かたいなか

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3/5/2024, 2:22:34 PM

「たまには贅沢、たまに花見でも、多摩には多摩地方と奥多摩地方、白玉には黒蜜かみたらしか。
いやぁ、全部ひらがなのお題はいじりやすいなぁ」

他にも「『偶々(たまたま)』には少々出来過ぎた偶然」とかも、「たまには」だからアリよな。
某所在住物書きは今回配信分の4字を見てポツリ。他にどう変わり種を作れるか思考に思考を重ねた。
個人的に白玉にはつぶあん・こしあん派であるが、蛇足に過ぎないので捨て置く。

「……そういや、あの『多摩川の土手のロケ』、どこの土手だったんだろう」
たま、玉、弾、多摩。変換候補を辿って物書きが脱線した着地点は某ホラーゲーム第1作目の実写映像。
懐かしさゆえに、物書きは執筆そっちのけで……

――――――

都内某所、某職場の某支店、1日に10人も来れば「今日は忙しかったね」のそこ、昼休憩。
スマホが伝えてくる天気予報を見て、口をパックリ開き、愕然とする者がある。
降雪予報である。金曜日である。
気温も酷く、最低など氷点下に迫る。
その絶望を見て、固まっているのである。

「後輩ちゃん。無事?」
カタン。そんな絶望者のデスクに、3月から支店配属となった男が、小さな湯呑みを置いた。
自称、旧姓附子山。本名は付烏月、ツウキという。
「お茶飲みなよ。多分落ち着くよ」
支店長もお茶、どーぞ。
付烏月は他の2席3席にも茶を配り、絶望者の向かい側であるところの自分のデスクに戻った。

「お茶飲んだって、金曜の雪は変わんないもん」
付烏月に「後輩」と呼ばれた彼女は両手で湯呑みをつつみ、茶の甘香をいっぱいに吸い込んで、深く、長いため息を吐く。
「……ふぁっきん突然の低温」
3月だよ。春だよ。酷いよね。
後輩はひととおり呟き倒すと、湯呑みの中の約80℃を口に含み、喉に通して、再度息を吐いた。

「付け焼き刃附子山の〜、付け焼き〜Tipsぅー」
「突然どしたの付烏月さん」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「で?」
「東京にもお茶農家さんが居るらしいよん。埼玉との県境な多摩には、埼玉県産と区別して、『東京狭山茶』って呼ばれてるお茶を作ってる人が居るんだって。今淹れたお茶っ葉のパックの裏に書いてた」
「で?」
「注意関心が天気予報から離れれば、後輩ちゃんのゼツボーも、ちょっと軽減するかなって」
「はぁ……」

たまには、こういう有益な情報も良いでしょ?
旧姓附子山を自称する付烏月が、湯呑みを片手に、にっこり。後輩に少しの達成感と満足感を投げる。
対する後輩はただジト目で、スマホのディスプレイから天気予報を退かし、「東京狭山茶」のファクトチェックを開始して、
すぐ、それが事実だと理解し、ヘェのため息。
「ヘイ付烏月さん、オッケー付烏月さん」
「附子山だよん」
「突然下がる気温に対処する方法」
「一般的な方法しか知らないから、ひとまず気持ちを上げるためにお菓子食べると良いよ。俺、今日はジンジャークッキー作ってきたよ」
「ありがと附子山さん感謝してる」

温かい茶と、茶菓子のクッキーと、それから役に立つやら立たぬやらの雑学的雑談。
その日も某支店の昼は平和に、平穏に過ぎていった。

「ところでさ後輩ちゃん」
「なに付烏月さん」
「金曜もだけど、今日も夜、雪の可能性」
「あーあー、聞こえない、聞こえませぇーん」
「クッキーおかわり?」
「いただきます附子山さん」

3/5/2024, 2:35:07 AM

「自分が、『君』のことを大好きなのか、
たとえば『お菓子が大好きな君』がいて、その君に向けて『チョコが大好きな君』へのプレゼンか。
『君』だから、捻くれれば『大好きな君主に』も、書けるっちゃ書けるわな」
某所在住物書きは今日も通知文をざっと見て、いじり倒し、最終的に面倒になって努力を放棄した。
お題の「大好きな君に」の前後に、少し言葉を付け足す。物書きの常套手段である。

「……恋愛ネタも君主もムズい」
ぽつり。物書きは本音を呟く。
唯一の救いは「『◯◯が大好き』な君に」か。

――――――

年度末、残り1ヶ月だけど、
突然支店異動を食らって、長年一緒に仕事してきた先輩とも離れ離れになっちゃって、
その先輩から届いた手紙を、部屋で読んでる。

届けてくれたのは子狐の郵便屋さん。
比喩でも冗談でもなく、先輩がヒイキにしてるお茶っ葉屋さんの看板狐、稲荷神社在住のコンコンが、
頭に郵便屋さんキャップな飾りをつけて、郵便屋さんユニフォームなポンチョ羽織って。
ポンチョのおなか部分にはマジックテープで、郵便屋さんバッグなナイロン製がくっついてる。
撫でて、とばかりにおなか見せると、丁度そこに封筒入りバッグが有る設計になってた。

どうやって私の部屋知ったんだろう。
狐だよ。子どものおつかいバイトじゃないよ。
どうやって私の部屋知ったんだろう。

「『付烏月さんには、お前の寒暖差等々による体調の酷い崩れのことは、ある程度話してある』」
封筒を切って、シンプルな便箋を引き上げる。
いつもの明朝体な綺麗さで書かれた真面目な文章は、手紙って言うより、引き継ぎ書だ。
「『付烏月さん自身も、お前ほどではないが、体調に少し波がある。サポートは惜しまないと言っていたので、安心して頼ってほしい』。……あのさぁ……」
手紙に書かれてる「サポート」とは、多分先輩とのシェアランチ、シェアディナー、それから先輩の部屋でのお泊りのことだ。

私と先輩は、別に恋人同士でもないし、お互いにそういう目でお互いを見てるワケでもない。
でも生活費節約術として、それから主にお人好しで優しい先輩の自称お節介で、私はたまに先輩のアパートに行くし、一緒にごはん食べるし、寒暖差とかで体が本当に動かないときは泊めてもらったりする。
今、先輩の部屋に先輩は居ない。
居るのは、先輩の旧姓「附子山」を名乗る、お菓子作りがバチクソ上手な「謎の男」。付烏月さんだ。

別に大好きだからってハナシでもないし、付き合ってるワケでも全然ないけどさ。……だけどさ。
「私、先輩だったから先輩を頼ってたんだけど」

ねー。 なんなんだろねー。
悶々々。悶々悶々。このモヤモヤをグルチャで先輩にぶつけたけど、ごはんの準備でもしてるのか、既読は1分経っても5分経っても付かなかった。
「なんなんだろね。なんだんだろうねぇー」
私の心が分かるのか、子狐の郵便屋さんは私の膝に飛び乗って、コテン。おなかを見せた。
「よーしゃしゃしゃ。待っててね。お返事書くから」

読み終えてない先輩の「引き継ぎ書」を机に置いて、100均で買ってきたばっかりの便箋1枚出して、
久しぶりに、なんなら十数年ぶり以上かもしれない、手書きで長文の文章を書く。
「……なに書こう」
十数字、多くても百数字くらいの短文なら、グルチャでポンポン送れるのに、
ボールペン持って便箋を前にして書く百数字千数字は、最初の1字も出てこない。
手紙って、不思議。 先輩は何を書いてたっけ。

ふと「引き継ぎ書」に目を戻したら、最後に
『私などが作る簡素な飯が大好きなお前に』
って題して、先輩がよく作ってくれた粉スープ活用オートミールとか、ホットミルクとかのレシピが、
相変わらずの真面目さと見やすさで、書いてた。
「ホットミルク飲みながら考えよっと」

子狐抱っこして、牛乳温めて、ジンジャーと砂糖とシナモン入れてたら、5分経っても既読が付かなかったグルチャにピロン、返信。 先輩のお返事は、
『文句なら附子山に言ってくれ』

「……ん?」
手紙では「付烏月さん」って本名を書いてたのに、グルチャでは、付烏月さんを「附子山」って呼ぶ先輩。
「女の勘」でもないけど、なんか、ピンときた。
『拝啓 先輩』
メモ帳アプリで、私は手紙の下書きを打ち始めた。
『もしかして:グルチャ誰かに読まれてる説?』

3/4/2024, 12:51:42 AM

「ひなまつりの替え歌、結構バリエ多いのな」
俺は「ドカンと一発ハゲ頭」の方だったわ。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら呟いた。
アプリを入れて、はや1年と少し。お題の傾向として年中行事はお題として配信されやすい。
たとえばバレンタインとかクリスマスとか。
「……でも5月5日は去年、全然違うお題が来たわ」

菱餅、ひなあられの地域性、「『女の子』の成長を願う日」にご当地ひな壇、あとお菓子業界等々。
意外にも多種多様と思われる「ひなまつり」の書き方だが、物書きはそのいずれも諦めた。
自分の執筆レベルでは非常に難しい。

――――――

私の職場に、長年一緒に同じ部署で仕事してた先輩がいる。藤森っていう名前で、旧姓が附子山だ。
その先輩、3月から行方不明だ。
連絡はとれる。でも3月から突然私の異動先と違う「どこか」に飛ばされて、どの部署に配属になったのか、なんなら支店規模で飛ばされたのかさえ、
なにも、一切、教えてもらえない。
唯一の頼みは先輩のアパートだったけど、
そのアパートには、今、先輩の旧姓「附子山」を名乗る、ツウキっていう男が住んでる。

ツウキさん、付烏月さんは、先輩の前の前の前あたりの職場で、先輩に色々知識を授けたひと。
このひとが作るカップケーキがバチクソ美味。
何故か3月から、私の異動先の支店で、一緒に隣同士で働くことになった。
あとこのひとが作るレモンパイもドチャクソ美味。

ワケ分かんない。
今日も「親睦会」なる名目で、付烏月さんに占拠されてる先輩のアパートに(言い方)
行ってきます、だったんだけど。

「お邪魔、します」
今日こそ付烏月さんから、先輩との関係と、先輩が消えた理由と、レモンパイのレシピを聞き出そう。
先輩のアパート、今は付烏月さん在住になっちゃってるそこ、家具の配置も種類も全然変わってない部屋に行って、インターホン鳴らしてドアを開けると、

「あのね、コンちゃん……」
リビングで
おすわり子狐と正座付烏月さんが向かい合って
間に菱餅ヨモギ餅さくら餅等々入ったカゴ挟んで
お餅屋さんごっこみたいなことしてた。
「俺、藤森じゃないから、あんまりお餅食べないの。……買わなきゃイタズラ?……そう……そっか……」
わぁ。ひなまつり。
ナニコレ(わかんない)

「あっ、藤森の後輩ちゃん!いらっしゃーい」
私に気付いた付烏月さんが、イマジナリーわんこ尻尾をビタンビタン振り回すように、バチクソまぶしい笑顔で私に手を振った。
お餅屋さんごっこしてるのは、私もよく知ってる子狐だ。先輩がひいきにしてる茶っ葉屋さんの看板狐で、近所の稲荷神社に住んでる子。
去年の3月、それこそひなまつりの頃から、先輩の部屋に週1〜2回、遊びに来てるらしい。

そういえば去年の今頃、先輩からお餅貰った。
「1個だけ買うつもりだったのが、妙に美味くて懐かしくて、つい買い過ぎた」って。「食うの手伝ってくれないか」って。美味しかったからよく覚えてる。
……。 まさかね。

「後輩ちゃんも買う?稲荷神社のお餅?」
藤森がお得意様になって、今日で1周年のアニバーサリーだったんだって。
付烏月さんが自作のキューブケーキを冷蔵庫に戻しつつ言った。 すいませんそっちも食べます(食欲)

「あと、そのコンちゃんに、今日から郵便屋さん頼んだの。お手紙書けば、藤森に届けてくれるよん」
ケーキの代わりに付烏月さんが持ってきたのは、今どき珍しい紙の便箋と紙の封筒。それから先輩がこの部屋でよく使ってた少し高そうなボールペン。
「ヤギさん郵便ならぬ、キツネさん郵便。コンコン」
任用書、ちゃんとあるよ。ビタンビタン尻尾をぶん回す子狐が、付烏月さんの爆弾発言に乗じて、
『あなたを宇曽野・附子山・藤森・後輩ちゃん間の郵便屋さんに任命します』
って書かれたバチクソそれっぽい紙を見せてきた。
ナニコレ(2回目)

3月から突然支店に異動させられて、今まで長年一緒に働いてた藤森先輩は行方不明で、
異動先ではその先輩の旧姓「附子山」を名乗る付烏月さんが「ブシヤマって呼んで」でケーキが美味。
更には3月3日のひなまつり、先輩のアパートによく遊びに来る子狐ちゃんだか子狐くんだかが、お餅屋さんごっこしてて郵便屋さんに任命。
これだけイベントが大混雑してまだ3日。

先輩。早く帰ってきて(切実)
非常識ばっかり渋滞して常識が迷子(懇願)
でもキューブケーキ美味しいです(真理)

3/2/2024, 12:33:32 PM

「希望、キボウねぇ……」
バラの花言葉のひとつが「希望」らしいから、「たった1本のバラの花」とかに置き換えたらエモいハナシも書けるのかな。 某所在住物書きは己の過去投稿分を辿りながら呟いた。

去年から既に、エモネタや綺麗事系の不得意に苦しんでいた物書きである。お題の中の単語を類語、あるいは別の字に変換することは何度か試していた。
今回のお題を例とするなら、「たった」が平仮名であることを良いことに、「経った」にするとか、「建った」に変えるとか、「断った1つの希望」として絶望ネタに落とし込むとか。

「……でも希望を断つって、それはそれでムズいな」
ため息ひとつ。今日も物書きは途方に暮れる。

――――――

年度末、最後の1ヶ月。
長年一緒に仕事してきた職場の先輩の、里帰りに一緒に行って帰ってきたら、突然職場から
『明日からお前、別の支店で仕事してね』
って異動命令を出された。
先輩は藤森って言うんだけど、先輩も突然の異動を食らったらしくて、別々の職場になっちゃった。
メタいハナシをすると、前回投稿分だ。要するに、そういうことだ。

グルチャで異動先聞いても、先輩は「お前とは別の場所だ」の一点張りで、何も教えてくれない。
何か、おかしい。
何かがおかしいけど、それを調べる方法が無い。
ひとまず私は土曜日の、午前中だけの仕事をするために、昨日突然言い渡された同じ区内の別の支店に、ひとりで向かった。

「まさか君がウチの支店に来るとはなぁ」
支店長は知ってるひと。一昨年まで私の隣の隣の、そのまた隣の部署で課長をしてた。
名前忘れたけど、あだ名は覚えてる。「教授」だ。
「まぁ、この支店は万年、廃止が検討されては、なんだかんだ理由をつけられ残り続けている過疎支店だ」
ゆっくり羽を伸ばすつもりで仕事してくれたまえ。
教授支店長は、常連さんっぽいおばちゃんにお茶出しながら、私に言った。

と、突然。
「すいませぇん!遅れましたー!」
職員玄関をばたんと開けて、知らない人がご登場。
「ツウキです!俺、今日からこの支店にお世話になる、付烏月って言いまぁす!」
カップケーキ入れたカゴを手に持ったその人は、
どこかで、メタいハナシをすると先月の22日か23日あたりで、先輩から聞いたような名前だった。
でも本当に驚いたのはその先だ。

「『諸事情』で『呼ばれ慣れてない』ことになってるんで、『附子山』の方で呼んでくださーい!」

「附子山」。ブシヤマ。
藤森先輩が、恋愛トラブルという「諸事情」のせいで、捨てざるを得なかった「旧姓」だ。
なんでその「附子山」を名乗ってるんだろう。
何か、おかしい。
やっぱり何かおかしい。
昨日から全部、ぜんぶ、変なことになってる。
その日の業務は午前中で終わったけど、
付烏月さんの持ってきたカップケーキがバチクソに美味 of 美味だったってことしか、覚えてない。

仕事終わってすぐ向かったのが先輩のアパートだ。
あそこが私の最後の砦だ。散々「何かおかしい」を突き付けられた私の、たった1つの希望だ。
本棚にいっぱい並べられた難しそうな本、優しい香りを出す茶香炉、たまに遊びに来てる子狐、低糖質と低塩分に定評のあるシェアランチにシェアディナー。
5:5想定で私達は現金だの食材だの持ち寄って、2人分を一度に調理して、何度も生活費を節約した。

先輩に会ったら、付烏月さんのことを聞こう。
先輩の今の所属先も聞こう。
もしかしたら、私と先輩が離れ離れになった裏話なんかも、宇曽野主任から聞いてるかもしれない。
そう思って、いつもの先輩のアパートに行って、先輩から貰ってたスペアキー使って部屋に飛び込んだら、

「やっほー、『後輩』ちゃん!」
そこに居たのは先輩じゃなく、支店で先輩の「旧姓」を名乗った付烏月さんだった。
「藤森から話は聞いてるよん。これから多分数ヶ月の付き合いだろうけど、ま、ヨロシクー」

年度末、最後の1ヶ月。
私は長い付き合いの先輩と突然職場を離されて、
その先輩の「旧姓」を名乗るお菓子な、もとい、不思議な人と一緒の支店に異動させられた。
生活のあちこちから突然先輩が消えて、ともかく何がなんだかサッパリな1日だったけど、
ひとまず、付烏月さんが突然の来訪者な私に出してくれたレモンパイは、バチクソに美味 of 美味だった。

「付烏月さん、なんで先輩の部屋に居るの」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「ツーキさん、先輩とどういう関係なの」
「だからブシヤマだって」

「レモンパイ持って帰って良い?」
「マーマレードパイもあるよん」

3/2/2024, 1:18:10 AM

「去年は『二次創作って、自分の欲望のまま好きなように好きなものを書いてると、別の人の欲望とか好きなものとかと衝突しがちだよな』っての書いたわ」
アカウント開設2年目である。よくここまで長いこと続いたと思う。某所在住物書きはため息を吐いた。

「文才と力量があればさ」
物書きは言う。
「『欲望って要するにドーパミンが云々側坐核が云々ってハナシよな』っての、書いてみてぇの。淡々とした知識ネタとか、カッコイイから」
まぁ無理よな。レベル、足りねぇよな。再度ため息を吐く物書きはスマホのネット検索結果を見た。
前頭葉だのエンドルフィンだのの講座小説を書くには、まずこの検索結果で出てくる知識を全部理解している必要がある……「エンドルフィンが遊離してドーパミン」とはコクーンがパージ的なサムシングか。

――――――

3月1日の都内某所、某職場、夜。
つい数時間前まで先輩たる藤森の帰省に付き合い、
採れたてのフキノトウだの目の前にいる白鳥だの、あるいは雪広がる貸し切りの公園だの、もしくはメインとして、レトロな店内で堪能するミルクセーキやご当地カレーなんかを楽しんでいた後輩が、
先輩の親友で隣部署の主任、宇曽野からダイレクトメッセージによって呼ばれ、その日の朝配布された人事異動を受け取っている。

「藤森はとっくに来て、私物も全部撤去済みだ」
紙には後輩ただ一人だけの情報が記載され、要約するに、「明日から◯◯支店配属ね」とのこと。
「先輩も異動?!」
今まで数年、なんなら数時間前まで、ずっと一緒だった先輩と離れる。しかもこんな突然。
何がどうなっているのだ。後輩は仰天し、驚愕した。

「お前と藤森は明日から別々の勤務だ」
「先輩は、どこに、」
「俺からは話せない。建前としては『個人情報に関わる』、本音としては『諸事情』。お前と藤森の代わりに、俺がお前達の部署に入る格好になる」
「『諸事情』?」

「加元がウチに来る。明日から。この部署に」

加元。 元カレ元カノの、かもと。藤森の元恋人。
当時「附子山」姓であった藤森が未婚のまま合法的に改姓改名した理由。恋の依存者にして厳選ガチ勢。
己の中にある「恋人こうあるべし」の欲望と理想を「附子山」に押し付けて、そうならぬ附子山を散々裏垢でディスり、心をズッタズタに壊して、
ゆえに去年の11月、「藤森」にやんわりフられた。
加元は最後まで附子山が既に「附子山」でないことも、今現在の氏名も、知ることはなかった。
後輩はハッとした――あいつ、まだ諦めてなかったんだ。フったのが「やんわり」だったから。

「『じーちゃん』に俺から事情は話しておいた」
宇曽野が言った。「じーちゃん」とはこの職場のトップ、最高責任者、緒天戸 正義である。
「『ひとまず距離離して様子見るか』だとさ」
いやぁ。親友のためとはいえ、コネと権力でお前を支店飛ばしにするのは、非常に胸が痛むなぁ。
まぁ、「オテント様は全部見てる」し、「最後に勝つのはマサヨシ」、もとい正義だろうよ。
イタズラに笑う目と口は、それはそれは、もう、それは……奥にまだ何か秘策を秘めていそうであった。


――同時刻。宇曽野と後輩の会合など知りもせず、マンションでスマホ片手にニッコリ笑う者が在った。

「転職できて良かった。給料随分下がるけど」
高めの男声とも、低めの女声とも聞こえる中性は、ディスプレイに表示されている「採用」の2文字と、その下に続くメッセージに向けられている。
名前を、加元という。己をうつす鏡、あるいは己の価値を引き上げるアクセサリーとしての恋に恋して、
9年前、あるひとに一目惚れ。
1年程度付き合ったが8年前突然逃げられて、去年、ようやく足取りをつかんだ。
相手の名前を附子山という。
スマホの採用通知は附子山の勤務先からであった。

「待っててね。附子山さん」
既に附子山が「附子山」ではないことも、己の掴んだ部署からも離れていることも、つゆ知らず。
純粋な欲望に従う瞳と唇は、それはそれは、もう、それは。オーダーしたジュエリーを受け取りに行く、歓喜な乙女か青年のそれであった。

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