かたいなか

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「『星に願いを』、『星への願い』みたいな花言葉の花があるのは知ってる。 ニラっていうんだが」
あの花が咲くのはたしか夏だったな。
某所在住物書きは白い星型の花をスマホで画像検索して、カキリ、小首を鳴らしてため息を吐く。
素直に夜空の流れ星に願いを託す物語を書いたところで、自分以上の傑作は多々在るのだ。
競合せぬよう、他のアイデアで挑みたい。

「例の『衛星列車』なんかは、遅く流れる流れ星ってことにして、願いをってのは無理あるかな」
物書きはふと、検索語句を切り替える。
「一応、今年も、打ち上げは」
やってる、のか?どれが信頼性の高い情報だ?
スワイプにスワイプを重ねて、呟きックスの投稿やら何やらを探すも、「少なくとも、今年も打ち上げは行われている」程度の情報しか確証が持てず……

――――――

流れ星といえば、夜が定番ではありますが、ひねくれ屁理屈でこんなおはなしはいかがでしょう。

最近最近、桜散り時の都内某所。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
その家族の中の末っ子は、お星様がとっても大好き。敷地に芽吹き咲く花が、星の形に似ていれば、それを星の木星の花と、呼んで愛でて尻尾で囲って、一緒にスヤスヤお昼寝します。
桜も見れば5枚の花びら。子狐の目には「星の木」で、散る花びらは流れ星。桜吹雪は流星雨です。

桜散り時の稲荷神社。
狐の神社にソメイヨシノはありませんが、代わりに大きな大きな、通称「ぼっち桜」というのがあります。
その日は風がよく吹いて、コンコン子狐の視界いっぱいに、「流れ星」が舞い飛びました。

「お星さま、お星さま!」
数日後には葉桜の、寂しい未来もすっかり忘れて、子狐はぼっち桜のまわりをくるくるくる。
「ながれ星が、いっぱいだ!」
跳んで、はしゃいで、駆け回って、
いくつか形の良いのを束ねてキレイな頭飾りにして。
桜の最後を体いっぱい楽しみます。
「ながれ星いっぱいで、お願い事が足りないや!」
流れ星に願いを託せば、託した願いがいつか叶う。
コンコン子狐、子狐なりにちょっと賢いので、人間たちの古くからの、信じちゃいないけどささやかな、祈りの形を知っています。
子狐は桜の流れ星に、あれやこれや、それや何やら。たくさんの子狐らしい願い事を託します。

「お星さま、願いを叶えてくださいな、いっぱい叶えてくださいな」
今年もおいしいお米が、いっぱい育ちますように。おいしいおいなりさんとお揚げさんが、いっぱい食べられますように。それからそれから、えぇとそれから。
小さなおててで花びらを集めて、この流れ星にはこのお願い、その流れ星にはそのお願い。
子狐は幸せで小さな欲張りを、おててが桜の流れ星でいっぱいになるまで、吹き込み続けましたとさ。

桜の花を星に見立てた、散る流れ星と星好き子狐のおはなしでした。
細かいことは気にしません。だいたい童話の狐は話をするし、リアルガン無視でファンタジーなのです。
しゃーない、しゃーない。

4/26/2024, 2:26:15 AM