かたいなか

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「懐かしく思う事、懐かしく思う琴、懐かしく思う古都。……『古都』っつったら、京都の修学旅行がバチクソに記憶に残ってるわな」
はい、来ました、俺の不得意なエモいお題。
某所在住物書きは相変わらず、天井を見上げて途方に暮れ、しかし予想できていたことではあったので、淡々と今回投稿分に対する作業を開始した。
去年の「懐かしく思うこと」では、東京の「14年ぶり、11月の夏日」なるネタを書いたらしい。
記憶にない。

「千枚漬け。数珠作り体験。まだインバウンドの比較的少なかった頃。懐かしいわな」
今京都に行くなら、絶品というほうじ茶の茶漬けを現地で賞味してくるのに。 物書きは思う。
「食わなかったもんなぁ……」
仕方無い。修学旅行はそういうものである。多分。

――――――


前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社の敷地内にある自宅兼宿坊の大座敷、真っ昼間。

今回のお題回収役であるところの雪国出身者は名前を藤森といい、「ジャーキーパーティー しょうたいけん」と書かれていると思しき小さなクレヨン画をポケットに入れ、宴会に好意的に招かれて、
子狸と子猫2匹と、子イタチと一緒に
大皿に大量展開された稲荷寿司とジャーキーと、それからバタークッキーとを囲み、
「で、そのおじちゃんは、キツネのこと、『けものくせぇ!』って言ったの!」
マンチカン立ちしながら興奮気味に人語を喋る子狐の話を聞いている。

子狸は化け狸。子イタチは薬を持ったカマイタチ。
子猫は一匹が化け猫でもう一匹は尻尾が2本。
完全に、現実をガン無視している。
藤森はそれらを一切気にしていない。
慣れてしまった。具体的には、去年の3月頃から。
「キツネ、おじちゃんに言ったの。『イナリのキツネにくせぇとは、フケー、不敬であるぞ!』
で、おしおきに、この牙でガブッ!してやったの」

前回投稿分に関する「有ったこと」「無かったこと」を爆盛りして話すウルペスウルペス。
オスだかメスだか知らないが、この子狐と藤森が出会ったのは、去年のひなまつりの丑三つ時。
子狐が藤森の部屋のインターホンを鳴らしたのだ。
『お餅を買って』『このご時世、だれもドアを開けてくれない。1個で良いから、おねがい』
よもやその子狐、藤森が茶っ葉を買いに通っている茶葉屋の店主の「末っ子」だったとは。

誰が信じようか。 誰も信じるものか。
去年の藤森は早々に思考を放棄して、「人語を話し人間に化ける狐」を受け入れた。
細かいことをいちいち気にしていたらキリが無い。
きりが、ないのだ。

「くせぇのおじちゃんを、こーやって、こーやって、キツネ、こらしめて、つかまえてやったの。
そしたら別のおじちゃん、『オキツネさま。悪者をつかまえてくれて、ありがとうございます』って、ジャーキーとクッキーとお稲荷さんをくれたの」
そのとき貰ったものの半分の半分が、今、目の前の大皿に並べてるご馳走なんだよ。えっへん!
コンコン子狐は誇らしく、稲荷寿司とジャーキーとクッキーで膨れたポンポンを、もとい胸を張る。
子狸はただただ羨望の眼差し。藤森は「盛っているんだろうな」とチベットスナギツネ。

そうだ。この子狐とも、かれこれ1年と半年だ。
藤森は「懐かしく思うこと」を、すなわち去年のひなまつりから続く子狐とのふれあいを、
しみじみと、静かに、思い返し、思い返し。
大皿からバタークッキーを1枚取って、しゅくり、ひとくち噛んだ――なかなか美味い。

「くせぇじゃない方のおじちゃん、すごくキレイなとこで、お仕事してたの。お花も木も、果物もいっぱいあって、キレイな川が、流れてたの」
コンコン子狐の話はまだまだ続いている。
「きゅーけーじょ、休憩所には、金色のチョウチョと銀色のチョウチョが飛んでたの」
日本の花と草木と自然の風景を愛する藤森としては、「子狐の証言が事実であれば」、「くせぇじゃない方のおじちゃん」の職場は理想郷そのもの。
で、その理想郷とやらは、どこにあるのか。

「……」
知らない。細かいことを気にしてはいけない。
藤森は思考を放棄して、クッキーを噛んだ。

10/31/2024, 3:44:58 AM