かたいなか

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10/6/2024, 5:45:51 AM

某所在住物書きは過去投稿分の題目を確認した。
「星」は3月1日を起点とすれば、これで5度目。
「夜」も含めれば10、「空」も含めれば15。
なかなかの頻度である。

「もうだいぶ、ネタ使い尽くしちまったのよな。
池に落ちる雨を夜空の星空に見立てるとか、
花畑の黄色い花を星に例えるとか、
5枚花弁の桜吹雪は流れ星にしたし。普通に夜空を見上げるネタは昔々とうに文章にしちまったし」
物書きは天井を見上げ、途方に暮れる。
「ところで今の星座に『猫』って居ないらしいな」

――――――

最近最近の都内某所の某支店。
支店巡回で訪れていた本店側の人間を藤森といい、
本店側に茶を出す男を付烏月、ツウキといったが、
双方、揃いに揃って制服の、覆っていない肌の複数箇所が少々、あわれ。 蚊に刺された跡がある。

「どしたの。かゆみ止めの治験バイト?」
支店勤務の後輩としては、2名の状況に目が点。
その間も付烏月は人さし指の痒々ポッチに、スティックタイプのかゆみ止めを塗っている。
彼等は何をしでかしたのか。要するに「星座」だ。
付烏月が口を開いて、言うことには、
「過ぎゆく夏の思い出作ってたら虫除け忘れた」


…――時は昨晩までさかのぼる。
「夏の終わりに星座でも」。付烏月が藤森を連れ出したのは、キャンプに対応した公用スペース。
貸し出しの焚き火台に木を組み、火を燃やし、
パチパチ、ぱきん。都心に比べれば光量の少ない薄暗闇に、オレンジ色の灯火をこしらえた。

『星座って、今は88個あるらしいよ。藤森』
最初に話題を提示したのは付烏月であった。
『そのうち昆虫を星座にしたものが1個、「みなみの」なんて方角の前置きがあるのが3個。
動物の星座は、こぎつね座にこぐま座、おおいぬ座にりょうけん座。いるか座なんてのもある』
人の想像力は面白いね。藤森。
付烏月は比較的光量少なめの夜空へ視線を向けた。

『何が言いたい、付烏月さん?』
パチパチ、ぱきん。薪の世話をする藤森は疑問形。付烏月の意図が分からないのだ。
天体観測といえば光害少ない山や田舎がセオリーの筈が、付烏月はキャンプスペースへ藤森を連れてきた。煌々と他者の置き照明が焚かれた場所へ。
『夏の終わりに、星座を見たかったんだよ』
答える付烏月は主張を変えない。
『猫の星座を、見つけたかったの』
ただ、頭上の黒だけを見上げていた。

『猫の星座?』
『そう。ねこ座、こねこ座』
『今の時期に見えるのか、付烏月さん?』
『見つけるの。探すの』

どういう意味だ、付烏月さん。
藤森はただ首を小さく傾けるばかり。
パチパチ、ばきん。焚き火は経緯と結果を知っているのか、大きな音をたてて火の粉を吹いた。


――…「タネ明かしをするとね」
場面は元の場所へ戻る。手首をカリカリ掻いていた付烏月がため息ひとつ吐いて言った。
「昨日、ウチの支店の常連さんから、俺の趣味のお菓子作りのことでオーダーが入ったの。
『存在しない「ねこの星座」をモチーフに、ウチのミーちゃんの供養ケーキ作って』って」

無いもの頼まれて、しゃーないから星座を見に行こうってんで、丁度暇してた藤森に声かけたと。
白状する付烏月は何のインスピレーションも湧いてこなかったらしく、その夜は蚊に刺されただけ。
藤森に至っては誘われ損であった。
二度目のため息を吐き、付烏月は机に突っ伏す。
カリカリカリ、かりかりかり。
「モチーフの神話、童話、なんなら星座の形も無いらしいもん。どうやって作れってさぁ……」

あー、そういえば、そんなことが昨日。
話を聞いていた側としては、左様でございますかの比較的わりとどうでもいい感。
パチパチ、ぱち。まばたきを繰り返している。
星座など黄道12〜13星座程度しか、具体的な話は、いやそれでも「はくちょう座」などは。

「……ちなみに」
今まで沈黙していた藤森が、己のスマホを、正確にはネット検索のスクリーンショットを示した。
「88星座に、無いだけらしい」
小さくささやく声、軽く指で示される文章。
「ねこ座」の検索結果の上位は以下のとおり。

『ねこ座は今は使われていない春の星座のひとつ』
検証せず、人の言葉を鵜呑みにするのは危険だ。

10/5/2024, 3:12:56 AM

「9月8日のお題が『踊るように』だった……」
体を動かす、他者に操られる、文字が乱れる、捜査関連用語として犯人が抵抗し暴れる。
どれも執筆難度が少々高い気がするがどうだろう。
某所在住物書きは今日もパチパチ、焚き火アプリで思考を整理。制限時間のある作業は有用のようだ。
だってあまりボーっとしない。 途中でソシャゲに逃げて、ディスプレイに指を踊らせたりしない。

「文字が踊りませんか?そんな書き方したら。
犯人が踊りませんか?そんな拘束かけたら。
銃が踊りませんか?そんな構え方したら。
……うん。どんな状況だよ。それ」
難しいなぁ。物書きはため息を吐く。
たしか次回も難題である――去年と同じなら。

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。「付烏月」と書いて「ツウキ」と読む、最近お菓子づくりがトレンドな男がおりまして、まぁ別にスイーツ男子ガチ勢というワケでもないのですが、
週間予報の最高気温を確認するに、そろそろ冷たいスイーツが食い納めだろうと予想しましたので、
秋の旬なフルーツで簡単にシェークでも作ろうと、近所の地元スーパーなど、偵察に行ったのでした。

「柿のシェークって、美味いのかな」
先日バチクソな真夏日など記録した東京。
それでも青果コーナーは正確で、10月にふさわしい秋の果物が、真面目に今の季節をお知らせ。
奈良県産の柿に、長野県産のリンゴ。
都内で採れた栗は奥多摩のあたりでしょうか。
「マロンシェークはアリ寄りのアリだなぁ」
ざっかざっか、ポイちょポイちょ。
口の中を幸福な幻想でいっぱいにする付烏月は、
捕らぬ狸の皮算用、作らぬシェークの味予想。
なんなら心の中でちょっと小躍りなどなど。

「イチジクもあるじゃん」
ああ、コレは、バニラよりチョコ、それも濃厚なチョコシェークにブチ込んだ方が美味い、
半額イチジクを丁寧に、カゴに突っ込みまして、
「あれ。藤森?」
顔を上げると、遠くのカット野菜のあたりに、前職で一緒に仕事した藤森というのを見つけました。

藤森は雪降り花あふれる田舎の出身でした。
藤森は最高0℃でも眉ひとつ上げぬ冬の人でした。
少し寒くたってシェークが食える人、なのでした。
これは丁度良い。
「ふっじぃ〜もりっ!藤森!」
藤森よ、雪の人よ。一緒にシェークを食いなさい。
小躍り付烏月、真面目で誠実な藤森に、はらぁり、ひらぁり。近寄りまして、言いました。
「フルーツシェークで、一緒に踊りませんか?」

「は?」
付烏月のダンスの誘いに藤森、素っ頓狂でした。


…――「『踊りたくなる美味さ』って言わない?」
場面変わりまして、スーパーから付烏月の部屋。
藤森が冷たさにも寒さにも強いのを良いことに、己のスイーツラボに連れ込みまして、
自家製低糖質アイスクリームと先程購入した柿を使って、まずレアチーズ風柿シェークでおもてなし。
「美味しいものは、シェアした方が、もっと美味しいよ。藤森も一緒に踊っちゃおうよ」
ちうちう出されたシェークに口をつける藤森は、やっぱり真面目なので、眉間に少し長考のシワ。

「その量を『踊る』つもりなのか、付烏月さん?」
ちうちう藤森、付烏月が買ってきた季節のフルーツの山盛りを見て、言いました。
「私と、あなたとで?」
付烏月のキッチン、スイーツラボにはリンゴにブドウに洋梨、栗、柿なんかがどっさり!
「だいじょーぶ!」
不安な藤森に付烏月が晴れやかな笑顔で返します。
「味変の種類には抜かりないのだっ!」

違う。 違うそうじゃない。
藤森は静かに、首を横に、小さく振りました。

「糖質過多が過ぎやしないか、と言ったんだ。
付烏月さん、そんなに一気に食べては、いくらシェークに使うアイスが低糖質でも体に悪い」
「あっ」
「あなたなら、ジャムでもドライフルーツでも、上手く作れるだろう。そちらに3分の2でも」

「宇曽野さんと後輩ちゃんも呼ぼう!」
「そうじゃない。それでも量が多い」
「じゃあウチの支店の真面目な新卒ちゃん」
「そうじゃなくて。あのな付烏月さん」

過剰な糖質の摂取は、膵臓に酷い負担がだな、
誠実に説明する藤森ですが、今回配信のお題「踊りませんか?」に従って、付烏月、お電話です。
やぁやぁ後輩ちゃん。今から一緒に季節のシェークで踊りませんか?ヨシヨシそうですか待ってます。
「付烏月さん……」
ちうちう、ちうちう。藤森は静かに、小さく、ため息をひとつ吐きました。

10/4/2024, 3:16:16 AM

「去年は『衛星列車ともう一度巡り会えたらどうする』みたいなハナシを書いた記憶がある」
「誰か」と、巡り会えたら、
巡り会えたら「やりたいこと」、
巡り会えたら幸運/悪運な「何か」、
巡り会え、タラ。 巡り会えた、らっこ。
他に何か書けそうな案あったっけ。某所在住物書きは焚き火のアプリでパチパチ、ぱちぱち。
ものの試しで思考を文章化などしている。

個人的に欲しい「巡り会わせ」は勿論宝くじ。
当たればガチャの自爆など、すり抜けも、確率も。

「……タラは地味に猫のハナシに使えそう」
パチン。焚き火アプリの効果音が弾ける。
もう少し簡単に投稿しやすいネタと、複数巡り会えたら、どれだけラクができることだろう。

――――――

都内某所に、私が推してるゲームの同人時代の聖地になってる、私立図書館がある。
私の今の同僚、付烏月さん……ツウキさんの前の職場であり、私と今年の2月まで長いこと一緒に仕事してた藤森先輩の前々職でもあった。
昨日、そこの館長さんと初めて出会った。
付烏月さんとなにやら2人して話をしてたのだ。

「奇跡をもう一度」。夜にフォロワーから聞いたことだけど、なんとその館長さん、私の推しゲーに、そのひとがモデルのキャラが居るとのこと。
言われてみればガチャで分厚い本のページをバラバラする自称魔女さんに似てた。
聖地図書館内でのエンカウント率があまりにも低過ぎるせいで、「巡り会えたらそれだけでガチャ召喚触媒」って派閥があるらしい。
なにそれ私知らない(ガチャれば良かったの後悔)

ともかく。私は昨日、某私立図書館の低エンカウント率な館長さんと遭遇したワケだ。
それを、コーヒーと低糖質ケーキが美味しいカフェで相席した先輩に話したら、バチクソ驚かれた。
「会えたのか、あの館長と?!」
事実として、ホントに、前々職の先輩も驚くくらい低確率だったらしい。 ガチャれば良k(略)

「低確率も何も、」
おくちパックリで藤森先輩は言った。
「一部の来館者から魔女と噂されていたようだが、
事実として、あのひとは本当に魔女だ。神出鬼没で、つい先程まで居た筈の場所に居ない」
私もあの図書館には1年だけ世話になったが、ほぼほぼあそこの仕事上の責任者は副館長だったよ。
先輩はそう言ってどこか遠くを、唖然とした目で。

トップが神出鬼没(ところで:推しゲーの局長)
実質の責任者が、副( :自称魔女で神出鬼没)
居るはずの場所に居ない(そのせいで副局長略)

「私もずっと、離職してから会えていない」
「館長さんに?」
「彼女から借りていた、私物の本がある。『不要になったら返してほしい』と」
「図書館に勤めてるんでしょ?司書さんとかに『渡しといて』って言えば良いのに」

「それができれば苦労しない」
「くろうしない」
「本当に神出鬼没なんだ。『渡してほしい』からの、数週間不在からの、いつの間にか館長の机から消失して館長の手に、『渡っていない』」

「先輩」
「なんだ」
「ウチの魔女局長がご迷惑をおかけしております」
「きょく、なんだって?」

そんなこんなで、ずっと会えずじまい、本を返せずじまいさ。 先輩がため息ひとつ吐いて言った。
先輩がおもむろにバッグから出したのは、丁寧に紙製のカバーが付けられた少し分厚い本。
レアエンカウントの館長さんに巡り会えたらすぐ返せるように、いつも持ってるんだと思う。

「花の本だ」
パラパラパラ。先輩はページを流しめくった。
「恋愛トラブルで精神的に落ちていた頃、在来・固有種の写真や著者のコラムに世話になった」
心が根腐れしそうになったら、根腐れの原因から離れる。離れてもっと良い場所で咲く。
人間は歩ける多年草なのだから。
小さなコラムを指さして、先輩は穏やかに笑った。

「病院に居るよ」
先輩に、館長さんの居場所を教えたけど、
先輩は、完全に巡り会えない前提の表情をしてた。
実際このおしゃべりの後で、先輩は私が伝えた病院の私が伝えた病室に向かったらしいけど、
神出鬼没の魔女さんらしいといえばらしい後日談として、先輩はタッチの差で、
「あと数十分早ければ」、巡り会えたらしい。

10/3/2024, 3:02:44 AM

「エモネタ多い気がするこのアプリだけど、奇跡や運命なんかは、3月から数えてコレが初出よな」
まるで、何度も引いてSSRは揃った常設ガチャの、何故か1枚だけ出てこないSRのようだ。
某所在住物書きは過去投稿構分を辿り、今まで一度も「奇跡」が出題されていないことに言及する。

「俺としては『もう一度奇跡』なんざ例の『あと一度だけ』から始まる歌と、ソシャゲのリセマラよ。
必要SSR2枚抜き。確率約0.05%が2枚。ほぼ奇跡じゃん。……『奇跡をもう一枚』よな」
物書きはポツリ、呟いてスマホをいじる。
ところで去年は「無くなりそうな調味料を片付け目的で全投入したスープがバチクソ美味かった。再現の奇跡をもう一度」を書いた。 では今年は?

――――――

たまにお世話になってる漢方医さんから、自律神経と寒暖差疲労に効く薬を処方してもらって、
ついでに原因特定困難かつバチクソ酷い倦怠感で入院してるっていう本店の陰湿イヤガラセ常習犯、五夜十嵐の入院風景をチラ見した帰りの通路で、
偶然、別の入院部屋のドアが開いたとき、
チラリ目に入った光景から始まったハナシ。

3月から同じ支店で一緒に仕事してる付烏月さん、ツウキさんが、お見舞いのパイプ椅子に座って、
元気そうな黒髪長髪美女さんと笑って話をしてて、
付烏月さんに美女さんのことを聞いたら2人して
「生き別れの姉です/弟です」
と冗談を言われ、私が「いやいやウソでしょ」と反論してから、徐々に膨らんでったフィクション。

ちなみに正解は付烏月さんの前職のひと。
都内の私立図書館の館長さん。
奇跡的な偶然で、バチクソなんとなく受診したら、
これまた奇跡的に初期初期のガンが見つかって、
奇跡的に転移がどこにもみとめられてないと。
「軌跡をもう一度」。手術も成功したことだし、二度と再発しなければ良いね。そんな経緯らしい。

…――ふたりはこの病院で生まれ、館長さんの方がミスで取り違えられた。(※付烏月さんの冗談)
取り違いの事実に気付かないまま小学校に入学し、中学校を卒業して、奇跡的に、ふたりは一度同じ大学の同じゼミに入った。(※館長さんの悪ノリ)
当時は双方、何とも、少しも、いわゆる「双子の不思議な繋がり」なんて、感じなかったらしい。

大学を卒業して、お互い、別々の離れた進路へ。
館長さんは実家の私立図書館を。
付烏月さんは興味を活かし探偵に。(※多分虚偽)

館長さんの創作スキルが本領発揮して参りました。

「肉親」とすれ違う奇跡をもう一度。
付烏月さんが館長さんと再会したのは、館長さんの育ての親が「娘の本当の肉親を探してほしい」と付烏月さんに依頼してきたから。
付烏月さんは依頼者の「娘」、完治寛解困難な病に冒されてた「双子の姉」と再会した。
ふたりが取り違えられたこの病院で。
ふたりが引き離された、この病院で。

館長さんから誕生日と時刻を聞いた付烏月さんはすぐにピンときて、DNA検査を要請。
ふたりはめでたく、めでたく――…

「……ふたりはめでたく最初の病院で、マル十年越しの双子の再会。片や探偵業を辞めて姉の図書館へ、片や入退院を繰り返しながら、
同じ職場で仕事して、これまでのマル十年を埋める幸福な努力と労働を、開始するのでした。
おしまい。 おしまい……」

なんて厨二満載なおはなしが、もしかしたら私達の背後に、あるかもしれませんよ。ふふふ。
病室のベッドの上で、によろるん。
付烏月さんの前職の、図書館の館長さんは、
胡散臭く、すごく良い笑顔を見せた。
その笑顔が、なんとなく、付烏月さんの悪い笑顔に似て見えなくもない気がしないでもない。
なお他人の空似だ。 悪い奇跡の一致だ。

「いやいや。分かんないよ〜?」
付烏月さんも付烏月さんで、完全に悪ノリ。
すっっっごく、楽しそうではある。
「実は誰にも話してないだけで、エモエモで奇跡なバックストーリーの、サムシングが」
あったり無かったり、気のせいだったり。ヒヒヒ。
付烏月さんも、によろるん。
イタズラな笑顔で私に言った。
最後の最後、私の帰り際に付烏月さんと館長さんの正解な関係と事実を答え合わせ。
それでその場は終わったけど、やっぱり、館長さんと付烏月さんの笑顔は、少し、似てる気がした。
要するに、定期健診と早期発見て大事っていう。

10/2/2024, 3:12:21 AM

「たそがれ、たそがれ……ねぇ」
「黄昏」、「誰そ彼」とか書くらしいが、LEDだの液晶だの大量展開してる東京じゃ「誰そ」なんて言うこと少ねぇ気がするわな。某所在住物書きは言った。
似た題目として、4月の最初頃に「沈む夕日」なら遭遇していた物書き。同名でBGM検索をして、「沈む夕陽」、某有名探偵アニメがヒット。無事爆笑した経緯がある。

「アレの劇場版第一作目、たしか環状線の爆弾回収、たそがれ時だったな」
実際、現実世界じゃ有り得ないシチュエーションで、管制室のシーンも観る人が観れば指摘箇所満載らしいが、俺はああいうの、好きだったよ。
物書きは昔々に思いを馳せ、今日もため息を吐く。

――――――

たそがれ、黄昏。 うす暗くなる前の夕日。
薄闇のせいで「誰ですか、彼?」になる前の、
光のせいで、相手の顔が分からなくなる頃。
つまり逆光。 つまり光のイタズラ。
何が言いたいかというと、
私が勤めてる職場の、たそがれ前のある一定時間、
夕日が向かい側のビルの窓に当たってまぶしい。
そのまぶしい向かい側の窓を背にするお客さんと対峙しなきゃならない職場だからしんどい。

ノーモア、テロ級にまぶしい反射の斜陽。
わたしジャパンはこの活動を応援しています。

「5年前の鉄板ネタ、聞きたいかね。
珍しく我等が過疎支店に、たそがれ前、まさに向こうのビルに夕日が反射する頃。
ハゲの怪獣客様がお越しになってだな」

10月になった。東京はまだ残暑が酷い。
今年の3月から異動してきた支店は、厳密には支店の窓口業務は、今の時期の、日没前のある十数分〜数十分だけ、日光のオレンジな反射がまぶしい。
先月の前半も、先々月も問題無かったのに。

今の時期は太陽の関係で、仕方無い。
「教授支店長」って呼ばれてる支店長は言う。
どうにも光が困るようなら、どうせ過疎支店だから、窓口に来た客を反射光が当たらない接待席に連れて行くと良いって言ってくれるけど、
窓にブラインド、使わないのかな(多分:景観)
使っちゃ、ダメなのかな(確実に:店の景観)

「教授支店長、『ハゲの怪獣客』 is なに」
「だいたい予想できるだろう。
まずカルシウム不足気味なお客様がオレンジ色の反射的後光を背負ってお越しになる」

「はんしゃてき、ごこう、」
「そう。反射的後光だ。

当時そこに座っていたのは、別の支店で今勤務している若い男性なのだが、
後光怪獣客様が山頂にご来光しながら『窓口係が若手では専門的な相談ができない』と噴火してだな。
そのご来光がご来光で、あんまりジャストな場所からジャストな光がジャストしていたせいで、
その若手が、耐えきれず、爆笑してしまったと」

何事かと不審に思った常連、常連の対応をしていた別スタッフ。連鎖して常連が笑って大惨事さ。
支店長はこのネタを何度も何度も擦ってきたらしい。完全に平常心で、少しも笑わず、淡々と。
撮影時の電子音が出ないメリットを活かして常連が隠し撮りしたっていう当時の写真を見せながら。

「たそがれ時の類語に、逢魔が時、魔が差す時がある。怪獣の1匹や2匹、ダイヤモンド富士を体現する妖怪の1人や2人」
人口多いこの東京には、そりゃあ居るだろうさ。
ふざけてお祓いの真似をする支店長は、そう付け足して、光り輝く頭の画像を下げた。

「そのモンカス、それからどうなったの?」
「さぁ?なにせ、後光を背負っておられたニセ菩薩様だ。逆行のせいで顔など覚えちゃいない」
「声くらいは覚えてない?」
「たそがれ前の絶景があまりにも強烈でだな」

それこそ、化生のモノが、たそがれ前にひょろり迷い込んできたのかも、しれないな?
ハライタマエ、キヨメタマエ。ぶんぶん。
相変わらず支店長はお祓いの真似。
「化生のモノねぇ……」
科学だらけの現代だよ。さすがにそりゃないよ。
頬杖ついた私がため息ついて外を見ると、
遠くで子狐にハーネスつけて散歩させてるキレイな黒髪のひとと目が合った。
稲荷神社近くのお茶っ葉屋さんの店主さんだ。
別に、深い意味は無い。 深い意味は、無い筈だ。

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