「8月に、『鏡』1文字のお題なら書いたわ」
当時はたしか「『ミラー』ピアス」ってことにして、アクセサリーのハナシ書いた……だったかな?
某所在住物書きは、ひとまず昔のお題の「何月だったか」だけを確認して、過去作の確認はやめた。
結局今日も今日だったのだ。
物語を仮組みして、納得いかず崩して組み直して、また崩して。今鏡を見れば、その中の物書きは、まぁ、まぁ。察するほかあるまい。
「かがみのなかのじぶんねぇ……」
過去の題目「安らかな瞳」で、その瞳どんな瞳だと、鏡を見たらその中に居たのがバチクソ妙ちくりんな顔の物書きだった事はある。
――――――
3連休の真ん中。11月にもかかわらず夏日の都内某所、某アパートの一室。
じき斜陽の頃、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者、藤森というが、
洗面台で両手に水をすくい、顔をバチャリ冷やし洗って、タオルで拭いて鏡を見て、
己の青ざめた様に、ただ、ため息を吐いた。
「『酷いツラだ』、か?」
藤森の心境を代弁するのは、藤森の親友、宇曽野。
腕を組んで、壁に寄りかかって、力無い背中と鏡の中の藤森を眺めている。
「まぁ、仕方無いな。道端で、白昼堂々、あんなバッタリ自分のトラウマと鉢合わせたんだ」
俺が腕引っ張ってやってなけりゃ、おまえ、あの場でオオカミに睨まれたウサギみたいに固まって捕まっておしまいだったろうな。
宇曽野はわずかに笑って、藤森の肩を優しく叩いた。
「本当に、酷い顔だ」
髪についた水気を丹念に叩き拭きながら、藤森は小さな、疲れた声で呟いた。
「本来なら、先月末でこの部屋を引き払って、31日付けで仕事も辞めて田舎に帰って、
その私を、加元さんが追ってくるならそれでも構わないと、いっそ一緒に来れば、お前にも職場の後輩にも、これ以上迷惑がかからないと。
本当に、……本当に、そう思っていたんだ」
加元とは、藤森が今日つい先ほど遭遇した、「自分のトラウマ」そのひとであった。
いわゆる元恋人。加元から藤森に一目惚れして、藤森が心開いて惚れ返したところ、
何が気に入らぬか気に食わぬか、鍵もつけぬSNSの裏アカウントで、藤森に対し「解釈違い」、「地雷」、「頭おかしい」と散々ディスり倒した。
それだけならまだ仕方無い。よくある恋愛のもつれ、その一例である。
「それならば」と藤森が縁切って、区を越え職を変え、穏やかに当時の傷を癒やしていたところ、
その加元が粘着して「勝手に逃げないで」、「もう一度話をさせて」ときたからタチが悪い。
藤森の職場に何度も押し掛け、藤森の親友やら後輩やら、勿論職場そのものにも、何度面倒迷惑をかけたことか。
職場の後輩など、藤森の現住所を釣るために、探偵までくっつけられたのだ。
宇曽野とコーヒーを飲み、アパートへ帰る道中、
加元に道端でバッタリ出くわした藤森。
「東京を離れ、田舎に帰るつもりだから、そんなに私が欲しけりゃ追ってこい」と、「そして、これ以上私の親友にも後輩にも手を出すな」と、
言ってやろうと口を開いたが、
声が出ず、トラウマが首を肩を腕を締め付け、たちまちカッチカチに固まってしまった。
その腕を引っ張って走って、加元に住所がバレぬよう迂回してからアパートに戻り、藤森を助けたのが宇曽野である。
「こんな、みっともない私でも、」
タオルを畳んで、タオル掛けに戻して、再度鏡を見る藤森がまた、ポツリ。
「後輩のやつ、『田舎に戻るな』、『帰るな』と言うんだ。……私のせいで加元さんに狙われて、迷惑千万だろうに。何故だろう」
「そんなもん、おまえ、」
、だからに決まってるだろう。宇曽野は言いかけて口を開き、また閉じて、視線を逸らす。
数秒後ニヤリ笑って答えたことには、
「お前が田舎に帰ったら、今までお前の実家から届いていたタケノコやら野菜やら、スミレの砂糖漬けやらが、今後タダで食えなくなるからな」
「それか。 そういうことか」
宇曽野のジョークを鵜呑みにして、更に納得までしてしまった藤森。
鏡の中には解を得て少し明るくなった顔色の藤森と、藤森のまっすぐ過ぎる素直さに複雑な心境の宇曽野がいる。
「前回が『永遠に』で、今回が『眠りにつく前に』だろ。……まぁ、まず死ネタひらめくわな」
お題配信されたの昨日の夜だけど、その昨晩「眠りにつく前に」何か書け、ってハナシだったら完全にタイムアップよな。
昼寝で眠るにしても遅かろう時刻、某所在住物書きは相変わらず四苦八苦して、物語を組んでは崩してまた組み崩す。
眠りにつく前に「スマホをいじる」悪癖でも書くか、眠りにつく前に「やり忘れた録画」の失態が良いか。
就寝前に食う夜食などは背徳の味であろう。
「そろそろ、書きやすいネタ、来ねぇかな」
次の題目配信まで、残り3時間をきった。
――――――
夏日、夏日、夏日。
今日も昨日も明後日も、秋にあるまじき気温続く昨今ですが、いかがお過ごしでしょうか。
眠りにつく前にベッドの中でソシャゲして、寝落ちて電源落ちた失態を数度かました物書きが、こんなおはなしをお送りします。
最近最近の都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した、雪国の田舎出身な捻くれ者が、ベッドの前でカリカリ首筋をかいておりました。
「おかしい。戸締まりは、していた筈なんだが」
捻くれ者は、名前を藤森といいます。
ベッドには、某あたたかいウォームな毛布に敷きパッド。まくらカバーもバッチリです。
11月なのに夏日続出な、季節感と気温設定のちゃんちゃらおかしい東京ですが、
ゆえに、6℃10℃ストンと下がる早朝などは、なんとなく、寒い気がするのです。
「かかさんが、キツネの大事な大事なざぶとん、持ってっちゃったの」
で、何故言葉を話す子狐が、ベッドのあたたかウォームな毛布の上で、狐団子になってるのでしょう。
そういうおはなしだからです。
何故藤森は、その子狐をちっとも不思議に思わず受け入れているのでしょう。
そういうフィクションだからです。
多分前回投稿分の、いわゆる続編。
細かい考察は諦めましょう。ほっときましょう。
不思議な、エキノコックス持たぬ子狐が、藤森の部屋にやってきて、ベッドの上を占領しているだけ。
団子になって、スネてるだけ。
それだけ、それだけ。
「『大事なざぶとん』とは」
「フカフカなの。モフモフなの。その上でお昼寝、サイコーなの。なのにかかさん、昨日、キツネから大事なざぶとん持ってって、バンバン叩いて、じゃぶじゃぶお洗濯しちゃったの」
「洗濯は、必要だと思うが」
「バンバン叩くんだよ。洗濯機で、じゃぶじゃぶ濡らすんだよ。酷いよ。ひどいよ」
「それでスネてるのか」
「スネてないもん。キツネ、かかさんに、イカンのイで、ゲンジューにコーギーしてるだけだもん」
「はぁ」
つまり多分、反抗期か何かか。イヤイヤ期か。
藤森カリカリ首をかいて、換毛期真っ最中のモフモフ子狐を、ちょっと抜け毛の出てきた狐団子を見下ろします。
スピスピ、スピスピ。
コンコン子狐、お鼻をピクピク動かして、お鼻の動きがゆっくりになって、段々、段々、目が閉じて、開けて、また閉じて。
もうちょっとで、寝落ちそうです。
「抜け毛をまき散らされても困るな」
藤森はため息ひとつ吐き、毛取りブラシなんて持っておりませんので、
小さめのコロコロカーペットクリーナーを持ってきて、十分に粘着力を落としてから、
コロコロ、コロコロ。お気に入りのお昼寝座布団を洗濯されてご立腹な子狐を、
「あっ、結構、抜ける……」
眠りにつく前に、ちょいと、毛づくろいしてやろうとしたのですが、
意外に大量に、柴犬の子犬ほど毛が抜けたので、
仕方なく、近くのペットショップからブラシを買ってきましたとさ。
「『ずっと◯◯』ってお題なら、4回くらい書いてきたが、『ずっと』と『永遠』って別かなぁ」
実際に、それが存在するかどうかは別として、「永遠」という単語や思想はたしかに存在するわな。
某所在住物書きは今日も今日、己のエモネタに対する不得意を再認識してため息を吐く。
たまに、「永く存在し続けることは、つまり常に変わり続けること」と説明する者が在る。
永遠と、常変不変の関係は、今回の題目のネタとなり得るだろうか。
「そもそも『永遠』って『どこ』まで……?」
駄目だ。やっぱ哲学は分からん。
物書きは考えて、考えすぎて、結局基本が分からなくなり、今日もネットにヒントを求める。
――――――
永遠に湧き続ける金銭の泉は、場合によってはいずれ飽きるのでしょうけれど、永遠に健康問題に困らない体はちょっと欲しいと思う物書きです。
11月に各地で夏日など観測する昨今、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く、ながーいあいだ、暮らしておりました。
その内末っ子の子狐は、まだまだコンコン、ほんとの子供。お花とお星様と、キラキラしたものとお昼寝が、とっても大好きな食いしん坊です。
今朝はとっても良い天気。全国の田んぼを照らしたお日様は今日もピカピカご機嫌で、11月の東京に、最高26℃の夏日を連れてきました。
こういうポカポカ陽気には、おそとでお昼寝が、「子狐としては」イチバン。
お小遣いいっぱい使って、先月化け猫の雑貨屋さんから買ってきた、素晴らしくモフモフでモフモフでモフモフな、お昼寝用座布団を引きずって、外の一番日が当たる、神社の広場へ、
行こうとしたは良いものの、あとちょっとで玄関の数メートルで、
母狐が人間の姿で、仁王立ちしておったのです。
こういうポカポカ陽気には、洗濯に外干しが、「母狐としては」イチバン。
子狐の買ったきた座布団は、暖かい秋晴れのたびに外へ出されて、土もホコリも砂も何も、いっぱいいっぱい、くっついておるのです。
「お貸しなさい」
母狐は優しく、しかし静かな威厳をもって言います。
「お洗濯して、綺麗にしましょうね」
大事なモフモフを盗られるのは嫌なのです。コンコン子狐、回れ右して、座布団引きずって、全速力で逃げる逃げる。
「いい子だから、ほら、待ちなさい」
洗濯物回収の鬼ごっこがゲリラ開催です。
母狐、逃げる子狐を追いかける追いかける。
「綺麗になった座布団の上で、お昼寝した方が気持ちいいでしょう」
半日だけ、半日バイバイするだけだから。
母狐、イヤイヤ廊下を逃げる子狐を、なんとか追いつき捕まえましたが、
モフモフを必死に噛んで離さず、なんならギャギャッと威嚇もするので、はてさて、どうすべきやら。
「ずっと洗わないで、汚れたままには、しておけないでしょう」
今日綺麗にすれば、きっと、明日最高の昼寝ができますよ。母狐、そんなことを言いながら、1時間の格闘の末、ようやく座布団を回収完了。
また来週再来週、下手すりゃ明日やら明後日やら、汚れた座布団を洗う洗わないで、きっと同じ鬼ごっこが繰り返されるのでしょう。
また来年再来年、コンコン子狐が座布団に飽きるまで、きっとそれは外に出され、日のよく当たる場所に据えられ、最高のお昼寝道具とされるのでしょう。
「これに飽きたとしても、また次の何かが、その次の何かも」
まるで鬼ごっこが、永遠に、ずーっと繰り返されそうな錯覚をしてしまいます。
「でも、いつかはきっと、終わるのでしょうね」
疑似的永遠な洗濯物回収の鬼ごっこ、はたしていつ終わるやら。母狐は優しいため息ひとつ吐いて、
まず、布団たたきで座布団をバンバン!
モフモフが抱え込んだ土とホコリと砂と何とを、払い続けましたとさ。
「理想郷、ウィキに一覧存在すんのな……」
エルドラド、シャングリラ、ニライカナイ。
カタカタカタ。脳内にパズルゲームの、玉を動かす幻聴響く感のある某所在住物書きは、しかし今回配信分のネタが欲しいので、ひとまず「理想郷」カテゴリの一覧を指でなぞっている。
「迷い家」は「どの」迷い家、マヨヒガであろう。
「酒もメシも娯楽も、なんも苦労せず手に入る場所がありゃ俺の理想郷だろうけど、ぜってー、暴飲暴食してりゃ体壊すじゃん」
理想郷で病気になるのは、ねぇ。物書きはスマホから顔を上げ、ニュース番組を観て、ため息を吐く。
理想は「理想」のままの方が良いのかもしれない。
「シンカンセンスゴイカタイアイスを車内で買って食うのは、理想郷……?」
――――――
ハロウィン当日の夕暮れ、都内某所の某職場。ブラックに限りなく近いグレー企業であるところのそこ。
その日たまたま3番窓口の業務となった女性が、ハロウィン独特の妙な仮装をしている男性に、ネチネチ談笑を強要されている。
あー、
はい、
何度も言ってますけど、仮装してのご来店は、ご遠慮いただいてるんですよ。
客の死角、業務机の上にある固定電話のプッシュボタン、「1」に人さし指と中指を、「0」に親指を確かにそえて、チベットスナギツネの冷笑。
チラリ、後ろを見遣って「最終兵器」に視線を送る。
目が合った隣部署の主任職、「悪いお客様ホイホイ」たる男性と、
その主任職の親友、窓口係と同部署の先輩が、
それぞれ、互いに頷き合い、席を離れた。
先輩はただ淡々と、フラットな感情の目。
主任職は仮装客に対し、それは、もう、それは。
良い笑顔をしている。
――そんなこんな、アレコレあってからの、終業後。
夜の某アパートの一室。
「やっぱり在宅ワークこそ理想郷だったわー……」
人が住むにはやや家具不足といえる室内で、しかし複数並ぶ小さな菓子を前に、例の窓口係が満面の笑みでチューハイをグビグビ。
精神の安全と幸福を享受している。
「自分のペースで仕事できるし。窓口であんなヘンな客の相手しなくて良いし。なにより先輩のおいしいごはん食べられるし」
久しぶりに見たわ。隣部署の宇曽野主任の、「悪いお客様はしまっちゃおうねバズーカ」。
そう付け足し吐き出したため息は、大きかったものの、不機嫌ではなさそうであった。
「で、その先輩が組み立てたスイーツのお味は?お気に召して頂けたか?」
プチクラッカーに、泡立て済みのホイップクリームを絞り、少しのスパイスをアクセントに振って、小さな低糖質キューブチョコをのせる。
「まぁ、所詮去年の二番煎じだが」
窓口係に言葉を返しながら、彼女のためにスイーツを量産するのは、部屋の主にして彼女の先輩。
名前を藤森という。
かたわらの、電源を入れたノートには、今日発生した「コスプレしたオッサンに当日の窓口係が粘着された事案」の、発生時刻と経緯と結果をまとめた、いわゆる報告書のようなテキストが淡々。
一応、揉め事といえば揉め事であった。
後日上司から説明を求められたとき、すぐそれを提出できるように、あらかじめ藤森がパタパタ、キーボードを叩いていた。
「あと10個くらい食べれば、夕方の悪質コスプレさんから食らった精神的ダメージ、回復すると思う」
「さすがに糖質過多だ。低糖質の材料使ってるからって、糖質ゼロじゃないんだぞ」
「だって、回復しなきゃだもん。スイーツは心を救うもん。先輩そこのカボチャペーストとクリームチーズ取って」
「私の話聞いてるか?」
もう10個、もう10個、おいやめろ。
擬似的で結果論的な、つまり「それ」と明確に意識しているワケでもないハロウィンホームパーティーは、あらかじめ購入していた菓子用の材料が無くなるまで、穏やかに、理想的に続きましたとさ。
「『懐かしく思うこと』っつってもよ……」
パッとすぐには出てこないんだが?
某所在住物書きは迫る次の題目配信の刻限を前に、打開策を探してスマホをいじり続けている。
「アレか?『小学校の頃、遠足で◯◯に行ったとき、運悪く土砂降りだったね』とか?『修学旅行、ぶっちゃけ特に思い出無かったよね』とか?」
俺の執筆スタイルじゃ、書きようがねぇだろって。
物書きは呟き、他者の思い出をガッサガッサと漁っては、どうにも物語として組めず途方に暮れる。
「やっぱ俺、エモネタ、不得意よな」
一番難関だったネタ、今までで何があったっけ。
4月20日あたりの「もし未来を見れるなら」?
たいして懐かしがりもせず、物書きは昔の投稿作をスワイプで探す。
――――――
いつも一緒にランチ食べてる職場の先輩が、珍しく休憩室のテレビ画面を、じっと観てる。
「ポカン顔」がしっくり来る。いっそプチ絶望かもしれない。
なんだろうって気になって、私もテレビを観たら、東京の今年の11月に関するニュースだった。
「じゅうよねんぶり、」
先輩がポツリ呟いた。
「そういえば、上京最初の年の、11月……」
先輩は、雪国出身だ。
5月の夏日とか、晩春初夏の30℃とか、だいたい溶けて、ぐでんぐでんになってる。
つまり「東京は今年の11月、25℃以上の日が何日か続きます」って報道だった。
「懐かしい?」
雪国出身者じゃなくても、11月の夏日は正直驚く。
画面の週間予報には、26℃とか、25℃とか、秋にあるまじき数字がズラって並んでた。
それでも「11月の夏日は14年ぶり」って報道から、私も昔、ハロウィンの後の夏日を経験してた筈だった。
記憶にございません(事実)
「懐かしいものか。散々だった」
「やなことでもあった?」
「暑さにやられて、おまけに風邪までひいて」
「インフルは?大丈夫だった?」
「風邪が治った後でな」
「わぁ」
「これを懐かしいとは思わないだろう」
「納得」
弱ったな。夏物など、ほぼ整理し終えた後なんだが。
諸事情で、今月いっぱいで東京を離れる予定だった筈の先輩が、頭をガリガリかいてスマホを取り出した。
多分、すぐ買えて、かつ安めの、良さげな夏服でも探してるんだと思う。
「誰かさんが、『東京離れるの、待って』と言ってくれたお陰でな」
「だって恋愛トラブルの責任をさ、被害者の先輩がとって、田舎に引っ込むとかおかしいもん」
「事実だろう。私が居るせいで、この職場にあのひとが押し掛けて」
「出禁だもん。もう大丈夫だもん」
ため息ひとつ吐いて、スマホをポンポン操作して、ポケットにしまって。
ひいきにしてるお茶っ葉屋さんの子狐が、朝買ったティーバッグのオマケでくれたっていう、ひとくちサイズのポテトパンケーキを、ぱくり。
私も2個貰ったけど、おいしかった。子狐の冗談はよく分かんない。
「甚平でも買いに行く?新品のやつ、一緒に?」
「6月22日に、お前が『会計する』と言って、結局残高足りなくて私が払ったやつか?アレなら、まだ部屋にある」
「今回は私が払います、ちゃんとはらいますー」