「去年もな。酷く悩んだお題なんよ」
某所在住物書きは、ただただ酷く途方に暮れて、天井を見てはため息を吐いている。
「AとBの物語のうち、もう片方の物語」の意味で投稿すべきか、「もう、一つの物語にまとめちまえよ」の意味で投稿すれば楽なのか。
「もう一つ、物語を集めてください」なんて珍妙もあり得る――ネタから形にならないのである。
「しかも、次の次に配信されるお題がだな……」
去年と同じお題が、次の次、すなわち10月31日に配信されるとしたら、「それ」の高難度にも対処する必要がある。 どうしよう。
「去年の投稿分、コピペしちまおうかな」
そんなズルせず、もう一つの物語を作りましょう。
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社は、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、草が花が山菜が、いつか昔の東京を留めて芽吹く、静かで美しい森の中。
時折妙な連中が芽吹いたり、頭を出したり、■■■したりしていますが、
そういうのは大抵、都内で漢方医として労働する父狐に見つかり、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれるのです。
黒穴の先のことは、別の世界のおはなしです。
「もう一つの物語」が、同時進行しておるのです。
今回はお題がお題ということで、こちらの「黒穴の先の物語」にも、注目してみましょう。
その日、不思議な化け狐の一家の、コンコン末っ子子狐が、「別の世界」、「別の物語」に繋がっている黒穴の近くで、こっくり、こっくり。
幸福に昼寝など、しておりました。
今日の黒穴は、向こうの世界線管理局からのお知らせ、事前通達によると、「システムメンテナンスにともない終日利用停止」。
今、その黒穴の中に入ると、世界線設定システムと座標修正システムの大幅な誤差により、世界線管理局ではないどこかに落っこちてしまうそうです。
そうですか。それはそれは、大変ですね。
「んんん、」
コンコン子狐、お昼寝の夢の中で、美味しそうなバターケーキの白兎を追いかけます。
「まてっ、ケーキ!」
前回投稿分で、お揚げさんもお賽銭も貰えなかったコンコン子狐。今回こそは美味を食ってやると、
こやん! 寝ぼけた目をパッチリ開き、
くわぁぁ、こやん! 寝ぼけた頭で突っ走り、
そのまま「もう一つの物語」の入口、
いつもなら世界線管理局に繋がっている筈の窓口、
つまりシステムメンテナンス中の黒穴に、
スポン、落っこちてしまったのです。
「あれ?」
ポンポンかわいいおなかを下に、子狐、黒穴の中をゆっくり、ゆっくり。落ちていきます。
「……あれ?」
今まで追いかけていた、バターケーキ兎はどこ?
もうちょっとでガバチョと捕まえられた、今日のおやつはどこに消えたの?
コンコン子狐、頭の上にハテナマークを量産。
一気に、目が覚めました。
黒穴を抜けて、ちゃんと重力が働きますと、
ぽすん! 誰かの頭の上に不時着しまして、
髪で滑るので前足と爪と肉球で踏ん張って、
誰かの顔に、ぽんぽん、ぶら下がってしまいました。
「ぎゃー!? けものくせぇ!!」
コンコン子狐が不時着した人間は、いきなり、突然、目の前がモフモフでいっぱいになったので、
それはそれは、もう、それは。大パニック。
子狐を顔から引き剥がそうと必死です。
「なんだ!!何が起きた!?」
それにしてもこの人間、稲荷の狐に「くせぇ」とは失礼な。子狐はちゃんと週に3回お風呂に入るし、3〜4ヶ月に1回ペットサロンで綺麗にしてもらっておるのです。それを「くせぇ」など。ぷんぷん。
「確保!!」
子狐の背後から、サビを含む少々かすれ声のテノールが、酷く鋭利に、短く、飛んできました。
なんだなんだ、何がどうした、どれがどうなった。
コンコン子狐、全然状況が掴めません。
気が付けば数秒で、子狐がぶら下がってた人間は、
押し倒され、持ってる「何か」を奪われ、うつ伏せに転がされ、腕を縛られてしまいました。
そしてコンコン子狐は、頭にハテナマークを大量展開したまま、サビ声のテノールさんに、いつの間にか抱えられておったのでした。
「あれれ……?」
何がどうしてこうなった。
そのままコンコン子狐は、世界線管理局の本部にキャリーケースで連れてこられまして、
「管理局に多大な貢献と協力をしてくれたお礼」として、たっぷり、極上の、ジャーキーとクッキーと稲荷寿司を貰って、元の世界に戻されました。
「なんで……?」
以上、今回のお題回収を優先した、リアリティーと物理法則ガン無視のおはなしでした。
子狐が「どこ」に落っこちて、「誰」の顔にぶら下がっていたのかは、それこそ次か、次の次あたり。「もう一つの物語」の管轄でして……
10/30/2024, 3:52:43 AM