かたいなか

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「昨日といい一昨日といい、随分、強敵難題なお題ばっかり続くな……」
「最初から」って。何のネタをいつから、どういう風に決まってたことにすっかな。
一難去ってまた一難の某所在住物書きは、ガリガリ頭をかき、ひとつため息を吐いた。
なお「次」も、この物書きにとっては難題である。
さてどうしよう。

「『あらかじめ全部が事前に決まってた』、
『最後の尻尾から頭に向けてではなく、最初の頭から尻尾に向けて、順に決定していった』、
『最初から、それが簡単に予測可能で、決まっているも同然だった』。 あとは……?」
出来レース、決定のベクトル、予測容易回避不能。
物書きは今日も悩み、書き、白紙に戻す。

――――――

酷い落雷の翌日、最近最近の都内某所某支店、昼。
「やぁ、まったく、酷い目に遭ったものだ」
従業員から「教授支店長」の愛称でたまに呼ばれている支店長が、その従業員と共に、
大皿に載せたクリーム色と各自に配布した小さな紙コップに小皿を囲んで、談笑している。
「先頭の、最初の方から順調に決まっていったんだ。ただ、順調だったのは前半だけ。尻尾が一切決まらない。本当に見事なものだったよ」

彼等が食しているのは、片や土産用のたこ焼き、片や同じく土産用の明石焼きセット。
諸事情により、支店長は昨日まで兵庫に居たのだ。
用事を済ませ、予定通り兵庫で従業員用の土産を購入し、それこそ「最初から決まっていた」空港に向かい最初から決まっていた飛行機の指定座席に座り、
いざ東京へ帰還。離陸して、しばらく。

『ご搭乗のお客様へ、お知らせいたします』
目的地におけるゲリラ豪雨である。最初から決まっていた航路を離れ、飛行機は大阪の空港へ向かった。
彼の前の座席では誰かがグチグチ文句を垂れ、
横の座席では子供が不安そうに親にしがみ付いている――後ろの座席の婦人が子供の肩を叩き、飴を数個差し出した。『機長さん、どうしても皆で一緒に、大阪でタコパしたいねんて』

「で、今こうして食べ比べタコパが実現したと」
いやはや。空の逝っとけダイヤとは、きっとアレのことを言うのだろうよ。
支店長は透き通る出汁にクリーム色を浸し、ぱくり。染み渡る滋味に、幸福なため息を吐いた。

「結局支店長、兵庫に何しに行ってたの?」
「友人の二度目の結婚式の、事前準備の手伝いを」
「ファッ?!」
「私の大学と院生時代の悪友でな。今は神戸の大学で、図書館の事務職員をしている」

「教授支店長、ご友人が居た……!」
「失敬な。私のような物書きにだって、ニッチな仲間のひとりやふたり居るとも」

途中までは、トントン拍子で話が進んだよ。
式のプログラムの最初の方から、順に簡単に決まってたんだがな。問題はクライマックスから後だ。
もっちゃ、もっちゃ。次々好評に消えていく粉モンの球体と共に、支店長の話も進む進む。
「結果としてその日の内には決まらなくてな」
支店長は言った。
「私も今日、仕事がある。仕方無いから所定の時刻に、所定の空港へ行って飛行機に乗って。
そうしたら東京でゲリラ豪雨だ。ふむ」

私の昨日の収穫は、きっとこの大阪兵庫合同タコパだろうよ。 再度ため息を吐く支店長は、しかし大阪側のたこ焼きも気に入ったらしく、冷凍袋のパッケージを確認して、スマホで販売元を調べる。
「最初から決まってたことが、そのまま決まってた通りに進むとは限らないことの証左だ」
支店長は言った。
「ただ、事前に決まっていたなら『たこ焼き』の他にも『どろ焼きとお好み焼き』だの、もんじゃ焼きだの、他にも色々仕込めたんだがな……」

「どろ焼き is なんですか」
「知らんのか」
「知らないです」
「知りたいかね」
「知りたいです」
「調べたまえ。東京でも食える」

8/8/2024, 3:13:02 AM