かたいなか

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12/18/2024, 4:11:05 AM

「まとまりの無い話、目的・結果の無い話、バラバラした話、要領を得ない、まとまりが無い、しかと定まらない、どうでもいい……」
『取り留めも無い』、と書くのか。
某所在住物書きは、今回の題目の、そもそもの意味をネットで調べて気がついた。
俺の執筆スタイルそのまんまじゃねぇか。
「……いや、一応、3月1日の初投稿から、連載風の続き物モドキは貫いけるけどさ。けどさ」

結局、ストーリー進行なんざ、天気と空と年中行事とエモネタで大半を占めてるっぽいこのアプリの、出題されるお題によるし。
物書きはカキリ、小首を鳴らし傾ける。
「で、今日はその、毎日投稿してる『とりとめもない話』に、拍車でもかけろって?」

――――――

「とりとめもない話」にまつわる小話を3個。

1個目の舞台は聴取室。
「ここ」ではない、どこかの世界、どこかの職場。
白一色、LED照明、それからマジックミラーが設置されているであろう「違和感」。
置かれているのは簡素なテーブルと2個の椅子。
1人、手を縛られた男が座っており、前だけ見るように背中と首を固定されている。

カチャリ。 静かにドアノブが動き、男が入ってきた。仮のビジネスネームを「カラス」という。
「回して。もう撮って」
マジックミラーの先への指示だろう。
カラスは先客に向かい合って座った。
「どの部署に潜ってる、何人の敵対組織に、お前が管理局の情報をリークしたのか。知りたいんだよね」
椅子に固定されている先客は何も話さない。
ただ黙して、カラスをにらみつけている。

先客は知っていたのだ。この男には、「何も」、「ひとつも」、「反応してはいけない」。
頬の動きひとつ、眉のピクつきの一度、小さな瞳の動きの変化が、彼への情報提供となるのだ。

「そんなに緊張、しないでよ」
カラスの声は優しいが、先客に向ける目は観察者。
「ちょっと、ハナシをしたいだけだよ」
先客の表情をじっと見つめて、カラスが言った。
「とりとめもない話だよ。大丈夫だよん。

3、いや1月2日から、正式に局に復帰することになったの。4年ぶり、かな?違う5年ぶり?
環境整備部の皆は元気にしてる?法務部に居た頃、草むしりを手伝ったの、懐かしいなぁ。経理部のスフィにゃうと、広報部の3人、元気にしてる?

……『3』と『環境整備部』に強く反応したね。
誰だろうなぁ。環境整備部の、敵性スパイは」

――…場面が変わり、同時刻。
別の「とりとめもない話」の小話の2個目。
カラスが聴取室で尋問を為している間のこと。

缶コーヒーを手に持った男と、タバコを吸っている男が、それぞれ会話をしている。
それこそ「とりとめもない」話を。

「変な話を、しても良いですか」
缶コーヒーの方が言った。
「1月1日から、正式に復帰なさるカラス前主任。
先にウサギへの聴取だけ、頼んでいるのですが、
……昔のカラス前主任と会ったことのない局員から、とても好かれて、すごく人気なんですよ」

「あいつが『好かれる』のは『当然』だろう?」
何をいまさら。タバコの方が答えた。
「ビジネスネーム、カラス。法務部で一番、裏切り者を見つけ出すのが得意な男。通称『歯車』。
相手に好かれるように話し、相手が好む仕草をする。魔法の尋問と魂からのサルベージが効かない相手に、科学的な表情分析で無機質に、無感情に、必要な情報をピンポイントで抜いていく」

世界の運行を支える歯車が俺達世界線管理局なら、
その世界線管理局のバグを除く歯車が、あいつ。
魔法で拷問の「スフィンクス」に、魂へ強制尋問の「先代キツツキ」、表情から分析する『先代カラス』――それが「昔のあいつ」だろう。
タバコの方は煙を吐いて、缶コーヒー側の話題に一切興味・関心が無い。新しい情報ではないのだ。

「それがですね」
コーヒーを飲み終えた方は、狐につままれた表情。
「最近、菓子作りなど、始めたらしいんですよ」
私もさっき、貰ったんです。
コーヒーの方がポケットから出したのは、1個の丁寧に作られたまんじゅうであった。

「ススキまんじゅうだそうです。
あの、無機質で、平坦で、仕草も抑揚も話題も計算づくだったカラス前主任が、手製の菓子です」
「は?」
「しかも、美味いんですよ」
「はぁ………??」

――…最後は本当に、完全に、とりとめもない小話。
上記2個とは違う世界、最近最近の都内某所、某アパートの夜である。
部屋の主を藤森といい、急須の中の出がらしに、鼻を近づけている。新しく封切ったそば茶である。

「やはりチキンラーメンだ」
大きく、首を傾ける。
「チキンラーメンだな……」
馴染みの茶葉屋から購入した「子狐印の絶品そば茶」。淹れた後の残り香が、某袋麺なのだ。

「どしたの?」
コタツでスマホをいじる来客者は藤森の後輩。
「チキンラーメン?」
今月で離職する同僚の菓子が、恋しくて恋しくて、今まで作ってもらったクッキーだの、まんじゅうだのの画像を摂取しているのだ。

「いや。なんでも。多分こちらの……」
多分こちらの、勘違いさ。 藤森は言いかけて、
「……んん……」
再度香りをかぎ、首を傾ける。
後輩のところへ茶を持っていき、ただ静かに、平和に、夜が過ぎていったとさ。

12/17/2024, 4:16:03 AM

「風邪引いて、看病されるネタが2件。
熱中症で倒れて、涼しい部屋で休むネタが1件、
上司が風邪の仮病使うネタが、1件。
……他に何か書いたかな」

結構これまで、去年の「風邪」のお題も含めて、ヨリドリミドリ書き尽くした感あるんだが?
某所在住物書きは、ショウガと鶏肉のスープでふーふー。体を温めながら呟いた。
アメリカでは風邪を引くと、チキンスープが話題に出るらしい。 日本ならば、おかゆだろうか。

「……そうだ。チキンスープだ」
風邪そのものの物語は書いたが、風邪の際に体を温める食い物の物語を書いていなかった。
「来年に残しとこっと」
来年だ。来年の分も、残しておかねば。物書きはメモに「チキンスープ&おかゆ」と書いて、
まぁ、まぁ。1年後、それを忘れるのだろう。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
その内のおばあちゃん狐は、ツバメやルリビタキ、ロシアンブルーやコリーなんかが居る職場で、
キツツキとして、昔仕事をしておったのでした。

なんだかヘンテコリンな設定ですね。
大丈夫。どうせフィクションのファンタジーです。
細かいことを気にしてはなりません。

さて。 その日、狐のおばあちゃんは、
人間の巫女さんに化けて、政治家の悪い先生方から託宣料1000万円をふんだくり、
それを元手に、お金が苦しい参拝者さんや信者さんに向けた無料茶飲み回の準備をしておったところ、
昔の職場から、珍しく、荷物が届きました。

それは、昔の相棒が、おばあちゃん狐のお孫ちゃんのために編んでくれた、ネックウォーマーでした。
『人間に化けてお出かけするとき、体を冷やして風邪など引かぬよう、これを付けてね』
おばあちゃん狐の相棒、野良ばーちゃんのメモが、手作りネックウォーマーと一緒に入っておりました。

「どうだろうねぇ?」
おばあちゃん狐、昔の相棒の変わらぬ優しさを、
しかし、ちょっと疑問形で受け取ります。
「そもそもあの末っ子が、『ネックウォーマー』の言葉と使い方を、理解できるかどうか」

まぁ、預けてみましょ。 コンコン、こやこや。
おばあちゃん狐はネックウォーマーを、
縁側で日向ぼっこしている末っ子の孫狐に、
持っていってやったのでした。

「なんだ。なんだこれっ」
場面が変わって、日向ぼっこなどしておった子狐です。大好きなおばあちゃん狐が、コンコン子狐に妙な「輪っか」をくれました。
「あったかい。あったかいけど、なんだこれっ」
おばあちゃん狐は子狐に、野良ばーちゃんのメモも見せてくれましたが、子狐は子供ですので、あんまり難しい文字は分かりません。
だけど本能で、輪っかの穴の中に入りたくて、うずうずして、ひとまず頭を突っ込んでみたところ、
あらすてき。頭が、顔が、狐耳がポカポカ。

「あったかい。 あったかい」
そのままズンズン、輪っかの中を進んで進んで、
気がつけば、おばあちゃん狐が子狐に持ってきてくれたネックウォーマーは、
末っ子子狐の狐の体に丁度良い、お手々とあんよまで包んでくれる、腹巻きになっておりました。
編み方がゆるふわだったので、丁度、スポン!
お手々もあんよも、網目から出せたのです。

「ノラばーば、はらまき、つくってくれた!」
コンコン子狐は大喜び。
「おばーば、おばーば。 ノラばーばが、キツネに、はらまきつくってくれた。あったかい!」
おばあちゃん狐としては、「まぁそうなるよね」の感想。ネックウォーマーの言葉と使い方を、やっぱり子狐、分からなかったようです。

「外に出るとき、体を冷やして風邪を引かないように、作ってくれたんだよ」
おばあちゃん狐が子狐に、コンコン、教えてやりました。間違ってはいません。事実ではあるのです。
「お礼のお手紙を書いたらどうだい」
おばあちゃん狐が言いました。
「おばーばがお礼と一緒に、届けてあげるから」
コンコン子狐は尻尾を振って、すぐ自分の部屋に走っていき、画用紙とクレヨンでお返事を、
ぐりぐり、ぐりぐり。描き始めたとさ。

12/16/2024, 7:06:11 AM

「雪が無いと食えないが雪室リンゴ。
雪が無いと楽しめないのが屋外スキー場。
雪が無いと作れないのが雪像……他には??」
数ヶ月ぶりの16時台投稿である。
某所在住物書きは酷く「雪」に手こずって、書いて消して書いてを繰り返した。

去年もそうであった。雪はもう、「既に降った」のだ。ニュースを観れば分かる。
雪を待つどころか、例年以上の雪が、ブーストかまして先に来た地域もあったとか、なんとか。

「東京の雪??」
では、「雪を待つ」で待っているのは、都会の雪だろうか――物書きは閃いて、しかし首を横に降った。
都会の雪は交通麻痺だ。交通障害に直結するのだ。

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主の名は藤森だが、
お題回収役はその後輩で、高葉井といった。
高葉井は藤森の部屋で、椅子付きテーブルコタツに座り、みぞれ鍋の完成を待っている。

高葉井は、右手にティッシュ箱、左手にはスマホ。
その日撮影した動画を、何度も何度も、何度もリピート視聴して、絶賛号泣中。
短期間の付き合いだったとはいえ、彼女の同僚が今月末で離職するのだ。

その同僚、名前を付烏月、ツウキというのだが、
菓子作りがトレンドで、
作って余った菓子を職場に持ってきて、
それが高葉井勤務の支店で人気も人気、大人気。
初めて貰ったのは初春のレモンパイ。
至極美味であったのを、高葉井はよく覚えている。

来月から職場で食えなくなるのだ。
来年の職場で待ってたって、レモンパイも、スノーボールクッキーも、白雪のホットチョコも、
何も、なにも、出てこなくなるのだ。

「うぅ、付烏月さん、ツウキさぁん」
えっぐ、ひっぐ、ぐしゅぐしゅ。ちーん。
涙の水たまりを生成しながらリピート視聴しておったのは、付烏月がその日持ってきた、「『お世話に鳴なりました』のアイシングレモンケーキ」。
画面の上で、男が茶こしを振っている。
茶こしからは白雪の、上等な粉砂糖が降っている。

「あの、高葉井」
鶏手羽元とショウガのみぞれ鍋をコタツに持ってきた藤森は、複雑な表情で、唇が真一文字。
付烏月は藤森の友人。 後輩は、付烏月が藤森の部屋に時折遊びに来ることを忘れているらしい。
「高葉井。コウハイ?」
「わだじ、付烏月さんのごど、忘れなうぁああん」
「聞こえてるか、コウハイ ヒナタ……??」
「ヅウギざぁぁぁぁぁぁん!!

お言葉に甘えて、私、来年レモンパイ食べに付烏月さんの職場に押し掛けるからぁぁぁぁ……」

――…高葉井が視聴している動画は、以下のように撮影されたものであった。

「ちょーっと早いけど、 お世話になりました〜」
時はさかのぼり、場所も変わって、
高葉井が勤務している職場の支店、昼休憩。
藤森の友人にして高葉井の同僚の付烏月は、
支店の冷蔵庫から、長方形の箱を取り出し、
美しいアイボリーで色付けされた、レモン味のアイシンクケーキをお披露目した。

「残り2週間、短いけど、どーぞよろしく」
網目の細かい茶こしを手に、中には白雪の粉砂糖を入れて、 それじゃあ、かけるよと。
高葉井は涙を流して動画を撮っている。1秒一瞬も逃さぬように、十数秒前からスマホを向けている。
「つっても、クリスマスケーキとか、仕事おさめケーキとか、まだいっぱい持ってくるけどね〜」
高葉井にとって、スピーチは動画で再視聴できるので、二の次。粉砂糖の「雪」を待っているのだ。

「ほい。初雪ー!」
パタパタ、ぱたぱた。
そこそこの高さから茶こしが振られ、アイボリーのレモンケーキに薄く白雪が積もる。
「雪待ちのレモンケーキ。おまちどーさま」

切って、皿にのせて、紅茶と一緒にめしあがれ。
高葉井は撮影の終了タップも忘れて、
号泣六割、嗚咽四割の音声をスマホに登録中。
「今年で会えなくなるワケじゃないんだからさ」
これが、高葉井が冒頭で視聴していた動画。
5分の動画の1割が、粉砂糖の雪を待つ高葉井の、哀愁と悲痛ダダ漏れな手ブレであったそうな。
「俺、前職の私立図書館に戻るだけだよ。レモンパイ食べたくなったら、図書館においでよ。
ウチの図書館、喫茶室があるの。待ってるよん」

「行く。私、パイ食べに、毎日図書館に行く」
「それはちょっと困るぅ」
「私、付烏月さんのこと、絶対忘れないからぁ」
「だから、あのね、今年で会えなくなるワケじゃ」
「料金は同僚割引の適用おねがいしまぁす」
「しないけど――?」

12/15/2024, 5:03:46 AM

「去年は、『イルミネーション輝く商店街で、道路の段差に足取られて、あやうくタマゴを割るとこだった』ってハナシを投稿した、らしい」
今となっちゃ、もうサッパリ記憶にねぇけどな。
某所在住物書きは今日も今日とて、投稿の初案を消して次を書き、また消して書いてを繰り返した。

アプリ「書く習慣」は、年中行事や季節もの、恋愛系、エモい言葉の出題率が、比較的高い。
今回など「イルミ輝く夜に恋人同士で手を取り合って」だの、「イルミ輝く夜景をふたり寄り添って」だの、良い雰囲気のハナシは色々出てくることだろう。
書けぬ。 この物書き、それが不得意なのだ。

「……来年のイルミどうしよう」
物書きが途方に暮れるのは毎年恒例。 それこそクリスマス前から飾られるイルミのように。

――――――

とうとう、ウチの職場、ウチの支店にも、「給料に加算されない12月の大仕事」の「最初」が来た。
クリスマスのイルミ装飾だ。玄関飾って、暗くなり始める頃から終業時刻まで、ってやつだ。
隣のお店も向かい側のお店も、それぞれキレイに飾ってるから、そろそろウチもやらなきゃいけない。

本店に勤めてた頃は、総務課の連中がもっと早い時期に、倉庫からLEDのロープ持ってきて、
電源と繋げて、一応最近はGPS追跡タグなんかこっそり付けてみたりして、それで作業してた。
今、私は支店勤務だ。
あと数ヶ月で本店に、多分、たぶん戻るけど、少なくとも今年度はこの支店の従業員だ。
自分たちでやらなきゃいけない。全部、ぜんぶ。

……本店の連中どうせヒマなやつ多いんだから、
こういうときに応援に来れば良いのに。
(ところで:自分が本店に居た時の気持ちを述べよ)

「何が面倒ってさぁ」
するする、するり。 お客様入口の上に、あらかじめ設置されてるフックに、ロープをかけて伸ばす。
「これ、クリスマス終わったら、すぐに新年の準備しなきゃいけないってハナシだよね」
今は少し設定をいじれば、プログラムひとつで、
緑&赤のクリスマスイルミネーションから、白&赤の新年イルミネーションになる。
そこに関しては、文明の進歩の恩恵だと思う。

「ツウキさん。付烏月さん」
私が引っ張ったロープを片っ端から固定してくれてる、「今年度限定」の同僚に、話を振った。
「付烏月さんもさぁ、図書館に居た頃、こういうのやってたの。イルミの飾りつけとか」

「ウチはイルミより、紙でチョキチョキだよん」
付烏月さんは、本店に勤めてる私の先輩の、「諸事情」が理由で、ウチに転職してきた。
いわゆる恋愛トラブルだ。 先輩の元恋人が、ウチの職場に就職してまで先輩を追っかけてきた。
付烏月さんは、その元恋人に対する「トラップ」を、みずから買って出たのだ。

「図書館だから、予算少なくてさー。去年のを使い回したり、廃棄本のカバーを有効活用したり」
それに比べりゃ、イルミの分のお金を使える「ここ」は、キレイな装飾ができると思うよー。
付烏月さんはそう言って、笑った。

「ところでさ。後輩ちゃんの先輩、『附子山』の恋愛トラブルも、無事解決したじゃん」
「そだね」
「俺、つまり、恋愛トラブルのピンチヒッターの、任務がちゃんと完了したワケじゃん」
「そだね」

「予定早めて今年で図書館に帰るぅ」
「そだn。

……。 はい?」
「俺、図書館に帰るぅ」
「はい……??」

「あのね、そもそも、藤森の元恋人さんが、
俺が『附子山』を名乗って罠張ることで、『この職場に勤めてた附子山は、自分の恋人じゃなかった』って勘違いさせるのが、目的だったワケ」
なんでもないよ。ただの転職だよ。
付烏月さんが言った。
恋愛トラブル解決が、そもそも5月25日だから、随分昔のハナシだけどね、って。

何が困るって、いろんなことが困る。
この「今年度限定同僚」の付烏月さん、お菓子作りが最近のトレンドで、よく職場に小さいスイーツを持ってきてくれてたのだ。
お客さんからの評判も良かった。 付烏月さんのお菓子を目当てに店に来る常連さんさえいた。
なにより
私のレモンケーキが(いやお前のじゃない)
チョコモンブランが(だから、お前のじゃない)
クッキーとラングドシャと、あと、なんだっけ……

「年イチくらいで、お客さんとして来るよん」
はいはい、懇願チワワみたいな顔しないの。
付烏月さんはイルミロープを固定しながら、いつもどおりの雑談をする抑揚で言った。
「なんなら後輩ちゃん、図書館来れば、俺居るじゃん。たまに、喫茶室にケーキ食いにおいでよ」
私はイルミ装飾の手が進まない。
ただ、口を固く閉じて、富士山みたいに眉上げて、
ああ、おなかが、舌が、段々ケーキの気分に。

「むこうで、なんのおしごと、するの」
言いたいことも出てこなくて、ギリギリ聞けたのは、付烏月さんの向こうでの仕事内容。
んー、って首を傾けて、付烏月さんは笑った。

12/14/2024, 4:06:15 AM

「『愛』を『注ぐ』って何だよって、去年もたしか、あれこれ悩んで途方に暮れたんよ……」
たしか去年は、「向こうは恋を求めたが、私が注いだのは愛でした」みたいなハナシを書いた。
某所在住物書きは、あらかじめ用意していた物語を、消して、書いて、消して、書いて。
今回のお題ひとつに対して、「これを詰め込みたい」の文量が、想定以上に多かったのだ。

「一旦投稿して、あとで削り出しかな」
2400字を2200字に、2000字程度に。
途中でスリム化を断念した物書きは、愛が注がれているであろう文章の投稿を、見切り発車した。

――――――

架空のゲーム、架空の職場に関するおはなし。
むかしむかし、数年前か十数年前か、
いっそ時間など、「世界線管理局」には監視と整備の対象でしかないかもしれません、
新しいスフィンクスと、新人のドワーフホトが、それぞれ新人研修を終えて、着任しました。

無毛猫のビジネスネームを冠するスフィンクス。
今で言う「着る毛布」を何枚も重ねて、お布団に籠城し、室温25℃の「寒さ」に耐えながら、
管理局の経理部に乗り込んできたスパイだの悪者だのから、 スポン、スポン。
魂をぶっこ抜き、適当に漬物容器だの果実酒ボトルだのに押し込んで、輝きを愛でておりました。

ある日、寒がりスフィンクスのもとに、
ドワーフホトのビジネスネームを持つ同期が、不思議なデ■ポンを持ってきて言いました。
「ずーっとお布団の中で、ヒマそうだなぁって。
丁度役に立ちそうな収蔵品見つかったから、
スフィちゃん、あげるぅ」

それは、今は滅んだ世界から丁度その日回収されてきた、自意識が有るんだか無いんだか分からぬ、しかし魂を電池にして動くミカンでした。
ドワーフホトは収蔵品保護課の所属。
情報登録が終わった物を、持ってきたのです。

ドワーフホトから自走式デコポ■を受け取ったスフィンクスは、それはそれは、もう大興奮!
「おお、おお!こいつ、俺様の命令を聞くぞ!」
自走式ポンデコは、よくよくスフィンクスの言うことを聞いて、身の回りの世話と警護を始めました!
「よし。おまえは、俺様の宝物としよう!」

すっかりデコポ■――商標登録の関係があるので、ここではポンデコとでも言っておきましょう、
ともかくドワーフホトが寄越してきた宝物を気に入ったスフィンクスです。
その日のうちにポンデコの、子分の「しらぬい」を24個、愛を注いで作りました。

自走式ミカンが24+1個に増えたので、買い出しから書類提出、悪者の拘束まで、なんでもござれ!
スフィンクスはベッドの上にいながら、室温26℃の「寒さ」の中に出ていくことなく、快適に仕事ができるようになりました。

翌日スフィンクスが、スポン、スポン。
相変わらず経理部に進入してきた悪者の魂をぶっこ抜き、その辺の保温水筒にブチ込むだけの簡単なお仕事を淡々とこなしておると、
ドワーフホトが、その日情報登録が完了した特別な「日向夏」を持ってきました。

たまたま、昨日と同じ「ミカン型」でしたが、ドワーフホト、細かいことは気にしてません。
触ると温かかったし、とても強い魔力を秘めておったので、ホッカイロに丁度良いと思っただけなのです。
「スフィちゃーん。ホッカイロ持ってきたよぉ」

それは、昨日の不思議な不思議なポンデコと同じ世界から回収されてきた、不思議な日向夏。
あらゆる「夏」、「太陽」、「火」、「暖かさと熱さ」、「完全と再生」の概念とチカラを詰め込んだ、要するにとってもすごいミカンでした。

「またミカン持ってきた。好きなのか?」
ドワーフホトから太陽と夏の象徴な日向夏を受け取ったスフィンクス、秘められた温かさと魔力に大満足!
この日向夏もまた、ポンデコとしらぬい同様、スフィンクスの宝物に認定しました。
「そんなにミカンが好きなら、俺様がその辺にブチ込んでる魂の容れ物もミカンにしたら、喜ぶかな」

すっかり日向夏を気に入ったスフィンクスです。
日向夏の温かさと内包された魔力を使って、
電力不要、拡張空間内包の、ハイパーコタツを作製し、コタツのコアとして搭載しました。

更にスフィンクス、今まで漬物容器だの保温ボトルだのに、適当にブチ込んでいた魂たちを、
美しい魂と、別に美しくない魂と、
それからとびっきり美しい魂に選り分けて、
とびっきり美しい魂だけを集めて、
とびっきりの愛を注ぎ、美しいミカン型の「魂の容れ物」をこしらえました。

美しい魂で作られた、美しい魂だけを入れておくための美しいミカンは、透き通った水晶の輝き。
「よし!おまえを、水晶文旦と名付ける!」
クリスタルミカンの美しさに満足したスフィンクス。きっと、ドワーフホトも喜ぶでしょう。
ニッコリ笑って、誇らしげに、クリスタルミカンもまた宝物として、認定したとさ。

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