かたいなか

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7/19/2024, 4:23:41 AM

「1年半このアプリで投稿し続けてさ、ガチでいっぺん呟きのアンケートみたいに、皆どんなネタを好んで求めてるか聞いてみてぇとは思ったりしてるわ」
俺だけ、なのか、俺だけじゃない、なのかは、それこそ集計取れねぇから分からんけど。
某所在住物書きはカキリ小首を鳴らし、呟く。
なんとなく、ニーズを知りたいのだ。

「あとアレよ。『完全に書けねぇお題が来たとき、お題ガン無視でハナシ書いちまっても良いかな』とか。絶対俺だけじゃないよな。……だよな?」
ところで俺はエモ系ネタ不得意だけど、他の皆様は、どういうお題が苦手なんだろ。物書きはふと疑問に思ったが、知る方法も無く、結局深追いをやめた。

――――――

猛暑と熱帯夜ばかり続く都内某所の某支店、客がほぼ常連ばかりの過疎店であるところのそこ、昼。
菓子作りが趣味の付烏月、ツウキという男が、給湯室で休憩用のスイーツを準備している。
支店の従業員と支店長と、それから上客なマダム1名分。アイスクリームとソルベである。

ティーカップのソーサーを器代わりに、低糖質バニラアイスをひと盛り、ふた盛り。上にルビーレッドのクリアなシロップをかけ、ミントをひとつ。
アイスの周囲を一回転、エメラルドグリーンのシロップで色付け。口直しとしてバニラの隣にはレモンソルベが小さく添えられた。

ルビーとエメラルドは付烏月の友人からの提供物。
某マゼンタ色に白いロゴ文字のプチプライスショップで見つけたスイカアイスの素とメロンアイスの素を、それぞれ軽く煮詰めた。
店員の口車に乗せられて双方3本ずつ購入してしまったものの、使い道が思い浮かばず、菓子作りを趣味とする付烏月に1缶ずつ提供した次第。
詳しくは前回投稿分参照だが気にしてはいけない。

「お待たせしました。マダム」
アイスをトレーにのせ、給湯室を出た付烏月。
まず常連の女性が座るテーブルへ。
スマホのスピーカーからは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番、第1楽章が穏やかに。
「スイカを主題にしたバニラアイスと、口直しのレモンソルベです」

「頂くわ」
はやる気持ちを澄ました視線と声で隠す上客。
この状況の言い出しっぺである。
『せっかくアイス頂くなら、私、ちょっと体験してみたいアクティビティがあるんだけれど』
そのアクティビティとはつまり、いわゆる執事カフェであった。それっぽい雰囲気をやってみてほしいと。
仲の悪い彼女の友人が、先日彼女だけをこっそり除いて、その手のカフェの数軒に行ってきて、長々堂々、強火マウントよろしく自慢されたそうなのだ。
『私だけ放ったらかされたの』
その日この店で20万の契約を結ぶ予定のマダムは、口をとがらせ、軽くスネて見せた。

付烏月は「え?」であったが、
彼の3月からの同僚と今年度からの新卒者の目が、
それはそれは、もう、それは。
金剛石のように、キラリ、輝いたのであった。
『やってみてよ付烏月さん。減るもんじゃなし』

「お茶を用意してちょうだい。冷たいものを」
「大麦のアイスティーと、冷水で抽出したゆず入りのグリーンがございます。マダム」
「グリーンが良いわ。出してちょうだい」
「はいマダム。ただいま」

大麦のアイスティーって。大麦ティーって。
それただの麦茶だよ付烏月さん。
遠くからエモめの光景をパシャパシャ撮影している例の同僚は爆笑をこらえて吹き出し寸前。
良さげに綺麗に撮ってほしいと頼まれたのだ。
絵面が良いのだ。なによりマダムが美しく付烏月がそこそこサマになっているのだ。
弦楽器のクラシックが流れ、老淑女と若執事が語らう尊き構図で、つまり、付烏月は「麦茶ありますよ」と言ったのだ――それが同僚にツボったのである。
だが良い。すべてエモい。すべて尊い。
なお絵面と構図だけ。会話内容がギャグ。

「バニラが美味しいわ。どこのものかしら」
「コンビニエンスのブルーから取り寄せました」
「この懐かしい味のシロップは」
「マゼンタのプティ・プリィ・マガザンから」
「レモンソルベは何を使ったの?」
「はい、マダム。ポッカーを少々」

「トレビァンよ。下がってよろしい。ありがとう」
「光栄です。マダム」

ごめんなさいね、ごっこ遊びに付き合わせて。
至極幸福そうな老淑女は、最終的ににっこり笑って、少し詫びて一瞬目をつぶる。
マダムの次は支店側の従業員と支店長への給仕。
付烏月が振り返れば例の同僚が、「青いコンビニ」と「マゼンタのプチ・プライス・ショップ」と「レモン果汁少々」の言い方に敗北している。
抱えた腹は相当に痛そうに見えた。

最終的に気を良くした上客は、当初20万の予定であった契約を30万に増額してサインし、
付烏月は付烏月で、自分だけ、ピンポイントに自分の分だけ、昼休憩用のアイスを作り忘れましたとさ。

7/18/2024, 4:59:44 AM

「『遠くの街へ』、『遠い空へ』、それから『遠い日の記憶』。さすがにもう『遠い』系は来ないよな」
アプリを入れて最初のお題が「遠くの街へ」だった。某所在住物書きは遠い遠い、1年半前の日を思い返して、当時の投稿を、
見返そうにもスワイプが面倒で面倒で、人差し指を何度も下から上へ弾いて弾いて、最終的に諦めた。

「毎回毎回新ネタなんて書けねぇからって、続き物風
で各お題のハナシを繋げてって、気が付いたら随分遠くまで来たもんよ。早いねぇ」
で、長期間投稿して何が不便ってさ。遠い過去であればあるほどスワイプして辿るのが面倒。
あとガチで買い切りの広告削除プランはよ。
物書きは恒例にため息を吐き、スマホを指でなぞる。

――――――

とある上京者の遠い遠い、幼少時代の記憶。
花と山野草溢れる雪国の、狐潜み狸飛び出す田舎出身で、当時の名前を附子山というのだが、
後に悪しき理想押し付け厨な恋人から逃げるために「藤森」と改姓したので、そちらで呼称する。

早くから少額の小遣いと家内手伝いバイト制とで、節約術と金銭感覚を養う機会を得ていた藤森。
幼少時代、すなわち二十数年前、あるいは三十年前かもしれない、遠い昔の叶わなかった欲望に、
某スイカの色と味するアイスを片手に、
某メロンの色と味するアイスを別の手に、
それぞれ持って双方を同時に楽しむ、
なんて贅沢が、実は存在した。

早くから子供ながらの我慢を習得していた藤森。
数分で2本分の金銭を一気に消費するよりは、2本を2日に分けて楽しむ方を好んだし、
そもそものところ、少々少食気味で、
大きめのアイスを同時に2本など食えぬ。

スイカアイスとメロンアイスを同時に食いたい子供心と、それを許さぬ理性のせめぎ合い。
時間は経過し季節も巡り、遠い日の欲望は遠い過去に埋もれて、記憶の奥の奥底へ沈んだ。
昔々、遠い遠い夏の日のおはなしである。

――で、その藤森、2024年の夏にして、とうとう当時の欲望の擬似的成就に手が届く距離に立った。
某プチプライスストアである。ハッピープライスでパラダイムなパラダイスである。
製氷トレーを買いに来た藤森は、スチール缶の並ぶ一角で、葛藤し、立ち尽くしていた。

すなわち濃縮タイプの1缶で4本分。
スイカアイスの素とメロンアイスの素である。

(キューブタイプの製氷皿で作れば、双方、食いたい分ずつ食えるということか?)
幼少時代のゆるやかな節約術が今も魂に残っている藤森。すぐさま1本あたりの単価を計算し、「既製品」と比較し、口を固く結んで小首を傾ける。
買っても良い。 買う必然性は、無い。
(そもそも4本も食うか?不必要では?)

遠い日の記憶が一気にプカリ浮いてきて、藤森の中の贅沢的欲望と節約的理性が喧嘩する。
買っても良いのだ。 買う必然性は、無いのだ。
(しかし小分けで作っておけば食うのでは?)
雪国出身の藤森は、出身のためか、25℃で弱り始め35℃で溶ける。暑さに弱いのである。
(買っておくのも、ひとつの、手か……?)
さてどうしよう。藤森はため息を吐く。
少額の小遣いで遣り繰りしていた幼少期と違い、今は金銭的余裕がある。藤森の財政は220円をケチるほど、逼迫してはいなかった。

「……」
買うべきか、買わざるべきか。
藤森が商品を凝視しているとき、商品を整理整頓している店員もまた、藤森を見ているのだ。

「意外と、ちゃんとスイカアイスしてましたよ」
ひょこり。葛藤続ける藤森を店員が言葉で押した。
「牛乳で割るとスイカミルクになるし、
炭酸で割ればソーダに、かき氷ならシロップにも。
バニラアイスに混ぜ込むのも、アリでしたよ」
どうです?便利ですよ。
藤森に対して店員は業務的に微笑し、
藤森は遠い日の記憶に責め立てられて、スイカアイスの素とメロンアイスの素を、双方、1本づつ買いたい衝動を、なんとか、一応、数分は抑え込んでいた。

「1本づつで宜しいですか?」
「えっ?」
「ホントに、本当に、『1本で足りますか』?」
「いや、その……」

7/17/2024, 3:16:59 AM

「『執筆者でも誰でもともかく大多数対象をAと置く』と、『Aが空を見た後、事柄Bを思い浮かべる』が満たされりゃあ、今回のお題はぶっちゃけ、何でも書けるな。『空だ→青いな』とかさ」
まぁ、問題はそっからどうやってハナシを膨らませるか、だけど。某所在住物書きはため息を吐き、天井を見上げて、心に浮かんだことを呟いた。
途方に暮れたとき、心境をリセットしたいとき、
ただの散歩途中、夜空の鑑賞、夕暮れ時の月。
小雨だの土砂降りだのの続く悪天候を見上げることも、あるかもしれない。
低山の登山で山頂を目指している時でも良かろう
――飛行機登場中は見上げるのではなく、既に空が横にあるか。

「俺自身は、空見上げて……」
自分自身は、空を見上げて何を思い浮かべるだろう。物書きは視線を天井から、窓の外へ移した。
数秒見て、思考して、再度空を見て、ぽつり。
「……別になんも浮かばねぇ」
ひと、それを感受性に乏しいと言うかもしれない。

――――――

快晴快風の昼の空、あるいは燃える夕暮れを見上げ、青やら白やら茜色やらに、何か思いを包んで綴る。
素直に読めばこの光景、少し捻くれてもこの設定。
そのことごとくを崩して捻って、変わり種を錬成したかっただけのおはなしです。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、人の世で不思議な不思議なお餅を売り歩き、人間を学習して修行の最中。
週に1〜2回、ホオズキのあかりを担ぎ、不思議なおまじないやご利益をひと振りふた振りしたお餅を葛のカゴに入れ、たったひとりのお得意様のところへ、コンコン、営業にゆくのです。

末っ子子狐の一軒家も、森と木陰と土と水とで十分涼しくはありますが、お得意様のアパートは、文明の利器たるエアコンが絶賛稼働中。
ベッドに置かれた通気性の良いタオルケットも、接触冷感の枕も、ひんやりしていて最高です。
道中どれだけ暑くたって、ゴールの室温26℃前後を思えば、ちっとも苦しくありません。
今日も1個200円、値段のわりに大きくて栄養満点、かつおまじない付きのお餅をカゴに詰め、しっかり人間に化けて、夜の東京を歩きます。

とてとてとて。街灯や照明の影響で、星の光の届きづらい夜空を見上げ、コンコン子狐は思い浮かべます。
北の小さな霊場に嫁いだお姉さん狐が言うには、向こうの空は星がぎっしり輝いて、氷か飴の粒を敷き詰めたように、キラキラ美しいのだそうです。
氷かぁ。かき氷お餅とかあれば面白そうだけど、どんなお餅になるのかな。
子狐はこっくりこっくり、悩みながら歩きました。

とてとてとて。高層建築建ち並び、見える範囲の限られる夜空を見上げ、コンコン子狐は思い浮かべます。
南の古い拝所を見てきたお兄さん狐が言うには、向こうの空はさえぎる物が少なくて、どこまでも続いており、海と空が青と青でくっついているそうです。
青かぁ。ソーダお餅やラムネお餅があれば涼しそうだけど、きっと作ったら売る前に食べちゃうや。
子狐はじゅるりるり、味を想像しながら歩きました。

とてとてとて、ピンポンピンポン。
かき氷お餅にソーダお餅、ラムネお餅を思い浮かべながら、道中ついついスイカのアイスを買って食べてしまったコンコン子狐。ようやくお得意様が住む、アパートの一室にたどり着きました。
あんまり食べ物のことを思い浮かべてしまったので、
おとくいさん、こんばんは
といつも言ってる口上を、
「おとくいさん、いただきます!」
と、元気な声で、コンコン、言ってしまいました。

「『いただきます』?」
自称捻くれ者の実は優しいお得意様、子狐と子狐の背後の空とを見つめて、見上げて、穏やかにため息。
それからぽつり、勘違いして言いました。
そういえばそろそろ満月です。
「見上げた月から餅でも連想していたのか?
それとも、単純に腹が減った?」
優しいお得意様、子狐にお揚げさんだのお稲荷さんだの分けてやって、ひんやり冷茶もくれたので、
コンコン子狐、それらをペロリたいらげて、狐尻尾など幸せに、ビタンビタン、振り倒しましたとさ。
おしまい、おしまい。

7/16/2024, 3:43:43 AM

「似たお題なら、6月6日付近の『世界の終わりに君と』と、5月6日付近の『明日世界がなくなるとしたら』があったわな」
空、恋、雨、「終わり」。意外とネタの重複が多いんだよな。別にトレーニングになるから良いけど。
某所在住物書きは前回配信された「手を取り合って」の大苦戦を思い、首を深く傾けた。

「『世界の終わり』は世界終了級に落ち込んじまった子供のハナシ、『世界がなくなる』の方は、その日で閉店する駄菓子屋のハナシ書いたわ」
今回も、前回同様、ネタは大量に出てくるけど納得いくのが無い、みたいになるのかな。
物書きはため息をつき、今日も今日とて……

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
部屋の主を藤森といい、花咲き森溢れる雪国の出身。
おそらくそのためと思われるが、真夏日で弱り猛暑で溶けるほど、東京の夏に弱かった。
ゆえに35℃を上回る日は時折、急ぎの仕事が無い限り、リモートで在宅ワークなどしているのだが、
今日はなにやら久々に、同じ職場の別部署で主任をしている親友さんがご来訪。宇曽野という。
藤森はこの宇曽野に、アイスコーヒーを入れ低糖質スイーツを出し、好きにさせている。

そういえば、先月の23日頃だと記憶しているが、
賞味期限間近ということもあって、宇曽野が置いていったプリンを藤森は勝手に食ってしまった。
彼はそれについてまだ怒っているだろうか?
何か美味いギルティースイーツなど出して、その懸念を完全に終わらせた方が良いだろうか?
そもそもその懸念すら杞憂とか?
(まさか。宇曽野はきっとまだ怒っているさ。私は大事な人を不快にさせてばかりの捻くれ者だから)

「そろそろ、終わりにしたらどうだ」
コーヒーで喉を湿らせて、親友の宇曽野がポツリ藤森に尋ねた。
「何を。仕事か。お前とつるむことか」
パソコンに向かい作業中の藤森が尋ね返した。
「確かに、まぁ、私のような捻くれ者など。これ以上一緒に居られても」
一緒に居られても、迷惑なだけだろうな。付け足す声はそのわりに、穏やかである。
「解けた筈の『あいつ』の呪縛に縛られ続けて、自分をずっとずっと傷つけてるのを、だ」
相変わらず女々しいこと言いやがって。藤森が本気で友好関係の解消を望んでいるわけではないのを理解している宇曽野は、穏やかに訂正して、提案した。

「あいつ」とは、つまり藤森の遅い初恋にして、酷い裏表の性根を持った失恋相手であった。
藤森が「あいつ」に何をされたか、結果どうなったのか。詳細は過去作3月31日や4月23日、5月23日投稿分まで遡るため、辿るのが至極面倒。
細かいことは気にしてはいけない。
要約すれば初恋相手に、呟きの裏垢で理不尽かつ自己中心的にディスられ、心魂をズッタズタのボロッボロに裂かれ壊された、というありふれたハナシ。
藤森は連絡先と縁の一切を断ち切り、区まで越えて、夜逃げしてきた。

関係を絶ちたかった恋人の呪縛を、今年の5月24日、ようやく解消できた藤森。
せっかく自由になったのだから、せっかく自分の人生を歩めるようになったのだから、
そろそろ、自分を「捻くれ者」だの「自称人間嫌い」だの言ってさげすむのを、
あるいは「自分は大切な人間を不快にさせてしまうのだ」と勘違いし続けるのを、終わりにしよう。
宇曽野は藤森に提案したのである。

「あいつがお前から完全に手を引いて、お前がやっと『お前』として過ごせるようになって、もうすぐ2ヶ月だ。もう十分だろう。昔のことは終わりにして、そろそろ、今に戻ってこい」
「既に前なら向いてる。心の不調も仕事に持ち込んではいない。お前も知っているだろう」
「『前』じゃない。『今』だ。お前は『過去』の足枷でジャラジャラ重いまま、気力で走ってるんだ。良い加減、その足枷を外せ。自分を許してやれ」

許すと言っても。自分の何をどう許せというのだ。
藤森は首を振り、ひとつため息を吐く。
「ん?」
解説を求めて顔を上げると、その過程で、宇曽野が非常に見覚えのある茶色とクリーム色の円錐台に、スプーンを当てていることに気付いた。
「宇曽野、お前、それまさか」
それまさか、私が冷蔵庫に入れていたプリンじゃないのか。徐々に威嚇と警戒の表情を表す藤森に、宇曽野は堂々と体積の4分の1をすくい取り、眼前で食ってみせた。

「お前は!お前というやつは!」
「お前だって先月の23日、俺が置き去りにしたプリン食っただろう。おあいこだ!ハハハッ!」
ポコロポコロポコロ。
その後ふたりはひとしきり暴れ倒し、スッキリした後は、ケロッと元通りの仲良しに戻った。

7/15/2024, 3:40:01 AM

「『目』とか『見る』とか、視覚系はバチクソ多かったが、『手』は珍しい気がする」
「見つめられると」、「君の目を見つめると」。「窓越しに見えるのは」に「目が覚めると」等々。
視覚の話題はよく見てきた某所在住物書きである。
今回のお題には少しの珍しさを感じながら、しかしやはり高難度には違いなく、
結局、ガリガリ。頭をかき首を傾けた。
来月サ終する某森頁で手を取り合ってた筈の相互先が解釈押しつけ厨だった俺に「何」を書けと?

「『手を取り合って』。物理的に誰かと誰かが互いの手を掴み合うとか、誰かと誰かが協力し合うとか。その辺がセオリーなんだろうな」
その「手」には乗らないと、将棋とかで、相手の策略を崩してコマを「取り合う」とかは、さすがに「手を取り合う」とは言わんのかな。
毎度恒例。物書きは今日も唸った。
「納得いく『手(ハナシ)』がサッパリ出てこねぇ」

――――――

去年のハロウィンの夕暮れ、都内某所の某職場。ブラックに限りなく近いグレー企業のおはなし。
その日たまたま3番窓口の業務となった女性が、ハロウィン独特の妙な仮装をしている男性に、ネチネチ談笑を強要されていた。
あー、
はい、
何度も言ってますけど、仮装してのご来店は、ご遠慮いただいてるんですよ。
客の死角、業務机の上にある固定電話のプッシュボタン、「1」に人さし指と中指を、「0」に親指を確かにそえて、チベットスナギツネの冷笑。
悪質な客に対し、怒りも恐怖も感じていない。
「面倒」。ただそれだけの愛想であった。

チラリ、後ろを見遣って「最終兵器」に視線を送る。
目が合った隣部署の主任職、「悪いお客様ホイホイ」たる男性と、
その主任職の親友、窓口係と同部署の先輩が、
それぞれ、互いに頷き合い、席を離れた。
先輩はただ淡々と、フラットな感情の目。
主任職は仮装客に対し、それは、もう、それは。
良い笑顔をしている。

淡々先輩と主任職は、
手と手を取り合って(比喩)
あうんの呼吸で(事実)
悪質客にご説明して「ご納得いただき」(察し)、
最後、赤いパトランプに深々、礼をするのだ。

――そんなこんな、アレコレあってからの、終業後。
夜の某アパートの一室。

「やっぱり在宅ワークこそ理想郷だったわー……」
人が住むにはやや家具不足といえる室内で、しかし複数並ぶ小さな菓子を前に、例の窓口係が満面の笑みでチューハイをグビグビ。
精神の安全と幸福を享受している。
「自分のペースで仕事できるし。窓口であんなヘンな客の相手しなくて良いし。なにより先輩のおいしいごはん食べられるし」
久しぶりに見たわ。隣部署の宇曽野主任の、「悪いお客様はしまっちゃおうねバズーカ」。
そう付け足し吐き出したため息は、大きかったものの、不機嫌ではなさそうであった。

「で、その先輩が組み立てたスイーツのお味は?お気に召して頂けたのか?」
プチクラッカーに、泡立て済みのホイップクリームを絞り、少しのスパイスをアクセントに振って、小さな低糖質キューブチョコをのせる。
「まぁ、所詮去年の二番煎じだが」
窓口係に言葉を返しながら、彼女のためにスイーツを量産するのは、部屋の主にして彼女の先輩。
名前を藤森という。
かたわらの、電源を入れたノートには、今日発生した「コスプレしたオッサンに当日の窓口係が粘着された事案」の、発生時刻と経緯と結果が書かれた、いわゆる報告書のようなテキストが淡々。
一応、万が一のためのまとめ作業であった。

職場では長い付き合いの、上記窓口係とその先輩。
片や自律神経や気圧等で冗談抜きに体調を崩し、片や雪国出身のためか真夏日に弱り猛暑日に溶ける。
互いに弱点を持つ者同士、時に相手の代わりに飯を作り、時に体調の快復するまで部屋に置いて、
手に手を取り合って、日々を過ごしてきた。

「あと10個くらい食べれば、夕方の悪質コスプレさんから食らった精神的ダメージ、回復すると思う」
「さすがに糖質過多だ。低糖質の材料使ってるからって、糖質ゼロじゃないんだぞ」
「だって、回復しなきゃだもん。スイーツは心を救うもん。先輩そこのカボチャペーストとクリームチーズ取って」
「私の話聞いてるか?」

もう10個、もう10個、おいやめろ。
擬似的で結果論的な、つまり「それ」と明確に意識しているワケでもないホームパーティーは、あらかじめ購入していた菓子用の材料が無くなるまで、穏やかに、理想的に続きましたとさ。

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