かたいなか

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4/29/2024, 4:02:19 AM

「『刹那』、『がらんどう』、寿司の『シャリ』。元々は仏教用語だっけ?」
なんなら「喉仏」も「坊主」も、いろんな単語が日常生活に神道、もとい、浸透しちまってるから、仏教が存在しない筈の異世界モノとか書くときは、言語考証とか「四苦八苦」だろうねぇ。
某所在住物書きは毎度恒例に、お題をネットで検索して、案の定途方に暮れている。

「……いっそ、刹那ひとつじゃなくて、」
そういえば先々週、「無色の世界」を「無色(むしき)の世界」と読みかえて、ハナシを書いた。
物書きは苦しまぎれの一手をひとつ閃いた。
「刹那を含めた『仏教用語』で行くか?」

――――――

最近最近の都内某所、某稲荷神社近くの茶葉屋、昼。お得意様専用、完全個室の飲食スペース。
静かな通路を、看板猫ならぬ看板子狐がトテトテ。
狐型の配膳ロボットを1台連れて、歩いている。

一番奥の個室の前にたどり着いた。
コンコン子狐は器用に前足でふすまを開け、
刹那、韋駄天の速さで、部屋の中の客のひとりの膝の上に陣取り、べろんべろんべろん。
頬を鼻を舐め倒した。

「今回はお前の方に行ったな」
部屋に居た客は2人。コンコンにコンコンアタックされていない方、名前を藤森というが、配膳ロボットから大皿料理を受け取りながら言った。
「どうする?今日も何か、ペット用クッキーなり何なり、頼んでやるのか?」

「たのむ。たのんじゃう」
コンコンにコンコンアタックされている方、藤森の後輩は非日常的モフモフに至上の悦楽。
卓上のタブレットを手繰り、視界を占領する狐の間からメニューをスワイプ、スワイプ。
子狐用のおやつを2品、追加で注文した。

「コンちゃん。今日は一緒にごはん食べようね〜」
「多分頼んだ2品を食い終わったら出ていくぞ」
「頼み直すもん。それか、ゆっくりあげるもん」

藤森も後輩も、双方、久々の顔合わせであった。
長年同じ部署で共に仕事をしてきたふたりだが、先月、藤森の「元恋人」が職場に就職してきた。
この元恋人が大問題だったのだ。

酷い執着持ちで、恋人厳選厨で、解釈押付厨。
9〜10年前藤森に一目惚れして、解釈違いを散々嘆き散らして藤森の心を、ズッタズタに壊したくせに、今になってヨリを戻そうと以下略。
藤森と元恋人、後輩と元恋人が邂逅すると修羅場の大騒動が予想される。
ワケを聞いた藤森の親友の宇曽野と、彼の祖父である緒天戸の機転で、ふたりは異動により離された。
詳細は過去投稿分に散りばめているが、参照したところでスワイプが億劫なので、推奨はしない。

「……これが、私の今の名刺だ」
大皿の、料理を後輩によそって、渡して、一緒に長方形の白を添える藤森。向かい側では後輩が、藤森に代わって藤森の料理をよそっている。
「チャットやDMで伝えられなくて、すまなかった。あのひとがどこで目を光らせているか分からなかったから、どうしても、ネット上では」
悪かったな。ぽつり付け足すと、少し反省しているように、小さなため息を吐いた。

「本店の総務課?よく今まであの解釈厨から逃げ続けられたね。あいつの部署から丸見えじゃん」
「総務課『には』いないんだ。別の場所、あのひとが絶対近づけない部屋で仕事をしている」
「どこ?」
「『総務課』の隣を見てみろ」

となり? 隣って? 藤森のアドバイスに、後輩は受け取った長方形を再度見返す。
下から、上へ。少し大きめに刷られた『藤森 礼(ふじもり あき)』は藤森の現在の氏名。なお旧姓旧名は「附子山 礼(ぶしやま れい)」だった。
『総務課』は藤森の3月からの異動先。
その隣?――視線が横にズレた、刹那、
「総務課、『秘書係』」
後輩が小さく、あっ、と声を上げた。
「緒天戸の、ウチのトップの、秘書役……」

「私にできるのは、ただの雑用程度だがな」
ほら、絶対近づけない場所だろう。藤森が笑った。
「それでも、『茶は一番美味い』、だとさ」

「とっぷ、ひしょ、まにー?」
「少し上がった。手当もそれなりに」
「コンちゃん、コンちゃん!今日は先輩のおごりだよ!ゴージャスおやつ、たんとおたべ!」
「おい、よせ、おい!どれを頼むつもりだ!?」
「私も極楽ランチ食べるぅ!」
「よせと言ってるだろ……!!」

4/28/2024, 3:06:53 AM

「態度が偉そう・調子に乗ってるは『イキる意味』、『俺は悪くねぇ』は『生まれた意味』、美味いもの食いたいだのガチャ引きてぇだのは『生きる』というより『金稼ぐ意味』」
世代を子孫に繋げるとかは、生きる意味なのか目的なのか、まぁ条件ではないだろうな。
某所在住物書きはポテチをかじりながら、お題をネット検索して、結果をただスワイプしている。
ウィキによると類語は「人生の意義」らしい。

「食材が『活きる、意味』?」
ダメだ何も思いつかねぇ。 物書きは天井を見る。
「暑さのせいか……?」

――――――

恋愛トラブルによる避難措置で3月から部署を飛ばされて、「メッセ送れるけど行方不明」の状態だった先輩と、約2ヶ月ぶりに再会したら溶けてた。
案の定だ。先輩は雪国の出身で、最低氷点下程度じゃ眉のひとつも動かさない。
かわりに雪だるまなのだ。雪女かもしれない。
暑さにとっっっても弱いのだ。

最高気温28℃予報とか夏かな(春だよ)

恋愛トラブルについては割愛する。要するに、8〜9年前に先輩の心を壊した厳選厨の解釈押し付け厨が、私達の職場に就職してきたってハナシ。
先輩は、旧姓を附子山、今の名前を藤森っていう。

「こうはいよ、せっかくきてくれたところで、もうしわけないが、メシはだせない」
2ヶ月ぶりに自分のアパートに戻ってきた先輩は、去年の6月に買った、たしか22日だったかな、
ともかく雪みたいな白の甚平着てエアコンつけて、
でろんでろん、でゅるんでゅるん。床に落ちてた。
「ごらんのとおり、このザマなんだ。すまない」
床の先輩にエアコンの強い風がダイレクトアタックして、髪がさらさら揺れてる。風邪引くと思う。

「だから私が先輩の看病食作ってるんでしょ?」
パチパチパチ。先輩と私の間のテーブルには、いわゆる電気式のぼっち鍋。みりんが鍋底の高温でアルコールを飛ばしてる。煮切ってる最中だ。
手羽元の冷やし煮だ。昔々、先輩が作ってくれた。
「ところでさ、去年先輩からコレ教えてもらったけど、煮切るみりんの役割とか意味って?」

「いきるいみ?」
「『生きる』意味じゃなくて、『煮切る』意味!
にぃーきーるー意ー味。煮切る必要性」
「イミやヒツヨーセーは、わたしには、ない」
「に、き、る!意味!」
「わたしにあるのは、○×※、いき繧区э蜻ウ繧医j逕溘″縺滄℃遞九□……」
「ナンテ?」

生きった、もとい、煮切ったみりんに醤油と出汁を入れて、混ざったら冷蔵庫へ。
いい具合に熱が取れるまでにB級品の手羽元を茹でて、冷やして、ほんのちょっとだけ好みの酸味なり旨辛味なりを足せば、それで完成だ。
「おまえは、みつけられると、いいな」
「何を?」
「いきるいみを」

こてん。 先輩は最後まで私が「生きる意味」を聞いてると勘違いしたままで、プッツリ電池の切れたみたいに、視線を私から外した。
あーもう。あぁ〜もう。 ひとしきり頭をポリポリ両手で抱え掻いて、エアコンの強風をダイレクトに享受してる先輩にタオルケットを、1枚、2枚。
「あたたかい」
「それだけ先輩の体、冷えきってるんでしょ」
「ありがとう、あたたかい……よ」

約2ヶ月、例の恋愛トラブルの原因さんから隠れ続けてきた先輩は、それだけで疲れてたんだろう、
しばらくして、すぅすぅ、寝息をたて始めた。
「はぁ」
先輩に、久しぶりに会った。言いたいことや聞きたいことは、たくさんあった。
3月からの先輩の異動先のこと、8〜9年前に先輩の心を壊した恋愛トラブルの元凶のこと、近況。
今まで精神的にも肉体的にも無事だったのか、例の厳選&解釈押し付け厨から何かされてないかとか。
たくさんあったけど、当の先輩がご覧のとおり。
でろんでろんで、でゅるんでゅるんで、
東京の28℃予報に打ちのめされて、溶けてる。
「事情聴取は、また今度かな」

しばらくして先輩はそこそこ復活して、意思疎通可能なくらいには回復してたけど、
私が突然「生きる意味」を聞いてきたことについて、すごく心配してたし、「煮切るみりん」の役割は結局教えてくれなかった。

4/27/2024, 5:02:07 AM

「『怪物と戦う者は、その過程で、自分も怪物とならないように注意せよ』。フリードリヒ・ニーチェ、『善悪の彼岸』だな」
で、この後『こちらが深淵を覗くとき〜』と続くわけだ。某所在住物書きは自室の天井を見上げ、ため息を吐き、目を閉じた――途方に暮れているのだ。お題の文章が進まないのである。

「善悪。適法違法。我慢できるか衝動で動いちまうか。加齢に伴う理性のブレーキの効き具合」
ネタが無いワケではないのだ。物書きは弁明した。
「書き進めたら全部バチクソ重いハナシになってさ。わざわざ大型連休の、せっかくの初日に、『コレ、読みたいと思うか?』っていう……」
後日良いネタできたら、今の投稿分消して差し替えればいいか。物書きは妥協し、再度息を吐いて……

――――――

最近最近の都内某所。この物語の主人公を藤森というが、今回のお題がお題で、こんな夢を見た。

完全に非現実的な夢である。お題がお題でなければ、ゲームも娯楽小説もドラマも、漫画すらも疎い藤森には、見る余地も可能性も一切無い夢である。
舞台はどこか、森の中の廃墟。光さす広いエントランス。真ん中にぽつんと2名。ひとりは床に倒れ伏し、ひとりはその隣で、見下ろし、突っ立っている。

『おのれ、おのれ。いまいましい』
倒れている方が弱々しく嘆いた。藤森にそっくりな顔をして、己を見下ろす相手を睨みつける余力も無い。
『この体だけでは飽き足らず、400年見守り育ててきた森まで、私から奪うのか』
遠くから聞こえるのはチェーンソーと重機の駆動音。それから大樹倒れる末期の悲鳴。
『エネルギー確保の大義を振りかざし、利益をむさぼる人間ども。数年後数十年後、私の恨みと怒りと悲しみと、嘆きを知るがいい』
けほっ、 げほっ。
藤森モドキは小さく、それはそれは小さく咳込んだ。

……と、いう状況を、遠い場所からシラフの藤森が、いわゆる事務机とパイプ椅子の特別席で、
ポカン、の3字が相応しかろう表情で見ている。

なんだこれ。誰だアレ。
私モドキを見下ろしてる男は、私の親友の宇曽野に随分似ているが、何がどうして、こうなったのだ。
セリフの言い回し的に私モドキが悪役で宇曽野モドキが善サイドと見たが、それで合っているのか。
隣のパイプ椅子にちょこん、おすわりの子狐が、器用に前足を使って、いわゆるドッキリに使われるような横看板を藤森に見せた。

【しゃーないのです。
 『善悪』とか、難易度EXハードなのです】
くるり。看板が裏返る。
【①低糖質ダイエットの善と悪
 ②過去の恋愛トラブルを題材にしたシリアス
 ③GW直前、モンスターカスタマーのエピソード
 ④前頭前野:善悪つーより理性のブレーキの問題
 ⑤『善悪の彼岸』をネタにSAN値直葬物語
 ⑥どっちも善でどっちも悪に見える夢ネタ
  ↑
 GW初日に読んで胃もたれしないやつ、どれ?】
ぶっちゃけ①か④が無難だったのでは、という指摘はこの際ご了承願いたい。

『恨むなら、俺だけを恨め』
藤森のポカンにハテナマークが5個増えても、お題がお題ゆえに、夢は続く。
ぐったりの藤森モドキにかわり、その藤森モドキを見下ろす男がポツリ言った。
『この計画の最終決裁を通したのが、俺だ。最大限、環境と生態系には配慮する。可能な限り希少動植物の保護も避難もする。
ただ、ここに発電所ができれば、2ヶ所の山と4ヶ所の平原湿原が、伐採や開発から守られるんだ』

許せとは言わない。お前とこの森の犠牲を無駄にはしないし、お前の恨みも怒りも俺が引き受けるから。
藤森の親友モドキの、独白にも似た言葉に、
観客席っぽいパイプ椅子に座る藤森は、ただ困惑と困惑と困惑の視線を向け、
隣でおすわりする子狐は器用に前足を使い、号泣の素振り。【安心してください。夢でフィクションです】

そりゃ夢だろう。フィクションだろうよ。
藤森はため息を吐くばかり。
私、人外だったことも、400年生きたことも、妙な森の中の廃墟在住だった事実も無いよ。
ただひとりを置いてけぼりに、藤森モドキと藤森の親友モドキの物語は進んで、終わって。
朝目を覚ますと、大きく首をかしげて一言。
「……は?」
何故あんな夢をみたのか、結局悪役と善サイドはどっちがどっちだったのか、考えておったとさ。

4/26/2024, 2:26:15 AM

「『星に願いを』、『星への願い』みたいな花言葉の花があるのは知ってる。 ニラっていうんだが」
あの花が咲くのはたしか夏だったな。
某所在住物書きは白い星型の花をスマホで画像検索して、カキリ、小首を鳴らしてため息を吐く。
素直に夜空の流れ星に願いを託す物語を書いたところで、自分以上の傑作は多々在るのだ。
競合せぬよう、他のアイデアで挑みたい。

「例の『衛星列車』なんかは、遅く流れる流れ星ってことにして、願いをってのは無理あるかな」
物書きはふと、検索語句を切り替える。
「一応、今年も、打ち上げは」
やってる、のか?どれが信頼性の高い情報だ?
スワイプにスワイプを重ねて、呟きックスの投稿やら何やらを探すも、「少なくとも、今年も打ち上げは行われている」程度の情報しか確証が持てず……

――――――

流れ星といえば、夜が定番ではありますが、ひねくれ屁理屈でこんなおはなしはいかがでしょう。

最近最近、桜散り時の都内某所。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
その家族の中の末っ子は、お星様がとっても大好き。敷地に芽吹き咲く花が、星の形に似ていれば、それを星の木星の花と、呼んで愛でて尻尾で囲って、一緒にスヤスヤお昼寝します。
桜も見れば5枚の花びら。子狐の目には「星の木」で、散る花びらは流れ星。桜吹雪は流星雨です。

桜散り時の稲荷神社。
狐の神社にソメイヨシノはありませんが、代わりに大きな大きな、通称「ぼっち桜」というのがあります。
その日は風がよく吹いて、コンコン子狐の視界いっぱいに、「流れ星」が舞い飛びました。

「お星さま、お星さま!」
数日後には葉桜の、寂しい未来もすっかり忘れて、子狐はぼっち桜のまわりをくるくるくる。
「ながれ星が、いっぱいだ!」
跳んで、はしゃいで、駆け回って、
いくつか形の良いのを束ねてキレイな頭飾りにして。
桜の最後を体いっぱい楽しみます。
「ながれ星いっぱいで、お願い事が足りないや!」
流れ星に願いを託せば、託した願いがいつか叶う。
コンコン子狐、子狐なりにちょっと賢いので、人間たちの古くからの、信じちゃいないけどささやかな、祈りの形を知っています。
子狐は桜の流れ星に、あれやこれや、それや何やら。たくさんの子狐らしい願い事を託します。

「お星さま、願いを叶えてくださいな、いっぱい叶えてくださいな」
今年もおいしいお米が、いっぱい育ちますように。おいしいおいなりさんとお揚げさんが、いっぱい食べられますように。それからそれから、えぇとそれから。
小さなおててで花びらを集めて、この流れ星にはこのお願い、その流れ星にはそのお願い。
子狐は幸せで小さな欲張りを、おててが桜の流れ星でいっぱいになるまで、吹き込み続けましたとさ。

桜の花を星に見立てた、散る流れ星と星好き子狐のおはなしでした。
細かいことは気にしません。だいたい童話の狐は話をするし、リアルガン無視でファンタジーなのです。
しゃーない、しゃーない。

4/25/2024, 3:02:38 AM

「そういや最近、ルール作家、あんまり見かけなくなった気がするんだが。ほらアレ。エセマナー講師」
今頃どうしてんだろうな。それとも見かけなくなったの、気のせいだったりすんのかな。某所在住物書きはニュースをぼーっと観ながら、ランチを食う。
「自作のルールで誰かを殴るとか、殴ルーラーでもあるまいし、某ソシャゲの中だけにしとけよとは思う。……まぁ個人的な意見と感想だけどさ」
ところでルールとマナーって云々、モラルとの違いは云々。物書きは味噌汁をすすり、ため息をついて……

――――――

私の職場で、「新人研修」という名の参加拒否可能な1ヶ月旅行が、今年も始まった。
毎年日本国内の、どこか少し安めのお宿に団体・長期間予約をかけて、格安でその土地のグルメ・アクティビティ・申し訳程度の風土伝統に触れる。
ビジネスマナーや接客態度、座学等々のレクチャーはオマケだ。誰も覚えてない。
今年の行き先は雪国。ギリギリ残ってる桜と壮大な花吹雪を楽しむ予定らしい。

参加したくない場合は、職場のグルチャなりDMなり、匿名希望なら総務課の誰かに、回答期限までに「参加しません」って伝えるのがルール。
約1名、加元っていう「新人」が、「お知らせなんて見てません」ってゴネて、結局参加したらしい。
キャンセル料は自腹。それもルール。
お知らせは先月から流してるんだから、自業自得だ。

なお、1週間だけウチの支店に体験勤務してる新卒ちゃんは、団体行動が酷く苦手らしくて、不参加。
研修で座学とかレクチャーとかを受けない代わりに、1ヶ月、ログインミッションみたいな宿題をなるべく毎日こなすことになる。
同じ部署の2人以上と何か話をするとか。
同じ部署の誰かの仕事をひとつ見学するとか。
あるいは、何かひとつ、仕事を教えてもらうとか。

新卒ちゃんは真面目に自分でノートなんか作って、
通称「教授」、ウチの支店の支店長に、
最初に話かけたのがマズかった。

「つまり!『世の理不尽に対する説明』!
これが、私が今まで説明してきた物語の核なのだ!」
昔民俗学の「教授」をしてたらしい支店長。
「何故、私達の生きる世界はこうも苦しいことばかりなのか。何故私達は他者から傷つけられ続けなければならないのか――これは、心弱き、立場弱き、社会的弱者へ向けた、『諦め』という名の処方箋なのだ!」
どこからともなくホワイトボードをガラガラガラ。
マーカー3色をフルに使って、今回の研修場所で昔々、仏教や神道がやってくる前に信仰されてた形跡があるっていうハナシを、
バチクソ、これでもかってくらい、熱弁してる。
「要するに、若者よ、『しゃーない』の心を持て!」

は……、はぁ……。
新卒ちゃんは目が完全に点々。板書の手も止まって、ただただ教授の「講義」に対して、口をポッカリ開けたまま、息だけが漏れてる。
まぁそうなるよね(賛同)
そうなるよね(同情)

「付烏月さん、ツウキさん」
新卒ちゃん同様おくちポッカリの付烏月さんの、肩を叩いて救援要請を出したけど、
「俺附子山だよ、後輩ちゃん」
付烏月さんはやっぱり、おくちポッカリのままで、
「あの熱量をさ、俺、止められるかなぁ……」
戦う前から、敗北宣言なんかしちゃってる始末。

新卒ちゃんが、バチクソな困り顔でこっちを見た。
『新人研修に参加しないひとは、1日2人以上、同じ部署のひとと話をする』。
それがルール。宿題。1ヶ月のログインミッション。
新卒ちゃんは、それを真面目にやろうとしただけ。
相手を間違えちゃったのだ。

「付烏月さん、今日、いつもの自家製お菓子は」
「ブシヤマだよん。一応、研修旅行の行き先の伝統お菓子モドキ、作ってきたよ」
「早めにおやつタイムにする?ツウキさん」
「まだ仕事始まって1時間だよ後輩ちゃん」

「それじゃ、お得意の脳科学講義やって。手短に」
「今そんなことしたら、俺、支店長に民俗学的にバチクソ抗議されちゃうよ。恨まれちゃうよ」

「どーする?」
「『しゃーない』」

ゴメンね。私達も助けられない。
すがるような目の新卒ちゃんに、申し訳ない視線で返事をすると、「ですよね」みたいな頷きを数回して新卒ちゃんはホワイトボードに向き直った。
ご愁傷さまとは思う。
でも世の理不尽を知るのは大切だと思う。
あとでこっそり、私と付烏月さんと新卒ちゃんでお菓子を食べたけど、新卒ちゃんの感想としては、
「多分大事なこと、だったんだろうけど、私じゃ理解が難し過ぎた」だった。

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