「去年もバチクソに難産だったんよ。このお題」
だって、「永遠に」だぜ。何書けってよ。
某所在住物書きは今回の投稿分を読み返し、よみかえし、もう一度誤字脱字を確認してため息。
「書く習慣」のアプリは今回のように、エモ系のお題がそこそこ多い。エモ系のお題とこの物書きが執筆する日常ネタは少し相性が悪い。
仕方がないのでこちらも厨二な物語を書いたのだ。
その厨二で誤字など爆死もいいところであった。
「まぁ、まぁ。どうせ、数時間後には他の投稿がこの物語を下に下に埋めてくれるし」
羞恥心も永遠には続かない。どうせ一瞬さ。
物書きは腹を括った。 ボタンを押し、投稿する。
――――――
ルリビタキをビジネスネームに持つ喫煙者が、稲荷神社の子狐に聞かせた話。過去作10月30日投稿分の、いわば「裏話」、「もう一つの物語」。
物書きの数だけ世界があり、物語がある。
あちらの雪の魔女は己の愛したものの二次創作を、
そちらの春の車掌は永遠に走り続ける機関車を舞台に繰り広げる、主に食堂車の日常を。
生まれた物語、概念、設定や生き物や鉱物等々は、
時に他の物語に影響を与え、別の世界に流れ着き、
意図的にせよ不本意にせよ、「もう一つの物語」の方で、発生・産出・活動を始める場合がある。
今回のお題回収用品であるところの「それ」は、
かつての昔に「閉鎖」した物語で生まれた設定。
別の世界に流れ着く前に、世界線管理局によって保護・収容された、材質不明の宝石。
「永遠」に特別なあこがれを持った物書きが遺した、ありとあらゆる永遠、永久、永劫を付与し、実現させる可能性を持つ、魔法の宝物。
永遠に老いない。あるいは永遠に太らないのだ。
怪物に永久を与えて不死の兵器を生むことも、
もしくは、無限の電力で環境問題の解決も。
世界線管理局収蔵、「永遠宝石の飾り駒」。
本来それを収容し、記録し、別世界に影響を与えぬよう保管する立場であるところの管理局員、
ビジネスネーム「兎」が、今回それを盗み出した。
「こんなチートアイテムを持ちながら、管理局が一切活用しねぇから、俺の世界は死んだんだ!」
永遠が付与された銃はチートの代表格。
「永遠に尽きない電力、永遠に尽きない水量、永遠に尽きない木材、永遠に尽きない燃料!
管理局の業務は、世界同士の橋渡しと取り締まりと管理監視だけ。死に逝く世界を助けやしない!」
己を危険因子として捕縛・確保しに来た同僚に、
すなわち「ツバメ」と「ルリビタキ」の両名に、近づく機会を一瞬も与えない。
「管理局がもっと干渉して、手を差し伸べてさえいれば、俺の住んでいた世界は延命できたのに!」
「その過干渉で私の世界は滅んだ!」
もっともらしく聞こえる兎の慟哭に、よく似た慟哭で返したのはツバメであった。
「別の世界が示した正解、別の世界から貰った完璧、別の世界に敷かれたレール。
永遠に約束された成功と発展は魅力的だろうさ。
その永遠を持ち込んだ世界に、正解を押し付けてきた過干渉に、私の世界は閉鎖させられたんだ!」
ルリビタキが防弾用の結界を張り、ツバメが兎にちょっかいを出して、捕縛の可能性を伺い続ける。
永遠宝石の飾り駒が付与するのは「永遠」であって「最強」ではない。永遠に撃てる銃は用意できても、防御結界を貫通できる威力は授けてくれない。
一瞬だ。一瞬でいい。
兎が一瞬ヘマをするなり、注意と緊張を乱されたりするだけで、ツバメは銃をはたき落として兎を無力化し、彼を拘束することができる。
永遠を、打ち倒すことができる。
(どうすればいい、どうすれば……!)
「これが正解だ。滅んだ世界が遺したこの宝石こそが、全世界に自由をもたらす救世の最適解だ!」
「違う!お前が持っているのはただの永遠だ!
世界に必要なのは干渉ではなく秩序と尊重だ!」
「その永遠に……!」
その永遠に、ソノ、エイエンニ。
兎が続けて何を言いたかったのか、ツバメとルリビタキが聞くことはなかった。
過去作10月30日投稿分の「もう一つの物語」が、ここで突然合流したのだ。
つまり突然黒い穴が数秒開いて、閉じて、兎の頭の上にコンコン子狐がポトンと落下。
前足もとい前あんよで必死に髪にしがみ尽き、しかし滑って、ぶらりんちょ。
兎の顔を、視界のすべてを、ポンポンおなかとモフモフ狐毛で覆い隠したのである。
「ぎゃー!? けものくせぇ!!
なんだ!!何が起きた!?」
何が起きたって、それはこっちのセリフだが。
状況が掴めないのは、ツバメも一緒。なにせ突然のコンコンである。突然のモフモフである。
「確保!!」
ツバメが緊張を取り戻したのは、低く鋭利なルリビタキの指示が刺さったから。
なんやかんやあって、ツバメは兎を押し倒し、銃をはたき落として永遠宝石の飾り駒を奪い、
そして、兎の拘束に成功したのだった。
「理想郷、ウィキに一覧存在すんのな……」
エルドラド、シャングリラ、ニライカナイ。
カタカタカタ。脳内にパズルゲームの、玉を動かす幻聴響く感のある某所在住物書き。「理想郷」カテゴリの一覧を、指でなぞっている。
「無制限のの酒とメシと娯楽が俺の理想郷だろうけど、ぜってー暴飲暴食してりゃ体壊すじゃん」
理想郷で病気になるのは、ねぇ。物書きはスマホから顔を上げ、ニュース番組を観て、ため息を吐く。
「あと、理想郷って天ぷらとか鶏皮とかバチクソ食っても、胸焼け、しねぇのかな……」
それは単純に老化と脂質代謝能力の限界だと思う。
――――――
前々回から続いているっぽく見える一連のおはなしも、ようやく次回で完結の予定。
今回のおはなしはその「完結」の導入。
カッコいいものダイスキーな物書きの、厨二心が垣間見えるおはなしの、はじまり、はじまり。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内にある一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしており、
その一軒家には、「もう一つの物語」、「別の世界」、世界線管理局とかいう建物に繋がる黒穴が、ぽっかり存在しておったのでした。
「世界線管理局って、なんだ」。何かのカッコイイ組織です。厨二心な機関です。それだけです。
細かいことは気にしてはいけません。
さて。前々回のおはなしで、稲荷の一軒家に住まう子狐が、この黒穴にころりん落っこちて、
なんやかんやで何かの事件を解決しまして、
世界線管理局の職員さんから、何故かお礼にジャーキーだのクッキーだの、それから稲荷寿司なんかもどっさり貰ったワケですが、
この子狐、丁度食べざかりの食いしん坊でして。
「黒穴の中に落っこちると美味しいものが貰える」と、妙な学習をしてしまったのです。
子狐は管理局を美味食べ放題の理想郷とでも勘違いしているのでしょう。 しゃーない。
「ジャーキー、ジャーキー!」
コンコン子狐、前回投稿分のおはなしの後、ジャーキーもお稲荷さんも全部食べてしまったので、
早速父狐の隠し部屋から、黒穴のぽっかり開いてる部屋へ侵入。こっそり理想郷へゴーです。
「おいなりさんも、たべたい!」
黒穴の中をゆっくり落ちて、辿り着いた先は、なんやかんやありまして、世界線管理局の喫煙室。
なんだか、煙たいですね。 誰かがひとり、タバコをすぱすぱ、吸っていたようです。
「おまえ、あの時の子狐か」
突然喫煙室に出現した子狐に、びっくりして、むせて、タバコを落としてしまった喫煙者1名。
サビを含む少々かすれ声のテノールが、バチクソにビビったのをナイショのショ、知らんぷり。
コホンとひとつ、咳払いして、言いました。
「あの時」とは前々回、子狐がなんやかんやの事件を解決してしまった「あの時」のこと。
この喫煙者こそ、子狐に「世界線管理局=食べ放題の理想郷」と学習せしめた張本人なのです。
ジャーキー渡さなけりゃ、稲荷寿司渡さなけりゃ、
落としたそのタバコの1本、全部吸えたのにな。
ザンネンでした、喫煙者1名。
「おじちゃん!リソーキョーのおじちゃん!」
「おじっ、……『理想郷』?」
「おいしいおいしい、ジャーキーもおいなりさんも、クッキーもどっさりある、リソーキョーのおじちゃん!おいなりさん、ください」
「アレはお前が、結果として俺達の危険因子確保に貢献した礼だ。ウェルカムフードじゃない」
「おじちゃん説明むずかしい。キツネわかんない」
「そりゃ申し訳ありませんでしたな。あと俺はまだギリギリ『おじちゃん』じゃない」
「オッサン!」
「…… おっ さん ……」
管理局は稲荷寿司バイキングでもジャーキービュッフェでもないんだがな。
なんなら「理想郷」とはかけ離れた、「舞台装置」以外のナニモノでもないんだがな。
「オッサン」に思うところがある喫煙者1名。それとも心に引っかかったのは、「理想郷」の方かしら。
「稲荷寿司も、ジャーキーも手元には無いが、」
落としたタバコを潰して、子狐を抱えて、ひとまず喫煙室から出た理想郷のオッサンは、ビジネスネームで「ルリビタキ」と名乗りました。
「お前が先日、お前の言う『理想郷』の『何』に貢献したかを、土産に聞かせてやることならできる」
聞いていくか、お前の世界から離れた別の世界の、「もう一つの物語」。
ルリビタキのオッサンは、前々回のおはなしの裏話を、今更になって、話し始めるのでした。
「事の発端は、管理局職員1人による収蔵品横領。
閉鎖したどこかの世界、どこかの物語から収容された、『永遠』の概念の残滓を、盗んで逃げたんだ」
「懐かしく思う事、懐かしく思う琴、懐かしく思う古都。……『古都』っつったら、京都の修学旅行がバチクソに記憶に残ってるわな」
はい、来ました、俺の不得意なエモいお題。
某所在住物書きは相変わらず、天井を見上げて途方に暮れ、しかし予想できていたことではあったので、淡々と今回投稿分に対する作業を開始した。
去年の「懐かしく思うこと」では、東京の「14年ぶり、11月の夏日」なるネタを書いたらしい。
記憶にない。
「千枚漬け。数珠作り体験。まだインバウンドの比較的少なかった頃。懐かしいわな」
今京都に行くなら、絶品というほうじ茶の茶漬けを現地で賞味してくるのに。 物書きは思う。
「食わなかったもんなぁ……」
仕方無い。修学旅行はそういうものである。多分。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社の敷地内にある自宅兼宿坊の大座敷、真っ昼間。
今回のお題回収役であるところの雪国出身者は名前を藤森といい、「ジャーキーパーティー しょうたいけん」と書かれていると思しき小さなクレヨン画をポケットに入れ、宴会に好意的に招かれて、
子狸と子猫2匹と、子イタチと一緒に
大皿に大量展開された稲荷寿司とジャーキーと、それからバタークッキーとを囲み、
「で、そのおじちゃんは、キツネのこと、『けものくせぇ!』って言ったの!」
マンチカン立ちしながら興奮気味に人語を喋る子狐の話を聞いている。
子狸は化け狸。子イタチは薬を持ったカマイタチ。
子猫は一匹が化け猫でもう一匹は尻尾が2本。
完全に、現実をガン無視している。
藤森はそれらを一切気にしていない。
慣れてしまった。具体的には、去年の3月頃から。
「キツネ、おじちゃんに言ったの。『イナリのキツネにくせぇとは、フケー、不敬であるぞ!』
で、おしおきに、この牙でガブッ!してやったの」
前回投稿分に関する「有ったこと」「無かったこと」を爆盛りして話すウルペスウルペス。
オスだかメスだか知らないが、この子狐と藤森が出会ったのは、去年のひなまつりの丑三つ時。
子狐が藤森の部屋のインターホンを鳴らしたのだ。
『お餅を買って』『このご時世、だれもドアを開けてくれない。1個で良いから、おねがい』
よもやその子狐、藤森が茶っ葉を買いに通っている茶葉屋の店主の「末っ子」だったとは。
誰が信じようか。 誰も信じるものか。
去年の藤森は早々に思考を放棄して、「人語を話し人間に化ける狐」を受け入れた。
細かいことをいちいち気にしていたらキリが無い。
きりが、ないのだ。
「くせぇのおじちゃんを、こーやって、こーやって、キツネ、こらしめて、つかまえてやったの。
そしたら別のおじちゃん、『オキツネさま。悪者をつかまえてくれて、ありがとうございます』って、ジャーキーとクッキーとお稲荷さんをくれたの」
そのとき貰ったものの半分の半分が、今、目の前の大皿に並べてるご馳走なんだよ。えっへん!
コンコン子狐は誇らしく、稲荷寿司とジャーキーとクッキーで膨れたポンポンを、もとい胸を張る。
子狸はただただ羨望の眼差し。藤森は「盛っているんだろうな」とチベットスナギツネ。
そうだ。この子狐とも、かれこれ1年と半年だ。
藤森は「懐かしく思うこと」を、すなわち去年のひなまつりから続く子狐とのふれあいを、
しみじみと、静かに、思い返し、思い返し。
大皿からバタークッキーを1枚取って、しゅくり、ひとくち噛んだ――なかなか美味い。
「くせぇじゃない方のおじちゃん、すごくキレイなとこで、お仕事してたの。お花も木も、果物もいっぱいあって、キレイな川が、流れてたの」
コンコン子狐の話はまだまだ続いている。
「きゅーけーじょ、休憩所には、金色のチョウチョと銀色のチョウチョが飛んでたの」
日本の花と草木と自然の風景を愛する藤森としては、「子狐の証言が事実であれば」、「くせぇじゃない方のおじちゃん」の職場は理想郷そのもの。
で、その理想郷とやらは、どこにあるのか。
「……」
知らない。細かいことを気にしてはいけない。
藤森は思考を放棄して、クッキーを噛んだ。
「去年もな。酷く悩んだお題なんよ」
某所在住物書きは、ただただ酷く途方に暮れて、天井を見てはため息を吐いている。
「AとBの物語のうち、もう片方の物語」の意味で投稿すべきか、「もう、一つの物語にまとめちまえよ」の意味で投稿すれば楽なのか。
「もう一つ、物語を集めてください」なんて珍妙もあり得る――ネタから形にならないのである。
「しかも、次の次に配信されるお題がだな……」
去年と同じお題が、次の次、すなわち10月31日に配信されるとしたら、「それ」の高難度にも対処する必要がある。 どうしよう。
「去年の投稿分、コピペしちまおうかな」
そんなズルせず、もう一つの物語を作りましょう。
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社は、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、草が花が山菜が、いつか昔の東京を留めて芽吹く、静かで美しい森の中。
時折妙な連中が芽吹いたり、頭を出したり、■■■したりしていますが、
そういうのは大抵、都内で漢方医として労働する父狐に見つかり、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれるのです。
黒穴の先のことは、別の世界のおはなしです。
「もう一つの物語」が、同時進行しておるのです。
今回はお題がお題ということで、こちらの「黒穴の先の物語」にも、注目してみましょう。
その日、不思議な化け狐の一家の、コンコン末っ子子狐が、「別の世界」、「別の物語」に繋がっている黒穴の近くで、こっくり、こっくり。
幸福に昼寝など、しておりました。
今日の黒穴は、向こうの世界線管理局からのお知らせ、事前通達によると、「システムメンテナンスにともない終日利用停止」。
今、その黒穴の中に入ると、世界線設定システムと座標修正システムの大幅な誤差により、世界線管理局ではないどこかに落っこちてしまうそうです。
そうですか。それはそれは、大変ですね。
「んんん、」
コンコン子狐、お昼寝の夢の中で、美味しそうなバターケーキの白兎を追いかけます。
「まてっ、ケーキ!」
前回投稿分で、お揚げさんもお賽銭も貰えなかったコンコン子狐。今回こそは美味を食ってやると、
こやん! 寝ぼけた目をパッチリ開き、
くわぁぁ、こやん! 寝ぼけた頭で突っ走り、
そのまま「もう一つの物語」の入口、
いつもなら世界線管理局に繋がっている筈の窓口、
つまりシステムメンテナンス中の黒穴に、
スポン、落っこちてしまったのです。
「あれ?」
ポンポンかわいいおなかを下に、子狐、黒穴の中をゆっくり、ゆっくり。落ちていきます。
「……あれ?」
今まで追いかけていた、バターケーキ兎はどこ?
もうちょっとでガバチョと捕まえられた、今日のおやつはどこに消えたの?
コンコン子狐、頭の上にハテナマークを量産。
一気に、目が覚めました。
黒穴を抜けて、ちゃんと重力が働きますと、
ぽすん! 誰かの頭の上に不時着しまして、
髪で滑るので前足と爪と肉球で踏ん張って、
誰かの顔に、ぽんぽん、ぶら下がってしまいました。
「ぎゃー!? けものくせぇ!!」
コンコン子狐が不時着した人間は、いきなり、突然、目の前がモフモフでいっぱいになったので、
それはそれは、もう、それは。大パニック。
子狐を顔から引き剥がそうと必死です。
「なんだ!!何が起きた!?」
それにしてもこの人間、稲荷の狐に「くせぇ」とは失礼な。子狐はちゃんと週に3回お風呂に入るし、3〜4ヶ月に1回ペットサロンで綺麗にしてもらっておるのです。それを「くせぇ」など。ぷんぷん。
「確保!!」
子狐の背後から、サビを含む少々かすれ声のテノールが、酷く鋭利に、短く、飛んできました。
なんだなんだ、何がどうした、どれがどうなった。
コンコン子狐、全然状況が掴めません。
気が付けば数秒で、子狐がぶら下がってた人間は、
押し倒され、持ってる「何か」を奪われ、うつ伏せに転がされ、腕を縛られてしまいました。
そしてコンコン子狐は、頭にハテナマークを大量展開したまま、サビ声のテノールさんに、いつの間にか抱えられておったのでした。
「あれれ……?」
何がどうしてこうなった。
そのままコンコン子狐は、世界線管理局の本部にキャリーケースで連れてこられまして、
「管理局に多大な貢献と協力をしてくれたお礼」として、たっぷり、極上の、ジャーキーとクッキーと稲荷寿司を貰って、元の世界に戻されました。
「なんで……?」
以上、今回のお題回収を優先した、リアリティーと物理法則ガン無視のおはなしでした。
子狐が「どこ」に落っこちて、「誰」の顔にぶら下がっていたのかは、それこそ次か、次の次あたり。「もう一つの物語」の管轄でして……
「キノコは、暗がりの中で栽培する場合もある」
食い物に関してはよく頭の回る、某所在住物書きである。今回のお題に対し、まずキノコの暗所栽培とホワイトアスパラ、それからモヤシを挙げた。
「自然の中で原木栽培、って手もあるさ。暗がりの中でも明かりの中でも、まぁ、まぁ」
ちょっと幻想的な森の中で、不思議なキノコに霧吹きかけて世話云々、なんてハナシは書けそうよな。
物書きはエモ系をひとつ閃いて、しかし書かず、他を考える――エモは少々不得意なのだ。
「暗がりの中で丸い目がキラリ、ってのは?」
それはギャグと思われる。
「暗がりの中から変質者は?」
それは完全に防犯の啓発である。
他に「暗がり」は何があるだろう?
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、食いしん坊の食べざかり。美味しいものは何でも大好き。
近頃は魔女のおばあちゃんがひとりで――もちろん、店員さんやコックさんは複数人居ますが、それらはすべて、おばあちゃんの使い魔なのでした。ともかく「人間」としてはひとりで――切り盛りしている喫茶店の、パンプキンスープがお気に入りです。
ところで、この喫茶店の店主であるところの魔女。去年の春か夏のあたり、海の向こうから東京へ、はるばる引っ越してきたのでした。
そして去年、稲荷の末っ子子狐に、ハロウィンを教えてやったのでした。
おばあちゃんの故郷では、おみくじケーキを楽しんだり、暗がりの中で焚き火をしたりするのだと。
「おばちゃん、おばちゃん!」
コンコン子狐、今年も魔女のおばあちゃんに、ハロウィンのおはなしを聞きに行きました。
「はろいんは、ハロウィンは、なにするの」
「あなたたち子供は、オバケの格好をするのよ」
使い魔猫のジンジャーとウルシに魔術師ローブの飾りを付けて、魔女のおばあちゃん、言いました。
「カゴを持って、お友達同士で、近くの家を回るの。そして『おもてなししなさい、さもなければイタズラするぞ!』っておどして、大人から美味しいクッキーやキャンディーなんかを貰うの」
日本では、「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」で定着しているわね。魔女のおばあちゃんは補足して、穏やかに、にっこり笑いました。
それを妙な方向に学習したのが子狐です。
『オバケの格好して人間を怖がらせれば、お供え物が貰えるのだ!そうに違いない!』
『暗がりの中から飛び出し「おそなえしなきゃ、祟るぞ」と言って、お供え物とお賽銭を貰おう!』
「キツネ、はろうぃん、する!」
食いしん坊のコンコン子狐。まずはお母さん狐の茶っ葉屋さんのお得意様であるところの、藤森という雪国出身者のアパートへ行って、コンコン。
「おそなえしなきゃ、たたるぞ!」
「子狐。それを言うなら『菓子を寄越さないとイタズラするぞ』だし、日付が違う」
子狐の背景を全然知らない雪の人は、それでもハロウィンのことだと察した様子。
「ハロウィンに、出たいのか。仮装がしたいのか」
子狐にお揚げさんも、お稲荷さんもお賽銭もくれないで、どこかに電話を始めました。
「こうはい。急にすまない。頼みがある」
あれ(お揚げさん貰えない)
おかしいな(お供えもお賽銭も貰えない)
電話が終わって数十分。
雪の人藤森のアパートに、藤森の職場の後輩、高葉井という女性がすっ飛んできました。
「コンちゃんデコって良いってホント?!」
手には100均の狐のお面、魔術師ローブ、それから数分〜十数分の突貫工事で自作したとは思えない、ハイクオリティで少し和風な魔法の杖。
コンコン子狐、高葉井に「おそなえしなきゃ、たたるぞ」と言うまでもなく、あれよあれよ、これよこれよ。和風な魔法使い妖狐に早変わり。
そうか!オバケの格好だ!
これで人間がお供え物をくれるようになるんだ!
尻尾ぶんぶんビタンビタン。子狐は目を輝かせ、
外に飛び出す前に、藤森に体を掴まれて、
最後の仕上げにハーネスとリードを付けられ、
記念撮影スマホでパシャリ。
気が付けば、東京の少し明るい暗がりの中で、数日早めのハロウィンお散歩をしておったのでした。
「……あれ?」
ちがう。ちがうそうじゃない。
キツネ、お供え物が欲しいの。お揚げさん食べたいのであって、お散歩したいんじゃないの。
コンコン子狐、どうしてこうなったかポカン顔。
そのまま藤森と高葉井と、2人1匹して、暗がりの中でお散歩を続けましたとさ。 おしまい。