かたいなか

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「理想郷、ウィキに一覧存在すんのな……」
エルドラド、シャングリラ、ニライカナイ。
カタカタカタ。脳内にパズルゲームの、玉を動かす幻聴響く感のある某所在住物書き。「理想郷」カテゴリの一覧を、指でなぞっている。

「無制限のの酒とメシと娯楽が俺の理想郷だろうけど、ぜってー暴飲暴食してりゃ体壊すじゃん」
理想郷で病気になるのは、ねぇ。物書きはスマホから顔を上げ、ニュース番組を観て、ため息を吐く。
「あと、理想郷って天ぷらとか鶏皮とかバチクソ食っても、胸焼け、しねぇのかな……」
それは単純に老化と脂質代謝能力の限界だと思う。

――――――

前々回から続いているっぽく見える一連のおはなしも、ようやく次回で完結の予定。
今回のおはなしはその「完結」の導入。
カッコいいものダイスキーな物書きの、厨二心が垣間見えるおはなしの、はじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内にある一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしており、
その一軒家には、「もう一つの物語」、「別の世界」、世界線管理局とかいう建物に繋がる黒穴が、ぽっかり存在しておったのでした。

「世界線管理局って、なんだ」。何かのカッコイイ組織です。厨二心な機関です。それだけです。
細かいことは気にしてはいけません。

さて。前々回のおはなしで、稲荷の一軒家に住まう子狐が、この黒穴にころりん落っこちて、
なんやかんやで何かの事件を解決しまして、
世界線管理局の職員さんから、何故かお礼にジャーキーだのクッキーだの、それから稲荷寿司なんかもどっさり貰ったワケですが、
この子狐、丁度食べざかりの食いしん坊でして。
「黒穴の中に落っこちると美味しいものが貰える」と、妙な学習をしてしまったのです。

子狐は管理局を美味食べ放題の理想郷とでも勘違いしているのでしょう。 しゃーない。

「ジャーキー、ジャーキー!」
コンコン子狐、前回投稿分のおはなしの後、ジャーキーもお稲荷さんも全部食べてしまったので、
早速父狐の隠し部屋から、黒穴のぽっかり開いてる部屋へ侵入。こっそり理想郷へゴーです。
「おいなりさんも、たべたい!」
黒穴の中をゆっくり落ちて、辿り着いた先は、なんやかんやありまして、世界線管理局の喫煙室。
なんだか、煙たいですね。 誰かがひとり、タバコをすぱすぱ、吸っていたようです。

「おまえ、あの時の子狐か」
突然喫煙室に出現した子狐に、びっくりして、むせて、タバコを落としてしまった喫煙者1名。
サビを含む少々かすれ声のテノールが、バチクソにビビったのをナイショのショ、知らんぷり。
コホンとひとつ、咳払いして、言いました。
「あの時」とは前々回、子狐がなんやかんやの事件を解決してしまった「あの時」のこと。
この喫煙者こそ、子狐に「世界線管理局=食べ放題の理想郷」と学習せしめた張本人なのです。

ジャーキー渡さなけりゃ、稲荷寿司渡さなけりゃ、
落としたそのタバコの1本、全部吸えたのにな。
ザンネンでした、喫煙者1名。

「おじちゃん!リソーキョーのおじちゃん!」
「おじっ、……『理想郷』?」
「おいしいおいしい、ジャーキーもおいなりさんも、クッキーもどっさりある、リソーキョーのおじちゃん!おいなりさん、ください」
「アレはお前が、結果として俺達の危険因子確保に貢献した礼だ。ウェルカムフードじゃない」

「おじちゃん説明むずかしい。キツネわかんない」
「そりゃ申し訳ありませんでしたな。あと俺はまだギリギリ『おじちゃん』じゃない」

「オッサン!」
「…… おっ さん ……」

管理局は稲荷寿司バイキングでもジャーキービュッフェでもないんだがな。
なんなら「理想郷」とはかけ離れた、「舞台装置」以外のナニモノでもないんだがな。
「オッサン」に思うところがある喫煙者1名。それとも心に引っかかったのは、「理想郷」の方かしら。

「稲荷寿司も、ジャーキーも手元には無いが、」
落としたタバコを潰して、子狐を抱えて、ひとまず喫煙室から出た理想郷のオッサンは、ビジネスネームで「ルリビタキ」と名乗りました。
「お前が先日、お前の言う『理想郷』の『何』に貢献したかを、土産に聞かせてやることならできる」
聞いていくか、お前の世界から離れた別の世界の、「もう一つの物語」。
ルリビタキのオッサンは、前々回のおはなしの裏話を、今更になって、話し始めるのでした。

「事の発端は、管理局職員1人による収蔵品横領。
閉鎖したどこかの世界、どこかの物語から収容された、『永遠』の概念の残滓を、盗んで逃げたんだ」

11/1/2024, 5:10:56 AM