かたいなか

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「態度が偉そう・調子に乗ってるは『イキる意味』、『俺は悪くねぇ』は『生まれた意味』、美味いもの食いたいだのガチャ引きてぇだのは『生きる』というより『金稼ぐ意味』」
世代を子孫に繋げるとかは、生きる意味なのか目的なのか、まぁ条件ではないだろうな。
某所在住物書きはポテチをかじりながら、お題をネット検索して、結果をただスワイプしている。
ウィキによると類語は「人生の意義」らしい。

「食材が『活きる、意味』?」
ダメだ何も思いつかねぇ。 物書きは天井を見る。
「暑さのせいか……?」

――――――

恋愛トラブルによる避難措置で3月から部署を飛ばされて、「メッセ送れるけど行方不明」の状態だった先輩と、約2ヶ月ぶりに再会したら溶けてた。
案の定だ。先輩は雪国の出身で、最低氷点下程度じゃ眉のひとつも動かさない。
かわりに雪だるまなのだ。雪女かもしれない。
暑さにとっっっても弱いのだ。

最高気温28℃予報とか夏かな(春だよ)

恋愛トラブルについては割愛する。要するに、8〜9年前に先輩の心を壊した厳選厨の解釈押し付け厨が、私達の職場に就職してきたってハナシ。
先輩は、旧姓を附子山、今の名前を藤森っていう。

「こうはいよ、せっかくきてくれたところで、もうしわけないが、メシはだせない」
2ヶ月ぶりに自分のアパートに戻ってきた先輩は、去年の6月に買った、たしか22日だったかな、
ともかく雪みたいな白の甚平着てエアコンつけて、
でろんでろん、でゅるんでゅるん。床に落ちてた。
「ごらんのとおり、このザマなんだ。すまない」
床の先輩にエアコンの強い風がダイレクトアタックして、髪がさらさら揺れてる。風邪引くと思う。

「だから私が先輩の看病食作ってるんでしょ?」
パチパチパチ。先輩と私の間のテーブルには、いわゆる電気式のぼっち鍋。みりんが鍋底の高温でアルコールを飛ばしてる。煮切ってる最中だ。
手羽元の冷やし煮だ。昔々、先輩が作ってくれた。
「ところでさ、去年先輩からコレ教えてもらったけど、煮切るみりんの役割とか意味って?」

「いきるいみ?」
「『生きる』意味じゃなくて、『煮切る』意味!
にぃーきーるー意ー味。煮切る必要性」
「イミやヒツヨーセーは、わたしには、ない」
「に、き、る!意味!」
「わたしにあるのは、○×※、いき繧区э蜻ウ繧医j逕溘″縺滄℃遞九□……」
「ナンテ?」

生きった、もとい、煮切ったみりんに醤油と出汁を入れて、混ざったら冷蔵庫へ。
いい具合に熱が取れるまでにB級品の手羽元を茹でて、冷やして、ほんのちょっとだけ好みの酸味なり旨辛味なりを足せば、それで完成だ。
「おまえは、みつけられると、いいな」
「何を?」
「いきるいみを」

こてん。 先輩は最後まで私が「生きる意味」を聞いてると勘違いしたままで、プッツリ電池の切れたみたいに、視線を私から外した。
あーもう。あぁ〜もう。 ひとしきり頭をポリポリ両手で抱え掻いて、エアコンの強風をダイレクトに享受してる先輩にタオルケットを、1枚、2枚。
「あたたかい」
「それだけ先輩の体、冷えきってるんでしょ」
「ありがとう、あたたかい……よ」

約2ヶ月、例の恋愛トラブルの原因さんから隠れ続けてきた先輩は、それだけで疲れてたんだろう、
しばらくして、すぅすぅ、寝息をたて始めた。
「はぁ」
先輩に、久しぶりに会った。言いたいことや聞きたいことは、たくさんあった。
3月からの先輩の異動先のこと、8〜9年前に先輩の心を壊した恋愛トラブルの元凶のこと、近況。
今まで精神的にも肉体的にも無事だったのか、例の厳選&解釈押し付け厨から何かされてないかとか。
たくさんあったけど、当の先輩がご覧のとおり。
でろんでろんで、でゅるんでゅるんで、
東京の28℃予報に打ちのめされて、溶けてる。
「事情聴取は、また今度かな」

しばらくして先輩はそこそこ復活して、意思疎通可能なくらいには回復してたけど、
私が突然「生きる意味」を聞いてきたことについて、すごく心配してたし、「煮切るみりん」の役割は結局教えてくれなかった。

4/28/2024, 3:06:53 AM