かたいなか

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「ひなまつりの替え歌、結構バリエ多いのな」
俺は「ドカンと一発ハゲ頭」の方だったわ。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら呟いた。
アプリを入れて、はや1年と少し。お題の傾向として年中行事はお題として配信されやすい。
たとえばバレンタインとかクリスマスとか。
「……でも5月5日は去年、全然違うお題が来たわ」

菱餅、ひなあられの地域性、「『女の子』の成長を願う日」にご当地ひな壇、あとお菓子業界等々。
意外にも多種多様と思われる「ひなまつり」の書き方だが、物書きはそのいずれも諦めた。
自分の執筆レベルでは非常に難しい。

――――――

私の職場に、長年一緒に同じ部署で仕事してた先輩がいる。藤森っていう名前で、旧姓が附子山だ。
その先輩、3月から行方不明だ。
連絡はとれる。でも3月から突然私の異動先と違う「どこか」に飛ばされて、どの部署に配属になったのか、なんなら支店規模で飛ばされたのかさえ、
なにも、一切、教えてもらえない。
唯一の頼みは先輩のアパートだったけど、
そのアパートには、今、先輩の旧姓「附子山」を名乗る、ツウキっていう男が住んでる。

ツウキさん、付烏月さんは、先輩の前の前の前あたりの職場で、先輩に色々知識を授けたひと。
このひとが作るカップケーキがバチクソ美味。
何故か3月から、私の異動先の支店で、一緒に隣同士で働くことになった。
あとこのひとが作るレモンパイもドチャクソ美味。

ワケ分かんない。
今日も「親睦会」なる名目で、付烏月さんに占拠されてる先輩のアパートに(言い方)
行ってきます、だったんだけど。

「お邪魔、します」
今日こそ付烏月さんから、先輩との関係と、先輩が消えた理由と、レモンパイのレシピを聞き出そう。
先輩のアパート、今は付烏月さん在住になっちゃってるそこ、家具の配置も種類も全然変わってない部屋に行って、インターホン鳴らしてドアを開けると、

「あのね、コンちゃん……」
リビングで
おすわり子狐と正座付烏月さんが向かい合って
間に菱餅ヨモギ餅さくら餅等々入ったカゴ挟んで
お餅屋さんごっこみたいなことしてた。
「俺、藤森じゃないから、あんまりお餅食べないの。……買わなきゃイタズラ?……そう……そっか……」
わぁ。ひなまつり。
ナニコレ(わかんない)

「あっ、藤森の後輩ちゃん!いらっしゃーい」
私に気付いた付烏月さんが、イマジナリーわんこ尻尾をビタンビタン振り回すように、バチクソまぶしい笑顔で私に手を振った。
お餅屋さんごっこしてるのは、私もよく知ってる子狐だ。先輩がひいきにしてる茶っ葉屋さんの看板狐で、近所の稲荷神社に住んでる子。
去年の3月、それこそひなまつりの頃から、先輩の部屋に週1〜2回、遊びに来てるらしい。

そういえば去年の今頃、先輩からお餅貰った。
「1個だけ買うつもりだったのが、妙に美味くて懐かしくて、つい買い過ぎた」って。「食うの手伝ってくれないか」って。美味しかったからよく覚えてる。
……。 まさかね。

「後輩ちゃんも買う?稲荷神社のお餅?」
藤森がお得意様になって、今日で1周年のアニバーサリーだったんだって。
付烏月さんが自作のキューブケーキを冷蔵庫に戻しつつ言った。 すいませんそっちも食べます(食欲)

「あと、そのコンちゃんに、今日から郵便屋さん頼んだの。お手紙書けば、藤森に届けてくれるよん」
ケーキの代わりに付烏月さんが持ってきたのは、今どき珍しい紙の便箋と紙の封筒。それから先輩がこの部屋でよく使ってた少し高そうなボールペン。
「ヤギさん郵便ならぬ、キツネさん郵便。コンコン」
任用書、ちゃんとあるよ。ビタンビタン尻尾をぶん回す子狐が、付烏月さんの爆弾発言に乗じて、
『あなたを宇曽野・附子山・藤森・後輩ちゃん間の郵便屋さんに任命します』
って書かれたバチクソそれっぽい紙を見せてきた。
ナニコレ(2回目)

3月から突然支店に異動させられて、今まで長年一緒に働いてた藤森先輩は行方不明で、
異動先ではその先輩の旧姓「附子山」を名乗る付烏月さんが「ブシヤマって呼んで」でケーキが美味。
更には3月3日のひなまつり、先輩のアパートによく遊びに来る子狐ちゃんだか子狐くんだかが、お餅屋さんごっこしてて郵便屋さんに任命。
これだけイベントが大混雑してまだ3日。

先輩。早く帰ってきて(切実)
非常識ばっかり渋滞して常識が迷子(懇願)
でもキューブケーキ美味しいです(真理)

3/4/2024, 12:51:42 AM