かたいなか

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「まとまりの無い話、目的・結果の無い話、バラバラした話、要領を得ない、まとまりが無い、しかと定まらない、どうでもいい……」
『取り留めも無い』、と書くのか。
某所在住物書きは、今回の題目の、そもそもの意味をネットで調べて気がついた。
俺の執筆スタイルそのまんまじゃねぇか。
「……いや、一応、3月1日の初投稿から、連載風の続き物モドキは貫いけるけどさ。けどさ」

結局、ストーリー進行なんざ、天気と空と年中行事とエモネタで大半を占めてるっぽいこのアプリの、出題されるお題によるし。
物書きはカキリ、小首を鳴らし傾ける。
「で、今日はその、毎日投稿してる『とりとめもない話』に、拍車でもかけろって?」

――――――

「とりとめもない話」にまつわる小話を3個。

1個目の舞台は聴取室。
「ここ」ではない、どこかの世界、どこかの職場。
白一色、LED照明、それからマジックミラーが設置されているであろう「違和感」。
置かれているのは簡素なテーブルと2個の椅子。
1人、手を縛られた男が座っており、前だけ見るように背中と首を固定されている。

カチャリ。 静かにドアノブが動き、男が入ってきた。仮のビジネスネームを「カラス」という。
「回して。もう撮って」
マジックミラーの先への指示だろう。
カラスは先客に向かい合って座った。
「どの部署に潜ってる、何人の敵対組織に、お前が管理局の情報をリークしたのか。知りたいんだよね」
椅子に固定されている先客は何も話さない。
ただ黙して、カラスをにらみつけている。

先客は知っていたのだ。この男には、「何も」、「ひとつも」、「反応してはいけない」。
頬の動きひとつ、眉のピクつきの一度、小さな瞳の動きの変化が、彼への情報提供となるのだ。

「そんなに緊張、しないでよ」
カラスの声は優しいが、先客に向ける目は観察者。
「ちょっと、ハナシをしたいだけだよ」
先客の表情をじっと見つめて、カラスが言った。
「とりとめもない話だよ。大丈夫だよん。

3、いや1月2日から、正式に局に復帰することになったの。4年ぶり、かな?違う5年ぶり?
環境整備部の皆は元気にしてる?法務部に居た頃、草むしりを手伝ったの、懐かしいなぁ。経理部のスフィにゃうと、広報部の3人、元気にしてる?

……『3』と『環境整備部』に強く反応したね。
誰だろうなぁ。環境整備部の、敵性スパイは」

――…場面が変わり、同時刻。
別の「とりとめもない話」の小話の2個目。
カラスが聴取室で尋問を為している間のこと。

缶コーヒーを手に持った男と、タバコを吸っている男が、それぞれ会話をしている。
それこそ「とりとめもない」話を。

「変な話を、しても良いですか」
缶コーヒーの方が言った。
「1月1日から、正式に復帰なさるカラス前主任。
先にウサギへの聴取だけ、頼んでいるのですが、
……昔のカラス前主任と会ったことのない局員から、とても好かれて、すごく人気なんですよ」

「あいつが『好かれる』のは『当然』だろう?」
何をいまさら。タバコの方が答えた。
「ビジネスネーム、カラス。法務部で一番、裏切り者を見つけ出すのが得意な男。通称『歯車』。
相手に好かれるように話し、相手が好む仕草をする。魔法の尋問と魂からのサルベージが効かない相手に、科学的な表情分析で無機質に、無感情に、必要な情報をピンポイントで抜いていく」

世界の運行を支える歯車が俺達世界線管理局なら、
その世界線管理局のバグを除く歯車が、あいつ。
魔法で拷問の「スフィンクス」に、魂へ強制尋問の「先代キツツキ」、表情から分析する『先代カラス』――それが「昔のあいつ」だろう。
タバコの方は煙を吐いて、缶コーヒー側の話題に一切興味・関心が無い。新しい情報ではないのだ。

「それがですね」
コーヒーを飲み終えた方は、狐につままれた表情。
「最近、菓子作りなど、始めたらしいんですよ」
私もさっき、貰ったんです。
コーヒーの方がポケットから出したのは、1個の丁寧に作られたまんじゅうであった。

「ススキまんじゅうだそうです。
あの、無機質で、平坦で、仕草も抑揚も話題も計算づくだったカラス前主任が、手製の菓子です」
「は?」
「しかも、美味いんですよ」
「はぁ………??」

――…最後は本当に、完全に、とりとめもない小話。
上記2個とは違う世界、最近最近の都内某所、某アパートの夜である。
部屋の主を藤森といい、急須の中の出がらしに、鼻を近づけている。新しく封切ったそば茶である。

「やはりチキンラーメンだ」
大きく、首を傾ける。
「チキンラーメンだな……」
馴染みの茶葉屋から購入した「子狐印の絶品そば茶」。淹れた後の残り香が、某袋麺なのだ。

「どしたの?」
コタツでスマホをいじる来客者は藤森の後輩。
「チキンラーメン?」
今月で離職する同僚の菓子が、恋しくて恋しくて、今まで作ってもらったクッキーだの、まんじゅうだのの画像を摂取しているのだ。

「いや。なんでも。多分こちらの……」
多分こちらの、勘違いさ。 藤森は言いかけて、
「……んん……」
再度香りをかぎ、首を傾ける。
後輩のところへ茶を持っていき、ただ静かに、平和に、夜が過ぎていったとさ。

12/18/2024, 4:11:05 AM