「たまには贅沢、たまに花見でも、多摩には多摩地方と奥多摩地方、白玉には黒蜜かみたらしか。
いやぁ、全部ひらがなのお題はいじりやすいなぁ」
他にも「『偶々(たまたま)』には少々出来過ぎた偶然」とかも、「たまには」だからアリよな。
某所在住物書きは今回配信分の4字を見てポツリ。他にどう変わり種を作れるか思考に思考を重ねた。
個人的に白玉にはつぶあん・こしあん派であるが、蛇足に過ぎないので捨て置く。
「……そういや、あの『多摩川の土手のロケ』、どこの土手だったんだろう」
たま、玉、弾、多摩。変換候補を辿って物書きが脱線した着地点は某ホラーゲーム第1作目の実写映像。
懐かしさゆえに、物書きは執筆そっちのけで……
――――――
都内某所、某職場の某支店、1日に10人も来れば「今日は忙しかったね」のそこ、昼休憩。
スマホが伝えてくる天気予報を見て、口をパックリ開き、愕然とする者がある。
降雪予報である。金曜日である。
気温も酷く、最低など氷点下に迫る。
その絶望を見て、固まっているのである。
「後輩ちゃん。無事?」
カタン。そんな絶望者のデスクに、3月から支店配属となった男が、小さな湯呑みを置いた。
自称、旧姓附子山。本名は付烏月、ツウキという。
「お茶飲みなよ。多分落ち着くよ」
支店長もお茶、どーぞ。
付烏月は他の2席3席にも茶を配り、絶望者の向かい側であるところの自分のデスクに戻った。
「お茶飲んだって、金曜の雪は変わんないもん」
付烏月に「後輩」と呼ばれた彼女は両手で湯呑みをつつみ、茶の甘香をいっぱいに吸い込んで、深く、長いため息を吐く。
「……ふぁっきん突然の低温」
3月だよ。春だよ。酷いよね。
後輩はひととおり呟き倒すと、湯呑みの中の約80℃を口に含み、喉に通して、再度息を吐いた。
「付け焼き刃附子山の〜、付け焼き〜Tipsぅー」
「突然どしたの付烏月さん」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「で?」
「東京にもお茶農家さんが居るらしいよん。埼玉との県境な多摩には、埼玉県産と区別して、『東京狭山茶』って呼ばれてるお茶を作ってる人が居るんだって。今淹れたお茶っ葉のパックの裏に書いてた」
「で?」
「注意関心が天気予報から離れれば、後輩ちゃんのゼツボーも、ちょっと軽減するかなって」
「はぁ……」
たまには、こういう有益な情報も良いでしょ?
旧姓附子山を自称する付烏月が、湯呑みを片手に、にっこり。後輩に少しの達成感と満足感を投げる。
対する後輩はただジト目で、スマホのディスプレイから天気予報を退かし、「東京狭山茶」のファクトチェックを開始して、
すぐ、それが事実だと理解し、ヘェのため息。
「ヘイ付烏月さん、オッケー付烏月さん」
「附子山だよん」
「突然下がる気温に対処する方法」
「一般的な方法しか知らないから、ひとまず気持ちを上げるためにお菓子食べると良いよ。俺、今日はジンジャークッキー作ってきたよ」
「ありがと附子山さん感謝してる」
温かい茶と、茶菓子のクッキーと、それから役に立つやら立たぬやらの雑学的雑談。
その日も某支店の昼は平和に、平穏に過ぎていった。
「ところでさ後輩ちゃん」
「なに付烏月さん」
「金曜もだけど、今日も夜、雪の可能性」
「あーあー、聞こえない、聞こえませぇーん」
「クッキーおかわり?」
「いただきます附子山さん」
3/5/2024, 2:22:34 PM