かたいなか

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「去年は『手ぶくろを買いに』をネタにしたわな」
ゴム手ぶくろ、毛糸の手ぶくろ、猫の靴下・手ぶくろにスマホ対応手ぶくろ。「手ぶくろ」も数種類。
そういえばゴム手ぶくろは、バナナのアレルギーの原因になる可能性があると、聞いたようなデマなような。どっちだっけ。
某所在住物書きは自室の「手ぶくろ」を見ながら、ぽつり。 最近「それ」を使っていない。

「最後に使ったの、いつだっけ」
もう、かれこれ数年前かもしれないが……

――――――

フィクションファンタジーと現代を組み合わせた、こんな「手ぶくろ」をご用意しました。
前回からの続き物、最近最近の都内某所に、
別の世界からの避難民が、1人密航してきまして、
彼女の世界は数週間前に、諸事情と今回の物語の都合で、滅んでしまったのでした。

『でも、大丈夫。
我々世界多様性機構が、あなたを保護します』

滅びゆく世界からの脱出を助けてくれたのは、
世界間の移住・定住サポートや、
発展途上世界への先進技術導入を推進する、
「世界多様性機構」という団体組織。
彼等は滅んだ世界の人々を、まぁまぁ、実際に救い出せたのはほんのひと握りではありますが、
それぞれの要望に応じて、まだ元気な別の世界へ、
「密航」の形で、送り届けたのでした。

『ただ、気を付けてください。
あなたがたの移住は、「密航」、つまり違法。
世界間渡航を正式に取り扱っている「やつら」……「世界線管理局」の連中には、決して、見つからないようにしてください』

別の世界からの避難民。
見た目が都民と違うので、まず多様性機構の技術で一般の日本人女性っぽく変装して、
母語が都民と違うので、次に多様性機構のチートアイテム「翻訳機」を貸与して。

この翻訳機こそ、今回のお題回収役。
手ぶくろの形をした翻訳機だったのでした。

「ここが、私がこれから生きていく世界……」
避難民さん、スクランブル交差点の雑踏に目を丸くして、人の多さと建造物の密集ぶりを観察中。
翻訳手ぶくろを入れたバッグを大事に抱えて、まず、「翻訳手ぶくろを通さない音」を感じます。
「まぶしい。世界が、こんなに明るい」
暗い、世界が壊れる轟音ばかりが響いていた故郷に比べれば、東京の80〜110デシベル程度なんて、心地良い「平和の音」です。

避難民さんは空を見て、ビルを見て、信号と人々と道路に描かれた白線とを観察して、
あんまりボーっと突っ立っておったので、
大事に抱えていた「翻訳手ぶくろ入りのバッグ」を、ひったくられてしまいました。

「あっ!」
気が付いた時にはもう遅く、ひったくり犯は妙な輪っかが2個付いたアナログな乗り物に乗って、遠く遠くへ逃げた後でした。
「どうしよう、これじゃ、現地民の言葉が」
避難民さん、翻訳機が無いので、誰にもどこにも助けを求められません。

「すいません」
試しに優しそうな現地民に、実は意思疎通ができるんじゃないかと話しかけてみましたが、
「縺斐a繧薙↑縺輔>縲√◎繧後▲縺ヲ菴戊ェ槭〒縺吶°」
やっぱり通訳手ぶくろ無しでは、相手の言葉が全然、一言も、分かりません。
「隴ヲ蟇溘〒縺吶°縲∵舞諤・霆翫〒縺吶°」
優しい現地民は、避難民さんに優しそうな声で話しかけてくれていましたが、
結局、避難民さんのような人々を支援してくれる多様性機構の支援拠点、いわゆる「領事館」の場所は、サッパリ分かりませんでした。

手ぶくろさえあれば。
世界多様性機構から貸与された、翻訳手ぶくろさえあれば、この優しそうな人に助けを求めることも、
パニックになっていきなり話しかけてしまった謝罪も、ちゃんとできるのに。
悔しさともどかしさで、避難者さんがしょんぼりしていた、そのときです。

(あれは、 あぁ、あのひとは……)
優しそうな現地民の、後方20メートルくらいに、
こちらへ向かってくる「世界線管理局」の制服を、見つけてしまったのでした。

『「世界線管理局」の連中には、決して、見つからないようにしてください』
自分をこの世界に逃がしてくれた、多様性機構のひとの言葉を、避難民さんは思い出します。
捕まってはいけない。話しかけられてはいけない。
とっさに、後ろを向いて、全力で走り出しました。

「そこの違法渡航の異世界人、止まりなさい」
世界線管理局の制服を着た人の言葉は、ハッキリした意味をもって、避難民さんに届きました。

走って、はしって、なんとか自分の記憶と運とで、多様性機構の支援拠点、「領事館」にたどり着いた避難民さん。疲れてしまってヘトヘトです。
事情を話して新しい翻訳手ぶくろを貰いまして、
もう盗まれないようにちゃんと手ぶくろをして、
領事館から……
出て街の中に戻ってきたところを、
世界線管理局の人に見つかって、保護されて、
管理局の3食昼寝・おやつ付きの難民シェルターに、ひとまず収容されたとさ。

12/28/2024, 4:06:10 AM