かたいなか

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7/16/2023, 1:39:43 PM

「空と星は多分確実にこのアプリのお題の常連だが、浮かべる系もなんだかんだで、3回目か……」
5月に「(前略)目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?」、その前日は「(前略)その人のことを思い浮かべて(後略)」。それから今日の「空を見上げて(略)」。なかなか手ごわいのが重なった。某所在住物書きはため息を吐き、解決策を過去に求めた。
「『執筆者でも誰でも対象Aを置く』と、『Aが空を見た後、事柄Bを思い浮かべる』が満たされりゃ、今回のお題はぶっちゃけ、何でも書けるな」
実際その発想で、「ありがとう」を伝えたかった人のことを思い浮かべて書くお題で、感謝成分ゼロのハナシ書いたし。物書きは己の5月3日投稿分を確認しながら、数度頷き物語を組み始め……

――――――

快晴快風の昼の空、あるいは燃える夕暮れを見上げ、青やら白やら茜色やらに、何か思いを包んで綴る。
素直に読めばこの光景、少し捻くれてもこの設定。
そのことごとくを崩して捻って、変わり種を錬成したかっただけのおはなしです。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、人の世で不思議な不思議なお餅を売り歩き、徳を積んで修行の最中。
週に1回、ホオズキのあかりを担ぎ、不思議なおまじないやご利益をひと振りふた振りしたお餅を葛のカゴに入れ、たったひとりのお得意様のところへ、コンコン、営業にゆくのです。

末っ子子狐の一軒家も、森と木陰と土と水とで十分涼しくはありますが、お得意様のアパートは、文明の利器たるエアコンが絶賛稼働中。
道中どれだけ暑くたって、ゴールの室温26℃前後を思えば、ちっとも苦しくありません。
今日も1個200円、値段のわりに大きくて栄養満点、かつおまじない付きのお餅をカゴに詰め、しっかり人間に化けて、夜の東京を歩きます。

とてとてとて。街灯や照明の影響で、星の光の届きづらい夜空を見上げ、コンコン子狐は思い浮かべます。
雪国の小さな霊場に嫁いだお姉さん狐が言うには、向こうの空は星がぎっしり輝いて、氷か飴の粒を敷き詰めたように、キラキラ美しいのだそうです。
氷かぁ。かき氷お餅とかあれば面白そうだけど、どんなお餅になるのかな。
子狐はこっくりこっくり、悩みながら歩きました。

とてとてとて。高層建築建ち並び、見える範囲の限られる夜空を見上げ、コンコン子狐は思い浮かべます。
南国の古い拝所を見てきたお兄さん狐が言うには、向こうの空はさえぎる物が少なくて、どこまでも続いており、海と空が青と青でくっついているそうです。
青かぁ。ソーダお餅やラムネお餅があれば涼しそうだけど、きっと作ったら売る前に食べちゃうや。
子狐はじゅるりるり、味を想像しながら歩きました。

とてとてとて、ピンポンピンポン。
かき氷お餅にソーダお餅、ラムネお餅を思い浮かべながら、道中ついついスイカのアイスを買って食べてしまったコンコン子狐。ようやくお得意様が住む、アパートの一室にたどり着きました。
あんまり食べ物のことを思い浮かべてしまったので、
おとくいさん、こんばんは
といつも言ってる口上を、
「おとくいさん、いただきます!」
と、元気な声で、コンコン、言ってしまったとさ。
おしまい、おしまい。

7/15/2023, 2:26:39 PM

「似たお題なら、6月6日付近の『世界の終わりに君と』と、5月6日付近の『明日世界がなくなるとしたら』があったわな」
前回の「手を取り合って」は、何故あんなに納得いく物語が出なかったのだろう。某所在住物書きは昨日から今日にかけての大苦戦を思い、首を深く傾けた。
「『世界の終わり』は、何かが終わるハナシの詰め合わせを書いて、『世界がなくなる』の方は、その日で閉店する駄菓子屋のハナシ書いたわ」
今回も、前回同様、ネタは大量に出てくるけど納得いくのが無い、みたいになるのかな。
物書きはため息をつき、今日も今日とて……

――――――

最近最近の都内某所、某アパートの一室。
人間嫌いと捻くれ者を、併発していた筈の捻くれ者が、ぼっちで暮らしており、
土曜の夜はいつもなら、翌週の仕事の準備をしたり、30℃近い熱帯夜から逃れるため氷を入れた冷茶をたしなんだりしているのだが、
今日はなにやら久々に、隣部署で主任をしている親友さんがご来訪。宇曽野という。
捻くれ者はこの宇曽野に、アイスコーヒーを入れ低糖質スイーツを出し、好きにさせている。
捻くれ者の今の関心事は、テレビとスマホ。特に気象情報。今大雨を降らせている雲は、捻くれ者の故郷を覆い、7月分の雨量を定点で超過した。

「そろそろ、終わりにしたらどうだ」
コーヒーで喉を湿らせて、親友の宇曽野がポツリ捻くれ者に尋ねた。
「何を。仕事か。お前とつるむことか」
気象情報確認中の捻くれ者が尋ね返した。
「確かに、まぁ、私のような捻くれ者など。これ以上一緒に居られても」
一緒に居られても、迷惑なだけだろうな。付け足す声はそのわりに、穏やかである。
「『あいつ』に怯えて逃げる暮らしを、だ」
相変わらず女々しいこと言いやがって。捻くれ者が本気で友好関係の解消を望んでいるわけではないのを察し、宇曽野は訂正して、提案した。

「あいつ」とは、すなわち捻くれ者の初恋にして、失恋相手であった。
捻くれ者が「あいつ」に何をされたか、結果どうなったのか。それは7月3日や6月3日、5月30日投稿分の過去作に説明を丸投げするとして、
要約すれば初恋相手に呟きの裏垢で理不尽かつ自己中心的にディスられ、心をズッタズタのボロッボロに裂かれ壊されたために、連絡先と縁の一切を断ち切り区まで越えて夜逃げしてきたというハナシなのだが、
ともかくこれがトラウマで、捻くれ者は己のアパートに、ごく最低限最小限しか家具を置かなくなった。
いつでも再度夜逃げできるようにである。
それを、そろそろ終わりにしないか。
宇曽野は捻くれ者に提案したのである。

「縁を切って、もう8年だ。もう十分だろう。昔のことは終わりにして、そろそろ、今に戻ってこい」
「既に前なら向いてる。心の不調も仕事に持ち込んではいない。お前も知っているだろう」
「『前』じゃない。『今』だ。お前は『過去』の足枷でジャラジャラ重いまま、気力で走ってるんだ。良い加減、その足枷を外せ。自分を許してやれ」

許すと言っても。自分の何をどう許せというのだ。
捻くれ者は首を振り、ひとつため息を吐く。
「ん?」
解説を求めて顔を上げると、その過程で、宇曽野が非常に見覚えのある茶色とクリーム色の円錐台に、スプーンを当てていることに気付いた。
「宇曽野、お前、それまさか」
それまさか、私が冷蔵庫に入れていたプリンじゃないのか。徐々に威嚇と警戒の表情を表す捻くれ者に、宇曽野は堂々と体積の4分の1をすくい取り、眼前で食ってみせた。

「お前は!お前というやつは!」
「お前だって先月の23日、俺が置き去りにしたプリン食っただろう。おあいこだ!ハハハッ!」
ポコロポコロポコロ。
その後ふたりはひとしきり暴れ倒し、スッキリした後は、ケロッと元通りの仲良しに戻った。

7/15/2023, 4:14:38 AM

「『手』か!『目』とか『見る』とか、視覚系はバチクソ多かったが、『手』は珍しい気がする」
「見つめられると」、「君の目を見つめると」。「窓越しに見えるのは」に「目が覚めると」等々。
今回も「目」に関するお題だろうと踏んでいた某所在住物書きは、届いた題目に良い意味で驚いた。
「『手を取り合って』。物理的に誰かと誰かが互いの手を掴み合うとか、誰かと誰かが協力し合うとか。その辺がセオリーなんだろうな」
その「手」には乗らないと、将棋とかで、相手の策略を崩してコマを「取り合う」とかは、さすがに「手を取り合う」とは言わんのかな。
毎度恒例。物書きは今日も唸った。
「納得いく『手(ハナシ)』がサッパリ出てこねぇ」

――――――

不思議な不思議な子狐と、寂しがり屋な捻くれ者が、手を取り合って素朴かつおいしいお餅を作り、一緒にもっちゃもっちゃ食べて楽しむ。
そんなネタを、思い浮かんだは良いものの、「食い物ネタの4連発は胃がもたれる」と考えた物書きです。
そこで今回はこんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某アパートの一室に、人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が住んでおりまして、最小限の家具と娯楽皆無な本棚しか無い部屋には、少し大き目な底面給水鉢がひとつありました。
「お前とも、長い付き合いだな」
鉢にはフウロソウに似た大きい葉っぱが生えており、ピンと上を向いた茎からは、ぽっこり、白いツボミが膨らんで、8月の開花を待っておりました。
「部屋の中でプランターに閉じ込められて。日差しという日差しも少ない。窮屈だろう」
つんつん、つん。特徴的で、独特な、マメ科の白いミヤコグサと言われれば2割程度似てそうな形のツボミを、捻くれ者が愛おしく突っつきます。

鉢の花は捻くれ者の故郷、雪国の田舎の花でした。
多くの人に恐れられ、多くの人を病院送りにしながら、漢方の材料として多くの人を救ってきました。
それの一族は人間の恐怖と興味と欲望と、誰かを救いたい救命の心を、一身に受けてきました。
その割に暑さにはバチクソ弱いのです。ぶっちゃけ過度な陽の光も好きくないのです。
夏に40℃を叩き出す東京なんて、とんでもない。捻くれ者の手を借りて、しっかり冷房効いた涼しい部屋で、命をつなぎ、株を増やしておったのでした。

「最近じゃあ、お前に愚痴を聞いてもらうことも少なくなった。不思議なものだ」
捻くれ者も、その花の助けを借りて東京の荒波を耐え、生き抜いてきたのでした。
花の持つ花言葉に甘えて、苦しいときは「人間など大嫌いだ」と、よく心の奥の奥底を、こっそり話しておったのでした。
「何故だろうな。……人間嫌いは昔から、お前とちっとも変わらないのに」

花と人とでふたりして、一緒に東京を生き抜いてきた13年。捻くれ者が花の手を、昔ほど必要としなくなったのは、だいたい3〜4年前から。
今の職場で初めて新人の教育係になり、初めて己の明確な「後輩」を持ってから。
「毎日グチグチ弱音を聞かされるよりは、今くらいの方がお前も気がラクだろう。良かったな」
つんつんつん。ため息をひとつ吐いて、捻くれ者は穏やかに、優しく、微笑を浮かべるのでした。

人と花が、手を取り合って生きるおはなしでした。
細かいことは気にしません。何個も閃いて書いて消して、一番無難でマシなのが、これくらいしか無かったのです。
しゃーない、しゃーない。

7/13/2023, 2:50:50 PM

「優越感は知らねぇ。劣等感はバンバン出てくるわ」
文章を組みながら、某所在住物書きが呟いた。
自分より短く、しかし読みやすい、あるいは面白い文章。ためになる豆知識。もしくは自分より長いのに、自分より読みやすく引き込まれる物語。
それらの投稿が、物書きには劣等感であり、目標であり加速剤であった。
「ちなみに類似のお題としては、3月26日に『ないものねだり』があったわ。隣の芝生は青く見える、みたいなネタ書いたな」
劣等感が「無いものねだり」なら、優越感は何だ。物書きはしばらく考え、答えは何も出なかった。
「にしても飯ネタこれで3連チャンだわ。頭固いのもバチクソ劣等感よな……」

――――――

職場からグルチャのメッセが届いた。
祝日、来週月曜の東京の、最高気温が38℃予想で、翌日火曜も36℃予想。
暑さに弱いとか、暑さを感じづらい年齢層とかのひとは、来週無理せずにリモートワークを活用するように。とのこと。

ブラックに限りなく近いグレー企業の私達にしては良心的な通達だ、と思ってたら、別グループの方で、噂好きな隣部署の垂古見さんから早速タレコミが。
『昨日無理して出てきた総務課の課長と課長補佐が揃って帰宅後ダウンしちゃったんだって』
あっ(察し) はい(熱中症マジ注意)
「上」が倒れちゃったから、「下」が倒れた時より至極真っ当な采配したんですね。
ふぁっきん(訳:下っ端も大事にしてください)

「先輩どうする?来週もリモート申請する?」
「ん?うん」
「来週もエアコンとランチ、たかりに来て良い?ちゃんと代金半分出すから」
「うん」

都内某所某アパート。防音防振対応の静かな部屋。
電気代節約と、作業効率アップのために、おとといから職場の先輩宅にまかない付きでご厄介になってる。
今は今週3回目のまかないランチ中。
防災非常食を兼ねたレトルトの白がゆと、フリーズドライのクリームオニオンポタージュを使った、チーズリゾットをご馳走になってる。
半熟卵とゼロ糖質パスタに見立てた糸こんは、セルフで入れ放題だ。

味が付いていないから、色々アレンジできるのさ。
先輩がおかゆをコトコト温めながら教えてくれた。
白がゆに、ミネストローネと卵をブチ込めばオムライス風。卵スープなら卵雑炊。サバ缶だのレトルトだのを混ぜるだけなら火も電気も要らない。
便利なものさ。先輩はそう付け足した。
良いな私料理の引き出し少ないもん(劣等感)
でもそんな先輩の料理シェアしてもらえるの、きっと長い付き合いの私と、先輩の親友の宇曽野主任くらいだもん(優越感)
先輩マジ先輩(いっそオカン)

「先輩どしたの。私ばっかり見てるよ」
「気に障ったか。すまない。失礼した」
「違うって。どしたのって」
「なにも。ただ……美味そうに食ってくれるなと」
「ふーん」

オニオンクリームパスタならぬ、オニオンクリーム糸こんを、ちゅるちゅる。
罪悪感から解き放たれてちょっと幸福に食べる私を、そこそこ穏やかな目で見る先輩。
「お前こそ、どうした。そんなに私を見て」
「先輩糸こん追加よろ」
「話をはぐらかすな」
多分、先輩のこんな顔知ってるのも、私と宇曽野主任くらいなんだろうな。
誰に対して、でもないけど、なんか優越感の湧き出てきた私は、追加の糸こんをちゅるちゅる、ちょっと幸福にたいらげた。

7/12/2023, 2:53:19 PM

「4月8日あたりが『これからも、ずっと』、翌日が『誰よりも、ずっと』。3月13日あたりが『ずっと隣で』だった」
ずっとシリーズ第4弾かな。某所在住物書きは過去投稿分を辿りながら、ぽつり呟いた。
「『これからも』は『ずっと◯◯し続けたら△△になる』の視点、『誰よりも』は『ずっと、誰より◯◯し続けてきた△△』のハナシ、『隣で』は『ずっと隣同士でい続けた◯◯の隙間に△△が乱入』。
……『し続ける』ってハナシばっかりだな」
別の視点とか切り口とかから、新しいハナシを書きたいのは山々だが、なにせ俺頭が固いからなぁ。
物書きは恒例にため息を吐き、スマホを見る。

――――――

今日も東京は灼熱地獄継続中。今週いっぱい、仕事はリモートワークで申請出して、職場の先輩のアパートで快適にバリバリやってる。
電気代と、食事代を、5:5想定で割り勘して先輩に払うと、その先輩が防音防振かつ快適な温度の部屋と、低糖質低塩分なヘルシーまかない、それからスイーツをシェアしてくれるという高待遇。
昨日は生姜香る豚バラの冷雑炊を貰った。
今日は糸こんと低糖質パスタで糖質50g未満を実現した、冷製トマトパスタとアイス台湾烏龍だ。
後輩は低糖質でも量は食いたいだろう、きっとサッパリしたアイスティーも欲しくなるだろうって、私のことを考えて作ってくれたに違いないランチだった。
先輩マジ先輩。オカン。

なのに何故「人間など嫌いだ」って言うんだろう。
多分先輩の初恋さんが、先輩の心を呟きの裏垢でズッタズタに壊したからです。
じゃあ、初恋さんに心壊される前の、素のまんまの先輩はどんなひとだったんだろう。
それを私は知らんのです。
私が先輩と会う前の、先輩が初恋する前の、初恋で失恋しちゃう前までずっと持ってた「これまでの先輩」が、どんな先輩だったのか。
それを、私は、知らんのです。
ホントにどんな先輩だったんだろう。

「『これまでの私』?」
パスタと糸こんを箸でつまんだまま、先輩が言った。
「『私』は私だ。人間嫌いの捻くれ者。それだけ」
お前も、嫌というほど理解しているだろう。
先輩はポツリ付け足して、パスタを口に入れた。

「そのわりに先輩、私にも後輩にも優しいじゃん。で、昔はもっと、オカンだったのかなって」
「ありがた迷惑の過剰お節介焼き、という意味か。常日頃、悪ぅございましたな」
「そうじゃなくて。なんてのかな。聖母?」
「せい、ぼ?」
「って、私は予想してるんだけど。実際はどうだったのかなって。今の先輩しか、私知らないもん」
「だから。今もこれまでも、私はずっと『私』だ。お前の知る私と何も違わない」

「じゃあ聖母だ」
「なんだその聖母って」

そもそも私などな。面白みの欠片も無い堅物でだな。
ポツポツ下を向いて言いながら、パスタをつっつきお茶で喉を湿らせる先輩は、
初恋ガチャで大ハズレを引いてなけりゃ、この人の自分嫌いもちょっとは軽傷で済んだのかなって、ため息をつく程度には、そこそこ、そこそこだった。

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