「『蝶よ花よ』ってさ。
『親が子供を』、『蝶や花を人間が慈しみ愛でる、それと同レベルに、格別にかわいがり』、『愛をもって大切に育てること』なのな」
てっきり「子供自身が」、「『ほら蝶々、ほらお花』と、綺麗な物・綺麗事100%の『無菌』な環境に置かれて」、「下品下劣・世俗を知らない、ガチのピュアっ子に育つこと」だと思ってたわ。
某所在住物書きは題目の意味を調べ、己の誤った解釈に気付き、数度頷いて純粋に知識を改めた。
「意外と、『実は間違って覚えてました』っていう言葉とかことわざとか、多そうよな」
ため息ひとつ、物書きは額に手を当てる。
「で、……『蝶よ花よ』で何をどう書けと?」
――――――
半額ドライフルーツでレモンティーを作ろうとしたら、分量多過ぎて水出し茶の味がせず、ただのレモン水になった物書きです。相変わらず酷い暑さの盛夏、いかがお過ごしでしょうか。
「蝶よ花よ」と題しまして、今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、綺麗なお花、綺麗な石、お星様もビー玉もキラキラちょうちょも、ともかく美しいものが大好きな食いしん坊。
お揚げさんを食べては季節の蝶を愛でて、
お稲荷さんを食べては季節の花を楽しみます。
深めの森の中にある稲荷神社には、在来種の蝶もお花もキノコもいっぱい。
最近はどこから飛んできたやら、ゲーミングトンボな虹色の、チョウトンボもぶらり、迷い込みます。
蝶よ、花よ。汝、稲荷神社の豊かさを示す指標よ。
美しく豊かな命が、子狐の神社を飾ります。
清く純粋な心魂が、子狐の神社を彩ります。
子狐は善い者も良い物も大好き。
今日も今日とてコンコンこやこや、神社のお庭を散歩して、蝶と遊んで花を楽しみます。
ところでさっきから手水のあたりで蝶がいっぱい群れていますがアレは一体何がどうしたことやら。
「水でも、飲んでいるんじゃないか?」
おとくいさん、アレなぁに。
コンコン子狐、稲荷神社の美しい花を撮りに訪れていた常連参拝者さんの、服を引っ張り聞きました。
「ミツバチが手水の水を飲みに来る動画を、見たことがある。蝶のことは不勉強だが、もしかしたら」
まぁ、本当に蝶のことは何も知らないから、誤情報の可能性の方が高いけれど。どうだろう。
雪国出身の善良な参拝者さんは、子狐に予防線ひとつ張って言いました。
え?「狐が人語を解するのは非現実的」?
大丈夫。そもそもフィクションです。物語です。
ごんぎつね然り手袋買いに行く子狐然り、お話の中の狐はだいたい物を喋るのです。
細かいことを気にしてはなりません。
「なんでチョウチョさん、お水飲むの?」
「さぁ、何故だろう。蝶のことは本当に分からないから、私も憶測と想像でしか話せない」
「なんでおとくいさん、分かんないの?」
「ナンデアタックは勘弁してくれ。勝てない」
「なんで?」
「……よし子狐こうしよう。
今日も暑いし、お前の母さんの茶葉屋でアイスキャンディーを買ってくる。それまで蝶や花に、あそこの蝶が水を飲んでいる理由を聞いておいで」
「アイスたべる!チョウチョさん、聞いてくる!」
これはもう、かなわない。
子狐に質問攻めの参拝者さん、とうとう白旗上げまして、子狐の興味関心を蝶そのものから離します。
どうせ、蝶は何も話しません。
どうせ、花は何も語りません。
蝶よ花よ、何も言わず、子狐の心を逸らしておくれ。参拝者さんは一旦子狐とさようなら。
稲荷神社を離れまして、子狐と自分のふたり分、体を中から冷やすに丁度良いアイスキャンディーを、ひとり買いに行きました。
アイス買ってきた参拝者さんは、てっきり子狐は「チョウチョさんもお花さんも話してくれなかった」なんて飽きているとタカを括っておりましたが、
アイス買って帰ってきて、コンコン子狐開口イッパツ「チョウチョさん、『我々蝶が給水するのは複数の理由、複数の条件がありまして』だって」なんて言ったので、一気に目が点になりましたとさ。
「昨日といい一昨日といい、随分、強敵難題なお題ばっかり続くな……」
「最初から」って。何のネタをいつから、どういう風に決まってたことにすっかな。
一難去ってまた一難の某所在住物書きは、ガリガリ頭をかき、ひとつため息を吐いた。
なお「次」も、この物書きにとっては難題である。
さてどうしよう。
「『あらかじめ全部が事前に決まってた』、
『最後の尻尾から頭に向けてではなく、最初の頭から尻尾に向けて、順に決定していった』、
『最初から、それが簡単に予測可能で、決まっているも同然だった』。 あとは……?」
出来レース、決定のベクトル、予測容易回避不能。
物書きは今日も悩み、書き、白紙に戻す。
――――――
酷い落雷の翌日、最近最近の都内某所某支店、昼。
「やぁ、まったく、酷い目に遭ったものだ」
従業員から「教授支店長」の愛称でたまに呼ばれている支店長が、その従業員と共に、
大皿に載せたクリーム色と各自に配布した小さな紙コップに小皿を囲んで、談笑している。
「先頭の、最初の方から順調に決まっていったんだ。ただ、順調だったのは前半だけ。尻尾が一切決まらない。本当に見事なものだったよ」
彼等が食しているのは、片や土産用のたこ焼き、片や同じく土産用の明石焼きセット。
諸事情により、支店長は昨日まで兵庫に居たのだ。
用事を済ませ、予定通り兵庫で従業員用の土産を購入し、それこそ「最初から決まっていた」空港に向かい最初から決まっていた飛行機の指定座席に座り、
いざ東京へ帰還。離陸して、しばらく。
『ご搭乗のお客様へ、お知らせいたします』
目的地におけるゲリラ豪雨である。最初から決まっていた航路を離れ、飛行機は大阪の空港へ向かった。
彼の前の座席では誰かがグチグチ文句を垂れ、
横の座席では子供が不安そうに親にしがみ付いている――後ろの座席の婦人が子供の肩を叩き、飴を数個差し出した。『機長さん、どうしても皆で一緒に、大阪でタコパしたいねんて』
「で、今こうして食べ比べタコパが実現したと」
いやはや。空の逝っとけダイヤとは、きっとアレのことを言うのだろうよ。
支店長は透き通る出汁にクリーム色を浸し、ぱくり。染み渡る滋味に、幸福なため息を吐いた。
「結局支店長、兵庫に何しに行ってたの?」
「友人の二度目の結婚式の、事前準備の手伝いを」
「ファッ?!」
「私の大学と院生時代の悪友でな。今は神戸の大学で、図書館の事務職員をしている」
「教授支店長、ご友人が居た……!」
「失敬な。私のような物書きにだって、ニッチな仲間のひとりやふたり居るとも」
途中までは、トントン拍子で話が進んだよ。
式のプログラムの最初の方から、順に簡単に決まってたんだがな。問題はクライマックスから後だ。
もっちゃ、もっちゃ。次々好評に消えていく粉モンの球体と共に、支店長の話も進む進む。
「結果としてその日の内には決まらなくてな」
支店長は言った。
「私も今日、仕事がある。仕方無いから所定の時刻に、所定の空港へ行って飛行機に乗って。
そうしたら東京でゲリラ豪雨だ。ふむ」
私の昨日の収穫は、きっとこの大阪兵庫合同タコパだろうよ。 再度ため息を吐く支店長は、しかし大阪側のたこ焼きも気に入ったらしく、冷凍袋のパッケージを確認して、スマホで販売元を調べる。
「最初から決まってたことが、そのまま決まってた通りに進むとは限らないことの証左だ」
支店長は言った。
「ただ、事前に決まっていたなら『たこ焼き』の他にも『どろ焼きとお好み焼き』だの、もんじゃ焼きだの、他にも色々仕込めたんだがな……」
「どろ焼き is なんですか」
「知らんのか」
「知らないです」
「知りたいかね」
「知りたいです」
「調べたまえ。東京でも食える」
「タロットに『太陽』があるから、変わり種のネタ盛りだくさんだと思ったんよ」
発雷確立の予測と雨雲レーダーを交互に確認しながら、某所在住物書きは弁明した。
去年は「太陽」の光を受けて光るサンキャッチャーの物語を書いた。 今年はどうすべきか。
ちょっとシャレたエモいハナシを書こうとしたら前回は酷く爆死して、結果として上記を投稿したが。
「子供、対立の融合、幸福、新しさ、不調、衰退、忍耐力の欠如。あと『気が置けない相手』に『物事を甘く見る』。色々書けると思ってたんだがな」
なんでこんなに物語が閃かないんだか。加齢と己の程度である。物書きはため息を吐き、発想の不調を「太陽」逆位置のせいだとカードに押し付けた。
「カムバック忍耐力と幸運幸福」
――――――
多くの都道府県で30℃以上が続く今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。
暑い太陽が憎らしくなってくる夏の盛りに、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のお話です。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
ごはんを食べて、いっぱい遊んでいっぱい人間を見て、不思議なお餅を売ったりお母さん狐の茶葉屋の看板子狐をしたりして、よく寝て。
善良に、幸福に、すくすく成長しておりました。
昨日はひょんなことから手水の中にボッチャンして、手水の上で遊んじゃいけないと学習しました。
多分数日で忘れます。コンコン子狐、子供なのです。
さて。天気ぐずついて、太陽なんか見えてるんだか見えてないんだかの東京です。
そのくせ湿度はちょっと高めで朝から真夏日の気温。要するに、街の中は蒸し暑いのです。
それに比べて子狐の神社は、深めの森の中。湿度はどうにもなりませんが、木々と草花のおかげで気温はちょっと低め。若干過ごしやすいのです。
コンコン子狐、そんな神社の敷地内の、お父さん狐が手入れをしている薬草庭、ハーブガーデンで、
黄色くて大きくて、ちょっとだけアサガオに似てなくもない花が咲いているのを見かけました。
カボチャです。 カボチャの雌花です。
カボチャの果肉は数種類のビタミンとそこそこの食物繊維を含み、カボチャの種はポリフェノールや豊富なミネラル、α-リノレン酸なんかが含まれます。
要するに、美味しくて健康に良いのです。
「カボチャだ!」
コンコン子狐、黄色い太陽みたいな明るい花を見て、ウキウキびゅーん!駆け寄ります。
「カボチャのお花だ!」
狐は肉食寄りの雑食性。お肉も野菜も大好き。
なによりこの子狐は不思議な不思議な稲荷の狐なので、カボチャの煮っころがしの美味もパンプキンポタージュの幸福も知っているのです。
キラキラ明るい太陽の、カボチャの花がしぼんだら、まんまる丸いお月さま。カボチャの実が顔出します。
雄花雌花の補足情報こそあれど、甘くて美味しくて万能な、まんまる野菜が実ります。
コンコン子狐は今まさに、月が出る前の太陽が咲いたのを見ているのです。
このお花は、どんなカボチャになるのかしら。
「最近はあっついから、冷たいスープがいいなぁ」
なんて言ったっけ。れーせースープ、冷製スープ?
いやいや友達の化け狸の、和菓子屋さんに横流しして、おいしいカボチャのお菓子も良いかも。
子狐コンコン、未来の甘味を想像して、尻尾をぶんぶんバチクソに振り倒します。
お母さん狐が子狐をお昼ごはんで呼びに来るまで、
子狐コンコン、黄色いカボチャの花を愛でて、幸福に遊んでおりましたとさ。
「『風鈴とは、日本の夏に家の軒下などに吊り下げて用いられる小型の鐘鈴』。
去年はコレで、風鈴のハナシ書いたわ。『暑い夏に、部屋で吊るせる風鈴を贈ろう』って」
今年はどうすっかな。風鐸かな。銅鐸かな。
某所在住は鐘をネット検索しながら、どこかに書きやすい抜け道など無いか思考を巡らせた。
「『鐘(しょう)』なら寺にあるみたいな釣り鐘、
『当たり鐘』であれば福引等のガランガラン、
ハンドベル、振り鈴も構造としては『鐘(ベル)』。
ドア開いた時のチリンチリンは『ドアベル』か」
手強い。難しい。 なおも鐘を漁る物書きの目に、今年も「風鈴」のウィキページが留まる。
結局、身近にある事物が一番王道で近道のような気がするが、はてさて、云々。
――――――
酷く暑い「微熱程度の気温」が勢力を弱めて、酷暑間近から猛暑間近まで、少しだけ、限りなく少しだけ予想最高気温の下がった都内某所です。
カラカラカラ、ちりりりちん。
某深めの森の中にある、某不思議な稲荷神社の敷地内では、手水の屋根の上にガラスの風鈴と鋼のウィンドチャイムが飾られました。
森によって微量若干だけ冷まされた風は、小さな鐘鈴に当たってそれらを揺り動かします。
カラカラカラ、ちりりりちん。
鐘鈴の音は、稲荷神社に涼しく、美しく響きます。
聴覚的な涼しさと日陰の心地良さは、参拝客を少しだけ、夏の暑さから遠ざけるのでした。
で、
その風鈴風鐘のゆらゆらチリチリを、
揺れる猫じゃらしか何かと間違えているのか、
手水の岩の上にお座りして凝視する子狐が1匹。
その子狐の今後が簡単に予測できてしまうので、ハンドタオルを用意してそれを見守る参拝者がひとり。
参拝者は名前を藤森といい、
鐘鈴を狙う子狐は神社在住の子狐でした。
「子狐。おい、こぎつね」
チベットスナギツネのジト目で、藤森、神社名物の冷やし甘酒を堪能しつつ鐘の音の下を見守ります。
「手水に落ちるぞ。降りなさい」
藤森の声なんか、子狐、知りません。
だって眼前で狩猟本能をくすぐる物体が揺れているのです。小さく動いているのです。
これは狐として見過ごせぬ。コンコンこやこや。
「だから。その過程で手水に落ちると言っているんだ。ほら、良い子だから、降りなさい」
良いんですか、あのままにしておいて。
藤森、稲荷神社の売店の巫女さんに確認します。
落ちて濡れて嫌な気分になれば学びますし、落ちて冷たく心地よかったらそれも学びますよ。
売店の巫女さん、穏やかに笑って藤森に答えます。
ふたりの問答なんて知ったこっちゃねぇのコンコン子狐は、手水のド真ん中に陣取る風鐘をロックオン。
これを得ようと、心に決めました。
まぁ、落ちるでしょう。お約束です。
最終的に手水にドボン。あわあわ慌てて這い上がって、ぶるんぶるん。御狐ドリルするのです。
「参拝者さん、冷やし甘酒のおかわりはいかが?」
「十分です。ありがとうございます」
「では、甘酒を使ったかき氷は?」
「本当に、十分です。また今度いただきます。
ちょっとこの後、寄りたい店がありまして」
「なるほど。私の娘のとこの茶葉屋で水出し茶葉を買いたいから、出費を節約しておきたいわけだ」
「えっ、」
「今週限定で、レモンと柚子ブレンドの塩が少しだけ入ったフレーバーティーが3割引きですよ」
「なぜ、……え?」
「娘の店をごヒイキ頂き、ありがとうございます」
「はぁ……お世話になっております」
「5箱くらい取り置きさせましょう」
「すいませんそんなに要りません。自分で店に行きますのでお気遣い結構です」
まぁまぁ遠慮なさらず。 いや本当に結構です。
藤森と売店の巫女さん、商売繁盛なおしゃべりをして、ペコペコ勘弁してくださいのお辞儀して、また来てねからのスタコラサッサ。
カラカラカラ、ちりりりちん。
風鈴風鐘の音はそれらすべてを包み込み、
結局コンコン子狐は、手水の屋根に吊り下げられた風鐘に飛びかかろうとしてボッチャン。
お約束どおり、手水の冷水にダイブしましたとさ。
「『退屈な事』、『流れ続けて詰まる事の無い琴』、『渋滞しない、交通がスムーズな古都』……」
いや、多分今の時期、絶対古都とか観光で渋滞して、詰まってるんだろうな。某所在住物書きは「つまらないこと」の漢字変換パターンを考えていた。
つまらない事、詰まらない琴、詰まらない古都。
他には?「積まらない」とは言うだろうか?
「個人的に、ひらがな系のお題は、どう漢字変換できるかは複数考えるようにしてるのよ。してるけどさ」
「琴」も「古都」も、俺には、ハナシ書くの難しいわな。物書きはため息を吐いて、物語を組み始めた。
正直に「つまらないこと」を書く方が無難だろう。
――――――
東京は、相変わらず今日も今日とて暑い。
最高気温の予報は体温以上、微熱程度。
夏休みの児童生徒・学生なんかは外より屋内の涼しい部屋で安全にゲーム三昧。
その酷暑間近な状況でも、仕事持ちやバイト持ち、その他外出の理由が有る人は、灼熱の中に出ていかなきゃいけないわけで。
私はその中の「仕事持ち」だった。
つまらない仕事だけど、でも、生活費稼がなきゃ。
なにより支店の中は空調効いてて冷房使い放題。
たすかる(電気代節約あざすです)
で、その仕事場での一幕。
今年の3月から一緒の支店で仕事してる付烏月さん、ツウキさんが、昼休憩に保冷バッグから小さな水出しポットを取り出した。
「さて。どんな味かな……」
すごく複雑な表情してる。すごく、不安そうで興味深そうで、でも心配そうな顔をしてる。
どうしたんだろう。
「うん。バチクソにつまらないことだけどね」
付烏月さんが小さな紙コップに、トポトポ、ポットの中身を注いで私にシェアしてくれた。
「すごく、ドチャクソに、どうでもいいことだけどね。そのつまらないことでも、うん……うん」
コップの中身は透き通った薄い黄緑色。
ふわり、レモンの良い香りが鼻の近くで咲いた。
アイスのレモンティーだ。
口に含むと、少しだけの塩味と、レモンの余韻と、それから台湾烏龍の気配があった。
「昨日、駅で200円くらい入った小銭入れ落としてさ。更にジャンク中古日傘もスられてさ」
「うん」
「俺、ちょっとションボリしたから、コンビニで美味いおつまみでも買ってメンタル上げようって」
「うん」
「丁度、緑のコンビニでレモンチップとかいうのが半額だったの。甘酸っぱいと思って買ったの」
「へー」
「甘酸っぱいんじゃなくて甘じょっぱいでもなくて、なんか旨味系のしょっぱさだったの」
「思ってたんと違う案件ですね察しました」
で、 こうなったワケ。
付烏月さんは水出しポットの、茶っ葉を入れておくスペースをトントン、指さした。
「塩と旨味が入ってるってことは、」
付烏月さんが言った。
「つまり、塩分補給に丁度良いんじゃないかって。水出しのお茶に突っ込めば、香りも移るかなって」
閃いた俺、水出しの茶っ葉と一緒に、レモンチップを全量ブチ込んでみました。
以上、昨日から続く、つまらないことでした。
そう付け足して、自分でもポットの中身をマグカップに注いで、香りを確認してゴクリ。
「ほほん。意外と悪くない。アリ寄りのアリだ」
「日傘スられたのは、『つまらないこと』でもなくない?逆に事件じゃない?」
「まぁ、中古でジャンクだったし。そろそろ買い替えよっかなって思ってたし。ジャンク日傘が水出しティーのレパートリーだのアレンジレシピだのに化けたとでも、思っておこうかなって」
多分今頃、スった方も日傘のこと、「思ってたんと違う」ってションボリしてるよ。ふんふん。
付烏月さんはそう言って、半額レモンチップと水出し台湾烏龍で仕込んだフレーバーティーをゴクリ。
満足そうに香りをかいで、飲んでる。
「日傘ねぇ」
トポトポトポ。 貰ったお茶がなかなか良い味と香りだったから、一気飲みして、紙コップじゃなくて自分のマグカップにそれを注いで。
「私もそろそろ、暑いし、1本くらい」
1本くらい日傘買おうかな。 ポツリ呟いて、アイスティーをレモンの香りと一緒に喉に流し込んだ。