かたいなか

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「タロットに『太陽』があるから、変わり種のネタ盛りだくさんだと思ったんよ」
発雷確立の予測と雨雲レーダーを交互に確認しながら、某所在住物書きは弁明した。
去年は「太陽」の光を受けて光るサンキャッチャーの物語を書いた。 今年はどうすべきか。
ちょっとシャレたエモいハナシを書こうとしたら前回は酷く爆死して、結果として上記を投稿したが。

「子供、対立の融合、幸福、新しさ、不調、衰退、忍耐力の欠如。あと『気が置けない相手』に『物事を甘く見る』。色々書けると思ってたんだがな」
なんでこんなに物語が閃かないんだか。加齢と己の程度である。物書きはため息を吐き、発想の不調を「太陽」逆位置のせいだとカードに押し付けた。
「カムバック忍耐力と幸運幸福」

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多くの都道府県で30℃以上が続く今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。
暑い太陽が憎らしくなってくる夏の盛りに、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近のおはなしです。都内某所のお話です。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
ごはんを食べて、いっぱい遊んでいっぱい人間を見て、不思議なお餅を売ったりお母さん狐の茶葉屋の看板子狐をしたりして、よく寝て。
善良に、幸福に、すくすく成長しておりました。

昨日はひょんなことから手水の中にボッチャンして、手水の上で遊んじゃいけないと学習しました。
多分数日で忘れます。コンコン子狐、子供なのです。

さて。天気ぐずついて、太陽なんか見えてるんだか見えてないんだかの東京です。
そのくせ湿度はちょっと高めで朝から真夏日の気温。要するに、街の中は蒸し暑いのです。
それに比べて子狐の神社は、深めの森の中。湿度はどうにもなりませんが、木々と草花のおかげで気温はちょっと低め。若干過ごしやすいのです。
コンコン子狐、そんな神社の敷地内の、お父さん狐が手入れをしている薬草庭、ハーブガーデンで、
黄色くて大きくて、ちょっとだけアサガオに似てなくもない花が咲いているのを見かけました。

カボチャです。 カボチャの雌花です。
カボチャの果肉は数種類のビタミンとそこそこの食物繊維を含み、カボチャの種はポリフェノールや豊富なミネラル、α-リノレン酸なんかが含まれます。
要するに、美味しくて健康に良いのです。

「カボチャだ!」
コンコン子狐、黄色い太陽みたいな明るい花を見て、ウキウキびゅーん!駆け寄ります。
「カボチャのお花だ!」
狐は肉食寄りの雑食性。お肉も野菜も大好き。
なによりこの子狐は不思議な不思議な稲荷の狐なので、カボチャの煮っころがしの美味もパンプキンポタージュの幸福も知っているのです。

キラキラ明るい太陽の、カボチャの花がしぼんだら、まんまる丸いお月さま。カボチャの実が顔出します。
雄花雌花の補足情報こそあれど、甘くて美味しくて万能な、まんまる野菜が実ります。
コンコン子狐は今まさに、月が出る前の太陽が咲いたのを見ているのです。
このお花は、どんなカボチャになるのかしら。

「最近はあっついから、冷たいスープがいいなぁ」
なんて言ったっけ。れーせースープ、冷製スープ?
いやいや友達の化け狸の、和菓子屋さんに横流しして、おいしいカボチャのお菓子も良いかも。
子狐コンコン、未来の甘味を想像して、尻尾をぶんぶんバチクソに振り倒します。
お母さん狐が子狐をお昼ごはんで呼びに来るまで、
子狐コンコン、黄色いカボチャの花を愛でて、幸福に遊んでおりましたとさ。

8/7/2024, 2:50:22 AM