「冬『が』休み、っつーのを考えついたんだわ」
今年も残すところ数日。某所在住物書きは毛布にミカンで、コタツに入るのも面倒くさく、ベッドでぬくぬく。スマホなどいじっている。
「冬の長期休暇が『冬休み』。それは分かるさ。
『冬』の概念が行方不明、『冬』が仕事サボって休んでるってのも、『冬休み』じゃねぇかなって」
どうだろう。名案だと思ったんだ。物書きは言う。
「……なお、うまく文章化できなかったワケで」
去年なら書けたかもしれない。
たしか雪が極端に少ない豪雪地帯があったから。
――――――
「冬休み」を「年末休み」と言い、要申請の立場になってから、はや◯◯年の物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」なるフィクションファンタジーな職場があり、
そこは異世界渡航の申請を受理するとか却下するとか、滅んだ世界から流れ着いたチートアイテムが他の世界に悪さをしないよう回収するとか、
そういう、厨二ちっくな業務を、真面目にやっている団体組織なのでした。
管理局そのものに「相対的時間」は存在しません。
でもそれが無いと、局員は昼食も昼休憩も、定時帰宅も夏季休暇も、冬休みすら取れないので、
時間の無い世界に「時間」をつかさどるチートアイテムで、人工的な朝と夜と、人工的な1年とを、
それぞれ、付与しておったのでした。
今日の管理局は、多くの部署で「仕事おさめ」。
現存する世界から通勤している局員は故郷に帰り、
滅んだ世界出身の局員は、難民シェルターに用意された6LDK+バルコニーの自宅でリラックス。
あるいは、シェルターは「拡張空間」の付与が為されてバチクソに広いので、シェルター内で4泊5日な長期旅行すらできるのでした。
ところでそんな、冬休み初日で警備が手薄の世界線管理局に、敵対組織の新人スパイがひとり。
世界多様性機構といいます。
管理局の難民シェルターは、いつわりの世界、作られた自由、管理された平和。
そこにとらわれた難民たちを救い出して、「本当の世界」へ逃がしてあげようという魂胆なのでした。
難民を保護する管理局と、難民を開放したい機構。
完全に正反対、真逆の組織です。
なかなか善悪つけ難い関係なのです。
さて。滅んだ世界の難民が捕まっているシェルターの場所を知りたい、多様性機構の新人スパイです。
ひとまず管理局の中の、「冬休み」が存在しない、
「法務部執行課 実働班特殊即応部門」の職員に化けて、その部門の部長のところへ潜入。
「部長。先日収容された難民に対して、開放希望の方が見えて、既にシェルターに向かっています」
半分事実です。だって機構の新人スパイ、難民を管理局から開放したいのです。
「対応は、どのようにしましょう?」
さぁ。外部者に難民シェルターの場所を知られるのは困るだろう。 新人スパイは内心ニヤリ。
管理局の冬休み中にシェルターが荒らされたとあれば、冬休み期間中に勤務していた部署の責任。
必然的に、部長みずからシェルターへ行って、
この「開放希望の方」を排除しようとするだろう。
と、思っていたのですが。
どうやら機構の新人スパイの変装は、管理局の部長さんにガッツリとバレていたようです。
「お前が勝手に引き込んできたんだろう。その『開放希望の方』とやら?」
マグカップに赤味噌の味噌汁を入れて、一味など2振り。特殊即応部門の部長さん、言いました。
「ウチは今、年末の冬休みという設定だ。
異世界難民の話し合いなら『年明け』にしてやるし、難民保護担当の部署にもハナシを付けといてやるから。今日は帰ってくれ」
そもそも部署が違うんだよ。ウチじゃない。
部長さんは大きなため息ひとつ吐いて、新人スパイにレトルトの味噌汁を2個、差し出しました。
「なんです。これ」
「お前のところも、どうせ『今』は冬休みだろう」
「何のハナシです」
「お互い冬休みの期間中も仕事に駆り出されて災難だよな、というハナシだ。
難民シェルターに向かってるっていうヤツを、ここに呼び出して、そいつを飲んだらすぐ帰れ」
「は……?」
「2個で足りるか?何人で来た?」
「えっ」
「3人?4人?」
「ひ、ひとり、です」
「じゃあ1個返せ」
「……」
任務失敗で多様性機構に帰るのが怖いなら、年明けにウチで雇用できないか相談してやる。
とりあえずシェルターの空き家に籠城でもしてろ。
法務部の部長さん、そう言って新人スパイから1個、レトルト味噌汁を取り返すと、
味噌汁飲んでため息吐いて、それっきり。新人スパイに背を向けて、仕事に戻ってしまいました。
(今なら無力化できるのでは?)
閃いた機構の新人スパイ、冬休み業務中の部長を気絶させようと、懐からナイフを、
取り出したところ、背後から肩をポンポン、誰かに叩かれまして。
振り返ればダウンコートだの着る毛布だの、じゃんじゃか厚着に厚着を重ねた若い女性が、
にっこり。新人スパイを見つめておったとさ。
12/29/2024, 4:35:46 AM