卒ちゃんが気にしてるみたいだったから、
ちょっと寄り道して、喫茶店に寄って、
私の推しゲーの宣伝をしつつ、「今回の一件」のことを教えてあげた。
「この管理局の敵対組織が、『世界多様性機構』っていうところなの」
カフェモカ飲みながら私の話を聞いてる新卒ちゃんは、更にきょとんとして、更に首が傾いた。
「ひとつの世界を、独自性を保って、なるべく『変わらないように』保全するのが管理局」
ソシャゲをタップして、私は続けた。
「それに対して、『変わらないものはない』って、
ひとつの世界にたくさんの世界の技術を導入して、そこを発展させていこうってのが多様性機構」
ほら、これ。
ヘルプ画面の用語解説を、新卒ちゃんに見せた。
「多様性機構は、優良物件な世界に、異世界の移民難民を違法に連れて来るの」
「連れて来られた異世界の人、どうなるんですか」
「そのへんを、今回の大型アップデートで深堀りしていくっていうウワサ。多分全然話が通じなくて、さっきの私達みたいになるんだと思う」
「困ってた人を、追いかけてたのが、機構の人?」
「違う違う。管理局の方。違法渡航許さない方。
多分どこか、私達が気づかなかった場所で、カメラ回してPV用の動画撮ってたんだと思う」
「動画撮るなら、事前に私達に許可取りません?」
「私、アプリユーザーだもん。不要不要」
「そうじゃなくて……」
なんだろう。なんて言えば良いんだろう。
新卒ちゃんは真剣に、さっき会った別言語話者さんと「私の推しゲーのコスプレさん」のことを悩んで、悩んで、結局答えが出てこない。
「ホントに居るワケないじゃん。異世界人なんて。
令和だよ。科学万歳の現代だよ」
「そうですけど……」
どうせ明日の朝にPVが発表される予定だから、写ってたら報告するよ。
私はそう言って、会話を切り上げて、自分のフラペチーノを飲み干した。
仕事が終わって寝て起きて、朝に私の推しゲーのPVが予定通り公開されたけど、
写ってたのは実写PVでもなければ、「異世界の移民が現地の人に話しかける」って構図でもなく、
じゃあ、
私達が昨日出会った「別言語話者さん」と「推しカプの左側によく似た人」は誰だったんだろうって、
最終的に、大きい謎だけが残った。
科学万歳の現代だけど、
怪奇とか、不思議とかは、まだ健在らしい。